Summer Vacation

セリーネス

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目覚め5

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夕刻通いの侍女の1人、彩子あやこさんが俺を迎えに来た。

これから御祓が始まる。

彩子さんに連れられやって来たのは、母屋から裏に当たる位置にあり、渡り廊下の先の平屋の建物だった。
彩子さん曰く、ここは通称・茶室と呼ばれているそうだが、怜悧の修練の時に使っている家だそうで、茶室の他に台所・浴室・お手洗い・居間・寝室と全て揃っているそうだ。

貴美恵さんのいる居間に着くと、彩子さんは母屋へ戻っていった。
お袋から説明を受けている貴美恵さん曰く、御祓に入ったら召還の魔術が始まるまで俺は男に会っても話しても見られても声を聞いてもいけない。
それはスマホやテレビやラジオも一緒で、絶対に見ても聞いてもいけなくて、失敗をしたらまた次の満月の後の半月迄待ってやり直さなくてはならなくなるのだそうだ。

「これから御祓に入るけど、ただ単に男性に会ったら駄目なだけだから、私と蕾紗が彰ちゃんのお世話を焼いてあげるわね♪」

そう言って、貴美恵さんは俺に真っ白な浴衣を渡した。

「先ずは普通にお風呂に入ったらその浴衣に着替えて居間に来てね。少し早いけど夕食を食べておきましょう。その後は少し休んだら召還用の服に着替えてもらって水に入って身体を浄めてもらいたいの」

言われるままに俺は風呂に入って体を洗った。浴室は、杉板で囲み檜造りの広い浴槽で檜の良い香りにとても気分が寛いだ。

風呂から上がり浴衣に着替え居間に行くと、蕾紗さんが離れに来ていた。

「お帰りなさい、蕾紗さん」

「ただいま~!彰ちゃん♪……って、うわ~!彰ちゃんってば色っぽい!!写真撮って良い!?」

蕾紗さん曰く白て透き通る様な肌(色白の母に似たからか俺は日に焼けにくい)が湯上がりでうっすら桃色になっている上に、真っ白な浴衣が何とも艶かしく更に少しはだけて胸が見えそうで見えない所が大変そそるらしい。
興奮した蕾紗さんに俺は正直引いたが、カシャカシャと凄い勢いで色んな角度で写真を撮られ、怖くて動けなかった。貴美恵さんが止めてくれなかったらかなり際どい体勢にさせられた写真まで危うく撮られる所だった。

夕食は和室の雰囲気に合う和食だった。
鯖の味噌煮に大根のお味噌汁、それにしば漬けやほうれん草のお浸し。どれを食べても美味しいし真っ白なご飯に合って幸せだった。

「ご馳走さまでした~!本当に全部美味しくて俺幸せでした♪」

「お粗末様♪気持ちの良い程の食べっぷりに見ていて私達も嬉しかったわ~」

と、にこにこ笑った貴美恵さんと蕾紗さん。
久志と雅鷹さんも向こうで同じ夕食を食べるらしいが、2人は体型に見合う程のエライ量を食べるのだろう。

「さて、先は長いから彰ちゃんは隣の寝室で時間になるまで少し寝ておいてね」

時間になったらちゃんと起こすから私達はそれ迄他の準備を始めちゃうわね♪と、貴美恵さん達は食卓の上を手早く片付け、居間を出て母屋へ向かって行った。
2人を廊下で見送り、静かな空間に何だかホッと一息ついた。そして俺も寝室に入ると、そこには布団が敷いてあり、庭に面した広縁の窓が大きく開き、日が落ちたばかりの日本庭園が美しく網戸越しから見えた。

程好く入ってくる風のおかげで、布団に横になると直ぐに眠くなった。


※※※※※※※※※※※※※※※



自然と目が覚め、時計を見ると2時間半程が経っていた。

「あら♪丁度良かった。今起こしに来た所なのよ」

布団から起き出して居間に入ると、廊下から貴美恵さんが入ってきた。

「さあ、身体を浄めて屋上へ行きましょう」

そう言われ、再度脱衣場へ行き浴衣を脱ぎ、籠に入っていた服を広げると、それは漆黒色のカンドゥーラの様な服だった。

そして、下着は無い。ノーパンでこれ着て入水…。

濡れ衣がピッタリと身体に張り付いた状態で貴美恵さん達の前に出るとかかなり恥ずかしい気がする。

顔が熱くなるのが判った。
俯いていたのでふと己の分身とご対面。
こいつとももうこれで見納めか。と、思いとりあえず己の全身裸体を姿見に映す。
背は低いが、長年続けてきた合気道と中等科から始めた剣道のおかげで我ながら良い体つきをしていると思った。
こんなに男の裸体を見慣れちゃっていると、きっと俺は世の可愛い女の子達みたいに男の裸を …例え上半身だけだったとしても… 可愛く悲鳴なんてあげないんだろうなぁ。と思い、逆に元の身体に戻ってもしばらくは直視出来ないかも知れない。

とりあえず、色んな覚悟を決めて服を着ていざ入水!

……やっぱり冷て~~!!

夏だからって言っても水風呂は冷たいもんは冷たい!
滝行する人とかマジ尊敬するわ!

浴槽に腰掛け足を浸け、次に一気に肩まで浸かり、顔をそのまま洗う。体が冷たい水に少し慣れた所でザブン!と潜り頭のてっぺんまで濡らした。

全身濡れたら浄めは済むらしいので、体が冷えきる前にさっさと出る。
そして髪も体も拭いてはいけないそうなので、びしょ濡れのまま脱衣場から廊下に出ると、貴美恵さんと蕾紗さんが待っていて2人の前後の間に挟まれる様に歩いて屋上へ向かった。

俺の所為で濡れる廊下や階段が気になりながら、屋上に到着する。
すると、広い屋上の真ん中辺りがうっすらと紫色に光っていた。

魔方陣だ!!

本物の魔方陣を見て、俺は興奮した。

『うわ~!マジ円を描く様に見た事もない文字?とか記号っぽい奴で書かれてる!スゲー!!』

貴美恵さんに誘導され、俺は魔方陣の側まで来た。
そして、陣の中に進むには裸足じゃないと行けないそうなので、手前でサンダルを脱ぎ貴美恵さんに渡した。

「魔方陣の真ん中に立って月を正面に見る様に立ってくれる?」

他の人は絶対に触れてはならないそうだが、俺は魔方陣の文字を踏んでも大丈夫なのだそうで、遠慮なく陣に入った。
すると、その陣は屋上に直接書かれている訳ではなく投影されているかの様に床から少し浮いていて、歩き進む俺の足や服に映った。

真ん中に立ち、夜空を見上げると、空には雲一つ無く風も止まっていた。

『…佳夜、佳夜。聞こえますか?』

突然頭の中にお袋の声が響いて聞こえてきた。

「!?」

『もし、聞こえていたら、声は出さずに頭の中だけで返事をして』

『……うん。聞こえているよ。母さん』

言われた通り、俺は頭の中だけで返事をした。

『あぁ!良かった!ちゃんとそっちにも魔方陣が写し出されたのね♪これで召還魔法と目覚めの魔法がきちんと発動出来るわ!』

間もなく中天に来る半月の力とお袋の魔方陣の力のおかげで、俺達は念話が出来るのだそうだ。

『良~い?佳夜、お母さんはあと少ししたら召還と次に目覚めの魔法を発動させます。半月が今より更に輝き出すけど、決して目を逸らさないでね。その光は絶対に痛くないから、瞬きもしちゃ駄目だからね』

そして、半月に吸い込まれる様に身体が浮き上がり、光の繭に包まれるけど暴れないでじっと身を任せる事。次に身体が沈んで重くなって魔方陣が消えたら動いて良いよ。と説明を受けた。

あぁ、お袋は手紙の通り本当に魔力が多くて長きに渡り修行をした凄い人だったんだろうな。
そんな母親の魔力を不可抗力とは言え、自分には必要の無いものなのに奪ってしまって本当に申し訳ない。と俺は思った。

『母さん、俺が母さんの魔力を奪ってしまってごめんね』

『佳夜、お母さんは奪われたなんて一度も思った事無いわ。あなたに私の魔力が移ったのはきっと何か理由があっての事だろうって思っているのよ』

だから、5歳の誕生日の襲撃が無かったら私は次の日からあなたに魔力の抑え方や魔法を教えてあげる予定だったのよ❤と優しく言われ、俺は涙が出た。

『さぁ、泣かないで佳夜。魔法を発動させるわよ』
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