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31.これからのこと
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あれから二週間程が経った。
最初の三日間は部屋の中でユーリとお喋りをしながら過ごしていたのだが、さすがにどこにも出かけずにいると少し退屈に思えてきてしまうものだ。
そこでフードを被って外に買い物に出たりもしていた。
ユーリは隠蔽魔法を使っているので正体がバレる確率は極めて低いが、私は顔を知られてしまっているため、彼のようにはいかなかった。
以前ユーリが教えてくれた、髪の色を変えられるアイテムを使えばいいのだが、それは結構な値が張るものだった。
それだけなら良かったのだが、効果が発動している間は微量の魔力が必要になるそうだ。
魔力を持たない人間には使えないということだ。
値段が高かったのは、貴族向けに売られているという理由からだった。
分かりやすいと言われたら、そうなのかもしれない。
この世界は魔力が扱える者に優遇され過ぎていて、不公平感が色濃く出ているように思えてしまう。
魔力を持たない人間でも、暮らしやすいような世界になればいいと思ってしまうのは、私がそちら側の人間だからなのだろう。
そんなことで髪色を変えることは諦めて、フードを深く被り街を散策することになった。
考え方を変えてみれば、お忍び気分を味わえて意外と楽しめた。
少しのスリルと穏やかな日常を送っていたのだが、ある日ギルドに顔を出すとザイールに呼び止められた。
以前ユーリが送った文の返信が届いたとのことだ。
今は住所がないため、ザイールに頼んで手紙がこのギルドに届くようにしてもらったようだ。
手紙を受け取ると、私達は奥にある部屋を借りた。
ユーリは封を切り中身を確認し始めた。
私は人の手紙を勝手に覗くのは悪いと思い、暫くの間ぼーっと意味もなく辺りを見渡していた。
それから暫くするとユーリは「セラ」と私の名前を呼んできたので、顔を横へと傾けた。
「私は一度アルヴァールに帰ろうと思う。今の事態を把握するためには、自分の目で見るのが一番だからな。それに手紙によれば暫くの間、弟達はこの地に滞在するようだから、動くのには今が一番良いタイミングなのだと思う」
「そっか。ユーリが決めたことなら私も従いますっ」
彼がどんな思いでその決断に至ったのかは分からないが、今のままでは進展はないし、やっと先に進めるのだと思うと少しほっとしていた。
いつまでも隠れるように生きていくのは少し不便さを感じていたからだ。
「ありがとう。その言葉を聞いてほっとした」
「ユーリの国か……。ちょっと楽しみです。落ち着いたら街を案内してくれますか?」
彼は「勿論だ」と直ぐに返してくれたので、私は嬉しそうに微笑んだ。
「魔力を今使えないのなら、移動はどうするんですか?」
「この街からなら、定期的に出ている馬車を使うのが楽かもしれないな。それでも結構な距離はあるから、到着までには約一ヶ月程はかかりそうだが」
「そんなに遠いんですか?」
「途中街で休んだりしながらの移動になるから、それくらいが妥当だと考えた。セラに無理はさせたくないからな」
「急いでいるのなら、休憩は少しでも大丈夫ですよ。少しくらいなら頑張れると思うし……」
「それは私が嫌だな」
私焦って答えると、ユーリは不満そうな声で呟いた。
「セラには私の事情に付き合って貰うのだから、無理なんてさせられない。のんびりと旅をしながら行くのも悪くはないんじゃないのか? お前はこの世界について、まだ知らないことだらけだと思うし」
「私は嬉しいですが、ユーリはそれでもいいんですか? この間にも世界が危険な方向に進んでいく可能性だって……」
「実はな、その可能性はほぼなくなった」
「なくなった……?」
私はユーリの言っていることが良く分からず眉を寄せた。
「詳しい事情は分からないが、我が国の封印がある日突然強化されたようなんだ」
「それって……」
「手紙には一週間前と書かれてあるが、私が手紙を書いてから約二週間後に戻ってきたことを考えれば、二週間前と考えるのが妥当だな。その時期と言えば私がセラと出会ったことと、弟がカレンと呼ばれる聖女に出会った時期と重なる」
その話を聞き終わると、私の胸はバクバクと高鳴っていた。
私が一番恐れていたことが、完全に選択肢からは消されたからだ。
恐れていたことというのは、勇者一族であるユーリと、聖女に選ばれたカレンが結ばれること。
二週間くらい前に一度だけ姿を見たことはあったが、あの程度のすれ違いで出会ったことにはならないはずだ。
そうなってくるとカレンにとっての相手は、ユーリではなく弟ということになる。
(良かった……。もうユーリを奪われるかも知れない恐怖に怯えることはないんだね)
心は疾うに繋がっていたが、運命というものは時にして残酷な結果を齎すことがある。
だから完全には安心しきれていなかった。
それが今のユーリの言葉で、完全に証明されたのだ。
「どうした? なんとも言えない顔をしているようだが」
「ううん、なんでもないっ!」
私は顔を横に振って嬉しそうに答えた。
ユーリは訝しげな顔をしていたが、話を続けていく。
「理由は後でじっくり聞かせて貰うとして、話の続きをさせてもらうな」
「は、はいっ」
(じっくりって……、聞かれても困るんだけどっ……)
私は一人で百面相を繰り広げていたが、ユーリは話を続けていく。
「とりあえず封印の威力が戻りつつあるようだから、急ぐ必要なはくなったと言うことだな。だけど実際にどのような変化が起きているのかを、自分の目で確認しておきたい。それによっては今後の身の振り方も変わってくるだろうからな」
「身の振り方って、皇太子の座を弟さんに譲るってことですか?」
「国のためにそうするのが良いのだと判断出来れば、私はそれでも構わないと思っている」
「悔しいとか思わないんですか?」
私は彼がどのように育ってきたのかは分からない。
だけど皇太子と呼ばれる程なのだから、私には想像出来ない程の苦悩や困難を乗り越えてきたに違いない。
私の問いかけに彼は少し考えたような素振りを見せたが、その後小さく笑った。
「別に悔しいという気持ちはないな。そう思えるのはセラとの出会いがあったからこそなんだとは思うが」
「……っ」
ユーリは優しく微笑みながら私の頬にそっと掌を重ねた。
「セラのためだけに生きていくのも悪くないと思っているくらいだからな」
「……っ」
ユーリは優しく微笑みながら、穏やかな表情を私に向けていた。
それを見ていると、ドキドキして顔の奥が熱くなっていくのを感じてしまう。
大好きな人に、そんなことを言って貰えるなんて嬉しいに決まっている。
「随分と嬉しそうな顔だな」
「だって……」
「だって、なに? その続きを聞かせてくれ」
「分かっているくせにっ!」
私は照れ隠しのために、ムッとした顔をユーリに向けていた。
だけど私の気持ちなど、疾うに彼には全て伝わってしまっているのだろう。
今の私の顔が全てを物語っているのだから。
「それも後でじっくり聞かせて貰うか」
「……っ!!」
「そうと決まればこの街を出る準備を始めるか。多少長旅にはなるはずだから、必要なものはここで揃えていこう。今日この後買い出しをして明日には出発で構わないか?」
「はいっ! ユーリとの冒険旅行、楽しそう」
「冒険旅行か。確かに間違ってはいないな。セラは良いことを言うな。おかげで私まで楽しい気分になれそうだ」
そんなことで突然ではあるが、明日にはこのラーズを立つことに決まった。
最初の三日間は部屋の中でユーリとお喋りをしながら過ごしていたのだが、さすがにどこにも出かけずにいると少し退屈に思えてきてしまうものだ。
そこでフードを被って外に買い物に出たりもしていた。
ユーリは隠蔽魔法を使っているので正体がバレる確率は極めて低いが、私は顔を知られてしまっているため、彼のようにはいかなかった。
以前ユーリが教えてくれた、髪の色を変えられるアイテムを使えばいいのだが、それは結構な値が張るものだった。
それだけなら良かったのだが、効果が発動している間は微量の魔力が必要になるそうだ。
魔力を持たない人間には使えないということだ。
値段が高かったのは、貴族向けに売られているという理由からだった。
分かりやすいと言われたら、そうなのかもしれない。
この世界は魔力が扱える者に優遇され過ぎていて、不公平感が色濃く出ているように思えてしまう。
魔力を持たない人間でも、暮らしやすいような世界になればいいと思ってしまうのは、私がそちら側の人間だからなのだろう。
そんなことで髪色を変えることは諦めて、フードを深く被り街を散策することになった。
考え方を変えてみれば、お忍び気分を味わえて意外と楽しめた。
少しのスリルと穏やかな日常を送っていたのだが、ある日ギルドに顔を出すとザイールに呼び止められた。
以前ユーリが送った文の返信が届いたとのことだ。
今は住所がないため、ザイールに頼んで手紙がこのギルドに届くようにしてもらったようだ。
手紙を受け取ると、私達は奥にある部屋を借りた。
ユーリは封を切り中身を確認し始めた。
私は人の手紙を勝手に覗くのは悪いと思い、暫くの間ぼーっと意味もなく辺りを見渡していた。
それから暫くするとユーリは「セラ」と私の名前を呼んできたので、顔を横へと傾けた。
「私は一度アルヴァールに帰ろうと思う。今の事態を把握するためには、自分の目で見るのが一番だからな。それに手紙によれば暫くの間、弟達はこの地に滞在するようだから、動くのには今が一番良いタイミングなのだと思う」
「そっか。ユーリが決めたことなら私も従いますっ」
彼がどんな思いでその決断に至ったのかは分からないが、今のままでは進展はないし、やっと先に進めるのだと思うと少しほっとしていた。
いつまでも隠れるように生きていくのは少し不便さを感じていたからだ。
「ありがとう。その言葉を聞いてほっとした」
「ユーリの国か……。ちょっと楽しみです。落ち着いたら街を案内してくれますか?」
彼は「勿論だ」と直ぐに返してくれたので、私は嬉しそうに微笑んだ。
「魔力を今使えないのなら、移動はどうするんですか?」
「この街からなら、定期的に出ている馬車を使うのが楽かもしれないな。それでも結構な距離はあるから、到着までには約一ヶ月程はかかりそうだが」
「そんなに遠いんですか?」
「途中街で休んだりしながらの移動になるから、それくらいが妥当だと考えた。セラに無理はさせたくないからな」
「急いでいるのなら、休憩は少しでも大丈夫ですよ。少しくらいなら頑張れると思うし……」
「それは私が嫌だな」
私焦って答えると、ユーリは不満そうな声で呟いた。
「セラには私の事情に付き合って貰うのだから、無理なんてさせられない。のんびりと旅をしながら行くのも悪くはないんじゃないのか? お前はこの世界について、まだ知らないことだらけだと思うし」
「私は嬉しいですが、ユーリはそれでもいいんですか? この間にも世界が危険な方向に進んでいく可能性だって……」
「実はな、その可能性はほぼなくなった」
「なくなった……?」
私はユーリの言っていることが良く分からず眉を寄せた。
「詳しい事情は分からないが、我が国の封印がある日突然強化されたようなんだ」
「それって……」
「手紙には一週間前と書かれてあるが、私が手紙を書いてから約二週間後に戻ってきたことを考えれば、二週間前と考えるのが妥当だな。その時期と言えば私がセラと出会ったことと、弟がカレンと呼ばれる聖女に出会った時期と重なる」
その話を聞き終わると、私の胸はバクバクと高鳴っていた。
私が一番恐れていたことが、完全に選択肢からは消されたからだ。
恐れていたことというのは、勇者一族であるユーリと、聖女に選ばれたカレンが結ばれること。
二週間くらい前に一度だけ姿を見たことはあったが、あの程度のすれ違いで出会ったことにはならないはずだ。
そうなってくるとカレンにとっての相手は、ユーリではなく弟ということになる。
(良かった……。もうユーリを奪われるかも知れない恐怖に怯えることはないんだね)
心は疾うに繋がっていたが、運命というものは時にして残酷な結果を齎すことがある。
だから完全には安心しきれていなかった。
それが今のユーリの言葉で、完全に証明されたのだ。
「どうした? なんとも言えない顔をしているようだが」
「ううん、なんでもないっ!」
私は顔を横に振って嬉しそうに答えた。
ユーリは訝しげな顔をしていたが、話を続けていく。
「理由は後でじっくり聞かせて貰うとして、話の続きをさせてもらうな」
「は、はいっ」
(じっくりって……、聞かれても困るんだけどっ……)
私は一人で百面相を繰り広げていたが、ユーリは話を続けていく。
「とりあえず封印の威力が戻りつつあるようだから、急ぐ必要なはくなったと言うことだな。だけど実際にどのような変化が起きているのかを、自分の目で確認しておきたい。それによっては今後の身の振り方も変わってくるだろうからな」
「身の振り方って、皇太子の座を弟さんに譲るってことですか?」
「国のためにそうするのが良いのだと判断出来れば、私はそれでも構わないと思っている」
「悔しいとか思わないんですか?」
私は彼がどのように育ってきたのかは分からない。
だけど皇太子と呼ばれる程なのだから、私には想像出来ない程の苦悩や困難を乗り越えてきたに違いない。
私の問いかけに彼は少し考えたような素振りを見せたが、その後小さく笑った。
「別に悔しいという気持ちはないな。そう思えるのはセラとの出会いがあったからこそなんだとは思うが」
「……っ」
ユーリは優しく微笑みながら私の頬にそっと掌を重ねた。
「セラのためだけに生きていくのも悪くないと思っているくらいだからな」
「……っ」
ユーリは優しく微笑みながら、穏やかな表情を私に向けていた。
それを見ていると、ドキドキして顔の奥が熱くなっていくのを感じてしまう。
大好きな人に、そんなことを言って貰えるなんて嬉しいに決まっている。
「随分と嬉しそうな顔だな」
「だって……」
「だって、なに? その続きを聞かせてくれ」
「分かっているくせにっ!」
私は照れ隠しのために、ムッとした顔をユーリに向けていた。
だけど私の気持ちなど、疾うに彼には全て伝わってしまっているのだろう。
今の私の顔が全てを物語っているのだから。
「それも後でじっくり聞かせて貰うか」
「……っ!!」
「そうと決まればこの街を出る準備を始めるか。多少長旅にはなるはずだから、必要なものはここで揃えていこう。今日この後買い出しをして明日には出発で構わないか?」
「はいっ! ユーリとの冒険旅行、楽しそう」
「冒険旅行か。確かに間違ってはいないな。セラは良いことを言うな。おかげで私まで楽しい気分になれそうだ」
そんなことで突然ではあるが、明日にはこのラーズを立つことに決まった。
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