1 / 1
かんぴょう巻き事件
しおりを挟むこれは私がスーパーでレジ打ちのパートをしていた頃の実話である。
その日、仕事が終わり更衣室で同僚のSと着替えていると彼女が言った。
「あれ?昨日、休みだっけ」
「うん」
「じゃあ、もう聞いた?かんぴょう巻きおばさん、万引きで捕まったの」
「えっ、本当?」
Sは頷いた。
かんぴょう巻きおばさんは常連さんだった。
二、三日に一度、来店しては清算カゴにかんぴょう巻きとおせんべいを入れてレジにやって来る。
彼女は必ずかんぴょう巻きを買いたいらしく売り場に無いと店員を呼び止めて「かんぴょう巻き、無いの?」と尋ねるのだ。
だから店のスタッフの間では『かんぴょう巻きおばさん』と呼ばれていた。
昨日もカゴにはかんぴょう巻きとおせんべいを入れていたそうだ。
でも、からしのチューブの箱をポケットに入れるのをスタッフに見つかってしまったのだ。
「なんか・・驚き・・」
「うん。でもね、もう一つ驚く事があったの」
「何?」
「ご主人が呼ばれて来たんだけど、ご主人、お寿司屋さんだったのよ」
「お寿司屋さん?」
「そう」
「だって毎回、かんぴょう巻き買ってたじゃない」
Sは頷いた。
私は考えていた。
なんで寿司屋のおかみさんがウチの店でかんぴょう巻きを買ってたのか・・
自分の店で出す為?それとも自分で食べる為?
どっちか分からないが、一つだけ分かる事がある。
あのかんぴょう巻きは寿司屋のおかみさんの『推し』だったという事だ。
その時、Sが私に訊いた。
「ねぇ、ウチの店のかんぴょう巻き食べた事ある?」
「無いわ」
ウチの店はお弁当を外部に発注していたので、いくらスタッフといえどもお金を払って買わないと食べる機会が無いのだ。
Sが眉根を寄せて言った。
「・・そんなに美味しいのかしら?・・あたし買って帰ろうかしら・・」
「わ、私も」
私達はお弁当売り場に行き、かんぴょう巻きのパックを手にレジに並んだ。
するとレジに入っている遅番勤務の同僚が言った。
「なーに、あなた達も?」
「何が?」
「さっき青果のスタッフがみんなで買って帰ったわよ」
横のレジの同僚が言った。
「あー、私も欲しいのにな。仕事が終わるまで残ってるかしら」
私は自宅に帰ると早速、お昼ごはんに食べる事にした。
早く食べてみたい
お茶を入れる事もせずに一口つまむ。
そして私は眉根を寄せて言った。
「うーん・・普通」
翌日、持ち場のレジに入ろうと店内を歩いていると売り場主任がお弁当売り場でかんぴょう巻きを並べていた。
随分といっぱいある。
私は主任に訊いた。
「今日、特売にするんですか?」
内心、それなら昨日じゃなくて今日買えばよかった、と思っていた。
「違うよ」
ニコニコしながら主任は言った。
「昨日、かんぴょう巻きの売れ行きが良かったから今日は多めに仕入れてみたんだ」
「・・・・」
その日、かんぴょう巻きが見事に売れ残ったのは言うまでもない。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
夢を見るたびに僕が死ぬ
綾崎暁都
ライト文芸
椿屋真琴(つばきやまこと)は容姿端麗な女子高生で、学校の皆の憧れの存在だ。だが彼女は、実は男の子になりたい願望を抱いていた。周囲から向けられる理想の眼差し、そして世間の目に、真琴は本当の自分でいることが出来ず、葛藤に苦しむ。そんな彼女だが、自分と同じく容姿端麗で、人気を分ける存在である藤枝京香(ふじえだきょうか)に、密かに想いを寄せていた。
日々の欠片
小海音かなた
ライト文芸
日常にあったりなかったりするような、あったらいいなと思えるような、2000字以内の一話完結ショートストーリー集。
※一部、過去に公開した作品に加筆・修正を加えたものがございます。
J1チームを追放されたおっさん監督は、女子マネと一緒に3部リーグで無双することにしました
寝る犬
ライト文芸
ある地方の解散された企業サッカー部。
その元選手たちと、熱狂的なファンたちが作る「俺達のサッカークラブ」
沢山の人の努力と、絆、そして少しの幸運で紡ぎだされる、夢の様な物語。
(※ベガルタ仙台のクラブの歴史にインスパイアされて書いています)
『小さな出会い』 グリーン車で隣り合わせたボロボロ爺さんの身の上話
紅牡丹
ライト文芸
エリート商社マン一ノ瀬は、常務の親友(故人)の娘と嫌々見合いをした。
……ないなぁ。
見合いの後、彼は友人の結婚披露宴に出席するため、新幹線に飛び乗った。
そして、ボロボロなセーターを着たお爺さんと出会うのだが……。
時代は昭和後期。
作者の趣味に走ったちょっとほろっとする話(を目指しました)
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる