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第一部

37.感謝

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「迷惑ばかりかけて…本当にごめんなさいっ…」
シリルの屋敷に再び戻り応接間に入ると、私は深く頭を下げて謝った。

こんなに人に迷惑かけてばかりの自分が本当に嫌になる。

「いや、俺も今回は悪かった。アリアの手を離してしまったからな…だからそんなに謝らなくていい。無事に助けることも出来たしな…」
「そうだよっ!悪いのは全部ローレンなんだし、アリアの所為じゃないよ」
シリルとシレーネは私の事を責めなかった。
私の目元がじわっと潤むとそのままシレーネに抱きしめられた。

「よしよし…怖かったよね」
シレーネは私を宥める様に頭を優しく撫でてくれた。
抱きしめられるとシレーネの体温が暖かくて心地が良くて、ほっと心が緩んでいく気がした。

「今回はシレーネ嬢が大活躍だったな」
「あ…ははっ…シリル様、それは言わないでください…。あの時は頭に血が上ってしまったというか…」
シリルが思い出す様に話すとシレーネは苦笑いをしていた。
私が何の事を話しているのかわからないと言った顔をしていると、シレーネはすぐさま話題を変えた。

「アリア、ローレンの事は私に暫く任せて。私の所為でこうなってしまったから…なんとかローレンと話して正気に戻せるよう努力してみる…」
「危険だよ!…シレーネだってローレンがした事分かってるよね…?ローレンは酷い事も躊躇なくするんだよ?」
ずっと傍にいたシレーネならローレンは話を聞くかもしれない。
だけどローレンは普通じゃない、逆上してシレーネに酷い事をする可能性だってある。
そんなことになったら私は耐えられない。私の為にシレーネを危険な目に遭わせたくなかった。

「さっきも言ってたけど、シレーネの所為って…何?何かあったの?」
「あのね…アリア、こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど…私、実は転生者なの…」
シレーネの言葉に私は驚いて目を丸くした。

嘘…シレーネも転生者だったの…?
私は突然の事に信じられない気持ちでいっぱいになった。

「私は前世の記憶を持っていて…この世界は…」
「シレーネ、本当に転生者なの?」
私はシレーネの言葉を遮る様に問い返した。
シレーネは話を止められ少し驚くものの、すぐに表情を戻して小さく頷いた。

「……私も、前世の記憶があるの。私も転生者だから…」
「「………!」」
私がそう告げると二人は驚いて顔を見合わせていた。

「うそ…そうなの!?…いつから?」
シレーネは少し取り乱した態度を見せながら私に勢いよく聞いて来た。

「二人の婚約が決まって…私がショックで階段から落ちたのがきっかけだと思う…」
「あー…!!あの時かぁ…。そっかぁ…、その話を聞いたら全てが納得出来た気がする。アリア…あの時から性格が別人みたくなってたもん。階段から落ちた衝撃で人格が変わったのかと焦ったよ…」
シレーネはころころと表情を変えながら一人で頷き納得していた。
シリルも理解している様子だった。

「え…?シリル様も転生者…なんですか?」
「いや、俺は違う。昨日シレーネ嬢から自分は転生者だという話を聞かされたんだ。最初は信じられなかったけどな」

それからシレーネから全てを聞いた。
シレーネは私の破滅を止める為に動いてくれた事、ローレンとの仲を取り持とうとしてくれていた事。
私も二人を応援して破滅を避けようとしていた事を話した。
結局私達はお互い同じ目的で動いていた様だった。

「まさかとは思うけど…ローレンも転生者って事はないよね…?」
私が不意に呟くとシレーネは「まさか」と答えた。
なんか考えると怖いのでその話はそれ以上はしないことにした。

「アリア、シレーネ嬢から聞いてると思うがライラッドに来ないか?ここに居るよりは安心出来ると思うぞ」
「ローレンとは今は離れた方が良いよ。アリアの両親の事は、その時が来たら私も協力するから…今は自分の事を最優先に考えて欲しい。ここにいたらまたローレンに狙われることになると思うし…」
二人とも私の事を思って言ってくれてるのが伝わり胸の奥が熱くなった。

「ありがとう…」
私の目からは涙が溢れていた。

「気にするな、言っただろ?乗りかかった舟だ、ここまで関わったんだから最後まで付き合うよ」
「やっぱりシリル様は神ですねっ…!」
私は涙を指で拭くと笑って答えた。


二人には本当に頭が上がらない位感謝している。
私はシリルの行為に甘えて、ライラッドに行くことを決めた。

シレーネの言うように私とローレンは少し距離を置いた方がいいのかもしれない。
いつか、昔の様な優しいローレンに戻ってくれることを願っている。

ローレンがしたことは決して許せないけど、ローレンも私達に振り回されてしまったことを考えるとある意味被害者なのかもしれない。


結果的に私は破滅への道を辿ることは無かった。
これで原作の物語は終わり、ここからは私達それぞれの人生を歩んでいくのだろう。



私はそれから数日後ライラッドへと向かった。


ー第一部 完ー
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