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35.脱出計画②

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 まだ時間はあるし王都で何か買って、マテリアを作るなんてどうだろうかとは考えたが、高価な物であるため私の所持金では恐らく買う事は出来ないだろう。
 装備品のおかげで強くなったし、魔物を狩りまくって魔石を集めるという方法も考えたが、そんなことをしている時間は私にはない。

 ため息に混ざるように、突然ぐぅと私のお腹が鳴った。
 こんな時に情けない音が響き、私は思わず苦笑した。
 考えて見れば今日は色々なことが起こり、一日何も食べてないことに気付いた。

「お腹空いたな……」

 テーブルの上にはクリストフが用意した果物や軽食が置かれている。
 しかし中に変なものが入っているのでは無いかと警戒し、敢えて避けていたがお腹が好いているため、手を伸ばしてしまう。
 そんな時、脇に果物ナイフが置かれていることに気付いた。
 私はなんとなくそれを手に取ってみる。

「何の変哲も無い果物ナイフ……だよね。簡単な武器にはなりそうだし、これも貰っていこう」

 私はそんなことを思いながら、いつもの癖で鑑定をしてみた。
 するとさすが王族と言うべきなのか、これもかなり良い素材でつくられた品だった。
 これには一つマテリアを装着出来るようだ。

「うわ、こんな物にもマテリアを入れられるの!? お金の無駄遣いとしか思えない……」

 庶民である私には到底理解出来なかったが、初級マテリアが一つ余っていることを思い出し早速セットさせた。
 初級なので大した効果は期待出来ないが、無いよりはマシだろう。

 その後も色々と考えを巡らせていたが、これ以上良い方法は思いつかなかったことと、空腹に気を削がれてしまったため、深夜の内にここから出て行くことを決心した。

 私はアイテムボックスからローブを取り出すと、目立たないように着用した。
 あの時、ゼフィルに見つかってしまったのは、これを身に付けていなかったためだろう。
 聖女一行が王都へ帰ったと言う話しを聞いて、油断してしまったのが原因だった。

(だけど、いつ私がいるってバレたんだろう……)

 ゼフィルの協力者はクリストフだと思っていたが、腑に落ちない部分も感じてしまう。 
 もし二人の内どちらかが鑑定スキル持ちだったとしたら疾うに私達の正体はバレていたはずだ。
 
(私が知っている人だとザイールさんくらいだけど、さすがにザイールさんが協力者ってことはないよね)

 そんなことを考えていると、以前彼のステータスを覗いた時に書かれていた『呪い』という文字が頭に思い浮かぶ。
 
「あの呪いって結局のところなんだったんだろう」

 ユーリの話だと、ザイールはアルヴァール帝国に仕えていたと言っていた。
 そうなれば彼の弟マルセルやゼフィルとも当然顔見知りなはずだ。
 あまり深いところまで聞いたわけでは無いので、二人とザイールがどんな位置関係であったのかはさすがに分からない。
 だけどそんなことを考え始めると、妙な胸騒ぎを感じてしまう。

「まさか、ザイールさんが協力者……? そうであったら、すぐに私達を突き出すことだって出来たはずだし、さすがに考えすぎ、かな」

 私は顔を横に振って今の考えをやめることにした。
 良くしてくれた人間を疑うのは心苦しいものだ。
 明確な証拠がない以上、余計なことを考えるのは今はやめることにした。

 私は窓の扉を開けて、窓枠に足を乗せた。
 先程まで深い闇に包まれていたが、遠くから朝日が昇ろうとしているため徐々に明るさを取り戻し始めている。
 明るくなれば浮遊していたとしても、見つかるリスクは高くなる。
 この闇に紛れるように抜け出せば、誰にも気付かれること無くこの場から立ち去れるはずだ。
 飛び立つなら今しか無い。

 そう思っているのだが、つい下を覗いてしまうと、恐怖心から足下が竦んでしまう。
 今の私は浮遊が出来るはずなので、落ちることは無いと思っていても恐怖心はどうしても感じてしまうようだ。
 しかし、いつまでもここにいては埒が明かないと思い、深く深呼吸をした後覚悟を決めた。

「よし……、行こう。私には目的があるのだから……」

 決意をして、神経を集中させる。
 私は魔法を使ったことが無いので、最初はやり方が良く分からなかった。
 だけど頭の中で飛ぶことを思い浮かべると、体がふわっと浮き上がる。 
 恐怖心を抑えながら、意識を続けていき足を離した。

(落ちない、絶対に落ちないっ!)

 そんなことを思いながら空を浮遊していく。
 なるべく地面に視線を向けないように、前だけを見て飛び続けていくと、王宮から難なく離れることが出来た。
 そしてまだ静かな王都内に入り、人目に付かない路地裏にゆっくりと着地した。

「……なんとか、抜け出せた」

 地に足が付くと、ずるずるとその場に座り込んでしまった。
 第一の目標が無事に完遂出来たことに、安心したら体から力が抜けていってしまったようだ。

「とりあえずお腹も空いたし、まずは何か食事をしたいな……」

 私はそう思い、街中を歩き始めた。
 ここには二ヶ月ほど滞在していたこともあり、ある程度街については詳しかったりする。
 朝早くから開けている食堂も知っていたため、そこに入ることにした。
 お腹が空いていては、上手く動くことも出来ないはずだ。
 それに人が少ない間に済ませてしまった方が安全でもある。
 日中はなるべく人目に付かない場所で過ごした方が良い。
 私が王宮からいなくなったことに気付かれれば、王都に捜索隊が出される可能性もあるからだ。
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