上 下
10 / 10

 10

しおりを挟む

「えっと確かこっちの道だったわよね、あれ違う?」

  リサは、籠を手に持って森の中をうろうろとしていた。

「そういえば、迷った時のために指輪貰ってたっけ」

 リサは、右手に着けていた指輪を空にかざした。指輪の金属が太陽の光を反射して光る。

「確か、呪文を言うんだったわよね。なんだったかしら。うーんと、我をかの屋敷へ誘え?」

 呪文に反応して、指輪が発光する。そして、一本の光が道の先を指した。

「この指している所が屋敷ってことかしら? とりあえず行ってみるしかないわね」

  落ち葉を踏みながらリサは、光るの指す方向へ進む。太陽が照っているからか、昨日よりも森は暖かい気がするとリサは思った。 

 しばらく、森を歩きなれているリサでも疲れるぐらいに荒い道が続いた。

 リサは、昨日もこの道を歩いたのか不思議に思い、周りを見渡したが、森の中は、景色が変わらないため、この道を覚えるのは無理そうだと感じた。

「はあ、はあ、やっと着いたわ」

   リサは、息を吐きながら屋敷のドアに手を掛ける。そして、一度ノックをして声をかけてからヒールがいる部屋の中へ入った。

「ヒール。約束の物を持ってきたわ、起きてるかしら?」
「うん、起きてるよ。リサ早かったね、ありがとう」

   ヒールは、ベッドから体を起こし、嬉しそうにリサから籠を受けとると、籠の中を覗き込んだ。

「リサ、これは、何?」
「それは、レタスとハムが入ったサンドイッチよ、紅茶も作ってきたのこれもどうぞ」
「ありがとう、食べるのが楽しみだよ」
「気に入ってくれるといいんだけど……」

 ヒールは、リサの作ったサンドイッチに手を伸ばす。そして一思いにそれにかぶりついた。1つ目が食べ終わると次へとまた手を伸ばす。

 静かな部屋にヒールの咀嚼音だけが響いた。

「貴方、泣いてるじゃない」
「あれ? 本当だ」
「そんなに不味かったの!? ごめんなさいね、大丈夫?」
「いや、違うんだ。誰かにご飯を作って貰ったのが初めてだったから嬉しくて」
「そう、なのね」

  リサは、ヒールに何か悲しい過去があったのではないかとヒールの表情から悟ったが、それを聞くことは出来なかった。その代わりにリサはある提案をしようと考える。

「もし、よかったらだけど。また作って持ってくるわ。さすがに毎日は無理だけど……」
「また、来てくれるの?」
「だってもう私たち友達じゃない? 友達が遊びに来るのは当然でしょ」
「ふふっありがとうリサ」

 ヒールは、嬉しそうに笑った。リサは、ヒールの本当の笑顔を見て胸がなぜか締め付けられるのを感じた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

禍根の恋

田山 まい
恋愛
とある教会に訪れた男の告解とその後

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...