4 / 41
4.森の奥で眠れる勇者に出会いました②
しおりを挟むそれから暫く歩いていると、光が差し込んでいる場所に漸く辿り着いた。
そこは開けている場所で、地面には小さな花が絨毯のように敷き詰められている。
その光景に一瞬で心が奪われた。
「すごい……。ここだけ別世界みたい」
安心したら強張っていた顔の筋肉が緩んでいき、誘われるように奥へと入っていく。
仄かに甘い香りがするのは、一面に咲いている花の蜜の匂いなのかもしれない。
先程までの不安は好奇心によって打ち消されていた。
「あれって、人……かな?」
中心の方まで入っていくと、倒れている人影を見つけた。
一瞬ドキッとしてしまうも、気になって近づいていく。
傍まで近づくと、恐る恐るその姿を覗き込んだ。
年齢は恐らく私よりも年上で、20代半ばくらいなのではないだろうか。
陽の光を浴びた髪は金色に輝き、透明感のある綺麗な白い肌。
目は閉じられているが綺麗な輪郭からして、端麗な顔立ちであることは間違いないだろう。
それに真っ白な軍服の様な装いには、金糸で作られた豪華な飾りがいくつも縫い付けられている。
身なりからして貴族であることは間違いなさそうだ。
(うわぁ……、すごく綺麗な人)
私はその寝顔に見惚れるように、暫く間その場に立ち尽くしていた。
瞳を開けたらどんな顔をしているのだろう、とつい想像してしまいたくなる。
「……っ! やば、見過ぎだよね。眠っている人の寝顔を見るだなんて、失礼だよね。ご、ごめんなさいっ」
私は眠っている青年に向けて話しかけると、慌てて頭を下げた。
だけど返事は戻ってこない。
そして起きる気配も全く感じない。
(熟睡してるのかな? 天気もいいし、ここで寝たらたしかに気持ち良くお昼寝出来そうっ! ……でも、夜になったら危なくないかな?)
この森にはあまり魔物はいないが、夜になれば出てくる可能性だって無いとは言えない。
青年の横には大きな大剣が置かれてあり、恐らく剣士か何かなのだろう。
(大きな剣……。見た感じ強そうだし、大丈夫だとは思うけど……でも)
何故だか分からないが、この青年のことが妙に気になっていた。
綺麗な顔立ちという魅力的なポイントもあったが、多分それだけではない気がする。
直感で起こした方がいいと感じてしまい、思いきって声を掛けてみることにした。
「あ、あのっ……! 気持ち良くお昼寝しているところ申し訳ありませんっ! こんな場所で一人で寝ているのは、少し危険だと思いますよっ!」
「…………」
私は緊張しながらも声を張り上げて言った。
だけど相変わらず反応は無く、起きる気配も全く感じない。
(うっ……、全然起きる気配が無い。どうしよう……、このまま放っておくなんて出来ないし)
暫く困ったような顔で眺めていたが、やはり起きる気配はなさそうだ。
そこで悪いとは思ったが、体を揺さぶって強制的に目覚めさせることに決めた。
「あ、あのっ、ごめんなさい。触りますね」
私が青年の肩に触れると、ステータス画面が表示されてしまった。
寝ている人間の情報を勝手に盗み見ることに少し罪悪感を覚えてしまったが、気になったので確認してみることにした。
(ユーリウス・イル・アルヴァール……って名前なんだ。随分長いけど、これって貴族様だよね)
平民には家名は存在しない。
だから貴族であるのだと分かった。
魔力量は4桁あり、少し驚いてしまう。
聖女として選ばれた彼女でさえも500程度だった。
召喚されたばかりで、単にレベルが低いだけだったのかもしれないけど。
更に情報を読み進めて行くと、驚くべきことが次々に書かれていた。
(勇者で皇子!?)
肩書には勇者と書かれていて、更に帝国の第一皇子であり皇太子という文字が並んでいる。
確かに皇子のような装いをしているとは思っていたけど、まさか本当にそうだとは思わなかった。
しかしそれだけではなかった。
最後には、とんでもない内容が書かれていた。
『三分以内に乙女のキスを贈らなければ、この者は肉体から魂が切り離されて即死亡。勇者を失った世界は滅亡する』
私は目を疑って、何度も見返してしまう。
時間の所は、一秒ずつカウントダウンがされているようだ。
(は……? な、なにこれ。即死亡って、それに世界が滅亡って、さすがに冗談だよね?)
あはは、と私は乾いた笑いを漏らしてみた。
私は目をごしごしと指で擦り再び確認するが、間違いなくそう書かれている。
(見間違いじゃない。乙女のキスって……。乙女の心を持っていればいいの? 私、そんな純情じゃないよ! 無理!! どうしようっ……、だれか)
辺りを慌てるように見渡して見るも、そこには誰の姿もなく、ここにいるのは私だけ。
混乱した頭では、思考が上手く纏まらない。
ただ、なんとかしなければという焦る気持ちだけは持っていた。
ここに書かれていることが嘘だとは思わなかった。
何故ならこのステータス画面は自動的に表示されるものであり、自分の意思で都合良く書き替えることが出来ないからだ。
もしこれが本当だとしたら……。
そんなことを考えている間も一秒、また一秒と時間が減っていく。
残り一分を切った所で私は決意した。
「ごめんなさいっ! 恨むならこんな表示を出した人を恨んでくださいっ!!」
私は半ば自棄になって答えると、ゆっくりと顔を寄せていく。
目の前には綺麗な顔があり、鼓動がどんどん早まっていく。
一度は躊躇するも、残りの秒数が目に入り覚悟を決めた。
(本当に、ごめんなさいっ!!)
私は心の中で再び謝ると、そっと唇を重ねた。
彼の唇は凍っている様に冷たかった。
まるで氷に口付けている様な感覚で、ビクッと体を震わせ慌てる様に離れた。
1
お気に入りに追加
1,205
あなたにおすすめの小説
【R18】だれがフィクションだと言った 〜圧倒的モブ田中A子のセフレ生活〜
サバ無欲
恋愛
田中A子、26歳、独身。圧倒的モブ。
彼氏にフラれ、婚活パーティーにぶち込まれた私は、そこで超絶怒涛の長身さわやか王子系イケメンと出会ったものの……
「会ったことあるんだけどな、俺たち」
知りません知りません!!
え、でも……とりあえずエッチシマスカ?
☆☆☆
・ノリと勢いだけのラブコメ目指してます。
・セフレとか言いながら甘々両片想いすれ違いストーリーです。
・登場人物はみんな割とアホです。
・エッチなシーンは☆ついてます。
表紙は紺原つむぎ様(@tsumugi_konbara)が作ってくれたよ!
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
ドン引きするくらいエッチなわたしに年下の彼ができました
中七七三
恋愛
わたしっておかしいの?
小さいころからエッチなことが大好きだった。
そして、小学校のときに起こしてしまった事件。
「アナタ! 女の子なのになにしてるの!」
その母親の言葉が大人になっても頭から離れない。
エッチじゃいけないの?
でも、エッチは大好きなのに。
それでも……
わたしは、男の人と付き合えない――
だって、男の人がドン引きするぐらい
エッチだったから。
嫌われるのが怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる