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第一部
29.涙の再会①
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シリルがシレーネと接触して会う機会を作ってくれた。
もちろんこの事は、ローレンには伝えないで欲しい事も事前に伝えてくれたらしい。
そして今日、その日を迎える。
私は朝からずっとそわそわとしていた。
久しぶりにシレーネと会う事になる、シレーネには私が生きてる事はまだ伝えてはいない。
最初はどんな言葉を掛ければいいのだろうかと私は悩んでいた。
シレーネと会う場所は王都にある貴族向けのカフェだった。
そこには個室もあり、シリルはそこを借りてくれた。
極力シレーネに警戒されない為に、入りやすく安心してもらえるカフェを選んだとのこと。
シリルにどうやって誘ったのかと尋ねるとシレーネにどうしても会いたがってる人がいる事を伝えた。
そして事情があり、あまり公に人前に出れない事を話して名前も今は言えないと話した。
極めつけに会えるチャンスは1度だけ、もしこの機会を逃せば二度と会えなくなると言って決断させたらしい。
あとは上手く説得してくれたみたいだ。
私は一足先にカフェの個室で待機していた。
もうすぐシレーネと会えると思うだけで胸がどんどん高鳴っていく。
暫く待っているとコンコンと扉を叩く音が聞こえて、私は扉の方へと視線を向けた。
「シレーネ嬢を連れて来た、入るな」
シリルの声が扉の奥から響き、ゆっくりと扉が開かれていく。
「……アリ…ア…?」
シレーネは部屋の中にいる私に気付くと幽霊でも見るようにとても驚いた表情をしていた。
シリルの時と全く反応が同じだった。
「………シレーネ…っ…」
私の視界にシレーネが映ると目からは涙が溢れた。
そんな私を見ていたシレーネの目からも涙が零れていた。
「本当に…本当に…アリアなの?」
「うん…そうだよ…。私死んでなんていなかったの…」
私がそう言うとシレーネは私に抱き着き声を上げて泣いた。
私達は暫くの間、ただ泣きながら抱き合っていた。
シレーネからは懐かしい甘い香りがしていて、本当に目の前にいるのはシレーネなんだと実感した。
そしてシレーネは少し細くなりやつれている様に見えて私は心配になった。
私の所為でこうさせてしまったとのだと思うと罪悪感を感じてしまう。
シリルは私達が落ち着いて来たのを見計らって口を開いた。
「二人とも落ち着いたか…?事情は…俺から話した方がいいか?」
シリルは感情が高まってる私に気を遣ってそう言ってくれた。
「シリル様…ありがとうございます。だけど私から話します、私の口から伝えたいから…」
私は涙を指で何度も拭うとソファーに座った。
シレーネは私のすぐ隣に座り、シリルは向かい合うように腰掛けた。
私は大きく深呼吸して、高鳴った気持ちを落ち着かせるとゆっくりとした口調で話し始めた。
「シレーネ…これから話す事を聞いたら驚くかもしれないけど、全部事実なの…。最後まで…聞いてくれる?」
私はシレーネを真直ぐに見つめながら言うと、シレーネは私の手をぎゅっと握り小さく頷いた。
「学園が休校する事に決まった日、ローレンに送ってもらった事覚えてる?あの日、私はローレンに誘拐されてずっとそれから1か月半…監禁されてたの…」
「………え?」
私の言葉を聞くとシレーネはすごく驚いた表情をしていた。
あの日が全ての始まりだったなんてシレーネは夢にも思っていなかったのだろう。
「ローレンは私の事を死んだ事にさせた。私ではない遺体に私の制服を着せて近くに私の所持品を置いてあたかも私だってことにさせたみたいなの…。ローレンが自分が仕組んでそうさせたって言ってた」
「嘘……そん…な……」
シレーネの声は震えていて、怯えたような表情を浮かべていた。
「私はローレンが用意した別邸に捕らえられていたの。しかも私の部屋を完全に真似て作れていて、最初は自分の部屋だって思ってしまう位そっくりだった。そして私が逃げられない様に常に足枷は付けられたまま。だけどローレンが学園に行ってる間は一人になれたから、その時間を使って鍵を作って最近やっと外に出られたんだ。そんな時にシリル様を見つけて事情を話して今は匿って貰ってるの…」
「………」
シレーネは青ざめた顔をして固まっていた。
あまりの衝撃で言葉を発することも出来ない様だった。
「私ね…ローレンに監禁されてる間……毎晩ローレンに……」
「アリア…ごめんなさい……ごめんっ……そんなことになってるなんて知らなくて…私っ…」
私が一番言いにくい事を話そうとすると途中でシレーネは泣きじゃくりながら私に謝って来た。
「シレーネは悪くないよ。悪いのは全部ローレンだから…」
私はシレーネを抱きしめながら宥める様にシレーネの頭を優しく撫でた。
「シレーネは私にローレンには騙されないでって言ったけど…シレーネも何かローレンに酷い事されてるの?」
「それは……私は…大丈夫」
シレーネは私が問いかけると言葉を震わせ、大袈裟に首を横に振った。
その態度は明らかにおかしかった。
私は不意にシリルの方に視線を向けると、シリルもシレーネの変化に気付いている様子だった。
まるでシレーネはローレンに怯えているかの様に見えた。
「シレーネ…ローレンとの結婚考え直した方がいいんじゃない?ローレンは危険だよ…」
「結婚の事は私の気持ちだけじゃどうにも出来ないから…」
その言葉に私は何も返せなくなってしまった。
確かに伯爵家のシレーネからしてみたら、格上の公爵家からの申入れを簡単には断れない。
しかもアレクシア公爵は早く結婚の話を進めたいと思ってる様なので更にそれは難しいのかもしれない。
「シレーネは…ローレンと結婚したいと思ってるの?」
「え…?」
私はシレーネの顔を真直ぐに見ながら問うと、シレーネは視線を逸らした。
「私の事は…多分平気だと思う…。アリア、ローレンが簡単にアリアの事を諦めるなんて絶対に思えない。捕まる前に遠くに逃げた方が良いと思う…。ローレンは異常だから……」
シレーネは震えた手でぎゅっと私の掌を握った。
その表情からは本当に私の事を心配してくれてる事も分かった。
ローレンが異常な事は私も分かっている。
だけどこのままシレーネを置いて逃げてしまっていいのだろうか。
なんとかシレーネの婚約を白紙に戻す方法は無いのかな…。
この日はこれ以上の解決方法が見つからなかった。
そして、この後少し話して解散にすることにした。
「シレーネ今日は来てくれてありがとう、また何かあったらシリル様に伝えて…」
「うん。だけどあまり接触はしない方が良いかもしれない。ローレンは妙に感が良いところあるからむやみに連絡を取ると怪しまれるかも…」
シレーネはローレンを警戒する様に言った。
私もそれには納得した。
ローレンは妙に感が良いと言うより、絶妙なタイミングでいつも現れる。
まるで普段から見張られてるんじゃないかと思う程に。
「確かにな…。それなら急ぎじゃないことは書簡で伝えてくれたら安全かもしれないな」
「そうですね、じゃあ何かあったら手紙で伝える様にします。シリル様、今日はこの機会を作ってくださり本当にありがとうございました。アリアが生きてた事知れて本当に良かった…」
シレーネはシリルに深く頭を下げた。
私もシレーネと並んでシリルに頭を下げた。
「二人とも礼はいいよ。シレーネ嬢、何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「はい!それでは私は先に失礼しますね」
そう言ってシレーネは先に部屋を出て行った。
「アリア嬢、話せて良かったな。少しは落ち着いたか?」
「はい、本当にシリル様には感謝しかないです」
「今日は疲れただろう?俺達も帰るか」
そして部屋を出て出入り口に向かおうとしたところで、シリルに止められた。
「どうしたの…?」
私は突然行き先を止められシリルの後ろから前を覗き込むと、視線の先にローレンの姿があり息が止まりそうになった。
どうして…ここにローレンがいるの…?
もちろんこの事は、ローレンには伝えないで欲しい事も事前に伝えてくれたらしい。
そして今日、その日を迎える。
私は朝からずっとそわそわとしていた。
久しぶりにシレーネと会う事になる、シレーネには私が生きてる事はまだ伝えてはいない。
最初はどんな言葉を掛ければいいのだろうかと私は悩んでいた。
シレーネと会う場所は王都にある貴族向けのカフェだった。
そこには個室もあり、シリルはそこを借りてくれた。
極力シレーネに警戒されない為に、入りやすく安心してもらえるカフェを選んだとのこと。
シリルにどうやって誘ったのかと尋ねるとシレーネにどうしても会いたがってる人がいる事を伝えた。
そして事情があり、あまり公に人前に出れない事を話して名前も今は言えないと話した。
極めつけに会えるチャンスは1度だけ、もしこの機会を逃せば二度と会えなくなると言って決断させたらしい。
あとは上手く説得してくれたみたいだ。
私は一足先にカフェの個室で待機していた。
もうすぐシレーネと会えると思うだけで胸がどんどん高鳴っていく。
暫く待っているとコンコンと扉を叩く音が聞こえて、私は扉の方へと視線を向けた。
「シレーネ嬢を連れて来た、入るな」
シリルの声が扉の奥から響き、ゆっくりと扉が開かれていく。
「……アリ…ア…?」
シレーネは部屋の中にいる私に気付くと幽霊でも見るようにとても驚いた表情をしていた。
シリルの時と全く反応が同じだった。
「………シレーネ…っ…」
私の視界にシレーネが映ると目からは涙が溢れた。
そんな私を見ていたシレーネの目からも涙が零れていた。
「本当に…本当に…アリアなの?」
「うん…そうだよ…。私死んでなんていなかったの…」
私がそう言うとシレーネは私に抱き着き声を上げて泣いた。
私達は暫くの間、ただ泣きながら抱き合っていた。
シレーネからは懐かしい甘い香りがしていて、本当に目の前にいるのはシレーネなんだと実感した。
そしてシレーネは少し細くなりやつれている様に見えて私は心配になった。
私の所為でこうさせてしまったとのだと思うと罪悪感を感じてしまう。
シリルは私達が落ち着いて来たのを見計らって口を開いた。
「二人とも落ち着いたか…?事情は…俺から話した方がいいか?」
シリルは感情が高まってる私に気を遣ってそう言ってくれた。
「シリル様…ありがとうございます。だけど私から話します、私の口から伝えたいから…」
私は涙を指で何度も拭うとソファーに座った。
シレーネは私のすぐ隣に座り、シリルは向かい合うように腰掛けた。
私は大きく深呼吸して、高鳴った気持ちを落ち着かせるとゆっくりとした口調で話し始めた。
「シレーネ…これから話す事を聞いたら驚くかもしれないけど、全部事実なの…。最後まで…聞いてくれる?」
私はシレーネを真直ぐに見つめながら言うと、シレーネは私の手をぎゅっと握り小さく頷いた。
「学園が休校する事に決まった日、ローレンに送ってもらった事覚えてる?あの日、私はローレンに誘拐されてずっとそれから1か月半…監禁されてたの…」
「………え?」
私の言葉を聞くとシレーネはすごく驚いた表情をしていた。
あの日が全ての始まりだったなんてシレーネは夢にも思っていなかったのだろう。
「ローレンは私の事を死んだ事にさせた。私ではない遺体に私の制服を着せて近くに私の所持品を置いてあたかも私だってことにさせたみたいなの…。ローレンが自分が仕組んでそうさせたって言ってた」
「嘘……そん…な……」
シレーネの声は震えていて、怯えたような表情を浮かべていた。
「私はローレンが用意した別邸に捕らえられていたの。しかも私の部屋を完全に真似て作れていて、最初は自分の部屋だって思ってしまう位そっくりだった。そして私が逃げられない様に常に足枷は付けられたまま。だけどローレンが学園に行ってる間は一人になれたから、その時間を使って鍵を作って最近やっと外に出られたんだ。そんな時にシリル様を見つけて事情を話して今は匿って貰ってるの…」
「………」
シレーネは青ざめた顔をして固まっていた。
あまりの衝撃で言葉を発することも出来ない様だった。
「私ね…ローレンに監禁されてる間……毎晩ローレンに……」
「アリア…ごめんなさい……ごめんっ……そんなことになってるなんて知らなくて…私っ…」
私が一番言いにくい事を話そうとすると途中でシレーネは泣きじゃくりながら私に謝って来た。
「シレーネは悪くないよ。悪いのは全部ローレンだから…」
私はシレーネを抱きしめながら宥める様にシレーネの頭を優しく撫でた。
「シレーネは私にローレンには騙されないでって言ったけど…シレーネも何かローレンに酷い事されてるの?」
「それは……私は…大丈夫」
シレーネは私が問いかけると言葉を震わせ、大袈裟に首を横に振った。
その態度は明らかにおかしかった。
私は不意にシリルの方に視線を向けると、シリルもシレーネの変化に気付いている様子だった。
まるでシレーネはローレンに怯えているかの様に見えた。
「シレーネ…ローレンとの結婚考え直した方がいいんじゃない?ローレンは危険だよ…」
「結婚の事は私の気持ちだけじゃどうにも出来ないから…」
その言葉に私は何も返せなくなってしまった。
確かに伯爵家のシレーネからしてみたら、格上の公爵家からの申入れを簡単には断れない。
しかもアレクシア公爵は早く結婚の話を進めたいと思ってる様なので更にそれは難しいのかもしれない。
「シレーネは…ローレンと結婚したいと思ってるの?」
「え…?」
私はシレーネの顔を真直ぐに見ながら問うと、シレーネは視線を逸らした。
「私の事は…多分平気だと思う…。アリア、ローレンが簡単にアリアの事を諦めるなんて絶対に思えない。捕まる前に遠くに逃げた方が良いと思う…。ローレンは異常だから……」
シレーネは震えた手でぎゅっと私の掌を握った。
その表情からは本当に私の事を心配してくれてる事も分かった。
ローレンが異常な事は私も分かっている。
だけどこのままシレーネを置いて逃げてしまっていいのだろうか。
なんとかシレーネの婚約を白紙に戻す方法は無いのかな…。
この日はこれ以上の解決方法が見つからなかった。
そして、この後少し話して解散にすることにした。
「シレーネ今日は来てくれてありがとう、また何かあったらシリル様に伝えて…」
「うん。だけどあまり接触はしない方が良いかもしれない。ローレンは妙に感が良いところあるからむやみに連絡を取ると怪しまれるかも…」
シレーネはローレンを警戒する様に言った。
私もそれには納得した。
ローレンは妙に感が良いと言うより、絶妙なタイミングでいつも現れる。
まるで普段から見張られてるんじゃないかと思う程に。
「確かにな…。それなら急ぎじゃないことは書簡で伝えてくれたら安全かもしれないな」
「そうですね、じゃあ何かあったら手紙で伝える様にします。シリル様、今日はこの機会を作ってくださり本当にありがとうございました。アリアが生きてた事知れて本当に良かった…」
シレーネはシリルに深く頭を下げた。
私もシレーネと並んでシリルに頭を下げた。
「二人とも礼はいいよ。シレーネ嬢、何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「はい!それでは私は先に失礼しますね」
そう言ってシレーネは先に部屋を出て行った。
「アリア嬢、話せて良かったな。少しは落ち着いたか?」
「はい、本当にシリル様には感謝しかないです」
「今日は疲れただろう?俺達も帰るか」
そして部屋を出て出入り口に向かおうとしたところで、シリルに止められた。
「どうしたの…?」
私は突然行き先を止められシリルの後ろから前を覗き込むと、視線の先にローレンの姿があり息が止まりそうになった。
どうして…ここにローレンがいるの…?
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