上 下
32 / 66
第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!

32.話合い②

しおりを挟む

「私だって、ずっと寂しかったよ」
「……!」

「なのに、ロジェは放っておくだけで何もしてくれなかった」
「……ごめん。シアにはなるべく近づかないほうが良いと思っていたんだ。寂しそうに僕を見ているのには気付いてた」

「気付いていたのに、何もしてくれなかったんだ。敵である王女殿下は慰めるのに。やっぱりロジェにとって大切なのは王女殿下なんだよ」
「違うっ!僕が一番大切に思ってるのはシアだ。信じて欲しい」

私がぽつりと静かに呟くと、ロジェは焦って否定した。
だけど一連のロジェの態度を見ていたら、そんな言葉だけでは到底信じられるはずが無かった。

「どうやって信じたら良いの?何度も何度も二人が仲良くしている姿を見せつけられて。4人で話した時だって、王女殿下の腕を振りほどかなかったし」
「それはっ……。だけどそれならシアだって同じじゃないか。エルネスト殿下に触らせて。シアは僕の婚約者なのに」

ロジェはエルネストの名前を引き合いに出して私を責め始めた。
私はその言葉を待っていた。
今回エルネストに頼んだ目的が、そこにあるからだ。

私と同じ思いをロジェに思い知らせてやりたい。
同じ立場にさせて、私が感じた気持ちを知ってもらいたい。

「ロジェは私がエルネスト様に触られているのを見て嫌だと思った?」
「当たり前だ」

ロジェは間髪入れずに即答した。
だけどその言葉を聞いても全く嬉しくなかった。

「だったら、どうして自分は簡単に触らせるの?」
「それは、命令だから仕方なく」

「いつも命令命令って、その言葉で逃げるのってずるいと思う」
「…………」

私の言葉を聞いて、ロジェは苦しげな表情をして黙り込んでしまった。
なんでもかんでも『命令』という言葉で片付けようとしてくるロジェにはウンザリしていた。
自分の意思でそうしていることもあるというのに、全てを王女の命令の所為にしてしまうのはずるくて卑怯だ。
まるで自分は何も悪く無いと言い逃れしているようにしか思えない。

「ロジェは自分のことばかりで、私の事を全く気にかけてもくれない。私がどれだけ寂しかったのかも、嫌な思いをしてたのかも、全然分かってないよ!それって私に興味が無いってことだよね」

私は我慢出来なくなり、感情のままにぶつけていた。
目からは涙が溢れていたが、もうそんなことなんてどうでも良くなっていた。

「依頼をしてきた時も、一切私の心配なんてしてくれなかった。あの時も王女殿下の心配ばかりしてた。これってもう答えが出てるんじゃないのかな」
「それは……」

ロジェはあの時の事を思い出したのか表情を歪めた。

ミレーユに私の居場所を奪われた気分だ。
ロジェはミレーユに対しては気遣いをするのに、私には一切しなくなった。
それがどういうことを意味しているのか、冷静になって考えてみれば簡単に分かることだ。

「ロジェは気付いていないだけで、心はもう私ではなく王女殿下に向いてるってことだよ。だから私よりも王女殿下のことを優先した。優しくしたのも、放っておけないって思うのもそうとしか思えないよ」
「…………」

私の言葉を聞いたロジェは完全に固まっていた。

「ロジェの心は私に向いてないのに、婚約者のままでいろっていうのは残酷だと思う」
「違う、僕が本当に好きなのはシアで……」

ロジェは口籠もり、自分の言葉に自信が持てないように見える。
先程の勢いは完全に消えていた。
きっと王女に惹かれていたことに、ロジェ自身も気付いていなかったのだろう。

「シアは、僕の事が嫌いか?」
「それって、すごく意地悪な質問だね」

私は苦笑して答えた。

「……ごめん」
「ロジェのことは大好きだった。だけどロジェの心が私から離れていくように、私の心もロジェから離れていった」

傍にいたからこそ、些細な心の変化に気付いてしまった。
最初はただの違和感だったが、それが積み重なるに連れて不安になり不信感へと変わっていった。
こうなることは当然の事で、仕方がないことなのだと思う。

私の話を聞いてロジェは切なそうな顔を見せた。

「これからシアの心を取り戻せるように努力する。もうシアをないがしろになんてしない。もっとシアの気持ちを考えて行動もする。だから……」
「さっきの私の話、聞いてたでしょ?ロジェが好きなのは私ではないんだよ」

私が困った顔で答えると、ロジェは首を横に振った。

「シアと離れるなんて、考えられないし考えたくもない。お願いだ、僕を見捨てないでくれ……」
「…………」

ロジェは今にも泣き出しそうな顔で、懇願する様な瞳で言ってきた。
こんな姿のロジェを見るのは初めてだった。
私はどうして良いか分からず、何も答えられなくなってしまう。

(どうしよう……)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】堕ちた令嬢

マー子
恋愛
・R18・無理矢理?・監禁×孕ませ ・ハピエン ※レイプや陵辱などの表現があります!苦手な方は御遠慮下さい。 〜ストーリー〜 裕福ではないが、父と母と私の三人平凡で幸せな日々を過ごしていた。 素敵な婚約者もいて、学園を卒業したらすぐに結婚するはずだった。 それなのに、どうしてこんな事になってしまったんだろう⋯? ◇人物の表現が『彼』『彼女』『ヤツ』などで、殆ど名前が出てきません。なるべく表現する人は統一してますが、途中分からなくても多分コイツだろう?と温かい目で見守って下さい。 ◇後半やっと彼の目的が分かります。 ◇切ないけれど、ハッピーエンドを目指しました。 ◇全8話+その後で完結

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

処理中です...