64 / 68
第一章:聖女から冒険者へ
62.強い意志
しおりを挟む
「さっきの話、どう思う?」
「二人だけで、ここに来たって話かな」
ゼロは厳しい表情を浮かべ、イザナに問いかける。
「どう考えてもタイミングが良すぎだろ。たしかにあの魔術師は強いけど、護衛一人で聖女を外に出すなんて不自然だよな」
「私もそれは感じていた」
二人共、突然現れた二人のことを疑っている様子だ。
私は不安そうな顔を浮かべ、二人の会話を聞いていることしか出来ない。
「向こうの思惑は分からないけど、とりあえずここから出よう。監視下に置かれている可能性は高いけど、今はまだこちらに敵意を向ける気はなさそうだからね」
イザナの言葉にゼロも納得した様子だ。
そして場所を移動しようと歩き始めた時、入り口に見知った人物の姿が目に飛び込んでくる。
「ソフィア……?」
二人も彼女の存在に気づいたらしく、足を止めた。
ここまでくると、完全に私達の行動は監視されていたと考えるのが妥当な気がする。
(なんでここにソフィアさんがいるの……?)
私は敵の動向よりも、彼女の存在に動揺してしまう。
もう当分会うことはないと、私は勝手に安心していた。
昨日、イザナの気持ちを再確認したはずなのに、彼女の姿を見ると少し不安になる。
ソフィアは息を切らし、イザナを見つけると真っ直ぐにこちらへと近づいて来た。
「良かった、間に合った……」
「どうして、ソフィアがここに?」
さすがのイザナも少し戸惑っている様子だ。
「飛竜に乗って隣町まで行くって聞いたわ。良かったら、私も連れて行ってくれないかしら?」
「何故それを……」
「私も飛竜に乗せてもらえるようにお願いしにいったの。そうしたら先客がいるって言われて、それがイザナ達だって分かったわ。お金なら払うから、お願い出来ないかしら?」
突然の彼女の申入れに耳を疑う。
私は彼女と同行するのには当然気が進まなかったし、酷いとは思うけど断って欲しいと心の中で念じていた。
また心を乱されるのが嫌だったから。
「理由を聞かせてもらえるか?」
「ええ、勿論よ。実はこの前調べていたことで分からないことがあって、隣町に詳しい人間がいるそうなの」
「そういう理由ならば、今回は断らせてもらうよ」
「え?」
彼女の話を聞いて、イザナはきっぱりと言い放った。
その言葉に、ソフィアは信じられないといった様子で目を丸くさせている。
「急ぎの用事ではなさそうだから、別の便で頼んでもらえないかな」
「……っ、でも、行き先は一緒なんだから、別に問題は……」
「ごめん。ソフィアには助けてもらったのに悪いとは思うけど、今回は同行はさせられない。こちらにも少し事情があるんだ。分かってくれると助かる」
「…………」
イザナのいう事情がなんなのかは分からないが、ソフィアを言いくるめる理由には十分だったようだ。
そんな風に言われてしまいソフィアは少し固まっていたが、暫くすると「分かったわ」と彼の言葉を渋々受け入れた。
ティアラのように駄々を捏ねる態度を取られなくて、私は内心ほっとしている。
(良かった……)
「イザナ、もう立つの?」
「ああ、そのつもりだ」
彼女の表情はどこか寂しそうにも見えた。
そんな顔を見てしまうと、私は厄介者扱いしてしまったことに罪悪感を覚えてしまう。
「また、会えるわよね?」
「そうだな」
ソフィアの言葉に、イザナは短くそう答えると彼は私のほうに視線を向ける。
そして優しい表情を浮かべて「行こうか」と言って私の手をとってくれた。
「うんっ」
「イザナは、本当に愛妻家なのね……」
不意にソフィアと目が合うと、彼女は切なそうな表情を浮かべそんなことを呟く。
ソフィアがこの場所に現れたのは私達を監視する目的もあったかもしれないが、それだけではない気がする。
こんな表情を向けている以上、彼女がイザナに対して特別な思いを抱いていることは間違い無いだろう。
「ソフィアさん、私達はすれ違う時間も多かったんです。だけど、それがあったからこそ大事に思う気持ちも強くなった。えっと、何が言いたいかというと、……イザナのことは諦めてくださいっ!」
ティアラの時のようにはなりたくなくて、気付けば私は口を開いていた。
だけど、途中からそんなことを口にしてしまった自分に戸惑い混乱した挙句、最後は一番言いたかったことを伝える。
すると彼女は驚いた顔を浮かべていた。
(思わず口走ってしまったけど、恥ずかしいっ……!)
じわじわと顔の奥が火照っていく気がする。
言い終わった直後、繋がれている彼の掌の力が少し強くなったことを感じて、視線をイザナのほうに向けた。
彼は微笑むように私のことをみつめていて、再びドキドキしてしまう。
「私はいつだってルナのことしか見ていないよ」
イザナは私の瞳を見つめながら穏やかな声で呟くと、今度はソフィアのほうに視線を移す。
「この世界でなによりも大切な妻だ」
彼の言葉は私に安心感を与え、ソフィアには自分の気持ちは心変わりしないという主張になったのだろう。
はっきりとそれを伝えることで、変な期待を持たせることもなくなる。
きっとイザナなりに考えてくれた言葉なんだと思う。
曖昧にしないでくれたことに私は嬉しくなった。
「二人だけで、ここに来たって話かな」
ゼロは厳しい表情を浮かべ、イザナに問いかける。
「どう考えてもタイミングが良すぎだろ。たしかにあの魔術師は強いけど、護衛一人で聖女を外に出すなんて不自然だよな」
「私もそれは感じていた」
二人共、突然現れた二人のことを疑っている様子だ。
私は不安そうな顔を浮かべ、二人の会話を聞いていることしか出来ない。
「向こうの思惑は分からないけど、とりあえずここから出よう。監視下に置かれている可能性は高いけど、今はまだこちらに敵意を向ける気はなさそうだからね」
イザナの言葉にゼロも納得した様子だ。
そして場所を移動しようと歩き始めた時、入り口に見知った人物の姿が目に飛び込んでくる。
「ソフィア……?」
二人も彼女の存在に気づいたらしく、足を止めた。
ここまでくると、完全に私達の行動は監視されていたと考えるのが妥当な気がする。
(なんでここにソフィアさんがいるの……?)
私は敵の動向よりも、彼女の存在に動揺してしまう。
もう当分会うことはないと、私は勝手に安心していた。
昨日、イザナの気持ちを再確認したはずなのに、彼女の姿を見ると少し不安になる。
ソフィアは息を切らし、イザナを見つけると真っ直ぐにこちらへと近づいて来た。
「良かった、間に合った……」
「どうして、ソフィアがここに?」
さすがのイザナも少し戸惑っている様子だ。
「飛竜に乗って隣町まで行くって聞いたわ。良かったら、私も連れて行ってくれないかしら?」
「何故それを……」
「私も飛竜に乗せてもらえるようにお願いしにいったの。そうしたら先客がいるって言われて、それがイザナ達だって分かったわ。お金なら払うから、お願い出来ないかしら?」
突然の彼女の申入れに耳を疑う。
私は彼女と同行するのには当然気が進まなかったし、酷いとは思うけど断って欲しいと心の中で念じていた。
また心を乱されるのが嫌だったから。
「理由を聞かせてもらえるか?」
「ええ、勿論よ。実はこの前調べていたことで分からないことがあって、隣町に詳しい人間がいるそうなの」
「そういう理由ならば、今回は断らせてもらうよ」
「え?」
彼女の話を聞いて、イザナはきっぱりと言い放った。
その言葉に、ソフィアは信じられないといった様子で目を丸くさせている。
「急ぎの用事ではなさそうだから、別の便で頼んでもらえないかな」
「……っ、でも、行き先は一緒なんだから、別に問題は……」
「ごめん。ソフィアには助けてもらったのに悪いとは思うけど、今回は同行はさせられない。こちらにも少し事情があるんだ。分かってくれると助かる」
「…………」
イザナのいう事情がなんなのかは分からないが、ソフィアを言いくるめる理由には十分だったようだ。
そんな風に言われてしまいソフィアは少し固まっていたが、暫くすると「分かったわ」と彼の言葉を渋々受け入れた。
ティアラのように駄々を捏ねる態度を取られなくて、私は内心ほっとしている。
(良かった……)
「イザナ、もう立つの?」
「ああ、そのつもりだ」
彼女の表情はどこか寂しそうにも見えた。
そんな顔を見てしまうと、私は厄介者扱いしてしまったことに罪悪感を覚えてしまう。
「また、会えるわよね?」
「そうだな」
ソフィアの言葉に、イザナは短くそう答えると彼は私のほうに視線を向ける。
そして優しい表情を浮かべて「行こうか」と言って私の手をとってくれた。
「うんっ」
「イザナは、本当に愛妻家なのね……」
不意にソフィアと目が合うと、彼女は切なそうな表情を浮かべそんなことを呟く。
ソフィアがこの場所に現れたのは私達を監視する目的もあったかもしれないが、それだけではない気がする。
こんな表情を向けている以上、彼女がイザナに対して特別な思いを抱いていることは間違い無いだろう。
「ソフィアさん、私達はすれ違う時間も多かったんです。だけど、それがあったからこそ大事に思う気持ちも強くなった。えっと、何が言いたいかというと、……イザナのことは諦めてくださいっ!」
ティアラの時のようにはなりたくなくて、気付けば私は口を開いていた。
だけど、途中からそんなことを口にしてしまった自分に戸惑い混乱した挙句、最後は一番言いたかったことを伝える。
すると彼女は驚いた顔を浮かべていた。
(思わず口走ってしまったけど、恥ずかしいっ……!)
じわじわと顔の奥が火照っていく気がする。
言い終わった直後、繋がれている彼の掌の力が少し強くなったことを感じて、視線をイザナのほうに向けた。
彼は微笑むように私のことをみつめていて、再びドキドキしてしまう。
「私はいつだってルナのことしか見ていないよ」
イザナは私の瞳を見つめながら穏やかな声で呟くと、今度はソフィアのほうに視線を移す。
「この世界でなによりも大切な妻だ」
彼の言葉は私に安心感を与え、ソフィアには自分の気持ちは心変わりしないという主張になったのだろう。
はっきりとそれを伝えることで、変な期待を持たせることもなくなる。
きっとイザナなりに考えてくれた言葉なんだと思う。
曖昧にしないでくれたことに私は嬉しくなった。
1
お気に入りに追加
2,456
あなたにおすすめの小説
【R18】私の事が嫌いなのに執着する婚約者
京佳
恋愛
婚約者のサミュエルに冷たい態度を取られ続けているエリカは我慢の限界を迎えていた。ついにエリカはサミュエルに婚約破棄を願い出る。するとサミュエルは豹変し無理矢理エリカの純潔を奪った。
嫌われ?令嬢×こじらせヤンデレ婚約者
ゆるゆる設定
冤罪モブ令嬢とストーカー系従者の溺愛
夕日(夕日凪)
恋愛
「だからあの子……トイニに、罪を着せてしまえばいいのよ」
その日。トイニ・ケスキナルカウス子爵令嬢は、取り巻きをしているエミリー・ギャロワ公爵令嬢に、罪を着せられそうになっていることを知る。
公爵家に逆らうことはできず、このままだと身分剥奪での平民落ちは免れられないだろう。
そう考えたトイニは将来を一緒に過ごせる『平民の恋人』を作ろうとするのだが……。
お嬢様を溺愛しすぎているストーカー従者×モブ顔お嬢様。15話完結です。
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
【本編完結済】【R18】異世界でセカンドライフ~俺様エルフに拾われました~
暁月
恋愛
大槻 沙亜耶(おおつき さあや)26歳。
現世では普通の一人暮らしの社会人OL。
男女の痴情のもつれで刺殺されてしまったが、気が付くと異世界でも死にかけの状態に。
そして、拾ってくれたハイエルフのエリュシオンにより治療のためということで寝ている間に処女を奪われていた・・・?!
『帰らずの森』と呼ばれる曰く付きの場所で生活している俺様エルフのエリュシオンに助けられ、翻弄されつつも異世界ライフを精一杯楽しく生きようとするお話です。
生活するうちに色々なことに巻き込まれ、異世界での過去の記憶も思い出していきます。
基本的に俺様エルフに美味しくいただかれています←
【2021/5/19追記】
乙女ゲームとざまぁ要素は4章まで、それ以降は主人公とゆかいな仲間達の波乱万丈な旅行から始まるお話です。
本編は完結しましたが、書ききれなかったその後のお話や番外編などを更新するかも。
宜しければ、そちらもお楽しみください(๑ ˊ͈ ᐞ ˋ͈ )
--------------------------------------
※ムーンライトノベルスでも掲載しています。
※R-18要素のある話には「*」がついています
※書きたいものを思うまま書いている初心者です。
※初めての長編でつたないところが多々あると思います。温かい目で見てくださるとうれしいです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛されない王妃
たろ
恋愛
フォード王国の国王であるカリクシード・フォードの妻になったジュリエット・ベリーナ侯爵令嬢。
前国王の王命ではあるが、ジュリエットは幼い頃の初恋の相手であるカリクシードとの結婚を内心喜び、嫁ぐことになった。
しかし結婚してみればカリクシードにはもうすでに愛する女性がいた。
その女性はクリシア・ランジェル元伯爵令嬢。ある罪で父親が廃爵され今は平民となった女性で、カリクシードと結婚することは叶わず、父である前国王がジュリエットとの結婚を強引に勧めたのだった。
そしてすぐにハワー帝国に正妃であるジュリエットがカリクシードの妹のマリーナの代わりに人質として行くことになった。
皇帝であるベルナンドは聡明で美しい誇り高きジュリエットに惹かれ何度も自分のものにならないかと乞う。
だがベルナンドに対して首を縦に振ることはなかった。
一年後祖国に帰ることになった、ジュリエット。
そこにはジュリエットの居場所はなかった。
それでも愛するカリクシードのために耐えながら正妃として頑張ろうとするジュリエット。
彼女に味方する者はこの王宮にはあまりにも数少なく、謂れのない罪を着せられ追い込まれていくジュリエットに手を差し伸べるのはベルナンドだった。
少しずつ妻であるジュリエットへ愛を移すカリクシードと人妻ではあるけど一途にジュリエットを愛するベルナンド。
最後にジュリエットが選ぶのは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる