上 下
52 / 68
第一章:聖女から冒険者へ

51.ジースの街②

しおりを挟む
「じゃあ、今日はイザナにくっついてる」

 私が恥ずかしそうにもじもじしながら答えると、イザナは優しい顔で微笑んでいた。
 イザナと夫婦らしく接する耐性は付いて来ているとは思うけど、人前だと周りの目がどうしても気になり変に緊張してしまう。
 慣れるまでには、まだ時間がかかりそうだ。

 その後少し街を歩いていると、開店しているお店を見つけ中に入ることにした。

 ***

 お店の中には大きな暖炉があり、室内がとても暖かくなっていて私は思わず顔を綻ばせていた。
 店内は木目調で作られた建物で温かみを感じる、とても雰囲気の良いお店だった。

「ルナ、ここに座ろうか」
「うんっ」

 イザナの言葉に促されて席に座ると、メニュー表を眺めていた。

(どれも知らない名前の料理ばっかだ。温かいものが食べたいけど、辛くないのが良いな……)

 私がメニュー表と睨めっこしていると、そんな様子を眺めていたイザナと目が合った。

「すごく真剣に悩んでいるみたいだけど、メニューを見ても分からないんじゃない? 私がルナが好きそうな料理を頼んであげるよ」
「……っ、ありがとう。見た事ない名前ばっかで、良く分かんなかったんだ」

 イザナに任せれば間違いないと分かっていたので、私はほっとしていた。
 最初から聞けば良いんだろうけど、どんな料理があるのか見てみたかった。
 結局見ても文字しか書かれていないので、どんなものか良く分からなかった訳だけど。

 その後イザナが料理をいくつか注文してくれた。
 店内には数人の客がいて、見た感じ冒険者風の服装を着ていた。

(そういえば、街中でも結構冒険者風の格好の人多かったな……)

「ねえ、イザナ。この街にもギルドってあるの?」
「うん、あるよ。ジースは結構大きい街だし、冒険者も多く訪れるからね。特に魔術師に特化した者が多くて、昨日ルナが会ったフィル・バーレのように有名な魔術師が訪れる事もあるし、S級冒険者がいる事も珍しくないよ。だから、依頼内容も結構難易度が高いものが用意されているはずだよ」

(ここってそんなすごい人達がいっぱい来るんだ。さすが聖地ってだけあるな……)

「そうなんだ。じゃあ、この辺の魔物って強い敵が多いの?」
「うーん、そうだね。場所にも寄るかな。上位ランク向けの討伐依頼は、場所が離れていたりすることはザラだし。この地方という訳じゃなくて、ここに上位ランクの冒険者が多く集まるから、誰も受けられない依頼が回って来るって考えた方がいいかもしれないね。この辺の敵はシーライズと比べたら大分強いとは思うけど、ルナの実力なら問題ないんじゃないかな」

 私はこの前やっと初心者ランクのFからEに上がったばかりだ。
 簡単な依頼をいくら受けても、中々ランクが上がらないことは理解している。
 イザナの話を聞く限り、この辺の敵は強いようなので依頼を受けたらきっとまたランクアップが出来るかもしれない。
 イザナもゼロもSランクなので、私も早く二人に追いつきたかった。
 勿論、聖女としてではなく、一冒険者として。

「後でギルドに寄ってみようか。依頼は受けないにしても、雰囲気だけ覗いて見るのもいいかもしれないからね。受けるのはゼロがいる時にしようか」
「うんっ」

 そんな話をしていると、テーブルの上に料理が運ばれてきた。
 私の目の前に置かれたのは蜂蜜がたっぷりかかった、ふわふわのパンケーキで、端にはフルーツとクリームが添えられている。
 そしてホットドリンクは、柑橘系の爽やかな匂いが漂っていた。

「うわぁ、おいしそうっ……」
「ルナなら絶対にそれかなって思って頼んだけど、その反応を見る限り間違いなかったようだね」

 私が嬉しそうに顔を綻ばせていると、イザナは満足そうにその様子を眺めていた。
 ちなみに彼はホットコーヒーと、焼き立てのパンとスープが付いた朝食メニューを選んでいた。

「うんっ! イザナ、ありがとう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】私の事が嫌いなのに執着する婚約者

京佳
恋愛
婚約者のサミュエルに冷たい態度を取られ続けているエリカは我慢の限界を迎えていた。ついにエリカはサミュエルに婚約破棄を願い出る。するとサミュエルは豹変し無理矢理エリカの純潔を奪った。 嫌われ?令嬢×こじらせヤンデレ婚約者 ゆるゆる設定

冤罪モブ令嬢とストーカー系従者の溺愛

夕日(夕日凪)
恋愛
「だからあの子……トイニに、罪を着せてしまえばいいのよ」 その日。トイニ・ケスキナルカウス子爵令嬢は、取り巻きをしているエミリー・ギャロワ公爵令嬢に、罪を着せられそうになっていることを知る。 公爵家に逆らうことはできず、このままだと身分剥奪での平民落ちは免れられないだろう。 そう考えたトイニは将来を一緒に過ごせる『平民の恋人』を作ろうとするのだが……。 お嬢様を溺愛しすぎているストーカー従者×モブ顔お嬢様。15話完結です。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

最愛の人は別の女性を愛しています

杉本凪咲
恋愛
王子の正妃に選ばれた私。 しかし王子は別の女性に惚れたようで……

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【本編完結済】【R18】異世界でセカンドライフ~俺様エルフに拾われました~

暁月
恋愛
大槻 沙亜耶(おおつき さあや)26歳。 現世では普通の一人暮らしの社会人OL。 男女の痴情のもつれで刺殺されてしまったが、気が付くと異世界でも死にかけの状態に。 そして、拾ってくれたハイエルフのエリュシオンにより治療のためということで寝ている間に処女を奪われていた・・・?! 『帰らずの森』と呼ばれる曰く付きの場所で生活している俺様エルフのエリュシオンに助けられ、翻弄されつつも異世界ライフを精一杯楽しく生きようとするお話です。 生活するうちに色々なことに巻き込まれ、異世界での過去の記憶も思い出していきます。 基本的に俺様エルフに美味しくいただかれています← 【2021/5/19追記】 乙女ゲームとざまぁ要素は4章まで、それ以降は主人公とゆかいな仲間達の波乱万丈な旅行から始まるお話です。 本編は完結しましたが、書ききれなかったその後のお話や番外編などを更新するかも。 宜しければ、そちらもお楽しみください(๑ ˊ͈ ᐞ ˋ͈ ) -------------------------------------- ※ムーンライトノベルスでも掲載しています。 ※R-18要素のある話には「*」がついています ※書きたいものを思うまま書いている初心者です。 ※初めての長編でつたないところが多々あると思います。温かい目で見てくださるとうれしいです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛されない王妃

たろ
恋愛
フォード王国の国王であるカリクシード・フォードの妻になったジュリエット・ベリーナ侯爵令嬢。 前国王の王命ではあるが、ジュリエットは幼い頃の初恋の相手であるカリクシードとの結婚を内心喜び、嫁ぐことになった。 しかし結婚してみればカリクシードにはもうすでに愛する女性がいた。 その女性はクリシア・ランジェル元伯爵令嬢。ある罪で父親が廃爵され今は平民となった女性で、カリクシードと結婚することは叶わず、父である前国王がジュリエットとの結婚を強引に勧めたのだった。 そしてすぐにハワー帝国に正妃であるジュリエットがカリクシードの妹のマリーナの代わりに人質として行くことになった。 皇帝であるベルナンドは聡明で美しい誇り高きジュリエットに惹かれ何度も自分のものにならないかと乞う。 だがベルナンドに対して首を縦に振ることはなかった。 一年後祖国に帰ることになった、ジュリエット。 そこにはジュリエットの居場所はなかった。 それでも愛するカリクシードのために耐えながら正妃として頑張ろうとするジュリエット。 彼女に味方する者はこの王宮にはあまりにも数少なく、謂れのない罪を着せられ追い込まれていくジュリエットに手を差し伸べるのはベルナンドだった。 少しずつ妻であるジュリエットへ愛を移すカリクシードと人妻ではあるけど一途にジュリエットを愛するベルナンド。 最後にジュリエットが選ぶのは。

処理中です...