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36.王都へ①

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 隣国に予定を前倒しして向かう事が決まり、その分の仕事を早めに片付ける為に突如として王宮暮らしが始まった。
 王宮での暮らしは言うまでも無く豪勢だし、仕事についてもヴィムが上手く配分を考えてくれているので無理なくやれている。
 それに屋敷に帰らなくていいと思うと余計な考えを巡らすこともない為、心の平穏を保ったまま毎日を過ごすことが出来ている。
 こんなにも良くしてくれるヴィムには本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
 そしてそんなヴィムに毎日会う毎に心を惹かれていっている様な気がする。

 いつも揶揄って意地悪な事ばかり言ってくるし、本音をそのままぶつけて来ることが多いが、素直に心の内を明かしてくれていた方が私は安心出来る様だ。
 ルシアノとの事があり、黙っていられると余計にあれこれ考えてしまい不安になってしまう。
 そんな私も自分の言葉で人に何かを伝えるのは苦手な方だが、これからは思ったことはちゃんと声に出して伝えたいきたいと考えている。
 裏切られたことはショックではあるが今後の為の良い教訓になった、と前向きに捉えるようにしようと思う。

 前に進む為に、私は変わりたいと思うから――。



 ***


 そして週末が訪れた。
 本来は休みであったが、こんな状況なので今日も仕事があるものだと思っていた。
 しかし前日にヴィムから『明日は休みだ』と告げられた。
 私が驚いた顔を見せるとヴィムは盛大にため息を漏らし、『約束しただろ?』と言った。
 その言葉を聞いて、出かける約束をしていたことを思い出した。
 元々咄嗟に口から出てしまった口実だったため、すっかり記憶から抜けていた様だ。


「こんなに素敵な服まで用意してもらって、なんか申し訳ありませんっ……」
「いや、急に決まった事だったから気にしなくていい。それに俺の好みの服をアリーセに身に付けてもらえて、俺としても満足しているからな」

 馬車に揺られながら私達はそんな会話をしていた。

 ヴィムが私の為に用意してくれたのは、白いふんわりとしたワンピースだ。
 白一色な為単調に見えるが、大きめのフリルが付いていて可愛らしく見える。
 靴については私が歩きやすい様にと、ストラップの付いた白色のローヒールを選んでくれた。

 ヴィムはシンプルな白いシャツに黒のベストを着用している。
 目立つものなど何も付いていないのに素敵に見えてしまうのは、この人の魅力なのだろう。

 急に王宮暮らしが始まった為、ある程度のものしか手元には無かった。
 服も何着か持って来てもらったのだが、今回王都に出かけると言う事でヴィムが私の為に用意してくれた。

 なるべく目立たなくするために、今日は高価な装飾類は一切身に付けていない。
 王都には貴族も多く訪れるのだが、ヴィムはこの国の王子であるので何かと目立つ存在だ。
 しかし本人は一々見つかって反応されるのが面倒とのこと。
 だから今日はいつもと少し違う装いをしている。
 だけどそれがすごく新鮮で、既に私の心はワクワクしていた。


「何を贈るのか大体は決めているのか?」
「いえ、まだ何も……」

 私の言葉を聞いてヴィムは小さく笑った。

「なんですか?」
「いや、何も考えて無いと答える辺り、お前らしい返答だなと思ってな。約束すら忘れていたくらいだもんな」

 私が不思議そうに問いかけると、ヴィムは呆れるように答えた。

「……っ!」
「まあ、でも最近は何かと忙しかったからな。羽を伸ばす機会としては丁度良かったのかもしれない。アリーセとこうやって王都に行くのも初めてだしな」

「そうですね、今日はめいいっぱい楽しみましょう!」
「はしゃぐ気満々といったところだな。だけど王都には悪い輩もいるから、俺の傍からは離れるなよ」

「……っ、子供扱いしないでくださいっ!」
「別に子供扱いしているつもりはないが、お前は俺の大切な婚約者だからな。心配なんだよ。今は恋人と言った方がいいか?」

 私は不満そうにムッとするも、恋人と言われて急に顔の奥が熱くなっていくのを感じた。

(こ、恋人って……)

「照れてる姿は可愛らしいが、その顔は俺以外の前では見せるなよ」
「ヴィムがいきなり変なこと言うからっ……」

「別に変なことなんて何も言ってないぞ。今の俺達はお互いの気持ちが通じ合った恋人同士だろう?違うのか?」
「ち、違くはない、けどっ……」

「認めたな? 今日はデートと言う事で楽しもうな」

 ヴィムは楽しそうに話していたが、私は一人でドキドキしていた。

(デートって急に言われる緊張してきた、どうしようっ……)

 そんな事を考えている間に王都へと到着した。
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