壊れた脚で

トラストヒロキ

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The road to space derby

Just before Earth Derby

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 迎えたアースダービー1ヶ月前。
 
 現地の空気と馬場に慣れさせるため、チームは早く現地入りをした。

「いやーー気持ちいいなぁ!クイーンズランドはっ!」

 三輪が何かから解放されたように伸び伸びと言った。

「三輪さん伸びすぎですよ。笑」
 
「まぁまぁ良いじゃないか、こんな経験なかなかできないからね~」

 一同は見たことないほどの景色や街の広さに少しミーハーなリアクションをしながら楽しんでいたが、やる事がしっかり決まっているために観光するまでもなく、レースまでの間は現地の厩舎、トレセンにお世話になるしかない事もあり、早速目的の場所へ向かった。

 長旅の疲れを癒す前に一番大切なテイルの様子をしっかり診て手入れをする必要があった。

馬房でテイルの馬体を診ていると、一人の男が近寄り、馬威人に話しかけて来た。

「あなたが馬威人さんですか?」

 男は背が低く、アジアン寄りの顔付きをしており、日本語を話して来たので、馬威人は日本と中国か、あるいは韓国のハーフかなと思いながら話した。

「はい、そうです。あなたは?」

 その答えに馬威人の背筋がピンと伸びた。

「私はオーストラリアでジョッキーをしています、タリーと言います」
 
 タリーと言えば、オーストラリアの*リーディングトップのジョッキーだ。

 *その年の成績順位のこと

「あ!あなたがタリーさんですか!はじめまして、改めて、新畑(あらはた)馬威人です。日本語話せるのですね!ご両親のどちらかが日本の方ですか?」

 タリーはニコニコしながら応えた。

「そうです、ワタシの母が日本人です!父は韓国人ですので日韓のハーフです」
 
 それにしても日本語がうますぎる。
 タリーが続いて言った。

「脚、大変でしたね、、、でも今のあなたは凄いです。本当に凄い。金属の脚を付けて厳しいトレーニングをし、ターフに戻って来ました。そんな人は世界中探しても他にいません。僕ならきっと、諦めていたでしょう」
 

 ただでさえ褒められる事に慣れていない馬威人は少し戸惑いはしたが、昔の自分ならそんなことないですよ、と無理に謙遜していただろうなと考えながら応えた。
 
「タリーさんでもきっと戻ってこれますよ。戻ってくる"理由さえ明確"にあれば、誰だって戻れるはずだと、、、僕はそれを経験しました」
 
 キリッとした表情で言葉を伝えた。

 するとタリーは申し訳ないことを言ったような仕草で
 
「そうですか、、、けどあなたを本当に尊敬します。僕も負けないように頑張りたいです。レースでは僕はサークルエナジーと言う馬に乗ります!お互いに頑張りましょう!」
 
 と、タリーは手を差し伸べた。

 馬威人はその手をしっかりと握り、互いに全力でレースに向かうことをアイコンタクトで確かめ合った。



 アースダービー1週前。
 

 しっかり、念入りにテイルの調整をしてきた。
 三輪も馬威人もこれ以上ないほどの仕上げでテイルを磨き、共に過ごしてきた。
 しかし、一つだけテイルには気掛かりな面があった。
 それはある状態では他馬を気にすることだった。

 ジャパンダービーでは思わぬアクシデントにより、他馬が出走停止を続け、小頭数になったことにより、結果二着が導かれたとも言いきれない不透明な内容だった。
 テイルの実力はある。
 高い素質と素晴らしい馬体の持ち主でもある。
 ただ、性格や気質そのものを変えることは至難の技であり、人がそれを変えるのは難しく、馬自身の精神面の成長が大きな鍵となる。

 しかし、三輪には特策があった。
 それが*ブリンカーだ。

 *他馬を気にする馬などに、視界の一部、後方を見えなくして集中力を高めるという効果が見られる馬具のこと。

 最終段階の当週。
    最終ミーティングで三輪がこのアースダービーを制するために練って来た苦肉の策があると言い出した。

「皆んな良く聴いてくれ。
今回、テイル用に作ったブリンカーを使用する」
 
 馬威人とチーム一同はそのまま話しを聞き続けた。
 
「乗り手の馬威人くんは勿論のこと、僕はこのアースダービーを心の底から獲りにいきたい。それは馬威人くんも他の皆んなも一緒の思いだと思う。そしてなにより小田原先生の言葉を信じ、小田原先生にもこのアースダービー制覇を贈り届けたい、、、」
 
 一同は小田原先生の名を聞くとともに瞳がジワッと滲むが、話しを聞き続けた。
 
「そして、皆んなこのテイルのクセを知っているよね?テイルは逃げ馬じゃない。
 後方から脚を溜めて、後半に爆発させて勝つタイプだ。
 だけど、今回はその逃げた事がない馬を逃がしたい、、、これがどういったことか想像できるか皆んなは?」

 三輪の問いに答えられる者は居なかった。

「逃げた事がない馬、、、それは、、
 逃げる喜びを感じた事がない馬だ!」
 
 一同は、その言葉に妙に感じた事のない期待感を抱いた。
 馬威人が問う。

「って事は、このレースで初めてテイルを逃せって事ですよね?」
 
「 そう。テイルを逃す。
 だからこそのブリンカーなんだ。初めて装着する馬具だが、効くか効かないかは走らないとわからない。
 ただ、実際に初ブリンカーが効いて独走勝ちをする馬が居ることは、皆んな知っているだろう」
 
 一同は少し沈黙した。
 が、その後激しく自身の論をぶつけ合った。
 (  今まで逃げた事がないのに、このアースダービーでいきなり逃がすなんて無茶過ぎるよ。
徹底してテイルの良さを十分に引き出す闘い方をするべきだ。
どうせなら一番後ろで最大に脚を溜めて勝負した方がいいのでは?様々な意見が飛び交う最中で、馬威人が言った。
 

「、、、わかりました、やりましょう」


 反対意見が飛び交う中、乗り手の騎手がそういうのだからと、チームは馬威人の手綱に任せるしかないと腹をくくった
 不安と期待が押し問答する中、作戦会議は何とか万場一致の結果となった。


 その後、テイルの様子を見に行った馬威人の目には、大事なレースが待ち構えているにも関わらずスヤスヤと眠るテイルの姿が映り、その姿に

「お前は本当にマイペースだなぁ、、、」

 と感心させられる馬威人であった。

いよいよ、宇宙ダービーへの最後の関門アースダービーだ。

虫の声だけが鳴り響く夜、馬威人は1人頷いて決心を固めた、、、
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