上 下
13 / 66
第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!

13.傍にいてくれる人

しおりを挟む
私は屋敷に帰ると、すぐに自分の部屋へと閉じ籠った。
そして布団の中に潜り込み、今まで我慢していた感情を一気に吐き出すように泣き出した。
今私の心を埋め尽くしているのは、悲しみなんかでは無い。
ずっと我慢していたことが何の意味も無かったのだと知り、それが虚しくて泣いているのだと思う。

「一番間抜けなのは私だったんだ……」

考えてみれば、気付く機会は何度もあった気がする。
二人の関係が親しくなっていくことに、私は気付いていた。
だけどそれを認めたくなくて、現実から目を背けた。

たった一ヶ月の間に、ロジェの心は私から離れていった。
私はミレーユに簡単に婚約者を奪われたのだ。
そんな自分が惨めで、虚しくて堪らない。

それだけではない。

(どうしよう……。ロジェからの依頼を引き受けちゃったけど、なんて伝えたらいいんだろう)

私は断りにくいという安易な理由だけで、安請け合いしてしまった。
その事を今になって後悔するが、もう遅い。
今まで私の為に何度もエルネストは動いてくれた。
それなのに、私はエルネストが嫌っているミレーユの頼みを話さなくてはならない。

(幻滅されるかな……)

新たな悩みに翻弄され、全てを投げ出したい気持ちになってしまう。


「フェリシア嬢、そこにいるのか?」

不意にエルネストの声が聞こえたような気がした。
しかしここは私の部屋であるので、空耳に違いない。

「…………。ここにいるのは分かるのだが、勝手に触るのもな。フェリシア嬢、出てきてくれないか?」

再び声が響き、私は不思議に思って布団を少し捲り上げた。
すると目の前には困った顔をしたエルネストが立っていた。

「え?……っ!?な、なっ、なんでここにエルネスト様がいらっしゃるのですかっ!?ここ、私の部屋ですよっ!?」

私は慌てて布団から飛び出ると、ベッドの上で何故か正座をし始めた。
そして慌てるようにエルネストに向けて声をかけた。

(一体何がどうなってるの!?なんでエルネスト様が私の部屋にいるの!?)

思いがけない事態に私の頭は混乱していた。

「伯爵にフェリシア嬢とは友人だと告げたら、簡単に部屋まで通してくれたんだ」
「…………」

(お父様、なんてことをっ!せめて応接間に通すとかにして欲しかったわ……)

「泣いていたのか?」

目元を真っ赤に腫らしている私の顔を見て、エルネストは心配そうに訪ねて来た。
私はその言葉を聞いて、慌てて目元を指でごしごしとなぞっていると腕を掴まれる。

「そんなに強く擦ったら、余計に悪化するぞ」

エルネストは困ったように返すと、優しく指で涙を拭ってくれた。
突然エルネストとの距離が縮まり、ドキドキしてしまう。

(エルネスト様の指が私の目元に触れてる……!ど、どうしようっ)

私があたふたと焦っていると、エルネストはベッドに視線を向けた。

「その隣、座ってもいいか?」
「は、はい……」

私は緊張しながら小さく頷いた。
エルネストは「ありがとう」と言って私の隣に腰掛けた。

「まず私がここに来た理由からだな。急に来て驚かせてしまったよな」
「驚きました。いきなりいるから……」

私の言葉を聞いてエルネストは苦笑した。

「驚かせて悪かった。今日君が婚約者と話すと言っていたから、少し気になっていたんだ。この前の事もあったからな」
「私のこと、気にしてわざわざ来てくださったんですか?なんで……」

「なんでって。それは友人だからな。心配するのは当然だろう?」
「……っ」

当然の様にサラリと答えるエルネストに、再びドキドキしてしまう。

「だけどここに来てみれば、君は目を真っ赤に腫らしていた。来て正解だったのかは分からないが……。言いたくなければ無理強いはしない。だけど、話す気があるのなら聞かせてくれ」
「……っ、うっ……」

エルネストの優しさが胸に染みて感情が昂り、目の奥が再び熱くなる。
唇を噛み締めて必死に耐えていたが、私の目からは大粒の涙が勝手に零れ落ちていく。

「ずっと我慢していたんだよな。辛かったな」
「わた、しっ……」

感情が昂っているせいで、声が思うように出ない。
するとエルネストは優しく微笑みながら言った。

「今は無理に話さなくていいよ。フェリシア嬢が泣き止むまで待っているから。辛い気持ちは全て涙と共に吐き出してしまうといい。その方がきっと楽になれるはずだ」
「ううっ、ありがと、うっ、ござっ……ますっ……」

今の私は相当に酷い顔を晒しているのだと思う。
だけど不思議なくらい安心感に包まれていて、私は夢中で泣き続けた。

それから暫くして、泣き疲れた頃に漸く涙は止まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

偽りの告白─偽りから始まる恋─

海野すじこ
恋愛
「 シルヴィア嬢...貴女が好きです。」 愛しい人からの偽りの告白。 でも貴方になら...騙されてもいい。 私の最初で最後の恋だから...。 侯爵令嬢と美貌の騎士の偽りの告白から始まるラブストーリー。 ※本編は完結済み。 キャラクター目線の番外編公開予定です(*^^*)

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】寡黙で不愛想な婚約者の心の声はケダモノ

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
 物静かな第一王女メイベルの婚約者は、初恋の幼馴染、寡黙で眉目秀麗、異例の出世を遂げた近衛騎士団長ギアス。  メイベルは、ギアスに言い寄る色んな女性達から牽制をかけられる日々に、ややうんざりしつつも、結婚するのは自分だからと我慢していた。  けれども、ある時、ギアスが他の令嬢と談笑する姿を目撃する。しかも、彼が落とした書類には「婚約破棄するには」と書かれており、どうやら自分との婚約パーティの際に婚約破棄宣言してこようとしていることに気付いてしまう。  ギアスはいやいや自分と結婚する気だったのだと悟ったメイベルは、ギアスを自由にしようと決意して「婚約解消したい」と告げに向かうと、ギアスの態度が豹変して――? ※ムーンライトノベルズで23000字数で完結の作品 ※R18に※ ※中身があまりにもフリーダムなので、心の広い人向け ※最後は少しだけシリアス ※ムーンライトノベルズのヒストリカルな「心の声」に加えてアルファポリス様ではファンタジーな「心の声」描写を3000字数加筆しております♪違いをぜひお楽しみください♪

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R18】副騎士団長のセフレは訳ありメイド~恋愛を諦めたら憧れの人に懇願されて絆されました~

とらやよい
恋愛
王宮メイドとして働くアルマは恋に仕事にと青春を謳歌し恋人の絶えない日々を送っていた…訳あって恋愛を諦めるまでは。 恋愛を諦めた彼女の唯一の喜びは、以前から憧れていた彼を見つめることだけだった。 名門侯爵家の次男で第一騎士団の副団長、エルガー・トルイユ。 見た目が理想そのものだった彼を眼福とばかりに密かに見つめるだけで十分幸せだったアルマだったが、ひょんなことから彼のピンチを救いアルマはチャンスを手にすることに。チャンスを掴むと彼女の生活は一変し、憧れの人と思わぬセフレ生活が始まった。 R18話には※をつけてあります。苦手な方はご注意ください。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈
恋愛
『一年後に死亡予定の嫌われ婚約者が、貴方の幸せのために出来る事~モブで悪女な私の最愛で最悪の婚約者~』が、タイトルを『余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています』に変更し、2月15日ノーチェブックス様より書籍化しました。 応援して下さった皆様にお礼申し上げます。本当にありがとうございます。 お知らせ: 書籍化該当シーンや類似シーンが本編から削除されています。 書籍とweb版は設定が大きく異なります。ご了承ください。 ✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼ この物語は失った少女の魂を追い求め望まぬ永遠を手に入れた青年と、必ず18歳で死んでしまう少女の物語。 『リーベンデイルの生きた人形』 それは、奴隷制度のないこの国で、愛玩用に売買される美しい愛玩奴隷の隠語だ。 伯爵令嬢と王家の影、二つの顔を持つアリシティアは、幼い頃からリーベンデイルの生きた人形を追っていた。 この世界は、アリシティアが前世で読んだ物語と類似した世界で、アリシティアは番外編で名前が出た時点で死んでいるモブ中のモブ。 そんな彼女は、幼い頃、物語のヒーローの1人ルイスと出会う。だが、この先アリシティアが何もしなければ、ルイスは19歳で物語のヒロインであるお姫様を庇って死んでしまう。 そんなルイスの運命を変えたいと願ったアリシティアは、物語の中では名前すら出てこない、ルイスの死の間際ですら存在さえも思い出して貰えない彼の婚約者となり、ルイスの運命を変えようとする。だが、アリシティアは全てに失敗し、幼いルイスに嫌われ拒絶される。そしてルイスは、物語通りお姫様に恋をした。 それでも、1年後に死亡予定の彼女は、リーベンデイルの生きた人形を追いながら、物語のクライマックス、王太子暗殺事件とルイスの死を阻止するため、運命に抗おうとする。 だが彼女は知らぬ間に、物語の中に隠された、複雑に絡み合う真実へと近づいていく。 R18のシーンには、【R18】マークをつけています。 ※マークは、改定前の作品から変更した部分です。 SSとして公開していたシーンを付け加えたり、意図をわかりやすく書き直しています。 頂いたコメントのネタバレ設定忘れがあります。お許しください。 ※このお話は、2022年6月に公開した、『モブで悪女な私の最愛で最悪の婚約者』の改訂版です。

処理中です...