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第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!
34.拒絶
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「い、いや……。やめてっ!」
私は戸惑いながらも、必死に声に出した。
その声は震えていて決して大きくは無かったが、ロジェの耳には届いたようだ。
そしてロジェの動きがピタッと止まる。
「……あ、ご、ごめんっ」
ロジェは私の震えている手に気付いたのか、慌てて解放した。
驚きと恐怖で、私の目からは大粒の涙が零れていた。
「シア、ごめん……。驚いたよね。もうこんなことはしないから、ごめん。もう泣かな……「さ、触らないでっ!」」
ロジェは手を伸ばしてきたが、私はその言葉を遮り拒絶した。
目の前にいるのは私の良く知っている、かつての優しいロジェの姿ではない。
私の気持ちを完全に無視して、強引に従わせようとする姿勢はまるで王女のようだ。
そう思うと怖くて堪らなかった。
「シア……?今のは違うんだ……。怖がらせてしまったよね。本当にごめん、謝るから」
「近づかないでっ」
ロジェは困惑した様子で謝っていたが、私が再び拒絶するとロジェは表情を歪ませ、悔しそうに唇を噛みしめていた。
「信じてくれ。こんなことをしたかったんじゃない。シアが、エルネスト殿下に奪われてしまう気がして、耐えられなくて。気持ちを抑えることが出来なかった。もうこんなことはしない、絶対に怖がらせることはしないから……。だから、僕のことを嫌いにならないで。シアに拒絶されることが何よりも辛いんだ」
「……っ」
ロジェは悔やむように苦しげな顔で訴えてきたが、私は威嚇でもするように睨み付けた。
ただ、早くここからロジェが出て行って欲しいと祈るだけだった。
じっと警戒するように見つめていると、再びロジェの手がこちらに伸びて来る。
本当は今すぐにここから逃げ出したいが、体が固まっていてそれは叶いそうも無い。
私は俯き見たくないとでも言うように、ぎゅっと瞳を閉じた。
しかし暫く経っても何も起こらない。
ドキドキしながら俯いてると、頭上からロジェの声が響く。
「……シア、今日は帰るよ。また明日改めて来させて貰う。それまで頭を冷やしておくよ」
ロジェは寂しそうに呟いた。
私が恐る恐る顔を上げると、弱々しく微笑んでいるロジェと目が合った。
そして静かに部屋から出て行った。
「……っ、うっ……」
部屋に一人きりになると、緊張から解放されて再び胸の奥が熱くなる。
そして目からは止まらない程の涙が溢れてきた。
(なんで、こんなことになっちゃうんだろう……)
もう私の力ではどうすることも出来ない。
私は自分の気持ちを伝えて、婚約を望んでいないのだとはっきりと伝えた。
だけどその気持ちはロジェには届かなかった。
そして強引に迫られて、私の力では全く太刀打ち出来なかった。
そんなことへの絶望から、涙が止まらなくなっていた。
ロジェが出て行ってから暫くすると、再びガチャッと扉が開く音が聞こえた。
その音にビクッと体を震わせ、急いで扉の方へと視線を向けた。
ロジェが戻って来たのでは無いかと一瞬警戒するが、そこに立っていたのはロジェではなくエルネストだった。
「フェリシア……?」
「……っ、エル、ネスト様……」
エルネストは私の酷い顔を見て、すごく驚いた顔をしていた。
そして直ぐに私の方へと近づいて来る。
私は真っ赤に腫れ上がった瞳で、エルネストの名前を呼んだ。
「さっき君の婚約者とすれ違ったけど、何かされたのか?」
エルネストの声からは、戸惑いと怒りの両方を感じ取ることが出来た。
昨日の夜、急にロジェと会うことが決まった為、エルネストにはその事を伝えていない。
きっとロジェがこの屋敷にいたことに驚いているのだろう。
この人は唯一、私の気持ちを分かってくれる存在だ。
エルネストは「もう大丈夫だから」と優しい声をかけると、そのまま私のことを抱きしめてくれた。
温かい腕の中に包まれていると安心感を覚え、我慢することも忘れて感情に流されるまま泣いてしまう。
そして私が落ち着くまで、ずっと傍にいてくれた。
ロジェはまた明日も来ると言っていた。
だけど今日の事でロジェへの気持ちは更に離れてしまった。
あんなに拒絶する態度を見せたというのに、まだ修復出来ると本気で思っているのだろうか。
今日の事で良く分かった。
ロジェは私の気持ちなんて、はなっから理解する気がないのだと。
こんな考えを持った相手といくら話し合いをしても、分かり合えることは無いだろう。
「もう、どうしたらいいのか分からないよ……」
私はぼそりと弱音を吐いた。
私は戸惑いながらも、必死に声に出した。
その声は震えていて決して大きくは無かったが、ロジェの耳には届いたようだ。
そしてロジェの動きがピタッと止まる。
「……あ、ご、ごめんっ」
ロジェは私の震えている手に気付いたのか、慌てて解放した。
驚きと恐怖で、私の目からは大粒の涙が零れていた。
「シア、ごめん……。驚いたよね。もうこんなことはしないから、ごめん。もう泣かな……「さ、触らないでっ!」」
ロジェは手を伸ばしてきたが、私はその言葉を遮り拒絶した。
目の前にいるのは私の良く知っている、かつての優しいロジェの姿ではない。
私の気持ちを完全に無視して、強引に従わせようとする姿勢はまるで王女のようだ。
そう思うと怖くて堪らなかった。
「シア……?今のは違うんだ……。怖がらせてしまったよね。本当にごめん、謝るから」
「近づかないでっ」
ロジェは困惑した様子で謝っていたが、私が再び拒絶するとロジェは表情を歪ませ、悔しそうに唇を噛みしめていた。
「信じてくれ。こんなことをしたかったんじゃない。シアが、エルネスト殿下に奪われてしまう気がして、耐えられなくて。気持ちを抑えることが出来なかった。もうこんなことはしない、絶対に怖がらせることはしないから……。だから、僕のことを嫌いにならないで。シアに拒絶されることが何よりも辛いんだ」
「……っ」
ロジェは悔やむように苦しげな顔で訴えてきたが、私は威嚇でもするように睨み付けた。
ただ、早くここからロジェが出て行って欲しいと祈るだけだった。
じっと警戒するように見つめていると、再びロジェの手がこちらに伸びて来る。
本当は今すぐにここから逃げ出したいが、体が固まっていてそれは叶いそうも無い。
私は俯き見たくないとでも言うように、ぎゅっと瞳を閉じた。
しかし暫く経っても何も起こらない。
ドキドキしながら俯いてると、頭上からロジェの声が響く。
「……シア、今日は帰るよ。また明日改めて来させて貰う。それまで頭を冷やしておくよ」
ロジェは寂しそうに呟いた。
私が恐る恐る顔を上げると、弱々しく微笑んでいるロジェと目が合った。
そして静かに部屋から出て行った。
「……っ、うっ……」
部屋に一人きりになると、緊張から解放されて再び胸の奥が熱くなる。
そして目からは止まらない程の涙が溢れてきた。
(なんで、こんなことになっちゃうんだろう……)
もう私の力ではどうすることも出来ない。
私は自分の気持ちを伝えて、婚約を望んでいないのだとはっきりと伝えた。
だけどその気持ちはロジェには届かなかった。
そして強引に迫られて、私の力では全く太刀打ち出来なかった。
そんなことへの絶望から、涙が止まらなくなっていた。
ロジェが出て行ってから暫くすると、再びガチャッと扉が開く音が聞こえた。
その音にビクッと体を震わせ、急いで扉の方へと視線を向けた。
ロジェが戻って来たのでは無いかと一瞬警戒するが、そこに立っていたのはロジェではなくエルネストだった。
「フェリシア……?」
「……っ、エル、ネスト様……」
エルネストは私の酷い顔を見て、すごく驚いた顔をしていた。
そして直ぐに私の方へと近づいて来る。
私は真っ赤に腫れ上がった瞳で、エルネストの名前を呼んだ。
「さっき君の婚約者とすれ違ったけど、何かされたのか?」
エルネストの声からは、戸惑いと怒りの両方を感じ取ることが出来た。
昨日の夜、急にロジェと会うことが決まった為、エルネストにはその事を伝えていない。
きっとロジェがこの屋敷にいたことに驚いているのだろう。
この人は唯一、私の気持ちを分かってくれる存在だ。
エルネストは「もう大丈夫だから」と優しい声をかけると、そのまま私のことを抱きしめてくれた。
温かい腕の中に包まれていると安心感を覚え、我慢することも忘れて感情に流されるまま泣いてしまう。
そして私が落ち着くまで、ずっと傍にいてくれた。
ロジェはまた明日も来ると言っていた。
だけど今日の事でロジェへの気持ちは更に離れてしまった。
あんなに拒絶する態度を見せたというのに、まだ修復出来ると本気で思っているのだろうか。
今日の事で良く分かった。
ロジェは私の気持ちなんて、はなっから理解する気がないのだと。
こんな考えを持った相手といくら話し合いをしても、分かり合えることは無いだろう。
「もう、どうしたらいいのか分からないよ……」
私はぼそりと弱音を吐いた。
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