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14.突然の贈り物

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 そんなやり取りをしていると、ヴィムは不意に席を立ち上がり私の座る方へと近づいて来た。
 私はこの展開をつい最近見たばかりだったので、思わず身構えてしまった。

「どうした? そんなに驚いた顔をして」
「いえ、突然私の隣に来られたので、どうしたのかなって思いまして」

 私は笑顔を向けながら、席の間隔を空ける様に座り直した。

 ヴィムはそんな私の態度に気付いている様子だったが、敢えてその事には触れず隣へと座ると、膝の上に置かれている私の手の方へと視線を向けた。
 そして私の左手に触れると自分の方へと寄せていった。
 私はドキッとして驚いた顔でヴィムの顔を見つめていた。

「こんな場所で贈るのもどうかと思ったんだが、少しでも早くアリーセには身に付けていて欲しいからな」
「……?」

 私はその言葉の意図が分からず不思議そうな顔をしていると、ヴィムは上着のポケットから何かを取り出した。
 私はその一部始終を視線で追っていると、視界にキラキラと輝く碧い宝石が見えて、それが何なのか直ぐに気が付いた。
 それは指輪だった。

「あ、あのっ! これって……」
「ああ、婚約指輪だな」

 私が聞きたかったのはその答えでは無かった。
 どうして仮の婚約者である私にこんなものを贈ろうとするのか、と聞きたかった。
 しかしあまりに驚き過ぎて私の言葉が足りなかった様だ。

「これでも急いで用意させたんだ。これをアリーセに付けていて欲しい」
「待ってください……!」

 ヴィムが私の薬指にその指輪を嵌めようとしたところで、私は慌てて制止させた。

「嫌か?」
「ち、違います。そうじゃなくて……。私達って仮の婚約者ですよね? こんな大事な物、受け取れません!」

 私は困った顔で訴えると、ヴィムは小さく笑った。

「俺だって仮の婚約者だということは理解しているよ。だからそんなに慌てるな」
「で、でもっ……」

(こんな物を見せられて落ち着くなんて無理よ……)

「まずは落ち着け。理由もちゃんと説明するから。だからまずは深呼吸をしてみようか」
「は、はい……」

 そう言われて私は静かに深呼吸を繰り返した。

 その間も何故かヴィムは私の手を握ったままだった。
 そのせいで中々気が抜けなかったが、暫くして私が落ち着きを取り戻した所でヴィムは今回これを私に贈ろうとした理由を話してくれた。

「これをアリーセに付けていて貰う理由はいくつかあるんだ。一つは周りに疑われない為。そしてアリーセの元婚約者に俺との関係を知らしめるためだ」
「でも、あの人はもう妹の婚約者になったので安心だと思うのですが……」

「本当にそう言えるのか?妹の婚約者って事はアリーセの屋敷を自由に出入り出来る仲だと言う事だろう?」
「そうですね。だけど、元々あの人が好きだったのは妹です。だから私に手を出すなんてことはしないと思いますが……」

「そうかもしれないな。だけど俺は心配なんだ。ずっとアリーセの傍にいてやることは出来ないからな」

 ヴィムは本当に心配そうな顔をしている様に見えた。

 どうして本当の婚約者でもない私にそこまで心配をしてくれるのかは分からない。
 だけどそんな風に思ってくれていることは嬉しかった。

「安心の為にここに付けてもいいか?これがあるからと言って安全ということにはならないが、抑止力にはなるだろう?」
「たしかに……」

 私はその言葉に納得した。

 ルシアノは私がヴィムと婚約したことを知っている。
 なのでこの指輪を見ればヴィムの存在を思い出し、私に手を上げる前に行動を留めるかもしれない。
 全てを暴露したのはニコルだが、私がヴィムと婚約をしなければこんな事にはならなかったのかもしれない。
 私はルシアノに逆恨みされる可能性もあると言う事だ。
 ヴィムはそれを心配してくれているのだろう。

「分かってくれたか?」
「はい……」

 私が頷くとヴィムは私の薬指に指輪を嵌めてくれた。
 サイズを聞かれたことなんて無かった筈なのに、私の指にはぴったりと合っていた。

「すごく素敵……。ヴィムの瞳の色と同じね」
「ああ、そうだな。会えない時はこれを見て俺の事を思い出してくれると嬉しいよ」

 ヴィムはふっと優しく微笑むと、私の手を取り甲にそっと口付けた。
 口付けたまま視線が絡み、私の心臓はバクバクと激しく脈打っていた。
 そしてヴィムは僅かに口端を上げた。

「また顔が真っ赤だな。いっその事、このまま本当に俺と結婚してみる気はないか?」

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