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21.溶かされる

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「……ベッド?」

 私はきょとんとした顔でヴィムの事を見つめていた。

「ここでも構わないけど、ベッドに移動した方がゆったり出来るんじゃないか? アリーセ、両手を俺の首に巻き付けて」
「……分かりました」

 ヴィムの言っている意味がいまいち理解出来てはいなかったが、私は言われるがままにヴィムの首に手を絡ませた。
 私が首に手を回したのを確認すると、ふわっと体が浮き上がった。

「……っ!? 私、自分で歩けますっ」

 突然抱き上げられてしまい、私は慌てる様にヴィムの方に視線を向けた。
 思った以上にヴィムとの距離が近くてドキドキしてしまう。

「遠慮しなくていい。今は俺に運ばせてくれ」
「…………」

 そんな風に言われてしまえば何も返せなくなってしまう。
 それにベッドまでの距離は然程無かった為、恥ずかしいのも少しの時間だけだろうと我慢した。
 そんな事を考えている内にあっという間にベッドに到着して、そのままゆっくりと体を下ろしてくれた。
 私はベッドの中心で仰向けに寝かされ、ヴィムは端に腰掛け私の事を見下ろしている。
 普段ここでヴィムが休んでいるのだと思うと、なんだかそれだけでドキドキしてしまう。

「また顔が真っ赤だな。一体何を考えているんだ?」

 ヴィムは優しい顔つきで私の髪を柔らかく撫でながら問いかけて来た。

「いつもここでヴィムが眠っているんだなって思って。ふかふかだし、これなら安眠出来ること間違いなしですねっ!」

 私は緊張から思わずそんな事を漏らしてしまうと、ヴィムは突然「ぷっ」と声を漏らして笑い始めた。

「な、なんですかっ!?」

 突然笑われてしまい私は動揺してしまう。

「いや、こんな状況でもアリーセらしいなと思ってな。もっと他に考える事はないのか?こんな場所に連れ込まれて、これからここで俺に何をされるのか……、とかな」
「……何をされるのかは、分かっていますっ」

 私の言葉を聞いたヴィムは僅かに目を細め、髪を撫でていた手が顔の方まで降りて来ると、今度は頬を優しく撫で始めた。

「へえ、分かっているのか。それじゃあ何をされるのか言って見て?」
「え?」

 ヴィムは口端を上げて意地悪そうに笑う。
 私が驚いた顔をした後、戸惑っていると「言って」と急かす様に耳元で囁かれる。

「やっ、耳はだめですっ」
「耳はダメか、ならば何処ならいいんだ?」

「く、唇なら……」

 私は顔を真っ赤に染めながら消えそうな程小さな声で呟いたが、その声はヴィムには届いている様だった。

「アリーセは俺とのキスは好きか?」
「……好き…かもっ」

 私が恥ずかしそうに答えるとヴィムは満足そうな顔で「そうか」と呟いた。

「それならばアリーセに満足してもらえるように沢山しようか」
「……はいっ」

 息がかかる程の距離にまでヴィムが迫って来ると、私の瞳の奥をじっと見つめながら艶のある声で囁く。
 まるで私の事を誘惑しているかのようで、私はそんな誘惑にまんまと嵌るかのように小さく頷いた。

 それから私がドキドキしながら待っていると、唇同士が重なり何度も啄む様に口付けられる。
 私の唇をヴィムの舌先が這うように滑って行ったかと思えば、食む様に挟まれ吸われて、甘い誘惑の奥へと引きずり込まれていく。

「……んっ」
「アリーセはこれで満足か?だけど、もっと気持ち良くなれるキスをしたくはないか?」

 ヴィムはゆっくりと唇を剥がすと、熱っぽい視線を送りながらそう告げて来た。

(これよりも気持ち良くなれるキスなんてあるの?)

 興奮でドキドキと胸を鳴らしながら、ヴィムの顔をじっと見つめていた。
 今の私の表情からは好奇心が滲み出ているのかもしれない。

「その顔は『したい』ってことだな?だったら少し唇を開いてもらえないか?」
「はい……」

 私はその言葉に従うように、ゆっくりと唇を薄く開かせる。
 それを見ていたヴィムは小さく笑い「いい子だ」と呟くと、再びお互いの唇が引き寄せられる様に重なった。
 最初は先程と同じ啄むような口付けだったが、直ぐに何かが違う事に気付いた。

「……っ……っんんっ!?」

 突然私の唇の隙間から熱を持ったザラりとした何かが入り込んで来たのだ。
 私は驚いて目を見開いてしまう。

(うそ、ヴィムの舌が私の中に入って来てる……?)

 入って来たのが何だったのかは直ぐに気付いたのだが、それは私の咥内で激しく動き回り、その感覚を与えられる度にゾクゾクとした快感に襲われていく。

「アリーセも俺の舌に絡ませて……」
「んんっ……っ、はぁっ……、む……りっ……」

「無理じゃない、こうやって吸われるのは……、どうだ?」
「……っ、んんんっ……!!」

 絡んでいた舌が今度は深く吸われていくと、私は目をぎゅっと閉じた。
 突然の事で息をするのを忘れてしまいそうになり、息苦しくて眉を顰めた。
 しかし私がくぐもった声を漏らし始めると直ぐに緩んでいき、再び舌を絡めとられていく。

 そんな事を繰り返していると私の咥内にはお互いの混ざり合った唾液が溜まり、だらしなく口端から垂れる様に流れていく。
 咥内に溜まった熱は顔や頭の奥、更には体中を駆け巡り全身へと伝わり火照っていくのを感じる。

(体が……熱い……)

 それから暫くして唇を解放された。
 視線の先にヴィムがいるのは分かるが、涙で視界が曇っているせいかぼやけて見える。

「はぁっ……はぁっ……」

 私は浅い呼吸を繰り返しながら、ぼんやりと映るヴィムに視線を合わせようとしていた。

「大丈夫か? 少しやり過ぎたな、すまない」

 ヴィムの声からは反省の色が窺えて、私は力なく首を横に振った。
 私は息を整える様に肩を揺らしながら、小さく笑って見せた。

 確かに先程よりも激しいキスをされて驚いてしまったが、嫌では無かった。
 ヴィムを傍で感じることが出来たし、何よりも求められていることが嬉しかった。

「どうしてそんなに嬉しそうな顔をしているんだ?」

 嬉しそうに微笑む私を見て、ヴィムが不思議そうに問いかけて来た。

「そんなに今のキスが良かったのか?」
「はいっ。さっきのキスも良かったけど、今の方がヴィムのことを近くに感じることが出来て嬉しかったです」

 どうしてなのかは分からないが、今の私には羞恥心と言うものは消えていた。
 ただこの気持ちを伝えたくて、気付けば口に出していた。

「お前……、本当に可愛いな。そんな事を言ってこれ以上俺を煽ってどうする」
「煽るって?」

「本気で分かっていないのか? ベッドに連れ込まれて、男女がする事と言えば決まっているだろう? もっとお前の肌に触れたい。どんな風にアリーセが乱れていくのかを知りたいって事だ」
「……っ……!」

 そこまで言われたらヴィムが何をしたいのか分かってしまった。
 私は困惑した瞳を揺らしながらヴィムの事を見つめていた。
 私が困った様に眉を下げているとヴィムは小さくフッと笑った。

「そんな顔をするな。いつかはそうしたいと思っているが、無理矢理奪うつもりは無いから安心していい」

 ヴィムは優しい声で答えると、私に額にそっと口付けた。

「お前はこのベッドを気に入った様だし、少し添い寝でもするか?」
「……私は、ヴィムとなら……し、したい」

 私はぽつりと呟いた。

 もう我慢して何かを諦めることなんてしたくはなかった。
 こんなにも私の事を見てくれる人なら信じてもいい、そう思った。
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