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83.約束
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暫くすると部屋にヴィムが戻って来て、入れ替わるようにニコルは出て行った。
ヴィムは私の座るソファーに近付くと、並ぶ様にして隣に腰掛けた。
「随分目が赤いな」
「あ、これはっ……」
ヴィムは私の事を真直ぐに見つめると、スッと手を伸ばし私の目元に指を滑らせる。
なぞられると少し擽ったさを感じてしまう。
「妹だろうとアリーセを泣かせたことは気に食わないが、上手くいったようだな」
「どうして分かるんですか?」
私は不思議そうな顔を浮かべ問いかける。
するとヴィムはふっと小さく笑った。
「今のお前の表情こそが答えだろう? その顔を見ていればどうなったのかくらい分かるよ」
「そ、そうですか? でも、そうなのかも……。久しぶりにニコルとちゃんと会話が出来ました。ヴィム、今回はこんな機会を作ってくれた事、本当に感謝しています」
ヴィムがこの機会を与えてくれなければ、次話せるのは何時になっていたのか分からない。
早々に決着したいことだったので助かった。
「礼など要らない。俺にとってもいいことだからな」
「どういう意味ですか?」
「お前の悩みは解決された。ということは、お前の心から一つの不安が消えたという事だろう。俺はアリーセを独り占めしたいからな。余計なものが排除出来て俺としても満足しているという事だ」
「……っ!!」
ヴィムの言葉を聞いて、私の頬は見る見るうちに赤く染まっていく。
(そんなはっきり言わないで! 恥ずかしいわ……、嬉しいけど)
「さっきは仕方なく二人にこの姿を見せてしまったが、やはり俺以外の人間には見せたく無いな」
「か、家族ですっ!」
ヴィムは目を細めて不満そうに呟いてきたので、私は咄嗟に返答した。
ヴィムの独占欲の強さは少し異常だと思うが、愛されてると素直に感じられるから嬉しくなる。
先程ニコルの話を聞いたばかりだったせいで、それが余計に身に染みてしまうのだろう。
私は本当に幸せなんだと実感した。
ヴィムはルシアノの様に独りよがりにはならず、ちゃんと私の気持ちも考えてくれている。
今回の事だってそうだ。
ヴィムには不満なこともあったはずなのに、全て私の為に動いてくれた。
それが本当に嬉しくて仕方が無かった。
「家族か。残り数日にはなるが、この施設に二人も泊まれるように手配を済ませておいた。帰りも同じ船で帰ることに決まったから、ここに居る間は好きに話せばいい」
「え……?」
「自国に帰ったら、そのままアリーセには離宮で暮らしてもらう事になる。話したい事があるのなら今のうちに済ませておくんだな。戻ったら即結婚に向けての準備を始めるから、忙しくて会う時間もそうないはずだ」
「…………」
余りにも色々決まっていて、私は驚いて固まっていた。
「伯爵にも俺達の結婚についての話は伝えて――……」
「ヴィム、ありがとうっ!!」
私は昂った感情を押さる事が出来ずに、思いっきり抱き着いていた。
幸せ過ぎて怖い。
こんなにも良いことばかりが続いて、少し不安を感じてしまう。
『私だけが幸せになってもいいのかな』なんて考えてしまう。
ヴィムは突然抱き着いた私を優しく受け止めてくれた。
その温もりが私に安心感を与えてくれる。
私は幸せを噛み締めるように、ヴィムの存在の大きさを感じていた。
「そんなにくっついていると襲いたくなるな」
「……っ!?」
ヴィムはボソッと耳元で小さく呟いた。
「だけどその前に、お前には話しておかなければならないことがある。ルシアノ・ツェルナーについてのことだ」
私はその名前を聞くとハッとして、ゆっくりとヴィムから離れた。
色々あって暫くの間ルシアノの事を忘れていたが、まだ全てが解決していない事を思い出した。
「俺の従者がこの街にある宿泊施設を調べてみたが、彼の存在は見つからなかった。となると、どこか貴族の屋敷に潜んでる可能性が高くなる。彼は侯爵家の嫡男だったのだから、この国の貴族との繋がりがあったとしても、何らおかしくないはずだ。パーティーに参加する為にも、この国の貴族の協力無くして、王宮に入るのはほぼ不可能に近いからな」
ヴィムの言う通り、王宮に入る為には招待状が必要となる。
ルシアノがそれを持っていなかったとしても、例えば招待状を持った相手のパートナーとして参加することになれば、簡単に入れてしまうはずだ。
私はルシアノの交友関係については全く知らない。
聞いたことは無いし、通っていた学園も違うのでその辺は全く知る由もなかった。
「本当に来るのかな……」
私は弱弱しい声で呟く。
ルシアノの異常なまでの執念深さに恐怖心さえ抱いてしまう。
今のルシアノは私の知っているルシアノではない気がする。
「そんな顔をするな。アリーセの身の安全は俺が保証する。絶対に触れさせたりはしないから」
「……はい」
ヴィムの言葉には私を安心させるだけの説得力があった。
それはヴィムという人間がどういう人物なのかを、私はちゃんと分かっているからなのだろう。
そして私の手を優しく包み込む様に握ってくれた。
(ヴィムが傍に居てくれるのだから、きっと大丈夫……)
「先程伯爵と話して決まった事なんだが、二人には俺の従者としてパーティーに参加してもらう事になった」
「え? 二人って、お父様とニコルですか?」
「ああ、そうだ。彼を見つけ次第拘束して、そのまま自国に連れ帰る。抵抗することは予想出来るから、見知った人間が傍に居た方が説得もしやすいと思ってな。本来ならばバルティス国に協力を仰いだ方が良いのだとは思うが、あの男に借りを作りたくは無いからな」
ヴィムは一応国賓として招待されている為、数人の従者を連れて王宮に入ることが許されている。
その枠に父とニコルを付け加えるということなのだろう。
「あの男……?」
「バルティスの第一王子だ。隙が無い厄介な人間だ。あんな男に借りの一つでも作ったら、後々面倒になるだけだからな」
ヴィムは面倒くさそうに呟いた。
「今回は俺達の中だけで内々に解決するつもりでいる。相手はルシアノ一人だから大した脅威にはならないとは思うが、アリーセは狙われている以上俺からは離れない様にしてくれ」
「分かりました」
本当に明日、私達の前にルシアノが現れるのだろうか。
だけど私にはヴィムが付いていてくれるし、お父様やニコルだっている。
きっと上手く行くはずだと信じることにした。
ヴィムは私の座るソファーに近付くと、並ぶ様にして隣に腰掛けた。
「随分目が赤いな」
「あ、これはっ……」
ヴィムは私の事を真直ぐに見つめると、スッと手を伸ばし私の目元に指を滑らせる。
なぞられると少し擽ったさを感じてしまう。
「妹だろうとアリーセを泣かせたことは気に食わないが、上手くいったようだな」
「どうして分かるんですか?」
私は不思議そうな顔を浮かべ問いかける。
するとヴィムはふっと小さく笑った。
「今のお前の表情こそが答えだろう? その顔を見ていればどうなったのかくらい分かるよ」
「そ、そうですか? でも、そうなのかも……。久しぶりにニコルとちゃんと会話が出来ました。ヴィム、今回はこんな機会を作ってくれた事、本当に感謝しています」
ヴィムがこの機会を与えてくれなければ、次話せるのは何時になっていたのか分からない。
早々に決着したいことだったので助かった。
「礼など要らない。俺にとってもいいことだからな」
「どういう意味ですか?」
「お前の悩みは解決された。ということは、お前の心から一つの不安が消えたという事だろう。俺はアリーセを独り占めしたいからな。余計なものが排除出来て俺としても満足しているという事だ」
「……っ!!」
ヴィムの言葉を聞いて、私の頬は見る見るうちに赤く染まっていく。
(そんなはっきり言わないで! 恥ずかしいわ……、嬉しいけど)
「さっきは仕方なく二人にこの姿を見せてしまったが、やはり俺以外の人間には見せたく無いな」
「か、家族ですっ!」
ヴィムは目を細めて不満そうに呟いてきたので、私は咄嗟に返答した。
ヴィムの独占欲の強さは少し異常だと思うが、愛されてると素直に感じられるから嬉しくなる。
先程ニコルの話を聞いたばかりだったせいで、それが余計に身に染みてしまうのだろう。
私は本当に幸せなんだと実感した。
ヴィムはルシアノの様に独りよがりにはならず、ちゃんと私の気持ちも考えてくれている。
今回の事だってそうだ。
ヴィムには不満なこともあったはずなのに、全て私の為に動いてくれた。
それが本当に嬉しくて仕方が無かった。
「家族か。残り数日にはなるが、この施設に二人も泊まれるように手配を済ませておいた。帰りも同じ船で帰ることに決まったから、ここに居る間は好きに話せばいい」
「え……?」
「自国に帰ったら、そのままアリーセには離宮で暮らしてもらう事になる。話したい事があるのなら今のうちに済ませておくんだな。戻ったら即結婚に向けての準備を始めるから、忙しくて会う時間もそうないはずだ」
「…………」
余りにも色々決まっていて、私は驚いて固まっていた。
「伯爵にも俺達の結婚についての話は伝えて――……」
「ヴィム、ありがとうっ!!」
私は昂った感情を押さる事が出来ずに、思いっきり抱き着いていた。
幸せ過ぎて怖い。
こんなにも良いことばかりが続いて、少し不安を感じてしまう。
『私だけが幸せになってもいいのかな』なんて考えてしまう。
ヴィムは突然抱き着いた私を優しく受け止めてくれた。
その温もりが私に安心感を与えてくれる。
私は幸せを噛み締めるように、ヴィムの存在の大きさを感じていた。
「そんなにくっついていると襲いたくなるな」
「……っ!?」
ヴィムはボソッと耳元で小さく呟いた。
「だけどその前に、お前には話しておかなければならないことがある。ルシアノ・ツェルナーについてのことだ」
私はその名前を聞くとハッとして、ゆっくりとヴィムから離れた。
色々あって暫くの間ルシアノの事を忘れていたが、まだ全てが解決していない事を思い出した。
「俺の従者がこの街にある宿泊施設を調べてみたが、彼の存在は見つからなかった。となると、どこか貴族の屋敷に潜んでる可能性が高くなる。彼は侯爵家の嫡男だったのだから、この国の貴族との繋がりがあったとしても、何らおかしくないはずだ。パーティーに参加する為にも、この国の貴族の協力無くして、王宮に入るのはほぼ不可能に近いからな」
ヴィムの言う通り、王宮に入る為には招待状が必要となる。
ルシアノがそれを持っていなかったとしても、例えば招待状を持った相手のパートナーとして参加することになれば、簡単に入れてしまうはずだ。
私はルシアノの交友関係については全く知らない。
聞いたことは無いし、通っていた学園も違うのでその辺は全く知る由もなかった。
「本当に来るのかな……」
私は弱弱しい声で呟く。
ルシアノの異常なまでの執念深さに恐怖心さえ抱いてしまう。
今のルシアノは私の知っているルシアノではない気がする。
「そんな顔をするな。アリーセの身の安全は俺が保証する。絶対に触れさせたりはしないから」
「……はい」
ヴィムの言葉には私を安心させるだけの説得力があった。
それはヴィムという人間がどういう人物なのかを、私はちゃんと分かっているからなのだろう。
そして私の手を優しく包み込む様に握ってくれた。
(ヴィムが傍に居てくれるのだから、きっと大丈夫……)
「先程伯爵と話して決まった事なんだが、二人には俺の従者としてパーティーに参加してもらう事になった」
「え? 二人って、お父様とニコルですか?」
「ああ、そうだ。彼を見つけ次第拘束して、そのまま自国に連れ帰る。抵抗することは予想出来るから、見知った人間が傍に居た方が説得もしやすいと思ってな。本来ならばバルティス国に協力を仰いだ方が良いのだとは思うが、あの男に借りを作りたくは無いからな」
ヴィムは一応国賓として招待されている為、数人の従者を連れて王宮に入ることが許されている。
その枠に父とニコルを付け加えるということなのだろう。
「あの男……?」
「バルティスの第一王子だ。隙が無い厄介な人間だ。あんな男に借りの一つでも作ったら、後々面倒になるだけだからな」
ヴィムは面倒くさそうに呟いた。
「今回は俺達の中だけで内々に解決するつもりでいる。相手はルシアノ一人だから大した脅威にはならないとは思うが、アリーセは狙われている以上俺からは離れない様にしてくれ」
「分かりました」
本当に明日、私達の前にルシアノが現れるのだろうか。
だけど私にはヴィムが付いていてくれるし、お父様やニコルだっている。
きっと上手く行くはずだと信じることにした。
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