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24.誤解③

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 あれから暫くするとユーリはザイールを連れて部屋に戻ってきた。
 その頃には私の心も大分落ち着きを取り戻していた。

 私は戻ってきた二人に自分が聖女で無いことを改めて伝え、本物の聖女についても出来る限り話した。
 この世界に来て誰にも話さなかったことを伝えると、胸のつかえがとれたようで少しだけ心がすっきりとしたような気がする。
 だけど私は自分の能力については伝えていない。
 これを伝えたら、変に誤解されたり期待される可能性があるからだ。
 ユーリにはいずれこのことを話してもいいと思っているが、現時点では黙っておくことにした。

「私が勘違いをしたばっかりに混乱させてしまったな。だけど聖女の情報は助かる。セラ、話してくれてありがとう」
「はい……、お役に立てたなら良かったです」

 ユーリは戻って来てからずっと私の手を握ってくれている。
 そのおかげで私は落ち着いて話すことが出来たのかも知れない。

「セラさん、本当に気の毒でしたね。バルムートで召喚されなければ、聖女でなかったとしてもこんな酷い扱いはされなかったはずだ。アルヴァールではこれまでに何度も召喚の儀を行ってきましたが、このような非礼な扱いは絶対にしていないと思います。そんなことをしたら罰当たりと蔑まれ、最悪極刑になりますから」

 ザイールは呆れた様な口調で答えた。
 国によって扱い方は様々ということなのだろうか。

(召喚の儀って、私みたいに異世界から召喚したってこと……?)

「たしかにそうだな。我が国では聖女という存在は、神に近い神聖な存在だと教えられているからな。聖女でなくとも異界から来た人間は特別な力や知識を持っている者が殆どだ」

「もしかして、シャワーも……?」
「ああ、そうだ。あれを発明したのもの異世界人だと聞いている」

(……やっぱり)

 先程は他のことに気を捉えていて大して気にしていなかったが、やはり過去には私と同じように召喚された者達がいるようだ。
 私は平民として今まで生活していたので気付かなかっただけで、この世界には私の知る便利なものが色々と溢れているのかもしれない。

「ユーリの国では、聖女以外を召喚したことはあるんですか?」
「昔の文献には、複数同時に召喚されたこともあったと記されていたな」

 過去に同じことが起こっていると聞くと、少し安心する。
 何度も召喚しているアルヴァールならば、帰る方法も知っているのかも知れない。
 だけど、私はその方法を聞かなかった。
 元の世界に帰るということは、ユーリとはもう会えなくなってしまうということを意味しているからだ。

(乗りかかった船だし、安心出来るまでは見届けたい……)

 心の中で理由を見つけるように、自分自身に向けて呟いた。
 だけど本当の理由は、彼と離れたくない。
 その気持ちに尽きるのだと思う。

「ザイール、話はこれくらいで構わないか?」
「はい。ユーリウス様は暫くこちらに滞在されるのですよね?」

「ああ、そのつもりだ。ある程度状況を把握してからでないと、動くに動けないからな」
「たしかに。それならばこちらに何か情報が入りましたら直ぐにお伝えしますね」

「そうしてくれると助かる。分かっているとは思うが、今話したことは他言無用で頼む」
「勿論です」

 話し終えるとユーリはソファーから立ち上がった。
 そして「行こうか」と告げると、私の前に手を差し出してくれた。
 私は嬉しそうな声で「はいっ」と答えて、ユーリの手を握った。

「それでは失礼させてもらう」
「セラさん。ユーリウス様とのデート、楽しんで来てくださいね」

 私が立ち上がるとザイールと目が合った。
 するとにっこりと微笑みながらそんなことを言われて、私は顔を赤く染めてしまう。

「本当に可愛らしい方だ」
「ザイール、セラは私のものだぞ」

(私のもの……)

 ザイールとのやり取りを見ていたユーリは、不満そうな声で呟いた。 
 まるで妬いているみたいに聞こえて、更にドキドキしてしまう。

「はは、私はただ見たままを呟いただけですよ。こんな姿のユーリウス様を見れるなんて」
「……もういい。セラ、行くぞ」
「は、はいっ……」

 ユーリは私の手を引いて歩き出した。

(そうだ、ザイールさんの鑑定忘れてた……)

 私は慌てるようにザイールの方に視線を向けると、彼は微笑ましい顔でこちらを見つめていた。
 私は愛想笑いを見せて誤魔化しながら、意識を集中させて彼のステータスを確認した。
 歩いていたので、見えたのはほんの数秒だけだった。
 本当にさらりとしか見えなかったが、能力はかなり高かった。
 さすが元S級冒険者と言ったところだ。
 そして慌てていたので一瞬しか見れなかったが、画面には『呪い』という文字が書かれていた。

(呪いって……)

「セラ、何をしている。そんな歩き方をしていると転ぶぞ」
「あ、ごめんなさいっ」

 私は戸惑いながらザイールに向けて小さく会釈をすると、ユーリに連れられるままに部屋から出て行った。

(さっきの呪いってなんだったんだろう。次に会った時はちゃんと確認しよう)

 ザイール自身が呪いにかけられているのか、それとも呪いのスキルを持っているのかは分からなかった。
 苦しんでいる様子は全く感じなかったので、恐らくは後者なのだろう。
 ギルドに行けば直ぐに会うことは出来るだろうし、その時に確認すればいいと思い然程気にはしなかった。


 ***


「セラは大分年上の男が好みなのか?」
「は……? ち、違うよ!」

 ユーリの不満そうな声が頭上から聞こえてきて、私は慌てるように顔を上げた。

「冗談だ」
「……っ!」

 彼は小さく笑っていた。
 良く彼にからかわれることを、私はすっかり忘れていたようだ。

(もうっ……!)

「お前が他の男からちやほやされている姿を見せられるのは、あまりいいものじゃないな。腹が立つ」
「それって、嫉妬ですか?」

 私はムッとしながら問いかけた。

「ああ……、たしかに嫉妬だな。私を妬かせたのだから、その責任は後できっちりと取ってもらうぞ」
「……っ!?」

 ユーリは私の瞳をじっと見つめながら「覚悟しておけよ」と呟いた。
 獲物を狙うような、鋭い視線で見つめられたような気がして、ゾクッと背筋が震えた。
 だけど次の瞬間にはいつもの穏やかな表情に戻っていた。

「さあ、行こうか。解体も終わっている頃だと思うし、まずはそこからだな」
「はいっ!」

 色々あって忘れていたが、私達は沢山の魔物を倒した。
 換金額は普段よりも大きいはずだと思うと、顔が勝手ににんまりとしてしまう。

「本当にお前はすぐ顔に出るんだな」
「良いことなら別にいいじゃないですかっ!」

「悪いとは言っていない。だが、お前の傍にいると私まで伝染しそうだ」
「……っ、換金したら美味しいものをいっぱい食べましょう!」

 優しく微笑む姿を見てしまうと急に胸がドキドキしてきてしまい、私は強引に話題を変えた。
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