Silver Week

セリーネス

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Preparation 1

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『やっぱり、そう言う事なんだろうな……』

スーツ姿の久志、騎士服姿のルー、そして貴美恵さんからリボンやレースを使って編み込みで可愛いらしいヘアスタイルに整えて貰った自分。
昨夜は色々あった為にあまり深く考えなかったが、今朝の2人の様子や雅鷹さん達の雰囲気から2人が父さんに改めて会いたいって言う理由が判った。
何故突然今日なのかは判らないけれど、初潮が来たからかな?とかこの前3人で暮らす家が決まったからかな?等、何となく思い当たる節を考えながら佳夜はグヴァイが構築していく転移魔方陣を眺めた。

『やっぱり速い』

メロディがある訳じゃないのに、まるで歌を歌っているかの様な滑らかな詠唱。あっという間に完成させてしまった。
佳夜自身だったら3人分の転移魔方陣を構築するのにグヴァイの倍の時間を有する。
先日、イルツヴェーグから日本に帰る時にもグヴァイが3人分の転移魔方陣を構築したけれど、高度で複雑な異世界転移の魔方陣の構築を軽く深呼吸をするぐらいの速さで構築出来てしまったのだから本当に凄い。今朝の剣の鍛練の姿と言い、グヴァイはかなり凄い人なんだ。と佳夜は改めて自覚をした。

「出来たよ。行こっか?」

そばで待っていた佳夜と久志は、ほぼ同時に魔方陣に入りグヴァイの腕に掴まった。グヴァイは2人に微笑むと魔方陣を発動させ、僅かな浮遊感と一瞬だけ身体が沈み混む感覚の中で無事に実家のリビングへ着いた。

「到着♪」

すると、丁度朝食を食べ終わったのか新聞を片手に持ってソファへ座ろうとした彰信と目が合った。

「!?」

突然現れた3人に彰信は軽く目を見開いた。
しかし、娘の番が2人共正装していると気付くと途端に眉間にシワが深く入った。

「おはよう、お父さん」

「……あぁ、お帰り。佳夜」

彰信は座り掛けたが立ち上がり、佳夜だけに挨拶をしてそのまま廊下へ出ようと背を向けた。しかし、ダイニングから来た妻・リリーから声を掛けられて出るのを阻まれたのだった。

「あら、何処へ行くの?彰信」

「……散歩へ」

「佳夜ちゃん達がせっかく来たのに?」

「…………」

にっこりと微笑み、落ち着いている妻。(しかし背中からは何かが漂い始めている)
ダイニングの椅子に座り、この状況を楽しんでいるとしか思えない満面の笑顔の息子。

『計られた』

朝起きた時に気付くべきであった。
いつもの休日の朝なら、妻はとても簡単な朝食(グラノーラやパンケーキ等)を用意するのに、今朝はフルーツのヨーグルト掛けやクロックムッシュ等手が込んだ物を出してくれた。それに休みの朝は10時頃迄起きてこない息子が珍しく7時頃には起き出して、一緒に食事を取りながら学校での様子を色々と話してくれたのだ。

『3人が来るまでの時間稼ぎだった訳だ』

こちらを油断させるつもりだったのか、昨夜共に食事をした時は全くそんな素振りを見せなかった未来の義理の息子達を、彰信はちらりと見て内心溜め息を吐いた。

『はぁ……』

2人共大変男前で性格も良い。何よりも最愛の娘を心底愛している。誠に残念な事に、文句のつけ様が無い好青年達だ。

『だが!娘はまだ15だぞ!?しかも、本来の姿を取り戻してから2ヶ月しか経っていないのに、もう嫁に出した様なこの状況はどうだ!?……』

出来るなら、もう少し家族団らんや親子水入らずを満喫したかった。しかし、子供が幼い頃は自分が仕事で殆んど家に居なかった。今更一家団らんを望むのは虫が良い話だろう……。
しかし、今既に娘は家から目と鼻の先とは言え嫁入りをした様な生活を送っている現状がどうしても納得いかない。
毎日親友とその家内から娘の可愛い表情や姿の写真がスマホに送られてくるが、本来なら生で見れるのは自分だったはず!

しかし、端から見れば娘の可愛い過ぎる笑顔や照れた表情のその写真を見て仕事中の癒しにしている痛い父親である。

『あぁ、出来るなら「結婚なんてまだ早い!」と反対したかった……』

だが、娘の相手は唯一無二の番と言う絶対的な運命の存在。出逢ったそばから結婚した様なものなのよ❤と妻が言っていた。
妻いわく、私と妻は番では無いのだそうだが、そもそも人族は向こうの世界の理の一つ -番- に縛られていないのだそうだ。
だが、異世界人の私と結ばれた事により2つの血を持って生まれた娘には特異な力が備わり、全種類の精霊から愛されるだけでなく番まで現れてしまった。
せめて、親友の息子だけがその番とやらだったらそばで見守れて良かったのに。と思ってしまうが、娘が5才の時に運命は動き出してしまっていた。
あれから10年。私からしたらあっという間の月日だったが、彼からすれば待ち焦がれた10年なのだろう。

『そもそも始めに娘を襲う様な真似をしなければ、息子として育てなかったのだがな!………いや、だとしたら下手したら彼が成人した時に娘を番として拐って行ってしまっていたか!?……彼の種族の成人は、たしか18。その時娘は……、11!?いやいや、それはさすがに犯罪だろう!?』

普段は冷静沈着で仕事と妻をこよなく愛する彰信だったが、最愛の娘の事で脳内葛藤が渦を巻き過ぎて思考回路は混乱を極めていた。
もし、この脳内葛藤が周りに聞こえていたならば、すかさず妻からデコピンを食らいロリコン疑惑を掛けられた義理の息子からは「そこまで非常識じゃありません!カヤが成人するか身体がきちんと大人になるまで待ちますよ!!」と叫ばれていた事だろう……。

「……カヤ、アキノブは大丈夫か?」

「う~ん、どうだろう?」

「彰信さんの百面相なんて初めて見たよ」

リビングの出入口に立ちすくんだまま頭を抱え込む勢いで考え込んでいる彰信に、佳夜達3人は心配の眼差しを向けた。

逡巡する事数分。
彰信は佳夜、久志、グヴァイの順にじっくりと顔を見つめ、深く息を吐き出した。

『しかし、まあ、私がリリーと出逢った運命がある様に佳夜もまた運命と出逢った訳だもんなぁ……』

婚約をしたら、きっと直ぐにでも向こうで暮らし始めるのだろうな……。

「……取り乱してすまなかった。どうぞ、掛けなさい。あぁ、佳夜はこちらに座りなさい」

落ち着きを取り戻した彰信はソファに戻り、佳夜には彰信の左隣にあたる1人掛けに座る様に言い、グヴァイと久志には自分の正面のソファに座る様促した。
全員座ると、それまでキッチンで様子を見ていたリリーが人数分のアイスティーをトレーに乗せて持ってきた。

「さて、話を聞こうか?」

彰信は少しだけ苦笑いを浮かべ、隣に座るリリーと目を合わせると両手を膝の上で組み合わせた。
グヴァイと久志は姿勢を正し、2人揃って彰信とリリーへ頭を下げた。

「「お嬢さんとの婚約を許して頂きたく、今日はご挨拶に伺わせて頂きました」」

「3人で住む家が決まったのかな?」

「「はい」」

「そうか……」

彰信は静かな声音でそう一言呟くと、佳夜を見つめた。

「佳夜」

「はい」

「良い青年達だな」

「はい♪」

「高校は、卒業しなさい」

婚約してイルツヴェーグで暮らし始めるなら、学歴等必要が無くなるので高卒でもなくても別段良いのだが、日本で生まれ育った以上はせめてきちんと学業を修めて欲しいと思った彰信だった。

「はい!」

父親の言いたい事が佳夜は言葉にされなくても理解が出来た。

「お父さん、私変わらず毎朝“おはよう、行ってきます”って言いに寄るからね❤」

「あぁ、父さんも毎朝佳夜に会えるのを楽しみにしているぞ」

佳夜と笑顔を交わした彰信は、そのままグヴァイ達を見ると深く頭を下げた。

「正直、私には君達番の気持ちを解ってやれないが佳夜を心から大切に想ってくれているのは判る。きっと色々と2人を困らせる事もあるだろう。だがもう私の手を離れて君達と手を取り合って歩み出した。どうか、私の代わりに娘を守って貰えると嬉しい。よろしく頼む」

「「はい!必ず幸せに致します!」」

グヴァイ達も深く彰信達に頭を下げた。

「まぁ、君達と佳夜との事を許可しないなんて出来ないから、私としては少しぐらい意地悪をしたかったがね」

「「「意地悪?」」」

思わず3人は声がハモってしまった。

「引っ越すまで、佳夜は私達と暮らす。とか共に暮らし始めても結婚式を挙げるまで手を出さない。とかかな♪」

「ちょっ、お父さん!?」

母から番との生活がどんなものか父は聞いて知っているのだろうけれど、娘の前で堂々と話すものでは無いと思う。

「そっそれは、私に辛いばかりですっ!」

グヴァイが少し泣きそうな声を上げた。

「……ふむ。そうか、それは不公平でいかんか。では、佳夜だけイルツヴェーグへ引っ越して今と逆の生活を送るのはどうだ?」

『そんな事まで知っているの!?』

「……つまり、俺は週末だけ佳夜に触れられる生活になると?」

「そうだ。しかし、グヴァイラヤー君も平日は佳夜も学校があるからそうそう毎日佳夜を抱く訳にもいかないだろう?」

『抱くって!!』

父親の余りにも歯に衣着せぬ発言に佳夜は居たたまれなくなり、思わずバンッとコーヒーテーブルを叩いてしまった。

「……お、父さん、グヴァイ、久志」

「「「!?」」」

佳夜はギッ!と3人を睨み付け、込み上げてくる恥ずかしさと怒りに肩を震わせた。

「あなた。佳夜ちゃんまで苛めてどうするの?」

妻の言葉に彰信はハッとした。

「!? そんなつもりは無かったんだ!すまん!佳夜!」

「ごめん、カヤ。俺は一緒に暮らせるだけでもう充分嬉しいから」

「……俺としては、週末だけってのは悲しいけど学校で毎日会えるから、それでも大丈夫だよ」

グヴァイと久志は今一つズレているのだった。

「佳夜ちゃん❤」

母親の優しい呼び掛けに佳夜は表情を緩めた。

「引っ越す日は決まったの?」

「いえ、全く」

「そう、引っ越し先で使う家具や食器類は?」

「まだ、決めてないわ」

少しのんびりとした母親の物言いに佳夜も怒りが消えていった。

「あら!じゃあ、お昼を食べたら3人で向こうへ行って探していらっしゃいな♪そうじゃないといつまでもお引っ越しが出来ないでしょう?」

言われてみれば確かにそうだ。
今グヴァイが住んでいる家の家具や食器類等は全て家に備え付けられていた物だから、新居には全部新しく買って揃えないといけない。
出来れば色々見て決めたいから、ここで怒っている場合ではない。

「お母さんの言う通りだわ。グヴァイ、久志。お昼の後イルツヴェーグへ行っても良いかな?」

リリーの上手いフォローで佳夜の怒りが治まり、心底ホッとした男3人だった。

「そうだね。暮らす為に必要な物は良く見てじっくり選びたいね♪」

グヴァイは洞の商店街に良い店が沢山あるよ♪と笑顔で頷いた。

「俺も、前に聞いていた洞の商店街を見てみたかったから丁度良いね♪」

久志はまだイルツヴェーグ内を散策していないので喜んだ。

「そうと決まれば、お昼を直ぐに用意するわね♪」

「あ、私も手伝う!」

そう言いながらリリーと佳夜はキッチンへ入っていった。

「佳夜が怒らなくて良かったね♪」

入れ替わりに煌夜がリビングに入ってきた。

「……彰信さん、さっきの話半分本気だったでしょう?」

久志は佳夜に聞こえない様に少し小さな声で呟いた。

「まあね。男親としたら、まだ未成年の娘が嫁いで行ってしまうみたいな事は本当に嫌なんだよ」

彰信も小声で返す。

「俺としたら、カヤだけ引っ越して来るって案は大賛成だが?」

グヴァイはアイスティーをグイッと半分飲んで久志をニヤリと笑って見た。

「まあ、1ヶ月ぐらいならそれでも良いですよ?」

「ほう♪二言は無いな?」

「えぇ、元々俺の方が随分佳夜を独占してしまっていましたから」

「……その代わり学校の人気が無い所で佳夜に戻して堪能するんでしょ?」

「なに!?」

「そうなのか?」

煌夜の鋭いツッコミに彰信とグヴァイが久志を見た。

「嫌だなぁ。そんな事はしませんよ♪」

久志は半分当たりなので、軽く煌夜を睨んでから彰信達に微笑んだ。

「まぁ、どう暮らすかは君達の自由だが、くれぐれも学業を疎かにしないでくれよ?」

「あぁ。俺が責任持って2人を学ばせます」

「俺も、勉強だけでなく家事を手伝って少しでも佳夜の負担が軽くなる様に頑張ります」

「そう言って貰えて嬉しいよ」

その後はキッチンから呼ばれる迄4人はイルツヴェーグの事や日本の話に盛り上がった。
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