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55.運命の出会い③-sideアレクシス-

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 お茶会が行われた翌日、リリアに再会したら彼女は不満そうに頬を膨らませていた。 
 可愛らしいものがいくら怒った顔を見せたとしても、結局は可愛いのだから、私の瞳には可愛くしか映らない。
 それに普段と違う表情を見れて、私は少し興奮していたのかもしれない。
 勿論、その表情は表には出さないように隠していた。

 彼女にとっての私の立ち位置は、現時点では気軽に話せる友人と言ったところだろうか。
 それに対して不満は残るが、今はこれ以上の関係にはなれないことは理解している。
 本意では無いが、今は我慢するしか無い。

 我慢するという行為が、彼女に対する恋慕の思いを強くさせる。
 それが強い執着心へと繋がっていったのだろう。 

 しかし、彼女は弟の婚約者に決まってしまった。
 一度決まってしまった婚約を覆すのは至難の業とも言える。
 だけど考え方を変えてみると、私にとっては絶好な状況であることに気付いた。

 どうやらラルスはリリアのことを、あまり気に入ってはいなかった。
 彼女が婚約者に選ばれた直後から、ずっと愚痴を漏らしていた程だ。
 ラルスの求める理想の女性像とリリアは真逆の姿だったのだろう。
 髪の色も、性格も。
 それに伯爵家という家柄も気に入らない様子だった。

 出来ることならば、今すぐにでも私の婚約者にしてしまいたい。
 しかし私の婚約相手は、このまま何もしなければ王家と関わりの深い家から選ばれるのだろう。
 そして、彼女と婚約することなんて絶対に叶わないことだ。
 だけどそれは何もしなかった場合の話だ。

 そこで私は考えた。
 ラルスには私が奪いに行くまでの間、リリアの婚約者でいてもらう。 
 弟の婚約者に決まったことで、他の子息から狙われる心配は無くなる。
 そして、このまま彼女のことを敬遠しておいてもらおう、と。

 そこで彼女にあの黒縁眼鏡を手渡した。
 あれは私が作らせた特注品だ。
 周囲から不満を漏らされたら、私からの贈り物だと言えばいいと伝えた。
 送り主が私だと分かれば、文句を言う者も出てこないはずだ。
 これは同時に、彼女の魅力を隠すものでもある。

 リリアの素顔は私だけのものだ。
 どうでも良い人間なんかに見せたくはなかった。

 そして、この眼鏡には私からの願い呪いが込められている。

 もし彼女に好意を向ける者が現れたら、例えその相手が弟であっても手にかけてしまうかもしれない。
 それ程までに私の心は彼女に囚われていた。

 彼女との未来を手に入れるという新たな目標が加わり、忙しい日々の合間に色々な書物を読み漁ったり、考えを巡らせたりしていた。
 当初の目的通り、強くなるというのは絶対的条件だ。
 父である陛下でさえも、口出し出来ない程の強大な力を手に入れて、服従させなくてはならない。
 騎士団に入って二年程訓練を受けた後、実際に戦場に出て戦った。  
 初めの数ヶ月は後方からの援護を主にしていたが、実戦に参加することで訓練の何倍もの早さで成長していった。

 その合間に禁書庫に入り、禁忌魔法について読み漁った。
 禁忌に触れてしまうことにはなるが、成功すれば私の思い描く未来が手に入る。
 最初から、何も迷うことなんて無かった。
 
 私が行おうとしているのは、魔力融合という魔術だ。
 それは私の魔力を彼女に送ることで、命を繋ぐことが出来る。
 簡単に言えば、どちらかが死ねば、もう片方の命も同時に尽きるということ。
 これだけ聞けばデメリットしかないと思うが、生命力を倒れそうな者に分け与えることが出来る。
 どうしても死なせたくない相手の、延命処置を行う為の魔術だった様だ。
 
 これには二つ条件があり、一つは受け止める側は受け取った魔力を体に留めておかなければならない。
 もし熱暴走が起きれば、受け止める側は命を落とし、送った方も同時に死ぬ。
 かなりのリスクを伴っている為、禁忌にされ、人々の記憶から消されていった。

 これが成功出来れば、私達の命は繋がれる。
 そして誰も私達の仲を引き裂くことが出来なくなる。
 命が尽きたとしても、彼女と一緒に尽きるのなら本望だ。

 絶対にこれを成功させて、彼女を私だけのものにする。

 あの時、私は彼女に『必ず君を選ぶよ』と伝えた。
 その言葉を現実することが出来る。
 彼女のいない人生には、なんの興味もないし、それならばこれに賭けてみようと思った。
 勿論、成功率を上げるために努力は惜しまないつもりだ。
 その為に少しづつ、計画を動かしていった。

 眼鏡にかけた願いというのは、私の魔力に少しづつ慣れて貰うためのものだ。
 何年も時間をかけてゆっくりと、私の魔力を受け止める体に作り替えていく。
 そしてリリアを私の屋敷に連れてきてからは、更に強い魔力を摂取させた。

 基本的にリリアの生活圏内になっているあの場所の植物には、全て私の魔力が注がれている。
 リリアが美味しいと食べていた果物にも、綺麗だと言った薔薇園にも。
 勿論、このことはリリアには言ってはいない。

 彼女の一番傍で世話をしているサリーには、ここで育てたものは絶対に口にしないように伝えてある。
 私の魔力は強いので、耐性のないものが食せば絶命する可能性もある。
 サリーはこのことを良く分かっているので、直ぐに理解して貰えた。

 少しづつ私の魔力に慣れていっているとはいえ、今までよりも強い力を留めておくとなれば体にも当然負担がかかる。
 そこで数日に一度、深い眠りに落とすことにした。
 眠っていれば体力の回復は早いし、その間彼女に知られることなく魔力を操作することが出来るからだ。
 
 私が離れている間は、眠りの時間をいつもよりも多く取るようにとサリーに指示をしていた。
 しかし私が遠征に向かっている間、父上から招集されこの屋敷を離れたことで熱暴走が起きた。
 これは完全に悪条件が重なって起きた事だ。
 遠征先でリリアのことを聞かされて、怒りを制御出来なくなり国一つ消し去ってしまった。
 彼女の事になると、どうにも感情のコントロールが効かなくなってしまうようだ。
 
 それから色々調べていくうちに、魔力の半分を送らなくても、操作をすれば適量でも可能だと言うことが判明した。
 彼女が最も大切にしているものを器にして、魔力を一時的に移すという方法だ。
 
 リリアは幼い頃、母親から貰ったうさぎのぬいぐるみを大層大切にしていた。
 だからそれを使わせて貰うことにした。 
 勿論、彼女には秘密でだ。
 
 リリアとの間に子供が出来たら、器に入っている魔力をその子に送ればいい。
 魔力が融合している二人の子ならば、間違いなく受け止めてくれるはずだ。
 それに子供には命の鎖はかかっていないので、私達がいなくなった後も元気に生きていくことが出来ずはずだ。

 だからこそ、子供を作らなければならない。
 これから愛しいリリアを毎晩抱けるのだから、私にとっては願ったり叶ったりだ。

 もう一つの条件というのは心を通わすこと。
 リリアを抱いた時、何度も私の事を好きだと言って求めてくれた。
 これはお互いの心が通じ合ったと言えるだろう。
 
 私は眠っている彼女の胸にそっと手を当てた。
 そして静かに呪文を唱える。
 すると暫くして、彼女の胸元に文字が現れ、すっと消えて行った。

 これで全て終わった。
 愛する人を手に入れるという、長かった計画が漸く成就した瞬間でもある。

「ふ……はは、やっとだ。リリア、リリア……やっと、手に入れた」

 緩んだ口元からは、笑いが勝手に込み上げて来てしまう。
 
 今まで伝えられずに心に溜めていた私の思いを、やっと全て吐き出すことが出来る。 
 私がどれだけリリアを愛しているのか、これから時間をかけてたっぷりと伝えていこう。 


******

作者より

アレクシスの本性が出ました。危険な人です(笑)
次回からはまたリリア視点に戻ります。
ホラー要素?っぽい物もこの後少し入る予定です。
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