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18.勇者の末裔
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「気を楽にして聞いていて欲しい。その為にこのような形にしたのだからな」
「分かりました」
私が湯船に浸かりながら小さく頷くと,、後ろから「ありがとう」という彼の声が響いた。
そして話と同時に髪を洗い始めた。
「セラは私が勇者であることを知っていたな。と言うことは、私がアルヴァール帝国の皇太子であることも当然分かっているよな」
「……はい」
ユーリはいつも気さくに話し掛けてくるから、私も立場を忘れて自然と砕けた口調で話していた。
しかし改めて言われると、少し緊張してきてしまう。
「アルヴァール家が勇者の末裔と呼ばれていることも知っているよな」
「勇者の末裔……? それは知らないかも、……です」
彼が勇者であることは知っているが、末裔とはどういった意味なのだろう。
思わず後ろにいるユーリの方を向こうとして、首を傾けた。
すると視線が合ってしまい、後付けで『です』と不自然な言い方をしてしまった。
「顔はこっち」
「は、はいっ」
彼は私の頭を元の位置に戻した。
「それと、その変な話し方はやめてくれ。違和感しかない」
「たしかに」
「勇者の末裔であるから、勇者一族と呼ばれていることは知らないのか?」
「それは初めて聞きました。鑑定スキルでユーリの情報を覗いただけなので、アルヴァール帝国については一切知りません」
「そうか……。この世界ではそれなりに名の知れた国だと思っていたが、まだまだということだな」
「……っ! 多分、私が無知なだけで……」
私は焦るように答えた。
帝国と呼ばれるくらいなのだから、この世界の中でも大きな勢力を持つ国であることは間違いないだろう。
しかし、私はこの世界に来てからまだ日が浅く、知らない事の方が圧倒的に多い。
それに異世界から来たことは彼には話すつもりはないので、そう誤魔化すしかなかった。
「セラはどこの国の出身だ?」
「え? えっと、バルムート……」
知ってる国と言えばこれしかなく、思わず口に出してしまう。
「バルムートか。セラは本当に冒険を始めたばかりなんだな」
「はい。冒険に出ようとしたらあの森でユーリを見つけて……」
「ああ、そうだったのか。ますます運命を感じるな」
「え?」
「いや、こっちの話だ。どこまで話したか……。ああ、そうだった。勇者の末裔について簡単に説明しておくな。多分これを話しておいた方が分かりやすいと思うから」
「お願いしますっ」
彼はそう言うと、落ち着いた口調で語り始めた。
今から千年以上も前の時代、邪神と呼ばれるドラゴンの形をした悪の存在が突如としてこの世界に現れたそうだ。
邪神はこの世界から光を奪い、暗黒で空を覆い尽くした。
光というのは太陽のことを指していて、一日中夜に変えてしまったということらしい。
光を奪われたことで植物は枯れ果て、街からは活気が消える。
その事で疫病が流行ったり、魔物が急に凶暴化したりと、負の連鎖が次々と続き、人々は終末に向かっていると考え生きる気力を失った。
そんな中、世界を救おうと立ち上がる一人の少年がいた。
それこそがユーリの祖先に当たる、アルヴァール帝国の初代の皇帝だった。
彼は幼い頃から強い魔力を持っていて、その力を使い聖女を召喚する。
そして激しい戦いの末、ついに聖女と共に邪神を封印することが出来た。
邪神の力は強すぎて倒すことは叶わなかった為、封印という形を取らざるを得なかった。
しかし、いつかこの封印が解けてしまう日が訪れるかもしれない。
そこで、二人はある契約を結ぶことにした。
魂を輪廻させ、この封印を守り続けるということ。
初代の皇帝は邪神を封印後にアルヴァールという帝国を築き上げ、共に戦った聖女と婚姻を結び、守り人としての子孫を残した。
そして後に続く歴代の皇帝達も聖女を召喚し、その血筋を途切れさせないように繋げていった。
そのことでこの世界は平和を保つことが出来ている、ということらしい。
「だけど、この封印は年々弱まっているんだ」
「血筋を繋いでいるのに?」
「封印して千年を過ぎた頃から、徐々に弱まってきている」
「そんなっ……。でも、聖女って……」
聖女という言葉を聞いて、私の頭の中にはカレンの顔が思い浮かんだ。
「どうした?」
「バルムートの人達が、聖女を召喚したって……噂で聞きました」
「やはり、そうか。バルムートでその様な動きあることは把握していた。しかし、成功したのか……。封印のこともあったので、それを確かめる為に私はバルムートへと向かっていた。その途中で弟に謀られたのだが……」
「そう、だったんだ」
胸の奥がモヤモヤとして、心臓をぎゅっと鷲掴みにされているような気分だった。
今の話通りだとしたら、ユーリはいずれ聖女と婚姻を結ぶことになる。
そして、聖女というのは私と同時に召喚されたカレン。
今、私のことを触れているこの手が、いつか彼女のものになるかもしれない。
そう思うと無性に胸の奥がざわめき、心を鎮めることが出来ない。
(そん、な……)
どうして寄りにもよって彼女なのだろう。
二人を引き合わせる為に、私はこの世界に連れて来られたなんて思いたくもない。
「セラが眠っている間に信頼できる者に文を送った。今は下手に動くことも出来ないから、暫くはこの街に滞在しようと思っている。連絡が来たらセラに頼みたいことがある。それまでの間は、何でもお前に付き合うよ」
「何でも?」
急にそんなことを言われても、何も考えていなかったので困ってしまう。
だけど……、それならいっそのこと『バルムートには行きたくない』って言ってしまおうか。
でも、そんなことは言えない。
私のことを信用して、ユーリはこんなにも重大なことを話してくれたのだから。
そんなユーリの気持ちを、私の私情で踏みにじりたくは無かった。
私は俯きながら表情を歪め、掌をぎゅっと強く握りしめていた。
胸の奥では、彼を奪われたくないという気持ちが膨らんでいく。
今の私達の関係は、偶然出会って勢いで体を重ねてしまっただけの存在。
ただそれだけの関係で、決して特別なものではないのに……。
それでも考えずにはいられなかった。
「どうした? 直ぐには思い浮かばないか? 数日はここに滞在するつもりだからゆっくりで構わない」
「……ユーリは、聖女と会ったらどうするつもりですか?」
私は彼の言葉を無視して、問いかけた。
返答を聞くのは怖いけど、彼が何を望んでいるのかを知りたい。
「そうだな。私には皇太子として国を守る義務がある」
「でもっ、死んだことになっているんですよね? だったら、その役目を弟さんに預けてしまえばいいんじゃないですか? 弟さんだって、きっとそのつもりでユーリのことを……」
私は後ろを振り向くと、懇願するように必死に伝えていた。
そんな私の姿を見て、彼はすごく驚いた顔をしている。
自分がすごく嫌なことを言っているのは分かっていた。
だけど止まらなかった。
「セラ……? どうした? 私のことを心配してくれているのか?」
「……っ」
(違う……)
驚いていた彼の表情が、ゆっくりと穏やかな顔へと変わっていく。
そして、まるで宥めるように私の頭を優しく撫でてくれた。
その表情を見ていると、胸の奥が熱くなり目元が曇り始める。
込み上げて来る思いを必死に耐えていると顔に変な力が入ってしまい、きっと今の私は醜い表情になっていることだろう。
だけど、彼は今も優しい表情で私の事を見つめている。
「色々と一気に話したから、セラを混乱させてしまったんだな。すまない」
私は何度も首を横に振った。
混乱はしているが、ユーリが悪い訳ではない。
「この状態だと、涙を拭ってやることも出来ないな」
「……っ」
そういえば、髪を洗ってもらっていたことを思い出した。
きっと、今の私の姿は相当酷いことになっているはずだ。
自分では確認出来ないが容易に想像出来て、なんだか可笑しくなり小さく笑ってしまった。
「セラ、そのまま目を瞑っていて」
「え……?」
私が不思議そうに顔を傾けると、彼は「いいから」と言ってきたので私は言われたとおりに目を閉じた。
すると、それから間もなくして、温かいものが頭上から溢れてきた。
それは私の涙も一緒に洗い流してくれた。
(温かくて、気持ちがいい……)
心にはまだ靄はかかっているけど、先程よりは大分落ち着いた気がする。
どうして、彼はこんなにも私に親切にしてくれるのだろう。
(こんなの、絶対に好きになっちゃうじゃん……)
「そろそろ目を開けていいぞ」
「……っ」
私がゆっくりと目を開けると、真っ直ぐな碧い瞳と視線が絡む。
そして頬をすっぽり包むように掌を添えられる。
「やっと触れられた」
「……な、に?」
突然のことに私は動揺していた。
頬が熱いのは、お湯を浴びただけではない気がする。
「先程の話だけど、セラは何も心配しなくていい。お前のことは絶対に守るから。それに未来を考えたら、後悔するような選択はしたくない」
「……そう、だね」
私には想像出来ないくらい、彼は背負っているものが大きいのだと分かった。
それにユーリは優しいから、私に不安を与えないように言葉を選んで答えてくれているのだということも。
それは嬉しくもあるが、心が抉られるような苦しみも同時に感じてしまう。
だけど、もう彼の前では涙は見せないと心に誓った。
これ以上、嫌な部分を彼の前で晒したくはなかったからだ。
私は今出来る精一杯の笑顔を作り、微笑んで見せた。
「やっぱり、お前はその顔の方が似合っているな」
「私も出来る限り協力しますっ!」
「随分と心強いな。出会えたのがセラで本当に良かったよ」
「……っ」
その言葉で今は充分な気がする。
少なくとも今ユーリの傍にいるのは私だ。
いつまで傍にいられるのかは分からないけど、悔いが残らないように大切な時間を精一杯過ごして行こうと思った。
その時に、はっきりと自分の気持ちを自覚した。
私はユーリのことが好きなのだと。
「分かりました」
私が湯船に浸かりながら小さく頷くと,、後ろから「ありがとう」という彼の声が響いた。
そして話と同時に髪を洗い始めた。
「セラは私が勇者であることを知っていたな。と言うことは、私がアルヴァール帝国の皇太子であることも当然分かっているよな」
「……はい」
ユーリはいつも気さくに話し掛けてくるから、私も立場を忘れて自然と砕けた口調で話していた。
しかし改めて言われると、少し緊張してきてしまう。
「アルヴァール家が勇者の末裔と呼ばれていることも知っているよな」
「勇者の末裔……? それは知らないかも、……です」
彼が勇者であることは知っているが、末裔とはどういった意味なのだろう。
思わず後ろにいるユーリの方を向こうとして、首を傾けた。
すると視線が合ってしまい、後付けで『です』と不自然な言い方をしてしまった。
「顔はこっち」
「は、はいっ」
彼は私の頭を元の位置に戻した。
「それと、その変な話し方はやめてくれ。違和感しかない」
「たしかに」
「勇者の末裔であるから、勇者一族と呼ばれていることは知らないのか?」
「それは初めて聞きました。鑑定スキルでユーリの情報を覗いただけなので、アルヴァール帝国については一切知りません」
「そうか……。この世界ではそれなりに名の知れた国だと思っていたが、まだまだということだな」
「……っ! 多分、私が無知なだけで……」
私は焦るように答えた。
帝国と呼ばれるくらいなのだから、この世界の中でも大きな勢力を持つ国であることは間違いないだろう。
しかし、私はこの世界に来てからまだ日が浅く、知らない事の方が圧倒的に多い。
それに異世界から来たことは彼には話すつもりはないので、そう誤魔化すしかなかった。
「セラはどこの国の出身だ?」
「え? えっと、バルムート……」
知ってる国と言えばこれしかなく、思わず口に出してしまう。
「バルムートか。セラは本当に冒険を始めたばかりなんだな」
「はい。冒険に出ようとしたらあの森でユーリを見つけて……」
「ああ、そうだったのか。ますます運命を感じるな」
「え?」
「いや、こっちの話だ。どこまで話したか……。ああ、そうだった。勇者の末裔について簡単に説明しておくな。多分これを話しておいた方が分かりやすいと思うから」
「お願いしますっ」
彼はそう言うと、落ち着いた口調で語り始めた。
今から千年以上も前の時代、邪神と呼ばれるドラゴンの形をした悪の存在が突如としてこの世界に現れたそうだ。
邪神はこの世界から光を奪い、暗黒で空を覆い尽くした。
光というのは太陽のことを指していて、一日中夜に変えてしまったということらしい。
光を奪われたことで植物は枯れ果て、街からは活気が消える。
その事で疫病が流行ったり、魔物が急に凶暴化したりと、負の連鎖が次々と続き、人々は終末に向かっていると考え生きる気力を失った。
そんな中、世界を救おうと立ち上がる一人の少年がいた。
それこそがユーリの祖先に当たる、アルヴァール帝国の初代の皇帝だった。
彼は幼い頃から強い魔力を持っていて、その力を使い聖女を召喚する。
そして激しい戦いの末、ついに聖女と共に邪神を封印することが出来た。
邪神の力は強すぎて倒すことは叶わなかった為、封印という形を取らざるを得なかった。
しかし、いつかこの封印が解けてしまう日が訪れるかもしれない。
そこで、二人はある契約を結ぶことにした。
魂を輪廻させ、この封印を守り続けるということ。
初代の皇帝は邪神を封印後にアルヴァールという帝国を築き上げ、共に戦った聖女と婚姻を結び、守り人としての子孫を残した。
そして後に続く歴代の皇帝達も聖女を召喚し、その血筋を途切れさせないように繋げていった。
そのことでこの世界は平和を保つことが出来ている、ということらしい。
「だけど、この封印は年々弱まっているんだ」
「血筋を繋いでいるのに?」
「封印して千年を過ぎた頃から、徐々に弱まってきている」
「そんなっ……。でも、聖女って……」
聖女という言葉を聞いて、私の頭の中にはカレンの顔が思い浮かんだ。
「どうした?」
「バルムートの人達が、聖女を召喚したって……噂で聞きました」
「やはり、そうか。バルムートでその様な動きあることは把握していた。しかし、成功したのか……。封印のこともあったので、それを確かめる為に私はバルムートへと向かっていた。その途中で弟に謀られたのだが……」
「そう、だったんだ」
胸の奥がモヤモヤとして、心臓をぎゅっと鷲掴みにされているような気分だった。
今の話通りだとしたら、ユーリはいずれ聖女と婚姻を結ぶことになる。
そして、聖女というのは私と同時に召喚されたカレン。
今、私のことを触れているこの手が、いつか彼女のものになるかもしれない。
そう思うと無性に胸の奥がざわめき、心を鎮めることが出来ない。
(そん、な……)
どうして寄りにもよって彼女なのだろう。
二人を引き合わせる為に、私はこの世界に連れて来られたなんて思いたくもない。
「セラが眠っている間に信頼できる者に文を送った。今は下手に動くことも出来ないから、暫くはこの街に滞在しようと思っている。連絡が来たらセラに頼みたいことがある。それまでの間は、何でもお前に付き合うよ」
「何でも?」
急にそんなことを言われても、何も考えていなかったので困ってしまう。
だけど……、それならいっそのこと『バルムートには行きたくない』って言ってしまおうか。
でも、そんなことは言えない。
私のことを信用して、ユーリはこんなにも重大なことを話してくれたのだから。
そんなユーリの気持ちを、私の私情で踏みにじりたくは無かった。
私は俯きながら表情を歪め、掌をぎゅっと強く握りしめていた。
胸の奥では、彼を奪われたくないという気持ちが膨らんでいく。
今の私達の関係は、偶然出会って勢いで体を重ねてしまっただけの存在。
ただそれだけの関係で、決して特別なものではないのに……。
それでも考えずにはいられなかった。
「どうした? 直ぐには思い浮かばないか? 数日はここに滞在するつもりだからゆっくりで構わない」
「……ユーリは、聖女と会ったらどうするつもりですか?」
私は彼の言葉を無視して、問いかけた。
返答を聞くのは怖いけど、彼が何を望んでいるのかを知りたい。
「そうだな。私には皇太子として国を守る義務がある」
「でもっ、死んだことになっているんですよね? だったら、その役目を弟さんに預けてしまえばいいんじゃないですか? 弟さんだって、きっとそのつもりでユーリのことを……」
私は後ろを振り向くと、懇願するように必死に伝えていた。
そんな私の姿を見て、彼はすごく驚いた顔をしている。
自分がすごく嫌なことを言っているのは分かっていた。
だけど止まらなかった。
「セラ……? どうした? 私のことを心配してくれているのか?」
「……っ」
(違う……)
驚いていた彼の表情が、ゆっくりと穏やかな顔へと変わっていく。
そして、まるで宥めるように私の頭を優しく撫でてくれた。
その表情を見ていると、胸の奥が熱くなり目元が曇り始める。
込み上げて来る思いを必死に耐えていると顔に変な力が入ってしまい、きっと今の私は醜い表情になっていることだろう。
だけど、彼は今も優しい表情で私の事を見つめている。
「色々と一気に話したから、セラを混乱させてしまったんだな。すまない」
私は何度も首を横に振った。
混乱はしているが、ユーリが悪い訳ではない。
「この状態だと、涙を拭ってやることも出来ないな」
「……っ」
そういえば、髪を洗ってもらっていたことを思い出した。
きっと、今の私の姿は相当酷いことになっているはずだ。
自分では確認出来ないが容易に想像出来て、なんだか可笑しくなり小さく笑ってしまった。
「セラ、そのまま目を瞑っていて」
「え……?」
私が不思議そうに顔を傾けると、彼は「いいから」と言ってきたので私は言われたとおりに目を閉じた。
すると、それから間もなくして、温かいものが頭上から溢れてきた。
それは私の涙も一緒に洗い流してくれた。
(温かくて、気持ちがいい……)
心にはまだ靄はかかっているけど、先程よりは大分落ち着いた気がする。
どうして、彼はこんなにも私に親切にしてくれるのだろう。
(こんなの、絶対に好きになっちゃうじゃん……)
「そろそろ目を開けていいぞ」
「……っ」
私がゆっくりと目を開けると、真っ直ぐな碧い瞳と視線が絡む。
そして頬をすっぽり包むように掌を添えられる。
「やっと触れられた」
「……な、に?」
突然のことに私は動揺していた。
頬が熱いのは、お湯を浴びただけではない気がする。
「先程の話だけど、セラは何も心配しなくていい。お前のことは絶対に守るから。それに未来を考えたら、後悔するような選択はしたくない」
「……そう、だね」
私には想像出来ないくらい、彼は背負っているものが大きいのだと分かった。
それにユーリは優しいから、私に不安を与えないように言葉を選んで答えてくれているのだということも。
それは嬉しくもあるが、心が抉られるような苦しみも同時に感じてしまう。
だけど、もう彼の前では涙は見せないと心に誓った。
これ以上、嫌な部分を彼の前で晒したくはなかったからだ。
私は今出来る精一杯の笑顔を作り、微笑んで見せた。
「やっぱり、お前はその顔の方が似合っているな」
「私も出来る限り協力しますっ!」
「随分と心強いな。出会えたのがセラで本当に良かったよ」
「……っ」
その言葉で今は充分な気がする。
少なくとも今ユーリの傍にいるのは私だ。
いつまで傍にいられるのかは分からないけど、悔いが残らないように大切な時間を精一杯過ごして行こうと思った。
その時に、はっきりと自分の気持ちを自覚した。
私はユーリのことが好きなのだと。
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