上 下
6 / 101

6.意外な展開②

しおりを挟む
 私は渋々ルシアノを部屋に上げると、ソファーの方へと案内した。
 対面する様に座ったのだが、お互い無言のまま数秒の沈黙が流れる。

(話があるんじゃなかったの?なんで黙るのよ……)

 私はムスッとした顔でルシアノをじっと見つめていると、僅かにルシアノの口元が動いた。

「アリー、本当にごめん。僕はアリーの事を傷付けてしまったよな」
「謝罪も変な演技もいらないので、早く婚約解消を進めてくださいっ」

「ごめん、やっぱり僕は君との婚約解消は出来ない」
「……は?」

 突然の思いも寄らない言葉に、私の口からは気の抜けた声が漏れてしまう。

「あの、意味が分からないんだけど。ルシはニコルが好きなんでしょ?」
「……うん」

 私の苛立った口調に対して、ルシアノは弱弱しい声で答えた。
 まるで何かに迷っている様な態度に見えて、私の苛立ちは増していく。

「だったら悩む必要なんてないじゃない」
「そうなんだけど、ニコルが心配しているんだ。もし僕がアリーとの婚約を白紙に戻して、ニコルとの婚約を申し入れた時、プラーム夫人の心をまた追い詰めてしまうのではないかって」

「…………」

 私はその話を聞いて思わず絶句してしまった。

 ニコルは私からルシアノを奪ったら、その事で母がまた心に傷を負うのではないかと心配している様だ。
 たしかにニコルは母には相当可愛がられて育った。
 そして私は母と血の繋がった娘であるから、私が傷つく事=母が傷つく事と結び付けたのだろう。
 私は安易すぎる考えに呆れてしまった。

「お母様を傷付けない為に、私との婚約解消は出来ないと、……そういう事ですか?」
「そうなるかな」

「でも、そうなると好きでもない私と結婚することになってしまうけど、ルシはそれでいいの?」
「アリーの事は好きだよ。今でも大事に思っているし、出来ればこのまま結婚したいと考えてるくらいだ。僕はアリーとの婚約解消を望んではいないから……」

 ルシアノは私の顔を優しく見つめながら静かに答えていた。
 私にはルシアノが何を考えているのか全く理解が出来なかった。

「ちょっと待って、ルシが好きなのはニコルでしょ?」
「なんていうか、ニコルの事は放っておけないんだ。表にはあまり出さないけど、自分が養子であることをずっと気にしているみたいでね。だからたまに話を聞いたりしていたんだ」

「それでルシはニコルに手を出したの?」
「え?」

「相談するフリをしてニコルの弱みに付け入ろうとしたんでしょ?最低ね。私の妹だと分かっていたくせに。ルシが好きだなんて言わなければ、ニコルだってルシの事を好きにはならなかったかもしれない。私だってこんな気持ちにならなかった……」
「……ごめん」

 私は感情が昂り言葉が止まらなくなっていた。
 勝手な事ばかり言うルシアノに黙っていられなくなってしまった。

「ルシもニコルもお母様の心配をしている様だけど、私が傷ついていることは無視するのね」
「そんなことはないっ!僕はもう絶対にアリーを傷付けたりなんてしないから……、信じて欲しい」

「信じる? ニコルの事をさっき好きだと言ったルシの事を信じろって何? 私と結婚すればいつでもニコルに会えるし、浮気も気軽に出来るから……?」
「違うっ! そんなことは……」

「私に隠れて会っていたくせに、騙していたくせに…。そんな人の言葉なんて信じられるわけないよ。私はきっとルシの傍にいたらまた傷つく。それでもルシは私と結婚したいと言えるの?」
「……っ……」

 私が泣きそうな顔で訴えると、ルシアノは苦しそうな表情をして黙ってしまった。

「ルシっていつも都合が悪くなると黙るよね。それずるいよ。何も答えられないのなら、私との婚約は解消して。ルシなんて大嫌いっ、もう出て行って!」

 私は涙目できつく睨みつけると、ルシアノは「ごめん」とだけ言って部屋から出て行った。
 静かになった部屋で、私は悔しくて泣いてしまった。

 こんなにもどうしようもない男のことを、今まで好きだなんて思っていた自分が悔しくてたまらなかった。
 私の事なんてこれっぽっちも考えて無い事が分かってしまった。
 ルシアノにとって大切なのは妹のニコルだけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先見姫の受難 〜王女は救国の騎士から逃げ切りたい〜

クマ三郎@書籍発売中
恋愛
サルウィンの第二王女アンネリーエは、未来を見通す力を持つ【先見】の力を持って生まれ、人々から【先見の姫】と呼ばれていた。 ある日アンネリーエは、先見の力により、自分の命を狙う隣国リヴェニアの企みを知る。 そこでアンネリーエの命を救わんと手を挙げたのは、精鋭揃いと名高い第一騎士団を率いる団長ハロルド・クリューガー。 リヴェニア侵攻を提言した彼は、周囲の反対を退けるため、自分の未来を視てくれとアンネリーエに懇願する。 承諾したアンネリーエが視たものはなんと、寝台の上でハロルドに組み敷かれ、乱れ喘ぐ己の姿だった……

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

〖完結〗ヒロインちゃんは逆ハー狙いのようですから、私は婚約破棄を希望します。〜私の婚約者は隠しルートの攻略対象者〜。

つゆり 花燈
恋愛
私はどうやら逆ハーエンドのある18禁乙女ゲームの世界に転生したらしい。 そして私の婚約者はゲームの悪役令息で、かつヒロインの逆ハーが成立したら開く、隠しルートの攻略対象者だった。そして現在、肉食系ヒロインちゃんは、ガツガツと攻略対象者を喰い散らかしている真っ最中。隠しルートが開くのはもはや時間の問題みたい。 ハッピーエンドの下品系エロなラブコメです。 ※タイトル変更しました。 ※肉食系ヒロインちゃんシリーズです。 ※悪役令息な婚約者が好きすぎて、接近するとすぐに息が止まるし、過度に触れ合うと心臓発作を起こしそうになる、めちゃくちゃピュアで駄目な主人公とその駄目さを溺愛する婚約者のお話。 ※小説家になろうのムーンライトノベルズさんで日間総合、各部部門のランキング1位を頂いたお話です。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

処理中です...