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第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!
21.突然の訪問者
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私は王宮でエルネストとのお茶を楽しんだ後、屋敷に帰宅した。
時間を忘れるくらい楽しくて、つい長居してしまった。
外は真っ赤な夕焼けに包まれている。
(遅くなっちゃったけど、王宮に行くことは伝えておいたし大丈夫だよね)
馬車を降りると、隣には別の馬車が止まっていた。
父の知り合いが来ているのだろうと思い、特に気にすること無く屋敷の扉を開けた。
「お帰りなさいませ、フェリシアお嬢様」
「ただいま」
私は普段通り使用人に挨拶を返す。
「お嬢様が戻られましたら執務室へ来るようにと、旦那さまから言付かっております」
「お父様が?そういえば外に馬車が止まっていたけど、誰か来ているの?」
「はい。オクレール侯爵様と、ロジェ様がお越しです」
「……っ、なんで……」
突然のこと過ぎて、一瞬思考が停止してしまう。
だけど侯爵が一緒に来ていると聞き、何となく予想が付いた。
きっと婚約のことだ。
それしか考えられない。
(今日エルネスト様に言いたい放題言われたから、怒って直ぐに婚約を解消しに来たのかな)
あの時のロジェはかなり取り乱していたし、傷ついたような顔をしていた。
相手が王子であったから、あの場で言い返すこともあまり出来なかったのだろう。
そう思う一気に表情が暗くなる。
折角楽しい気分で帰って来たというのに、また嫌な話を聞かなくてはならなくなる。
(やだな……。行きたくないな)
だけど一気に片付けてしまった方が、後々楽かもしれない。
私は前向きに考えることにした。
そしてその足で執務室へと向かった。
***
トントンと扉を叩き、その後に「フェリシアです。帰宅しました」と告げた。
すると扉の奥から「入りなさい」とお父様の声が響く。
私は入る前にゆっくりと深呼吸をした。
(仕方ない……。行こう)
私は扉を静かに開けた。
入るなりこちらを向いていたロジェと目が合ってしまい、私は慌てて視線を逸らした。
(び、びっくした……)
「シア、待っていたよ」
何故かロジェの声は優しかった。
私は『なんで?』と言った顔で、再びロジェの方に視線を向けた。
すると表情もいつもと変わらない穏やかな様子だった。
(怒って、ない?)
「シア、私の隣に座りなさい」
「はい。お父様」
私は父に促され隣に腰掛けた。
目の前にはロジェが座っていて、なんとなく視線を合わせたくなくて侯爵の方へと移動した。
「フェリシア嬢、久しぶりだね」
「オクレール侯爵様、ご無沙汰しております。あの……今日はどうされたんですか?」
私はドキドキしながら侯爵に向けて問いかけた。
「ロジェから、今日王宮であったことを聞かせてもらった」
「…………」
その言葉を聞いて私の表情は強ばる。
だけど不思議なことに侯爵も怒っている様子はない。
何かがおかしい。
「ミレーユ王女が王宮内の塔へ幽閉されることになった」
(決まったんだ。良かった……。これでもう私は自由なのね)
これからはミレーユに怯えることなく学園に行ける。
すぐに対応してくれたエルネストには、本当に感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。
「本当に迷惑な王女だ。もう二度と外に出さないで欲しいものだな」
「お父様、そんなにはっきり……」
父は苛立った態度で堂々と呟いてきたので、私は苦笑してしまう。
だけど怒っていると言うことは、それだけ私のことを心配してくれているという表れだ。
(お父様にも沢山心配をかけていたんだわ。後でちゃんと謝らなきゃ……。婚約解消の件も、こんなことにならなければ私の口から説明したかったな)
「この件は概ね方が付いたから、保留にしていた婚約を元に戻そうと思い、今日こうして訪問させてもらったんだ。フェリシア嬢、曖昧な状態で放置してしまい悪かったね。さぞ嫌な思いをさせただろう。本当に申し訳ない」
(……え?)
侯爵は衝撃の言葉を述べると、突然私に向けて謝って来た。
思いもしなかった展開に、私は完全に言葉を失い固まっている。
私はこの場で婚約解消を言い渡されると思っていた。
しかし返って来た言葉はそれとは真逆のものだった。
「シア、これで前のようにまたシアと一緒にいられる。本当に今までごめん。王女に命令されていたとはいえ、シアに辛い思いをさせてしまったね。今まで寂しくさせてしまった分も大切にするから、僕の元に戻って来てくれるよね?」
ロジェは切ない顔で私の瞳の奥をじっと見つめていた。
それは懇願しているようにも見える。
(これは、一体なんなの?……私、またロジェの婚約者に戻るの?)
私が黙っていると、皆の視線はこちらに向いていた。
だけど、未だに私の口からは一つも言葉が出て来ない。
何を答えて良いのか分からないからだ。
「済まない。シアは驚いて言葉も出ないようだ。だけどロジェ殿のことは本当に慕っていたから、きっと喜んでいるに違いない」
「それは僕も同じです。シアの事は誰よりも大切に思っています。シア、突然押しかけて驚かせてしまってごめんね。だけどシアに早くこのことを伝えたかったんだ。安心してもらいたくて」
ロジェは愛おしいものに向けるような、熱を帯びた瞳で私のことを見つめていた。
今まで散々私の気持ちを踏みにじっておいて、今更そんな態度を取られても心に響くものは何一つなかった。
(……無理。ロジェと婚約なんて……出来ない)
私の中でロジェの信用は地に落ちていた。
信じられない相手を、好きになんてなれるはずがない。
(どうしよう……)
目の前が真っ暗になり、再び絶望の底に叩き落とされたような気分だった。
時間を忘れるくらい楽しくて、つい長居してしまった。
外は真っ赤な夕焼けに包まれている。
(遅くなっちゃったけど、王宮に行くことは伝えておいたし大丈夫だよね)
馬車を降りると、隣には別の馬車が止まっていた。
父の知り合いが来ているのだろうと思い、特に気にすること無く屋敷の扉を開けた。
「お帰りなさいませ、フェリシアお嬢様」
「ただいま」
私は普段通り使用人に挨拶を返す。
「お嬢様が戻られましたら執務室へ来るようにと、旦那さまから言付かっております」
「お父様が?そういえば外に馬車が止まっていたけど、誰か来ているの?」
「はい。オクレール侯爵様と、ロジェ様がお越しです」
「……っ、なんで……」
突然のこと過ぎて、一瞬思考が停止してしまう。
だけど侯爵が一緒に来ていると聞き、何となく予想が付いた。
きっと婚約のことだ。
それしか考えられない。
(今日エルネスト様に言いたい放題言われたから、怒って直ぐに婚約を解消しに来たのかな)
あの時のロジェはかなり取り乱していたし、傷ついたような顔をしていた。
相手が王子であったから、あの場で言い返すこともあまり出来なかったのだろう。
そう思う一気に表情が暗くなる。
折角楽しい気分で帰って来たというのに、また嫌な話を聞かなくてはならなくなる。
(やだな……。行きたくないな)
だけど一気に片付けてしまった方が、後々楽かもしれない。
私は前向きに考えることにした。
そしてその足で執務室へと向かった。
***
トントンと扉を叩き、その後に「フェリシアです。帰宅しました」と告げた。
すると扉の奥から「入りなさい」とお父様の声が響く。
私は入る前にゆっくりと深呼吸をした。
(仕方ない……。行こう)
私は扉を静かに開けた。
入るなりこちらを向いていたロジェと目が合ってしまい、私は慌てて視線を逸らした。
(び、びっくした……)
「シア、待っていたよ」
何故かロジェの声は優しかった。
私は『なんで?』と言った顔で、再びロジェの方に視線を向けた。
すると表情もいつもと変わらない穏やかな様子だった。
(怒って、ない?)
「シア、私の隣に座りなさい」
「はい。お父様」
私は父に促され隣に腰掛けた。
目の前にはロジェが座っていて、なんとなく視線を合わせたくなくて侯爵の方へと移動した。
「フェリシア嬢、久しぶりだね」
「オクレール侯爵様、ご無沙汰しております。あの……今日はどうされたんですか?」
私はドキドキしながら侯爵に向けて問いかけた。
「ロジェから、今日王宮であったことを聞かせてもらった」
「…………」
その言葉を聞いて私の表情は強ばる。
だけど不思議なことに侯爵も怒っている様子はない。
何かがおかしい。
「ミレーユ王女が王宮内の塔へ幽閉されることになった」
(決まったんだ。良かった……。これでもう私は自由なのね)
これからはミレーユに怯えることなく学園に行ける。
すぐに対応してくれたエルネストには、本当に感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。
「本当に迷惑な王女だ。もう二度と外に出さないで欲しいものだな」
「お父様、そんなにはっきり……」
父は苛立った態度で堂々と呟いてきたので、私は苦笑してしまう。
だけど怒っていると言うことは、それだけ私のことを心配してくれているという表れだ。
(お父様にも沢山心配をかけていたんだわ。後でちゃんと謝らなきゃ……。婚約解消の件も、こんなことにならなければ私の口から説明したかったな)
「この件は概ね方が付いたから、保留にしていた婚約を元に戻そうと思い、今日こうして訪問させてもらったんだ。フェリシア嬢、曖昧な状態で放置してしまい悪かったね。さぞ嫌な思いをさせただろう。本当に申し訳ない」
(……え?)
侯爵は衝撃の言葉を述べると、突然私に向けて謝って来た。
思いもしなかった展開に、私は完全に言葉を失い固まっている。
私はこの場で婚約解消を言い渡されると思っていた。
しかし返って来た言葉はそれとは真逆のものだった。
「シア、これで前のようにまたシアと一緒にいられる。本当に今までごめん。王女に命令されていたとはいえ、シアに辛い思いをさせてしまったね。今まで寂しくさせてしまった分も大切にするから、僕の元に戻って来てくれるよね?」
ロジェは切ない顔で私の瞳の奥をじっと見つめていた。
それは懇願しているようにも見える。
(これは、一体なんなの?……私、またロジェの婚約者に戻るの?)
私が黙っていると、皆の視線はこちらに向いていた。
だけど、未だに私の口からは一つも言葉が出て来ない。
何を答えて良いのか分からないからだ。
「済まない。シアは驚いて言葉も出ないようだ。だけどロジェ殿のことは本当に慕っていたから、きっと喜んでいるに違いない」
「それは僕も同じです。シアの事は誰よりも大切に思っています。シア、突然押しかけて驚かせてしまってごめんね。だけどシアに早くこのことを伝えたかったんだ。安心してもらいたくて」
ロジェは愛おしいものに向けるような、熱を帯びた瞳で私のことを見つめていた。
今まで散々私の気持ちを踏みにじっておいて、今更そんな態度を取られても心に響くものは何一つなかった。
(……無理。ロジェと婚約なんて……出来ない)
私の中でロジェの信用は地に落ちていた。
信じられない相手を、好きになんてなれるはずがない。
(どうしよう……)
目の前が真っ暗になり、再び絶望の底に叩き落とされたような気分だった。
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