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20.忘れていた思い
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「えっと…昨日は……」
ジルに昨日の事を聞かれ、私は言葉に詰まってしまった。
レオンとの事を思い出し、僅かに頬を染めて恥ずかしそうにしていると、ジルは突然私の手首を掴んだ。
「ニナ、ちょっと来て…」
「でも、私仕事が…」
強引にジルに手を引かれると、昨日話した客間へと連れて行かれた。
(ジル…怒って…る?私が昨日部屋にいなくて話せなかったから…)
***
「ニナが僕の事を簡単に許してくれたのは、他に男が出来たから?」
「え…?」
ジルは客間に入るなり私を壁の方へ追い詰めた。
そして私が離れようとすると壁に手を付いて逃げ道を塞ぎ、私の瞳を真直ぐに見つめて来た。
ジルとの距離が妙に近く感じて、私は困惑していた。
それにジルは明らかに苛立った態度を見せていたから、余計に私は戸惑っていたのかもしれない。
「……こんなに分かりやすい所に、痕をつけさせて…」
「こ、これはっ…。私、恋人が出来たの…!だから、もうジルの事はなんとも思ってないから大丈夫だよ。ジルも婚約者さんと幸せになって…」
こんなに表立って苛立った態度をとるジルを見るのは初めてだった。
だからなんだか怖くなり、私は早くこの場から立ち去りたくて必死に笑顔を作ってこの話を終わらせようと思っていた。
「恋人…?ニナは…あの男に抱かれたんだね」
「……っ…!」
ジルは切なそうな表情で小さく呟いた。
人から直接的にそんなことを言われると恥ずかしく感じてしまい、私の顔は次第に赤く染まっていく。
私はジルと視線を合わせられなくなり、そのまま俯いてしまった。
「ニナって本当に嘘を付けないよな。そういう所、すごく可愛いけど…、僕以外の男にも見せていると思うと堪らない気持ちになる」
「ジル…どうしたの?なんか…変だよ?」
ジルの声がとても寂しそうに聞こえて、気になった私は顔を再び上げた。
その時のジルの表情はとても傷ついた様な顔に見えて、私は思わず声を掛けてしまった。
「あの時、ニナに結婚しようって言ったのはその場しのぎの言葉なんかじゃなくて…、ニナとの結婚は本気で考えてたことなんだ…」
「……」
ジルはあの時の私を見ているような目で、今私を見つめている。
だけど今更そんなことを言われても、私には返す言葉が見つからなかった。
(なんで今そんなことを言うの…?今更過ぎて…何も返せないよ…)
「ニナ…、僕は…」
「それ以上言わないでっ…」
私はジルが何を言おうとしているのかなんとなく察しが付いてしまい、遮る様に言った。
「私ね…今すごく好きな人が出来たの。これから先もその人と一緒にいたいって思ってるんだ。ジルには本当に感謝してる。行く場所がなかった私に声を掛けてくれて…。私にとってジルが特別な人なのは今も昔も変わってないよ。……ジルは久しぶりに私に会って混乱しているだけなんだと思う。昔の懐かしさから錯覚する事ってあるよね。それに…ジルだってもう大切な人がいるんでしょ?だったら…私の事はもう…」
「違う!…錯覚なんかじゃない。僕は今でもニナの事を本当に…」
私は必死になってジルに分かってもらおうと話してみたけど、ジルにはその思いは伝わなかった様だ。
ジルは焦った顔で否定し、私に迫って来たので抵抗しようとしたら両手を掴まれてしまった。
(どうしよう…分かってもらえなかった。どうしたらいいの…。それに今のジル、なんだか怖い…)
「は、離してっ…」
「ニナ、僕から離れようとしないで。もう一度ニナとならやり直せる気がするんだ。もう絶対に酷い事はしないから…考え直して欲しい…」
私は必死に抵抗し、ジルは必死に説得しようとしていた。
そんな時だった。
「ジル、いい加減にしなさい。ニナちゃんを困らせてどうするのよ…」
「……リーズさん…」
突然扉が開いて、同時にリーズの声が室内に響いた。
リーズの出現でジルの力が弱まった瞬間、私はジルから離れることが出来た。
「ニナちゃん、私ちょっとジルに用があるからニナちゃんはお店に出てもらえる?」
「は、はい。リーズさん、ありがとうございますっ…」
私はリーズ挨拶をすると、ぺこっと頭を下げて逃げる様に部屋から出て行った。
(リーズさんのおかげで助かった。だけど、ジルはどうしちゃったの…)
ジルに昨日の事を聞かれ、私は言葉に詰まってしまった。
レオンとの事を思い出し、僅かに頬を染めて恥ずかしそうにしていると、ジルは突然私の手首を掴んだ。
「ニナ、ちょっと来て…」
「でも、私仕事が…」
強引にジルに手を引かれると、昨日話した客間へと連れて行かれた。
(ジル…怒って…る?私が昨日部屋にいなくて話せなかったから…)
***
「ニナが僕の事を簡単に許してくれたのは、他に男が出来たから?」
「え…?」
ジルは客間に入るなり私を壁の方へ追い詰めた。
そして私が離れようとすると壁に手を付いて逃げ道を塞ぎ、私の瞳を真直ぐに見つめて来た。
ジルとの距離が妙に近く感じて、私は困惑していた。
それにジルは明らかに苛立った態度を見せていたから、余計に私は戸惑っていたのかもしれない。
「……こんなに分かりやすい所に、痕をつけさせて…」
「こ、これはっ…。私、恋人が出来たの…!だから、もうジルの事はなんとも思ってないから大丈夫だよ。ジルも婚約者さんと幸せになって…」
こんなに表立って苛立った態度をとるジルを見るのは初めてだった。
だからなんだか怖くなり、私は早くこの場から立ち去りたくて必死に笑顔を作ってこの話を終わらせようと思っていた。
「恋人…?ニナは…あの男に抱かれたんだね」
「……っ…!」
ジルは切なそうな表情で小さく呟いた。
人から直接的にそんなことを言われると恥ずかしく感じてしまい、私の顔は次第に赤く染まっていく。
私はジルと視線を合わせられなくなり、そのまま俯いてしまった。
「ニナって本当に嘘を付けないよな。そういう所、すごく可愛いけど…、僕以外の男にも見せていると思うと堪らない気持ちになる」
「ジル…どうしたの?なんか…変だよ?」
ジルの声がとても寂しそうに聞こえて、気になった私は顔を再び上げた。
その時のジルの表情はとても傷ついた様な顔に見えて、私は思わず声を掛けてしまった。
「あの時、ニナに結婚しようって言ったのはその場しのぎの言葉なんかじゃなくて…、ニナとの結婚は本気で考えてたことなんだ…」
「……」
ジルはあの時の私を見ているような目で、今私を見つめている。
だけど今更そんなことを言われても、私には返す言葉が見つからなかった。
(なんで今そんなことを言うの…?今更過ぎて…何も返せないよ…)
「ニナ…、僕は…」
「それ以上言わないでっ…」
私はジルが何を言おうとしているのかなんとなく察しが付いてしまい、遮る様に言った。
「私ね…今すごく好きな人が出来たの。これから先もその人と一緒にいたいって思ってるんだ。ジルには本当に感謝してる。行く場所がなかった私に声を掛けてくれて…。私にとってジルが特別な人なのは今も昔も変わってないよ。……ジルは久しぶりに私に会って混乱しているだけなんだと思う。昔の懐かしさから錯覚する事ってあるよね。それに…ジルだってもう大切な人がいるんでしょ?だったら…私の事はもう…」
「違う!…錯覚なんかじゃない。僕は今でもニナの事を本当に…」
私は必死になってジルに分かってもらおうと話してみたけど、ジルにはその思いは伝わなかった様だ。
ジルは焦った顔で否定し、私に迫って来たので抵抗しようとしたら両手を掴まれてしまった。
(どうしよう…分かってもらえなかった。どうしたらいいの…。それに今のジル、なんだか怖い…)
「は、離してっ…」
「ニナ、僕から離れようとしないで。もう一度ニナとならやり直せる気がするんだ。もう絶対に酷い事はしないから…考え直して欲しい…」
私は必死に抵抗し、ジルは必死に説得しようとしていた。
そんな時だった。
「ジル、いい加減にしなさい。ニナちゃんを困らせてどうするのよ…」
「……リーズさん…」
突然扉が開いて、同時にリーズの声が室内に響いた。
リーズの出現でジルの力が弱まった瞬間、私はジルから離れることが出来た。
「ニナちゃん、私ちょっとジルに用があるからニナちゃんはお店に出てもらえる?」
「は、はい。リーズさん、ありがとうございますっ…」
私はリーズ挨拶をすると、ぺこっと頭を下げて逃げる様に部屋から出て行った。
(リーズさんのおかげで助かった。だけど、ジルはどうしちゃったの…)
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