36 / 101
36.王都へ①
しおりを挟む
隣国に予定を前倒しして向かう事が決まり、その分の仕事を早めに片付ける為に突如として王宮暮らしが始まった。
王宮での暮らしは言うまでも無く豪勢だし、仕事についてもヴィムが上手く配分を考えてくれているので無理なくやれている。
それに屋敷に帰らなくていいと思うと余計な考えを巡らすこともない為、心の平穏を保ったまま毎日を過ごすことが出来ている。
こんなにも良くしてくれるヴィムには本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
そしてそんなヴィムに毎日会う毎に心を惹かれていっている様な気がする。
いつも揶揄って意地悪な事ばかり言ってくるし、本音をそのままぶつけて来ることが多いが、素直に心の内を明かしてくれていた方が私は安心出来る様だ。
ルシアノとの事があり、黙っていられると余計にあれこれ考えてしまい不安になってしまう。
そんな私も自分の言葉で人に何かを伝えるのは苦手な方だが、これからは思ったことはちゃんと声に出して伝えたいきたいと考えている。
裏切られたことはショックではあるが今後の為の良い教訓になった、と前向きに捉えるようにしようと思う。
前に進む為に、私は変わりたいと思うから――。
***
そして週末が訪れた。
本来は休みであったが、こんな状況なので今日も仕事があるものだと思っていた。
しかし前日にヴィムから『明日は休みだ』と告げられた。
私が驚いた顔を見せるとヴィムは盛大にため息を漏らし、『約束しただろ?』と言った。
その言葉を聞いて、出かける約束をしていたことを思い出した。
元々咄嗟に口から出てしまった口実だったため、すっかり記憶から抜けていた様だ。
「こんなに素敵な服まで用意してもらって、なんか申し訳ありませんっ……」
「いや、急に決まった事だったから気にしなくていい。それに俺の好みの服をアリーセに身に付けてもらえて、俺としても満足しているからな」
馬車に揺られながら私達はそんな会話をしていた。
ヴィムが私の為に用意してくれたのは、白いふんわりとしたワンピースだ。
白一色な為単調に見えるが、大きめのフリルが付いていて可愛らしく見える。
靴については私が歩きやすい様にと、ストラップの付いた白色のローヒールを選んでくれた。
ヴィムはシンプルな白いシャツに黒のベストを着用している。
目立つものなど何も付いていないのに素敵に見えてしまうのは、この人の魅力なのだろう。
急に王宮暮らしが始まった為、ある程度のものしか手元には無かった。
服も何着か持って来てもらったのだが、今回王都に出かけると言う事でヴィムが私の為に用意してくれた。
なるべく目立たなくするために、今日は高価な装飾類は一切身に付けていない。
王都には貴族も多く訪れるのだが、ヴィムはこの国の王子であるので何かと目立つ存在だ。
しかし本人は一々見つかって反応されるのが面倒とのこと。
だから今日はいつもと少し違う装いをしている。
だけどそれがすごく新鮮で、既に私の心はワクワクしていた。
「何を贈るのか大体は決めているのか?」
「いえ、まだ何も……」
私の言葉を聞いてヴィムは小さく笑った。
「なんですか?」
「いや、何も考えて無いと答える辺り、お前らしい返答だなと思ってな。約束すら忘れていたくらいだもんな」
私が不思議そうに問いかけると、ヴィムは呆れるように答えた。
「……っ!」
「まあ、でも最近は何かと忙しかったからな。羽を伸ばす機会としては丁度良かったのかもしれない。アリーセとこうやって王都に行くのも初めてだしな」
「そうですね、今日はめいいっぱい楽しみましょう!」
「はしゃぐ気満々といったところだな。だけど王都には悪い輩もいるから、俺の傍からは離れるなよ」
「……っ、子供扱いしないでくださいっ!」
「別に子供扱いしているつもりはないが、お前は俺の大切な婚約者だからな。心配なんだよ。今は恋人と言った方がいいか?」
私は不満そうにムッとするも、恋人と言われて急に顔の奥が熱くなっていくのを感じた。
(こ、恋人って……)
「照れてる姿は可愛らしいが、その顔は俺以外の前では見せるなよ」
「ヴィムがいきなり変なこと言うからっ……」
「別に変なことなんて何も言ってないぞ。今の俺達はお互いの気持ちが通じ合った恋人同士だろう?違うのか?」
「ち、違くはない、けどっ……」
「認めたな? 今日はデートと言う事で楽しもうな」
ヴィムは楽しそうに話していたが、私は一人でドキドキしていた。
(デートって急に言われる緊張してきた、どうしようっ……)
そんな事を考えている間に王都へと到着した。
王宮での暮らしは言うまでも無く豪勢だし、仕事についてもヴィムが上手く配分を考えてくれているので無理なくやれている。
それに屋敷に帰らなくていいと思うと余計な考えを巡らすこともない為、心の平穏を保ったまま毎日を過ごすことが出来ている。
こんなにも良くしてくれるヴィムには本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
そしてそんなヴィムに毎日会う毎に心を惹かれていっている様な気がする。
いつも揶揄って意地悪な事ばかり言ってくるし、本音をそのままぶつけて来ることが多いが、素直に心の内を明かしてくれていた方が私は安心出来る様だ。
ルシアノとの事があり、黙っていられると余計にあれこれ考えてしまい不安になってしまう。
そんな私も自分の言葉で人に何かを伝えるのは苦手な方だが、これからは思ったことはちゃんと声に出して伝えたいきたいと考えている。
裏切られたことはショックではあるが今後の為の良い教訓になった、と前向きに捉えるようにしようと思う。
前に進む為に、私は変わりたいと思うから――。
***
そして週末が訪れた。
本来は休みであったが、こんな状況なので今日も仕事があるものだと思っていた。
しかし前日にヴィムから『明日は休みだ』と告げられた。
私が驚いた顔を見せるとヴィムは盛大にため息を漏らし、『約束しただろ?』と言った。
その言葉を聞いて、出かける約束をしていたことを思い出した。
元々咄嗟に口から出てしまった口実だったため、すっかり記憶から抜けていた様だ。
「こんなに素敵な服まで用意してもらって、なんか申し訳ありませんっ……」
「いや、急に決まった事だったから気にしなくていい。それに俺の好みの服をアリーセに身に付けてもらえて、俺としても満足しているからな」
馬車に揺られながら私達はそんな会話をしていた。
ヴィムが私の為に用意してくれたのは、白いふんわりとしたワンピースだ。
白一色な為単調に見えるが、大きめのフリルが付いていて可愛らしく見える。
靴については私が歩きやすい様にと、ストラップの付いた白色のローヒールを選んでくれた。
ヴィムはシンプルな白いシャツに黒のベストを着用している。
目立つものなど何も付いていないのに素敵に見えてしまうのは、この人の魅力なのだろう。
急に王宮暮らしが始まった為、ある程度のものしか手元には無かった。
服も何着か持って来てもらったのだが、今回王都に出かけると言う事でヴィムが私の為に用意してくれた。
なるべく目立たなくするために、今日は高価な装飾類は一切身に付けていない。
王都には貴族も多く訪れるのだが、ヴィムはこの国の王子であるので何かと目立つ存在だ。
しかし本人は一々見つかって反応されるのが面倒とのこと。
だから今日はいつもと少し違う装いをしている。
だけどそれがすごく新鮮で、既に私の心はワクワクしていた。
「何を贈るのか大体は決めているのか?」
「いえ、まだ何も……」
私の言葉を聞いてヴィムは小さく笑った。
「なんですか?」
「いや、何も考えて無いと答える辺り、お前らしい返答だなと思ってな。約束すら忘れていたくらいだもんな」
私が不思議そうに問いかけると、ヴィムは呆れるように答えた。
「……っ!」
「まあ、でも最近は何かと忙しかったからな。羽を伸ばす機会としては丁度良かったのかもしれない。アリーセとこうやって王都に行くのも初めてだしな」
「そうですね、今日はめいいっぱい楽しみましょう!」
「はしゃぐ気満々といったところだな。だけど王都には悪い輩もいるから、俺の傍からは離れるなよ」
「……っ、子供扱いしないでくださいっ!」
「別に子供扱いしているつもりはないが、お前は俺の大切な婚約者だからな。心配なんだよ。今は恋人と言った方がいいか?」
私は不満そうにムッとするも、恋人と言われて急に顔の奥が熱くなっていくのを感じた。
(こ、恋人って……)
「照れてる姿は可愛らしいが、その顔は俺以外の前では見せるなよ」
「ヴィムがいきなり変なこと言うからっ……」
「別に変なことなんて何も言ってないぞ。今の俺達はお互いの気持ちが通じ合った恋人同士だろう?違うのか?」
「ち、違くはない、けどっ……」
「認めたな? 今日はデートと言う事で楽しもうな」
ヴィムは楽しそうに話していたが、私は一人でドキドキしていた。
(デートって急に言われる緊張してきた、どうしようっ……)
そんな事を考えている間に王都へと到着した。
3
お気に入りに追加
3,623
あなたにおすすめの小説
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
顔が良い妹の方が相応しいと婚約破棄したではありませんか。妹が無能だったなんて私の知ったことではありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるリフェリナは、若くして伯爵を継いだアデルバと婚約を結んでいた。
しかしある時、彼は母親とともにリフェリナと婚約破棄すると言い出した。二人は、目つきが悪いリフェリナを不服として、社交界でも人気な妹の方を求めてきたのである。
紆余曲折あったものの、リフェリナの妹は要求通りに嫁ぐことになった。
リフェリナの母親が、そう仕向けたのだ。
最初は喜んでいたアデルバ達だったが、彼らはすぐに知ることになった。
リフェリナの妹は容姿で人気はあるものの、貴族としての能力は低く、また多くの敵を有していたのである。
それによって、彼らは手痛いしっぺ返しを食らうことになるのだった。
虐げられた落ちこぼれ令嬢は、若き天才王子様に溺愛される~才能ある姉と比べられ無能扱いされていた私ですが、前世の記憶を思い出して覚醒しました~
日之影ソラ
恋愛
異能の強さで人間としての価値が決まる世界。国内でも有数の貴族に生まれた双子は、姉は才能あふれる天才で、妹は無能力者の役立たずだった。幼いころから比べられ、虐げられてきた妹リアリスは、いつしか何にも期待しないようになった。
十五歳の誕生日に突然強大な力に目覚めたリアリスだったが、前世の記憶とこれまでの経験を経て、力を隠して平穏に生きることにする。
さらに時がたち、十七歳になったリアリスは、変わらず両親や姉からは罵倒され惨めな扱いを受けていた。それでも平穏に暮らせるならと、気にしないでいた彼女だったが、とあるパーティーで運命の出会いを果たす。
異能の大天才、第六王子に力がばれてしまったリアリス。彼女の人生はどうなってしまうのか。
嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。
なつめ猫
恋愛
宮内(みやうち)莉緒(りお)は、3年生の始業式まであと一か月という所で、夜逃げをした父親の莫大な負債を背負ってしまい、婚約者と語る高槻総司という男の元で働く事になってしまう。
借金返済の為に、神社での住み込みの仕事として巫女をやらされることになるが、それは神社の神主である高槻(たかつき)総司(そうじ)の表向きの婚約者としての立場も含まれていたのであった。
本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~
日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。
そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。
ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。
身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。
様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。
何があっても関係ありません!
私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます!
『本物の恋、見つけました』の続編です。
二章から読んでも楽しめるようになっています。
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる