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77.深い後悔①-sideニコル-
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真っ暗な部屋の中、ベッドに仰向けになり、ぼんやりと天井の一点を見つめていた。
何も考えたくないし、何も見たくない。
それなのに、聞きたくない言葉ばかりが頭の中を巡り私を苦しめる。
(どうして私ばかりこんな目に遭うの……)
何よりも嫌っていた『身代わり』という言葉。
どうして自らの口で『身代わりでいい』なんて言ってしまったのだろう。
本当は一番になりたくて、私だけを見て欲しかったはずなのに、その場しのぎの言葉にこんなにも苦しめられるなんて思ってもみなかった。
「私の何がダメなんだろう……」
腫れた目元にじわじわと再び涙が浮かんでくる。
そしてある不安が脳裏を過る。
あの時のルシ様は決意に満ちた瞳をしていた。
もし本当にお姉様を奪い返そうと考えているのであれば、大変な事になるかもしれない。
お姉様の婚約者はあろうことかこの国の王子だ。
近付く事さえ困難な今のルシ様に何が出来るのだろうか。
無謀にも程がある。
(ルシ様は馬鹿よ! もしそれで不敬罪になんてされたら……。まさかね、あれはきっと大袈裟に言っただけよ。だけど、あの目は本気に見えた……)
嫌な胸騒ぎを感じ、私はベッドから勢いよく飛び起きて扉の方へと向かった。
そして廊下を駆け抜け、お父様のいる執務室へと急ぐ。
ルシ様を失う事が何よりも怖い。
今でも結婚を諦めては無いし、もっと頑張れば私に気持ちが向いてくれると信じている。
漸く婚約まで出来たのに、あと少しで結婚なのに、諦めるなんて出来ない。
執務室に到着すると、私は息を整えることもせず勢いよく扉を開いた。
***
バンッ! という騒々しい音が響き渡ると、中にいたお父様は驚いた顔で私の方に視線を向けた。
「ニコル……? どうしたんだ?そんなに血相を変えて」
「はぁっ、はぁっ……、お父様。お願いします、助けてくださいっ……」
私はお父様の座る執務机の前まで移動すると、息を切らしながら必死な顔で訴えた。
「一体何がどうしたんだ?まずは落ち着きなさい。そこのソファーに座って話そうか」
突然押しかけて来た私に対して、お父様は嫌な顔せず応対してくれた。
私は促されるままにソファーに腰掛け、荒くなった息を肩を揺らしながら整えていた。
まずは落ち着かなければ言葉も上手く発することが出来ない。
私はゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「お父様……。私、どうしたらいいのか……」
呼吸が整い、声が出るようになると、私は泣きそうな顔でお父様を見つめた。
今頼れる相手はお父様しかいない。
残念ながら私の力では、ルシ様を思い留まらせることが出来なかった。
私は今日の出来事をお父様に話した。
ルシ様から婚約解消を告げられた事、そしてお姉様を取り戻そうとしていることを。
話を聞いたお父様はひどく驚いた顔をしていた。
「ルシアノ殿は、ニコルのことが好きだったんじゃなかったのか?」
「それは……っ……」
私はその問いに顔を歪めた。
以前ツェルナー侯爵にルシ様とのことを暴露した際、私は強引に迫られたと言ってしまった。
当時のルシ様は少し強引な所もあったし、合意の上だったとしても私を抱いたことには変わりない。
逃げ道を奪うのには丁度いいタイミングだった。
もし後からルシ様が反論してきたとしても、怖くて抵抗出来なかったと嘘を付けば誤魔化せると思っていた。
「ニコル、黙っていては分からないよ。全て話してくれないと、こちらも対処の仕様がない。ニコルは私に何かをして欲しくて来たのだろう?」
お父様は心配そうな顔で私の事を見つめていた。
全て話せば私がお姉様からルシ様を奪ったことがバレてしまう。
だけど他にルシ様を止められる方法がない以上、お父様を頼るしか道が無い。
(どうしよう……)
私は掌をぎゅっと握りしめたまま俯いていた。
それから間もなくして、震えている私の手の上に温かいものが触れた。
驚いて顔を上げると、対面する様に座っていたお父様がいつの間にか私の隣に移動していた。
「お父様……、わた、しっ……」
私はどうしていいのか分からずそのまま泣き出してしまった。
「私はニコルの父親だ。娘が困っているのであれば、力になりたいと思うのは当然のことだろう。話してはくれないか?」
「うっ……、ごめんなさ……いっ、……私、お姉様に……ひどいことを……」
私はお父様の胸の中で泣きじゃくってしまった。
この人は間違いなく私の事を本当の娘だと思ってくれている、そのことが分かると胸の奥が熱くなった。
そして昂っていた感情が収まると、私はゆっくりと全てを語り始めた。
ずっとルシ様に横恋慕をしていたこと。
お姉様とルシ様は本当は両想いであったこと。
そして奪う為に行動に移したのは私からであったことを。
その話を聞いているお父様は眉間に皺を寄せ、戸惑った表情を浮かべていた。
無理もない、私が事実を捻じ曲げたせいで実際は真逆だったのだから。
「……なんて、ことを……」
さすがにお父様も驚いて直ぐには言葉が見つからない様子だ。
「私、どうしてもルシ様を諦めらきれなかった。初恋だったの。それになんでも持っているお姉様が羨ましくて妬ましかった。だから一つくらい貰っても大丈夫だと思ったの」
「ニコル、ルシアノ殿はものではないんだぞ」
最もな台詞だった。
だけど好きと言う気持ちが膨らみ過ぎて、暴走を止めることなど出来なかった。
「分かってるわ。でも、私も愛されたかった。この屋敷に来た時から私は身代わりだって分かっていたけど、接して行くうちに欲が出て、身代わりでは無くニコルとして見て欲しくなってしまったの」
ずっと思い悩んでいたことを初めて口に出した。
私は拾って貰った身だから、こんなことを口にしてはいけない。
この孤独は、貴族になり裕福な暮らしを手にする為の対価なのだと思っていた。
孤児だった頃と180度世界が変わって、欲しい物は何でも買って貰えた。
ずっと憧れていた綺麗なドレスに袖を通す事も出来た。
貴族になればなんだって叶えられるのだと喜んだが、時間が経つに連れて虚しさに包まれていった。
私は誰かの身代わりでここにいて、それは私じゃなくても良かったのかもしれないと気付いてしまったからだ。
寂しかった、ニコルとしての私を愛して欲しかった。
「身代わり……? ニコルはずっとそう思って来たのか?」
「……はい」
私が小さく答えると、お父様は深く溜息を漏らした。
「それは私達の所為だな。確かにきっかけは娘の死だったが、私はニコルのことを身代わりだなんて思ったことなどないぞ。妻は……、仕方が無いとしても、アリーはそんな風には思っていないと思うが」
「嘘よっ!」
私は間髪入れずに声を響かせた。
「嘘じゃない。私はずっと新しい娘が出来たと思っていたからな。それにアリーもニコルが来てくれてから大分明るくなったんだ。アリーは今では優秀なんて周りからは言われているが、あれは全てアリーが努力した結果だ」
「幼い頃から良い教育を受けていたからではないんですか?」
「確かに貴族は幼い頃からそれなりの教育を受けさせるのが一般的だが、それだけでアリーのようになれるわけじゃない。あの子を亡くすまでは、アリーも普通の無邪気な子供だったんだ。だけど悲しい事件の後、生活は一変してしまった。妻は精神病を患い起伏が激しくなって、アリーに何かと制限する様になったんだ。ニコルも知っているとは思うけど、亡くなったあの子とアリーは双子だったからね。妻はアリーにあの子を重ねて見ることもあったようだ」
それは初めて聞かされる話だった。
亡くなった子供については触れてはいけない気がして、私からは聞こうと思ったことはない。
「お姉様も身代わりだったってことですか?」
「身代わりって言うのは少し違うな。アリーはあの子の片割れだから、妻は一人を通して二人分見ていたんだと思うよ。当然思いも倍になり、アリーに対して過剰な心配をするようになった。幼い頃はほとんど軟禁状態だったから、屋敷にいてもすることは限られてくる。そこでアリーは本を読み始めたんだ。優秀になれば妻から褒めてもられる、安心してもらえると思って一生懸命一人で勉学に励み始めた。そんなこともあってアリーには友人なんて誰もいなかった。唯一話せる相手と言えば婚約者だったルシアノ殿くらいだったな」
お姉様の過去は私が想像していたものとは全く違っていた。
普段から勉強ばかりしているのは、好きだからやっているのだと思っていた。
そんな理由があったなんて知らなかった。
思い返してみれば、いつもお姉様は屋敷にいた。
婚約者であるルシ様の屋敷に行くことはあったけど、その他の理由で出掛けることは殆ど無かった気がする。
それにお姉様に友人がいるなんて話も聞いたことが無い。
いつも屋敷に閉じ籠っているのだから、友人なんて出来るはずがない。
街に出かけるのも年に数回だけだった。
お父様が話した事柄を裏付けるように、思い返せば全てに納得が出来てしまう。
お姉様は屋敷に軟禁され、友達を作ることも許されず、ずっとお母様に認めてもらえる様に努力し続けて来た。
それに比べて私はどうだろう。
この屋敷に来て、貴族として認めてもらえる様に努力はした。
だけどそれは本当に努力と言えるのだろうか。
外見を磨いていたのは私の努力ではなく、使用人達の力だ。
家庭教師も私の下らない理由で何人もクビにした。
ルシ様に勉強を見てもらっていたのは、傍にいたいという下心があってのことだ。
私は何の努力もせず、ただ無い物ねだりをして、勝手に羨んで嫉妬をしていただけだ。
挙句の果てに、お姉様の大切だった婚約者に手を出して奪ってしまった。
二人は思い合っていたのに、強引に私が入り込んでその幸せを壊した。
(私は何をしたの……?)
お姉様は突然この屋敷に来た私に普通に接してくれた。
孤児だった私を見下したことなど一度も無い。
それどころかいつも一緒にいて、私に色々と教えてくれた。
あの時の私はそれがすごく嬉しかったし、居心地が良かった。
何も見ようとしなかった私は、そんな相手に恩を仇で返してしまったのだ。
私の体はガタガタと震えていた。
絶望感と後悔で頭の中が埋め尽くされ、目からはぽたぽたと涙が溢れていた。
何も考えたくないし、何も見たくない。
それなのに、聞きたくない言葉ばかりが頭の中を巡り私を苦しめる。
(どうして私ばかりこんな目に遭うの……)
何よりも嫌っていた『身代わり』という言葉。
どうして自らの口で『身代わりでいい』なんて言ってしまったのだろう。
本当は一番になりたくて、私だけを見て欲しかったはずなのに、その場しのぎの言葉にこんなにも苦しめられるなんて思ってもみなかった。
「私の何がダメなんだろう……」
腫れた目元にじわじわと再び涙が浮かんでくる。
そしてある不安が脳裏を過る。
あの時のルシ様は決意に満ちた瞳をしていた。
もし本当にお姉様を奪い返そうと考えているのであれば、大変な事になるかもしれない。
お姉様の婚約者はあろうことかこの国の王子だ。
近付く事さえ困難な今のルシ様に何が出来るのだろうか。
無謀にも程がある。
(ルシ様は馬鹿よ! もしそれで不敬罪になんてされたら……。まさかね、あれはきっと大袈裟に言っただけよ。だけど、あの目は本気に見えた……)
嫌な胸騒ぎを感じ、私はベッドから勢いよく飛び起きて扉の方へと向かった。
そして廊下を駆け抜け、お父様のいる執務室へと急ぐ。
ルシ様を失う事が何よりも怖い。
今でも結婚を諦めては無いし、もっと頑張れば私に気持ちが向いてくれると信じている。
漸く婚約まで出来たのに、あと少しで結婚なのに、諦めるなんて出来ない。
執務室に到着すると、私は息を整えることもせず勢いよく扉を開いた。
***
バンッ! という騒々しい音が響き渡ると、中にいたお父様は驚いた顔で私の方に視線を向けた。
「ニコル……? どうしたんだ?そんなに血相を変えて」
「はぁっ、はぁっ……、お父様。お願いします、助けてくださいっ……」
私はお父様の座る執務机の前まで移動すると、息を切らしながら必死な顔で訴えた。
「一体何がどうしたんだ?まずは落ち着きなさい。そこのソファーに座って話そうか」
突然押しかけて来た私に対して、お父様は嫌な顔せず応対してくれた。
私は促されるままにソファーに腰掛け、荒くなった息を肩を揺らしながら整えていた。
まずは落ち着かなければ言葉も上手く発することが出来ない。
私はゆっくりと深呼吸を繰り返す。
「お父様……。私、どうしたらいいのか……」
呼吸が整い、声が出るようになると、私は泣きそうな顔でお父様を見つめた。
今頼れる相手はお父様しかいない。
残念ながら私の力では、ルシ様を思い留まらせることが出来なかった。
私は今日の出来事をお父様に話した。
ルシ様から婚約解消を告げられた事、そしてお姉様を取り戻そうとしていることを。
話を聞いたお父様はひどく驚いた顔をしていた。
「ルシアノ殿は、ニコルのことが好きだったんじゃなかったのか?」
「それは……っ……」
私はその問いに顔を歪めた。
以前ツェルナー侯爵にルシ様とのことを暴露した際、私は強引に迫られたと言ってしまった。
当時のルシ様は少し強引な所もあったし、合意の上だったとしても私を抱いたことには変わりない。
逃げ道を奪うのには丁度いいタイミングだった。
もし後からルシ様が反論してきたとしても、怖くて抵抗出来なかったと嘘を付けば誤魔化せると思っていた。
「ニコル、黙っていては分からないよ。全て話してくれないと、こちらも対処の仕様がない。ニコルは私に何かをして欲しくて来たのだろう?」
お父様は心配そうな顔で私の事を見つめていた。
全て話せば私がお姉様からルシ様を奪ったことがバレてしまう。
だけど他にルシ様を止められる方法がない以上、お父様を頼るしか道が無い。
(どうしよう……)
私は掌をぎゅっと握りしめたまま俯いていた。
それから間もなくして、震えている私の手の上に温かいものが触れた。
驚いて顔を上げると、対面する様に座っていたお父様がいつの間にか私の隣に移動していた。
「お父様……、わた、しっ……」
私はどうしていいのか分からずそのまま泣き出してしまった。
「私はニコルの父親だ。娘が困っているのであれば、力になりたいと思うのは当然のことだろう。話してはくれないか?」
「うっ……、ごめんなさ……いっ、……私、お姉様に……ひどいことを……」
私はお父様の胸の中で泣きじゃくってしまった。
この人は間違いなく私の事を本当の娘だと思ってくれている、そのことが分かると胸の奥が熱くなった。
そして昂っていた感情が収まると、私はゆっくりと全てを語り始めた。
ずっとルシ様に横恋慕をしていたこと。
お姉様とルシ様は本当は両想いであったこと。
そして奪う為に行動に移したのは私からであったことを。
その話を聞いているお父様は眉間に皺を寄せ、戸惑った表情を浮かべていた。
無理もない、私が事実を捻じ曲げたせいで実際は真逆だったのだから。
「……なんて、ことを……」
さすがにお父様も驚いて直ぐには言葉が見つからない様子だ。
「私、どうしてもルシ様を諦めらきれなかった。初恋だったの。それになんでも持っているお姉様が羨ましくて妬ましかった。だから一つくらい貰っても大丈夫だと思ったの」
「ニコル、ルシアノ殿はものではないんだぞ」
最もな台詞だった。
だけど好きと言う気持ちが膨らみ過ぎて、暴走を止めることなど出来なかった。
「分かってるわ。でも、私も愛されたかった。この屋敷に来た時から私は身代わりだって分かっていたけど、接して行くうちに欲が出て、身代わりでは無くニコルとして見て欲しくなってしまったの」
ずっと思い悩んでいたことを初めて口に出した。
私は拾って貰った身だから、こんなことを口にしてはいけない。
この孤独は、貴族になり裕福な暮らしを手にする為の対価なのだと思っていた。
孤児だった頃と180度世界が変わって、欲しい物は何でも買って貰えた。
ずっと憧れていた綺麗なドレスに袖を通す事も出来た。
貴族になればなんだって叶えられるのだと喜んだが、時間が経つに連れて虚しさに包まれていった。
私は誰かの身代わりでここにいて、それは私じゃなくても良かったのかもしれないと気付いてしまったからだ。
寂しかった、ニコルとしての私を愛して欲しかった。
「身代わり……? ニコルはずっとそう思って来たのか?」
「……はい」
私が小さく答えると、お父様は深く溜息を漏らした。
「それは私達の所為だな。確かにきっかけは娘の死だったが、私はニコルのことを身代わりだなんて思ったことなどないぞ。妻は……、仕方が無いとしても、アリーはそんな風には思っていないと思うが」
「嘘よっ!」
私は間髪入れずに声を響かせた。
「嘘じゃない。私はずっと新しい娘が出来たと思っていたからな。それにアリーもニコルが来てくれてから大分明るくなったんだ。アリーは今では優秀なんて周りからは言われているが、あれは全てアリーが努力した結果だ」
「幼い頃から良い教育を受けていたからではないんですか?」
「確かに貴族は幼い頃からそれなりの教育を受けさせるのが一般的だが、それだけでアリーのようになれるわけじゃない。あの子を亡くすまでは、アリーも普通の無邪気な子供だったんだ。だけど悲しい事件の後、生活は一変してしまった。妻は精神病を患い起伏が激しくなって、アリーに何かと制限する様になったんだ。ニコルも知っているとは思うけど、亡くなったあの子とアリーは双子だったからね。妻はアリーにあの子を重ねて見ることもあったようだ」
それは初めて聞かされる話だった。
亡くなった子供については触れてはいけない気がして、私からは聞こうと思ったことはない。
「お姉様も身代わりだったってことですか?」
「身代わりって言うのは少し違うな。アリーはあの子の片割れだから、妻は一人を通して二人分見ていたんだと思うよ。当然思いも倍になり、アリーに対して過剰な心配をするようになった。幼い頃はほとんど軟禁状態だったから、屋敷にいてもすることは限られてくる。そこでアリーは本を読み始めたんだ。優秀になれば妻から褒めてもられる、安心してもらえると思って一生懸命一人で勉学に励み始めた。そんなこともあってアリーには友人なんて誰もいなかった。唯一話せる相手と言えば婚約者だったルシアノ殿くらいだったな」
お姉様の過去は私が想像していたものとは全く違っていた。
普段から勉強ばかりしているのは、好きだからやっているのだと思っていた。
そんな理由があったなんて知らなかった。
思い返してみれば、いつもお姉様は屋敷にいた。
婚約者であるルシ様の屋敷に行くことはあったけど、その他の理由で出掛けることは殆ど無かった気がする。
それにお姉様に友人がいるなんて話も聞いたことが無い。
いつも屋敷に閉じ籠っているのだから、友人なんて出来るはずがない。
街に出かけるのも年に数回だけだった。
お父様が話した事柄を裏付けるように、思い返せば全てに納得が出来てしまう。
お姉様は屋敷に軟禁され、友達を作ることも許されず、ずっとお母様に認めてもらえる様に努力し続けて来た。
それに比べて私はどうだろう。
この屋敷に来て、貴族として認めてもらえる様に努力はした。
だけどそれは本当に努力と言えるのだろうか。
外見を磨いていたのは私の努力ではなく、使用人達の力だ。
家庭教師も私の下らない理由で何人もクビにした。
ルシ様に勉強を見てもらっていたのは、傍にいたいという下心があってのことだ。
私は何の努力もせず、ただ無い物ねだりをして、勝手に羨んで嫉妬をしていただけだ。
挙句の果てに、お姉様の大切だった婚約者に手を出して奪ってしまった。
二人は思い合っていたのに、強引に私が入り込んでその幸せを壊した。
(私は何をしたの……?)
お姉様は突然この屋敷に来た私に普通に接してくれた。
孤児だった私を見下したことなど一度も無い。
それどころかいつも一緒にいて、私に色々と教えてくれた。
あの時の私はそれがすごく嬉しかったし、居心地が良かった。
何も見ようとしなかった私は、そんな相手に恩を仇で返してしまったのだ。
私の体はガタガタと震えていた。
絶望感と後悔で頭の中が埋め尽くされ、目からはぽたぽたと涙が溢れていた。
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