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91.事件の裏側①-sideヴィム-

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「ヴィム殿下、アリーセ様は無事に待機室へと避難出来たようです」
「そうか。それなら私も移動する」

 アリーセの移動が無事に完了出来たと聞いて、ひとまず安心した。
 彼女のいる部屋には、戦闘に慣れている従者を数名配置してある。
 もしもの事態が起こったとしても、彼等が速やかに対処してくれるはずだ。

「本当に護衛を付けなくて宜しいのですか?」
「ああ、敵の狙いは私ではないからな。それに彼がここに来る頃には、他の仲間は既に捕らえられているはずだ」

 最終的にこの部屋に残るのはアリーセの身代わりと、使用人の格好をしている従者二名。
 それから――。

 殆どの従者は窓から出て行き、最後の一人が室内に入って来た。
 それを確認すると使用人に扮している従者が急いで窓を閉じてカーテンを引いた。

「殿下、今回は私の意見聞き入れてくれて、ありがとうございます」

 そこに現れたのはニコルだった。
 彼女はフードを下ろすと深々と私に頭を下げて来た。

「覚悟は決まったのか?」
「……はい」

 私がニコルの瞳を真直ぐに見つめると、一瞬戸惑った顔を見せた後、静かに頷いた。

「お前の望みを聞くのはこれが最初で最後だ。失敗したとしても次は無いからな」
「分かってます。そのつもりで頑張りますのでっ!」

 私の厳しい言葉に、ニコルは手をぎゅっときつく握りしめていた。

「上手く行かなかった場合は予定通り、ルシアノを捕えてくれ」
「畏まりました」

 抵抗した場合は多少手荒な手段をとっても構わないという意味だ。
 従者に伝えると、私は部屋を後にした。


 ***


 廊下に出ると、そこは静寂に包まれていた。
 誰の姿も無く、歩く度に自分の靴音がコツコツと鳴り響く。

 パーティーが始まる前、ニコルに会って話しをした。
 婚約を白紙にされた今でも、あの男への未練が断ち切れて無いと聞いたからだ。
 アリーセは漸く仲直りが出来たと嬉しそうに話していたが、一度は裏切った事実がある。
 まだ思いを寄せている相手であれば、再び裏切ることも無いとは言えない筈だ。
 私は疑い深い人間なので、簡単に他人を信用したりはしない。

 そこでニコルに問いかけた。
『これからもアリーセと姉妹で居続けるつもりなら、ルシアノとの関係を完全に絶つことが出来るのか』と。
 ニコルはすぐには答えられない様子だった。

 返答によっては、ルシアノ共々ニコルも切り捨てるつもりでいた。
 そもそも私にとって、ニコルはどうでもいい存在の一つだ。
 アリーセを傷つけるのであれば、遠慮無く排除するだけ。

 ニコルは自分が全ての原因を作った張本人だから、ルシアノを説得する機会を与えて欲しいと頼み込んで来た。
 そして全てが終わった後、自らも処分を受けると。
 ニコルがどれだけ本気なのかを確かめる為に、最後にチャンスを与えることにした。
 失敗したとしても従者がルシアノを捕えるはずなので、大した問題にはならないはずだ。

 そんなことよりも、こんな時にアリーセの傍にいれないことがもどかしくてたまらない。
 一番不安に思っているのは私なのかもしれない。

(こんなにもアリーセの存在が大きくなっていたとはな……)
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