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第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!
10.信じられない光景
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サロンの入り口まで到着すると、ミレーユの専属メイドが扉の横に立っていた。
「これは、エルネスト殿下」
「ああ。姉上に用がある、そこを通して貰えるか」
エルネストの姿に気付くと、一瞬メイドの表情が強ばる。
その様子を見てエルネストは目を細めた。
「でしたら、私がミレーユ様をお呼びに……」
「結構だ。どうせ姉上の元に行くのだから、このまま通させてもらうぞ」
エルネストは強引にメイドを従わせると、私の方を見て「行こうか」と静かに言った。
私は小さく頷き扉に手をかける。
なんとなくだが、メイドの様子がどこかぎこちなく感じて違和感を覚えた。
「開けますね……」
「ああ」
私は一度深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、覚悟を決めて扉をゆっくりと開く。
すると開いた扉の隙間から僅かな話し声が聞こえてくる。
(この声って……。ロジェも一緒にいるの?)
聞き慣れた声に気付くと、扉を開ける手が止まってしまう。
そして耳を澄ませるように声に方向に意識を集中させた。
「……ミレーユ、そんなに泣かないでください」
「ふふっ、私に優しくしてくれるのはロジェだけね」
「それは……」
「いいのよ。分かっているから。今まで酷い事ばかりして来たのだから、誰からも心配されなくて当然よ。だけど貴方は嘘でも私に優しくしてくれる。今は命令なんてしていないのに。どうしてか聞いても良い?」
「僕にも理由はわかりません。ただ、泣いている貴女を見ていたら放っておけなくなった。それだけです」
「なによ、その理由。同情でもしているつもり?」
「…………」
「いいわ、それでも。現に今、貴方が傍にいてくれることに感謝しているもの」
ミレーユの鼻を啜るような音が、時折話し声に混じって聞こえてくる。
血も涙もない冷酷で非道な王女が泣いているなんて想像も付かなかった。
ましてやプライドの高いはずのミレーユが、人前で弱さを見せるなんて信じれない。
どんな顔をしているのか興味が沸き、視線を奥の方へと向けていく。
二人は部屋の中央にあるソファーに、並ぶようにして座っていた。
そしてロジェは宥める様にミレーユの頭を優しく撫でていた。
まるでいつも私にしてくれているかのように。
その様子を見て私は驚愕し、目が釘付けになってしまった。
ロジェはひどく優しい顔をしていた。
その先にいるのは私では無く、ミレーユだ。
あの表情は、婚約者である私にだけ向けられているものだと思っていた。
(な……、なにこれ……)
その光景を目にしてしまうと、次第に頭の中が真っ白になり、思考回路が止まったかのように何も考えられなくなっていた。
私が呆然と立ち尽くしていると、隣に立っていたエルネストは扉から私の手を剥がし、ゆっくりと閉じた。
「今日はやめておこう」
「…………」
エルネストは困ったように呟いた。
私は半ば放心状態になっていた為、言葉が直ぐには出てこない。
するとエルネストは私の手を取って歩き出す。
先程見た光景は幻だったのだろうか。
ロジェはミレーユを嫌っているはずだ。
あんな優しい表情を向けるなんて絶対にあり得ない。
もしかして、強要されてあのような態度をとっていたのだろうか。
本当に嫌っている相手に、あんなにも優しい表情を向けられるものなのだろうか。
頭の中で考えを巡らせば巡らせる程に、心が乱され雁字搦めのようにぐちゃぐちゃになっていく。
(私はロジェのこと、信じて待っていて良いんだよね……?)
「これは、エルネスト殿下」
「ああ。姉上に用がある、そこを通して貰えるか」
エルネストの姿に気付くと、一瞬メイドの表情が強ばる。
その様子を見てエルネストは目を細めた。
「でしたら、私がミレーユ様をお呼びに……」
「結構だ。どうせ姉上の元に行くのだから、このまま通させてもらうぞ」
エルネストは強引にメイドを従わせると、私の方を見て「行こうか」と静かに言った。
私は小さく頷き扉に手をかける。
なんとなくだが、メイドの様子がどこかぎこちなく感じて違和感を覚えた。
「開けますね……」
「ああ」
私は一度深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、覚悟を決めて扉をゆっくりと開く。
すると開いた扉の隙間から僅かな話し声が聞こえてくる。
(この声って……。ロジェも一緒にいるの?)
聞き慣れた声に気付くと、扉を開ける手が止まってしまう。
そして耳を澄ませるように声に方向に意識を集中させた。
「……ミレーユ、そんなに泣かないでください」
「ふふっ、私に優しくしてくれるのはロジェだけね」
「それは……」
「いいのよ。分かっているから。今まで酷い事ばかりして来たのだから、誰からも心配されなくて当然よ。だけど貴方は嘘でも私に優しくしてくれる。今は命令なんてしていないのに。どうしてか聞いても良い?」
「僕にも理由はわかりません。ただ、泣いている貴女を見ていたら放っておけなくなった。それだけです」
「なによ、その理由。同情でもしているつもり?」
「…………」
「いいわ、それでも。現に今、貴方が傍にいてくれることに感謝しているもの」
ミレーユの鼻を啜るような音が、時折話し声に混じって聞こえてくる。
血も涙もない冷酷で非道な王女が泣いているなんて想像も付かなかった。
ましてやプライドの高いはずのミレーユが、人前で弱さを見せるなんて信じれない。
どんな顔をしているのか興味が沸き、視線を奥の方へと向けていく。
二人は部屋の中央にあるソファーに、並ぶようにして座っていた。
そしてロジェは宥める様にミレーユの頭を優しく撫でていた。
まるでいつも私にしてくれているかのように。
その様子を見て私は驚愕し、目が釘付けになってしまった。
ロジェはひどく優しい顔をしていた。
その先にいるのは私では無く、ミレーユだ。
あの表情は、婚約者である私にだけ向けられているものだと思っていた。
(な……、なにこれ……)
その光景を目にしてしまうと、次第に頭の中が真っ白になり、思考回路が止まったかのように何も考えられなくなっていた。
私が呆然と立ち尽くしていると、隣に立っていたエルネストは扉から私の手を剥がし、ゆっくりと閉じた。
「今日はやめておこう」
「…………」
エルネストは困ったように呟いた。
私は半ば放心状態になっていた為、言葉が直ぐには出てこない。
するとエルネストは私の手を取って歩き出す。
先程見た光景は幻だったのだろうか。
ロジェはミレーユを嫌っているはずだ。
あんな優しい表情を向けるなんて絶対にあり得ない。
もしかして、強要されてあのような態度をとっていたのだろうか。
本当に嫌っている相手に、あんなにも優しい表情を向けられるものなのだろうか。
頭の中で考えを巡らせば巡らせる程に、心が乱され雁字搦めのようにぐちゃぐちゃになっていく。
(私はロジェのこと、信じて待っていて良いんだよね……?)
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