素直になれない令嬢は幼馴染の重すぎる愛から逃げられない?【R18】

Rila

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第一章

52.賭け-sideロラン-

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「私、ちょっと化粧室に行って来る」
そう言ってシャルは部屋から出て行った。

シャルが部屋から出て行き、室内には俺とジェラルドの二人になった。
正確に言えばこの部屋には俺達以外にも数名の使用人がいた為、二人だけでは無かった。
そんな時ジェラルドが俺の方に視線と向けた。

「ロラン、少し話したい事がある」
「話…?」

ジェラルドは真直ぐな瞳で俺の事を見つめていた。
その目を見た時に何の話をしたいのか、なんとなく想像がついた。

「うん。ここだと少し話しづらいから、僕の部屋で話さないか?」
「別に構わないが、シャルがそのうち戻って来るんじゃないのか?」

「離れることは、ここにいる使用人に伝言しておくよ。それならシャルも安心だろう?」
「……分かった」

俺が承諾するとジェラルドは奥にいた使用人を呼んで、暫く部屋を出ることを伝えてもらえる様に話をしていた。
そしてそれが済むと俺達は部屋から出て、ジェラルドの部屋へと向かう事になった。

(絶対にシャルの話だよな…。一体何を言うつもりだ…?)

俺は一抹の不安を感じて表情を強張らせていた。
ジェラルドが簡単にシャルの事を諦めるつもりがない事は分かっている。
だからと言って俺もシャルを手放すつもりは絶対に無い。

やっと手に入れたんだ…。
あと1年もすれば愛するシャルと結婚することが出来る。
ジェラルドに何を言われても、絶対にシャルのことだけは渡さないと心に決めていた。


そして長い通路を抜けるとジェラルドの部屋の扉が見えてきた。
俺は緊張しながら促される様に室内へと入って行った。


***


「ロラン、悪かったな…。とりあえず座ろうか…」
「ああ……」

ジェラルドは相変わらず落ち着いた態度を見せていた。
余裕のある涼し気な表情を見る度に、俺の不安は更に増していく。

とりあえず向かい合う形でソファーに腰を掛けた。
すると暫くしてジェラルドはとんでもない事を言い始めた。


「ロラン、これから少しゲームしないか?」
「ゲーム…?」

突然何を言い出すのかと思い、俺は間の抜けた声を漏らしてしまった。

「そう、ゲームというか賭けというか…ね」
「何の話をしているんだ?」

ジェラルドの言っていることが直ぐには理解出来ず、俺は眉間に皺を寄せて怪訝そうに顔を歪めていた。

「実はね、僕の兄上は懲りない人で…まだ僕の事を陥れようと考えている様なんだ。本当に困った人だよね…」
「そうなのか?」

「この水差しの中に…何が入っていると思う?」
ジェラルドは目を細めて、テーブルの上に置かれている何の変哲もない水差しに視線を送った。

中に入っている水液体は無色透明であり、普通に水の様に思える。
しかしジェラルドは前置きとしてセストの話をしていた。

「まさか……、毒…?」
俺がそう口に出すと、ジェラルドは小さく笑った。

「もし毒だとしたら、反逆罪として処刑は免れないだろうね…。あの男はああ見えて結構小心者だから、さすがにそんな大それたことはしないだろうな」
「違うのか…?じゃあ…やっぱりこれはただの水なのか?」

毒じゃないと分かると内心ほっとした。

「ただの水では無い…かな。この中に入ってるのは恐らく媚薬。それもかなり強いものだね」
「媚薬…?なんだってそんな物を…」

ますます意味が分からなくなった。
どうしてそんなものをセストはジェラルドに飲ませようとしたのだろうか…。

「恐らくは僕にこの水を飲ませて、僕に襲われたって証言を取る為…。少し様子を見る為にそのまま泳がせていたんだけど…。僕の傍にいる使用人の中に…、セストの愛人になっていた女が紛れ込んでいる」
「愛人…?」

その話を聞いて何となくジェラルドが言いたい事が分かって来た。
セストは女癖が悪く、気に入った女がいればそれが使用人だったとしても平気で手を出す男だ。
そして、恐らく媚薬の入った水差しを運ぶ様に指示したのはセストで間違いないはずだ。

俺達はこれから食事をすることになっている為、部屋を開けている。
それでも王子であるジェラルドの部屋には簡単には入ることなどは出来ない。
だけど専任のメイドだったら…?
普段から掃除などで入る事が可能な人間ならば、水差しをすり替えることは出来ない事では無い。

「ジェラルドにこの水を飲ませて、あいつの愛人の使用人を襲わせようとしたのか…?無いな…」
「そうだね、さすがにいくら媚薬を盛られたからといっても…好きでもない女に欲情なんてしないからな」
その言葉に俺は苦笑した。

セストの卑怯なやり方に呆れ返ってしまった。

「だけど、それがシャルだったら…どう思う?」
「……っ…!?」

ジェラルドは突然静かな声でそう呟いた。
俺は慌てる様にジェラルドの方に視線を向けた。

そしてすごく嫌な予感を感じた。


「ジェラルド…何を考えてる」
「これはセストの仕掛けた罠だけど、シャルの気持ちを知るのには丁度いい機会だとは思わないか?勿論僕だって無理矢理シャルを自分のモノにしようだなんて気は無い。シャルが本当に僕への気持ちを断ち切っていると分かった時には潔く諦めるよ。だけど、もしそうでないのであれば…」

「待ってくれっ…!何をするつもりだ…?」
俺は焦った様に声を響かせた。

ジェラルドが考えていることが分かっている様で、分からなくて、すごく嫌な気分だった。
鼓動が速くなり、ジェラルドの考えを止めようと必死になっていたのかもしれない。

「ロランがシャルの事を本気で好きな事は知ってる。それは僕だって同じだ。ずっとシャルの事が好きだった…。勿論、今でも…ね。それなのに、突然あんなことになって…諦めろって言われても、簡単に諦められないことくらい、ロランにだって分かるだろう?」
「……っ…」
ジェラルドは真直ぐに俺の事を見ていた。
その瞳はまるで俺を責めているかのように見えて、俺は言葉を飲み込んだ。


確かに俺は責められても仕方が無い事をした。
アリエル王女とのことは、何か事情があると分かっていたのにも関わらず、シャルが欲しくて何もしなかった。
友人を裏切り、傷心中だった弱ったシャルの心の隙間に強引に入り込もうとした。
そしてシャルの事を抱いた。

俺は卑怯者だ。
だけど、それでもシャルの事を手に入れたかった。
だから自分がした事には後悔はしていない。
必死にそう思おうとしているだけで、本当は後悔しているのかもしれない。

シャルは俺の事を好きだと言ってくれているけど、その真意は分からない。
ずっとジェラルドの事を思っていたシャルが、あんな出来事一つで完全に心の中からジェラルドの存在を消したなんてどうしても思えなかった。

そして俺があの時ジェラルドが潔白であることをもっと主張していれば、直ぐに誤解が解けて二人が別れる事もなかったのかもしれない。
そんな罪悪感にずっと苛まれていて、いつかその事をシャルに責められるんじゃないかと、どこかで怯えていた。

俺が体を震わせていると、ジェラルドは静かな声で言った。

「僕はロランの事を責めたいわけじゃない。ただ、シャルの本心を知りたい…それだけなんだ」
顔を上げるとジェラルドは怒った様子もなく、普段の表情で答えていた。

「最初に言ったけど、シャルの本心を知る為に…僕と賭けをしないか?」
「賭け…?」

「恐らく僕達が中々戻らなければ、心配してシャルはきっとここにやって来るだろう…」
「まさか…」

「僕はこの水を飲む。勿論、強引に襲ったりはしない。シャルを突き放すつもりだ…。それでも僕の傍に残ると言うのであれば…、その時はシャルの事を抱かせてもらう」
「……っ…」
その言葉を聞いて頭の奥が一瞬真っ白になった。
思考が止まったと言った方が正しいのかもしれない。

ジェラルドの目を見ていればそれが本気であることは分かった。
決めるのはシャルだけど、結末は何となく想像が出来ていた。

「黙って…俺に見ていろと言うのか?」
「さすがにそんな酷な事はしない。ロランはシャルの事を信じて無いの?」

「……っ…、それはっ…」
ジェラルドに言われて俺ははっとした。

俺はシャルの事を信じていないわけでは無い。
シャルが俺の事を好きだと言ってくれた気持ちを信じたい気持ちは当然持っている。

するとジェラルドは立ち上がり、奥にある棚から小瓶を手に持ち戻って来た。
そしてそれを俺の前に置いた。

「この中には睡眠薬が入っている。極軽いものだ…。早ければ数十分もすれば目を覚ますだろう…」
「………」
俺はじっと小瓶に視線を向けた。

「こんなものを渡して何をするつもりだ?」
「暫くの間、ロランには眠っていて貰いたい。さすがにシャルもロランが傍にいると思ったら、賢明な判断をするだろうしね…。それと…、もしもの時の為に、ロランには止めて欲しいと言う願いもあるからな…」

「は…?」

矛盾する言葉を言うジェラルドに俺は困惑していた。

「シャルの気持ちを無視して、無理矢理奪うつもりは無いよ。嫌われたくないからね…。だけど本気で好きなシャルだから…感情が抑えられなくなる可能性も無いとは言えない。その時は僕の事を殴ってもいいから止めて欲しい」

ジェラルドの言葉に胸の奥がチクっと痛んだ。
シャルの事を本気で好きなのだと言う事が分かってしまったから。

だけどこんなふざけたやり方をするのはどうかと思う。
そう思う反面、シャルの本当の気持ちが知りたいとも思ってしまった。


「分かった…。だけど、もしシャルがジェラルドを選ばなかった時は…、もうシャルには近づかないでくれ」
「ああ、分かってるよ…。その時はきっぱり諦める努力をするよ」

俺達はシャルのいない所で、こんな賭けをしてしまった。
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