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11.自分の気持ち

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「レオンさんの家、この辺にあるんですか…?」
「歩いて20分程度だな…。ニナの足なら30分くらいか…」

 私はレオンの事はほとんど知らなった。
 知っているのは毎日教会に来ている事と、元騎士さんで年齢は25歳前後であることくらいだ。
 何処に住んでいるのかも、今は何をしているのかも知らない。
 だからもっとレオンの事を知りたいと思った。

(行きたいけど、急に行ったら迷惑じゃないかな…)

「行ってみたい気もしますが、レオンさんはご飯まだですよね…」
「そうだな。だけど屋敷に帰ればすぐに用意出来るから問題ない」

「それなら…行ってみたいですっ!」
「決まりだな」

 レオンは優しく微笑むと、ずっと握っていた手を剥がした。
 その事に気付くと、私の顔はみるみる内に赤く染まっていった。

「ご、ごめんなさいっ…。私、ずっと手握ったままでしたね…」

 レオンをここまで早く連れてくる為に勢いで手を繋いでしまった。
 その手の温もりが気持ち良くて離すのをすっかり忘れていた様だ。

「いや、繋ぎ直そうとしただけだ…」
「え…?」

 レオンは再び私の手に触れると、今度は指に絡める様に繋ぎ直した。

(……これって、恋人繋ぎっていうやつだ。どうしよう、またドキドキしてきちゃう…)

「ニナは本当にすぐ顔に出るよな…。分かりやすくて助かるよ」

 レオンは一人で動揺している私の事を眺めては小さく微笑み、そっと私の額に口付けた。

「……っ…!レオンさん、人前でこういう事はしないでくださいっ…」
「どうしてだ…?」

 レオンが不思議そうに聞いて来たので、私は顔を赤く染めて「恥ずかしいので…」と小声で答えた。

「確かに、ニナはすぐに恥ずかしがるからな…。だけどそんな所がすごく可愛いくて、ついいじめたくなるんだよな」

 意地悪そうな顔で答えるレオンに対して、私がむっとした顔で睨むと「行こうか」と話を変えられ歩き出した。
 レオンは態度を改める気は更々ないというのが伝わって来た。
 だけどそんな意地悪な所も含めてきっと私はレオンの事が好きなのだろう。


 私はつい最近までジルの事を待っていて、好きなのはジルだと思っていた。
 だけどジルと再会して婚約者がいると聞かされた時、思った程ダメージを受けなかった。
 これはジルに対しての恋愛感情が殆ど残っていない事を示しているのだと思う。

 行方不明になり、生死も不明なまま1年間放置されていたのだから気持ちが薄れていったとしてもおかしくはない。
 それでも待ち続けていたのはきっと私にとってジルは特別な人だったからだ。
 恋人というよりは私の人生を変えてくれた恩人という意味が強かったのだろう。それがあったから、生きていて欲しいと強く願っていた。

 教会に通い始めた理由はジルの無事を祈る為だった。
 だけど次第にそれだけではなくなっていく。
 レオンと話すようになってからは一緒に過ごす時間がとても楽しくて、少しでも長くいたいと思うようになった。だから家を出る時間も普段より早くなったのだと思う。
 そう思い始めた時点で私は既にレオンの事が好きだったのかもしれない。

 だからレオンが私に好きだと言ってくれた時は本当にすごく嬉しかった。
 これからもずっと傍にいられると思うと嬉しさが溢れてきて、それがそのまま顔に出てしまう様だ。


「なんでそんなに嬉しそうな顔をしているんだ?」
「そ、そんなことないですっ…。これが私の顔なので…」

 レオンは隣でにこにこしている私の顔を眺めながらそんな事を聞いて来たので、私は誤魔化す様に慌てて答えた。
 そんな私の慌てる姿を見てレオンは「可愛いな」と漏らした。
 急に可愛いなんて言われると照れてしまうのでやめてほしい。嬉しいけど…。

「手を繋ぐのがそんなに嬉しいのなら、いくらでも繋いでやるよ…」
「……っ…、そんなことは言ってませんっ…!」

「素直じゃないな…。だけど顔はすごく嬉しそうに見えるけどな?」
「……っ…!」

 レオンは私の反応を見て満足そうに笑っていた。
 話しながら歩いていると30分はあっという間だった。

「見えて来たな、あの奥に見えるのが俺の屋敷だ…」

 私はレオンの視線の先に目を向けると、大きい建物が見えて来て驚いてしまった。

「え…、あれがレオンさんが住んでる家なんですか…?大きい…」
「まぁ、一人で住むにはでかいな。ニナも一緒に住むか?部屋ならいくらでも空いているぞ…」

 私が住んでた伯爵家の屋敷より、何倍も大きく見える。
 しかも屋敷に近づいて行くと外には大きな庭園が広がっていて、私はきょとんとしてしまう。

「本当に…あれがレオンさんの家なんですか?」
「ああ、ニナには伝えて無かったけど、俺はこの国の第五王子なんだ…。今は王宮から離れてこんな場所で暮らしているけどな」

(レオンさんが…第五…王子…?)

 レオンが王子だと聞き、私の思考は止まってしまった。
 急に王子だと言われても信じられないが、あんな大きな屋敷を見せられてしまえば嘘など言っていない事も分かってしまう。

「ニナ、固まるなよ…」
「……わ、私…帰りますっ…」

「は?…ここまで来て、返すわけないだろ…?」
「だって…私、レオンさんが王子なんて知らなくて…失礼な事沢山言っちゃいましたっ…」

 私が泣きそうな顔でレオンを見つめると、レオンは苦笑した。

「別に構わない。そういう反応をされるのが嫌で言わなかったんだ。だけどニナの気持ちも確認出来たから、もう絶対に離すつもりは無いからな。ここで立ち止まっているつもりなら、抱き上げてでも連れて行くぞ?ニナを持ち上げる位簡単だからな…」
「……っ…、歩きますっ…」

「急にこんなこと言われたら驚くよな…。だけど俺は継承順位も低いし、王宮に戻る事も殆どない。だからニナが思っている様なものではないと思う。だからそんなに気を張る必要はないし、今まで通りにしてくれて大丈夫だ」

 レオンはふっと優しく微笑むと、私の頭を優しく撫でてくれた。
 私はじっとレオンの事を見つめていた。

「どうした…?」
「本当に…レオンさんは王子なんですか?」

「まあな…。言わなかったのはこんな関係になるとは思ってはいなかったからだ」
「こんな関係…?」

「ニナと恋人になるってことだ」

 恋人と言われて私の顔は見る見るうちに赤く染まっていく。
 そんな私の姿を見て、レオンは私の頬を包む様に優しく触れて来た。

「顔真っ赤…、本当にニナはいつでも素直に反応して可愛いな。これからそんなニナの事を独り占め出来ると思うと最高だな」
「……っ…」

 レオンはそのまま顔を私の方へと近づけて来る。
 そして息がかかる程の距離まで近づき、キスされると思った瞬間私はぎゅっと目を瞑った。

 だけどいつまで経っても何も起こらない。
 さすがにおかしいと思い私はゆっくりと目を開くと、意地悪そうに微笑んでいるレオンと目が合った。

「キスされると思ったか?」
「……っ…!!」

 私はキスをされると思ってしまったことに恥ずかしくなった。
 恥ずかし過ぎてレオンと顔を合わせられられなくなり、急に歩き出した。
 すると背後から「ニナ、待って」というレオンの声が響いて来るが、私は振り返る事なんて出来ずにスタスタと先を歩いて行く。
 しかしすぐに腕を掴まれて引っ張られてしまう。
 その反動で勢いよく体が反転して気付けばレオンの胸の中に押し込められていた。

「捕まえた…」

 レオンは私を抱きしめると耳元でそう囁いて来る。
 突然レオンに抱きしめられ、更には耳元で囁かれ、体の奥から熱が沸き立って行くのを感じていく。

「レオンさんの…意地悪っ…」
「そうだな、俺は意地悪だよ。外でするのは嫌なんだろ…?」

「あ…、それは…誰かに見られるのは恥ずかしいからで…」
「誰もいなければ良いって事か?」

 その言葉に私は小さく頷いた。
 そしてその後直ぐにはっとして辺りを慌てて見渡してみるが、誰の姿も視界に映らずほっとしていた。実際の所、キスもそうだが今の状況も人前でしていたら十分恥ずかしい。

「本当にニナは恥ずかしがりだな…。そんな所もすごく好きだよ」

 レオンはさらっと答えると、そのまま自然に私の唇を奪っていった。
 重なった唇は吸い上げる様にちゅっと音を鳴らして離れていく。
 唇が剥がれると直ぐにレオンと視線が絡みドキドキしてしまう。

「続きは屋敷についてからにしようか。ここじゃニナも落ち着かないだろう?」
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