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前編 召喚された勇者達は好きな時に帰れる

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かつて世界を救った1人の英雄が居た。
彼女は人類を絶滅寸前にまで追い詰めた魔王をたった一人で撃破して『鉄壁の戦乙女』と呼ばれた。
鉄壁の名の如く、彼女はありとあらゆる守備力を強化した成長を行い魔王以外では彼女に傷一つ付ける事が出来なかった。
そこにあるのはまさしく無敵の二文字に相応しい戦いだった。
どんな攻撃も物ともせずに手にした武器で相手が動かなくなるまで反撃するその姿に魔王の配下は真の恐怖を叩き込まれたのであった・・・
その魔王が倒されてから実に30年・・・
世界に平和が訪れたこの世界に1人の少年が異世界召喚された。



「あれ?ここは?」

王城の一室に描かれた巨大魔法陣。
そこに立っていたのは4人の少年であった。
その手に持っている武器から彼等の属性が把握される。

「ようこそおいで下さいました勇者様方、私はクレア。この国の女王でございます」

そう言って挨拶をするのは美と言う言葉そのものを表すほど美しい金髪の女性であった。
見た目20前後のクレアはスカートの端を摘んで少し広げながら挨拶を行なう。
その美しさに4人は唖然と言葉をなくした。
この世にこれ程美しい女性が居るのかと言葉が出ないのだ。

「突然のお呼び出し大変失礼しました。早速ですが勇者様方にはお願いがございます」

固まる4人にクレアはこの世界に4人の勇者を呼び出した理由を告げる。
この世界にはかつて魔王と呼ばれる者が居た。
だがそれは30年前に討ち取られたのだがその配下の魔物達は散り散りになって人類を困らせている。
この30年で人口は徐々に増え始めたが魔物に対する脅威には叶わず戦力が不足していた為に勇者召喚を行なう事となったと・・・

「あの・・・僕等帰る事が出来るのでしょうか?」

槍を持つ勇者が当然の質問を行なう。
異世界召喚、それは帰れないと言うのが相場なのだ。
だが・・・

「ご心配には及びません、皆様にはこの魔法陣を使用して元の世界にいつでも自由に戻れるようにさせていただいております。その際はこの世界の記憶と能力を全てリセットした上で召喚した時の状態で元の世界に戻れるようにさせていただいております」

異世界召喚での問題点を全てクリアしたこの言葉に4人は互いを見合わせ笑顔を浮かべた。
自由に好きな時に戻る事が出来て元の状態で元の時間に帰れる。
簡単に言えばVRゲームを好きなだけ楽しんで時間を戻す事が出来るのと似た様な状況だと剣の勇者は考えた。

「記憶は全て消えてしまうのですか?」
「はい、大変申し訳ございませんが時間を戻す事での弊害を無くす為ですのでご理解を」

斧の勇者が尋ねてきた言葉に王女であるクレアは頭を下げて返答を返す。
礼儀正しい上に王女である立場を使わず腰の低い物言いに勇者達は安心しきっていた。
まさか自分達が呼び出された本当の理由がとんでもない事だとは知らずに・・・







「俺は城を出てこの世界を旅してみたいと思う」

4人の勇者、剣の勇者、槍の勇者、斧の勇者、そして素手の勇者は近くの森で魔物退治を行なっていた。
倒していたのは最弱の魔物と呼ばれる大ナメクジでこの世界の戦闘に慣れるのと共に自分達のレベルを上げていたのだ。
そんな中、素手の勇者は3人に1人旅に出たいと告げていた。
元々互いを同じ境遇の仲間としか見ていない3人は個々の意志を尊重するつもりだったのでその言葉を二つ返事で認めた。
城では衣食住全てが用意され生活面で一切の不満は無いのだが不穏な空気を素手の勇者は感じ取っていたのだ。

「死ぬなよ」
「元気でな」
「たまには帰って来いよ」
「悪いな皆」

そう言って素手の勇者は城へは帰らずに城下町へと姿を消した。
驚く事にクレア側もそれぞれの考え方を尊重したいと事後承諾し、3人の勇者は城を拠点に日々魔物を退治して行った・・・






それから半年が経過したある日であった。
7日に1回休息日として勇者達は魔物退治を行なわない日を設けていたのだが斧の勇者の様子が朝からおかしかった。
普段なら倒した魔物に応じて支払われた給金で城下町に出向いて自由に振舞うのが3人の休日の過ごし方だったのだが、その日の斧の勇者は朝から消沈していた。
まるで何かに絶望したかのような様子の斧の勇者を2人は心配した。
半年の間に彼等の絆は深まり、互いに互いを認め合い時には助け合ってここまで来たのだ。
そんな仲間が消沈している様子が気にならない訳が無かった。

「一体どうしたってんだよ?」
「昨日なにかあったのか?」
「いや・・・それは・・・」

どうにも要領を得ない物言いに段々とイライラし始めた2人は折角の休息日と言う事で斧の勇者を元気付ける為に少し贅沢をする事にした。
美味しい物を食べて買い物をして各々気になっていた町の女性達とデートをする。
女王クレアから人口を増やす為にも互いに合意があれば好きにしていい、子供が出来た時は城から補助を行なうとの通達もあり3人にはそれぞれハーレムが出来上がっていた。
だがそんな中、斧の勇者だけは交際していた女性達との関係を終わりにする発言をした。
悲しむ女性達ではあるが本人にその気が無いのであれば仕方ないと斧の勇者の下を去る。
実にアッサリとした感じでは在ったが、彼女等も十分に美味しい思いをした上に何人かは既に妊娠していたので文句は無かった。
勇者との子供が出来れば城から生活の保障は行なわれ生活面での問題は無く、妊娠しなかった女性達は2人の勇者に乗り換えるつもりであったのだ。

「なぁ、本当に大丈夫か?」
「あぁ・・・」
「朝からおかしいぞお前?昨夜何かあったのか?」
「いや・・・心配掛けて悪いな・・・」

その日の夕方城へと戻っている最中も消沈したままの斧の勇者を心配する2人。
だが城へ戻ってクレア女王の下へそのまま向かった斧の勇者はその言葉を告げる。

「俺は元の世界に帰りたいと思います」
「そうか・・・悪い事をしました。本当にすみません」

何故クレア女王が頭を下げるのか分からない二人は困惑するが斧の勇者の意志は固く彼はそのまま元の世界へと一足先に帰っていった。
一体彼が何故一夜にして消沈して帰っていったのか・・・
2人はまだその理由を知らない・・・
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