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26.二人で散策③
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「リリア、足は疲れていない? また抱き上げてあげようか?」
「結構ですっ!」
アレクシスは少し歩く度にこんなことを聞いてくる。
私がきっぱり断ると「つれないな」と残念そうにぼやいていた。
だけど手は繋がれたままだ。
最初は普通に繋いでいたのだが、気付けば指を絡めるような繋ぎ方に変わっている。
チラッと斜め上方向に視線を向けると、上機嫌なアレクシスの表情が見えた。
始終ニコニコしていて、今にも鼻歌でも歌い出しそうな表情に見えて、クスッと笑いそうになってしまう。
「リリア、見えてきたよ」
「え?」
アレクシスの言葉を聞いて、再び視線を正面に向ける。
先程までは青々とした生垣が続いていたが、突然鮮やかな色とりどりの薔薇が視界に広がる。
入り口はアーチ状になっていて、そこにもふんだんの薔薇が鏤められていた。
まるで私達を歓迎しているかのように。
「すごい、奥まで続いてる! まるでお花のトンネルみたい。すごく素敵っ!」
非現実の世界を見ているようで、心が躍る。
今までの不安だった事柄は一瞬にして消え去り、満面の笑みへと変わる。
「ああ、その顔だ」
「え?」
「今のように喜ぶリリアの顔が見たくて、ここを作ったんだ。何度もその表情を頭の中で妄想していたけど、やっぱり本物は格別だな。もっと見せて」
「……ちょっ」
アレクシスは恍惚とした表情を見せて、自分の世界にでも慕っているようだ。
嫌な予感がして距離を置こうと考えたが、それよりもアレクシスの動きの方が早かった。
突然腰を引き寄せられ、距離が一気に縮まる。
つい先程同じようなことをされて、逃げられないことは分かっているのに、私は彼の腕から逃れようともがいていた。
(またこの展開っ! 一日に何度同じことを繰り返すの!? こんなの私の心臓が持たない)
「リリア、嬉しそうな顔をもっと良く見せて」
「む、無理ですっ!」
「照れているの? また顔が随分と赤く染まっているね。笑顔も可愛いけど、照れている姿もたまらないな」
「……もう、離れてくださいっ! アレクシス様はさっきからくっつきすぎなんです」
アレクシスはうっとりとした顔を向けてきて、私のことを離してはくれないようだ。
その間にも私の頬は濃い赤へと染まっていく。
まるでここに咲く、薔薇のように。
「好きな女性に触りたいと思うのは、すごく自然なことだと思うけど。リリアは違うの?」
「わ、私に聞かないでっ」
照れ隠しのために勢いで言い返してしまうと、アレクシスはしゅんとした顔を見せてきた。
すごく寂しそうな顔で私のことを見つめるのはやめて欲しい。
まるで悪いことをしているような気分になる。
私は気まずさを感じて、耐えられなくなると目を逸らしてしまう。
(その目は卑怯よ……!)
それから暫くの間、沈黙が続く。
抱きしめられた状態に近い状況で。
腰に添えられている腕に更に引き寄せられ、体が密着する。
「愛していると100回くらい伝えたら、リリアは私のことを好きになってくれるだろうか」
「……!?」
(ちょっと、何を言い出すの!?)
突然アレクシスは私の耳元でそんなことを囁いてきた。
吐息が耳にかかり、ぞわりと体が震える。
私の逃げ場を奪ってから、そんな行動に出るなんて卑怯にも程がある。
「リリア、好きだよ。好き、愛してる」
「……っ、だ、だめ。耳元で囁かないでっ」
「リリアは耳が弱いからね。それに、こんな風に脳に直接言葉を届けていれば、私の事が好きだと誤認識してくれるかもしれない」
「誤認識って。私、アレクシス様のこと嫌いなわけじゃっ……」
私の言葉を聞いてアレクシスはゆっくりと体を剥がした。
耳元で囁かれたせいで、私の顔はまた沸騰したかのように真っ赤に染まっている。
僅かに目元も潤んでいるような気さえする。
「今の本当……?」
「え?」
「私のことが嫌いではないって」
「は、はい」
突然真顔で聞かれ、私は萎縮するように答えた。
小さな私の声がアレクシスに届くと、彼の表情はみるみるうちに緩んでいった。
その様子を見ていた私の方まで照れてしまう程に。
(な、なんなの……)
そして再びぎゅっと抱きしめられる。
突然のことに戸惑ってしまうが、照れている自分の顔を隠すことが出来たのでどこかほっとしていた。
こんなにも表情を変えるアレクシスが可愛いと思ってしまった。
今のようなアレクシスの姿を知っているのは私だけかも知れない。
そんな優越感すら感じてしまう。
自然と笑みが零れ、私はアレクシスの背中に手を回した。
「リリア」
「ん?」
アレクシスは抱きしめながら私の名前を呼んだ。
私は小さく答える。
「キスしたい」
「……うん、……?」
アレクシスの熱が心地よくて、何も考えずに自然に答えてしまったが、暫くしてあれ? っと何かに気付いた。
「額や頬にするのではなくて……」
アレクシスは再び私の体を引き剥がすと、クイッと顎を持ち上げて唇に指先を這わせた。
そして「ここにしたい」と熱っぽい瞳を見せながら言ってきた。
「いい?」
唇を指で撫でられ、それがすごく擽ったく感じる。
それに彼の艶やかな表情に引き込まれてしまいそうになり、声を出すことが出来なくなっていた。
見惚れているとでも言うのだろうか。
アレクシスが何をしようとしているのか頭では分かっている。
鼓動もバクバクと激しく鳴り響き、息をするのも忘れてしまう。
時間がとても遅くなったような感覚に襲われ、彼の動きの一つ一つから目が離せなくなる。
「リリア、ここに触れても良いのなら目を閉じて」
アレクシスはあくまでも私の気持ちを尊重してくれるようだ。
だけど、いっそのこと強引に奪ってくれた方が良かったのかもしれない。
こんな状況で私に答えを求めてくるなんて、逆に追いつめられているようにしか思えない。
きっとアレクシスは分かっているのだろう。
私が否定出来ないことを。
そして知らしめたいのだろう。
私がアレクシスと同じ気持ちでいるのだと、認めさせるために。
(本当にずるい人)
私は戸惑った瞳を揺らしながら、暫くの間じっとアレクシスのことを見つめていた。
だけど彼は動じること無く、私のことを見つめ返していた。
碧い瞳を暫く見つめていると、なぜだか心の中が晴れていくような気がした。
彼を取り巻く環境は全て無視して、私は自分の心に従うべくゆっくりと目を閉じた。
心の中で思うだけでは無く、私はアレクシスの特別になりたい。
それが今の私の素直な気持ちだった。
暫くして、唇に柔らかいものがそっと重なった。
「結構ですっ!」
アレクシスは少し歩く度にこんなことを聞いてくる。
私がきっぱり断ると「つれないな」と残念そうにぼやいていた。
だけど手は繋がれたままだ。
最初は普通に繋いでいたのだが、気付けば指を絡めるような繋ぎ方に変わっている。
チラッと斜め上方向に視線を向けると、上機嫌なアレクシスの表情が見えた。
始終ニコニコしていて、今にも鼻歌でも歌い出しそうな表情に見えて、クスッと笑いそうになってしまう。
「リリア、見えてきたよ」
「え?」
アレクシスの言葉を聞いて、再び視線を正面に向ける。
先程までは青々とした生垣が続いていたが、突然鮮やかな色とりどりの薔薇が視界に広がる。
入り口はアーチ状になっていて、そこにもふんだんの薔薇が鏤められていた。
まるで私達を歓迎しているかのように。
「すごい、奥まで続いてる! まるでお花のトンネルみたい。すごく素敵っ!」
非現実の世界を見ているようで、心が躍る。
今までの不安だった事柄は一瞬にして消え去り、満面の笑みへと変わる。
「ああ、その顔だ」
「え?」
「今のように喜ぶリリアの顔が見たくて、ここを作ったんだ。何度もその表情を頭の中で妄想していたけど、やっぱり本物は格別だな。もっと見せて」
「……ちょっ」
アレクシスは恍惚とした表情を見せて、自分の世界にでも慕っているようだ。
嫌な予感がして距離を置こうと考えたが、それよりもアレクシスの動きの方が早かった。
突然腰を引き寄せられ、距離が一気に縮まる。
つい先程同じようなことをされて、逃げられないことは分かっているのに、私は彼の腕から逃れようともがいていた。
(またこの展開っ! 一日に何度同じことを繰り返すの!? こんなの私の心臓が持たない)
「リリア、嬉しそうな顔をもっと良く見せて」
「む、無理ですっ!」
「照れているの? また顔が随分と赤く染まっているね。笑顔も可愛いけど、照れている姿もたまらないな」
「……もう、離れてくださいっ! アレクシス様はさっきからくっつきすぎなんです」
アレクシスはうっとりとした顔を向けてきて、私のことを離してはくれないようだ。
その間にも私の頬は濃い赤へと染まっていく。
まるでここに咲く、薔薇のように。
「好きな女性に触りたいと思うのは、すごく自然なことだと思うけど。リリアは違うの?」
「わ、私に聞かないでっ」
照れ隠しのために勢いで言い返してしまうと、アレクシスはしゅんとした顔を見せてきた。
すごく寂しそうな顔で私のことを見つめるのはやめて欲しい。
まるで悪いことをしているような気分になる。
私は気まずさを感じて、耐えられなくなると目を逸らしてしまう。
(その目は卑怯よ……!)
それから暫くの間、沈黙が続く。
抱きしめられた状態に近い状況で。
腰に添えられている腕に更に引き寄せられ、体が密着する。
「愛していると100回くらい伝えたら、リリアは私のことを好きになってくれるだろうか」
「……!?」
(ちょっと、何を言い出すの!?)
突然アレクシスは私の耳元でそんなことを囁いてきた。
吐息が耳にかかり、ぞわりと体が震える。
私の逃げ場を奪ってから、そんな行動に出るなんて卑怯にも程がある。
「リリア、好きだよ。好き、愛してる」
「……っ、だ、だめ。耳元で囁かないでっ」
「リリアは耳が弱いからね。それに、こんな風に脳に直接言葉を届けていれば、私の事が好きだと誤認識してくれるかもしれない」
「誤認識って。私、アレクシス様のこと嫌いなわけじゃっ……」
私の言葉を聞いてアレクシスはゆっくりと体を剥がした。
耳元で囁かれたせいで、私の顔はまた沸騰したかのように真っ赤に染まっている。
僅かに目元も潤んでいるような気さえする。
「今の本当……?」
「え?」
「私のことが嫌いではないって」
「は、はい」
突然真顔で聞かれ、私は萎縮するように答えた。
小さな私の声がアレクシスに届くと、彼の表情はみるみるうちに緩んでいった。
その様子を見ていた私の方まで照れてしまう程に。
(な、なんなの……)
そして再びぎゅっと抱きしめられる。
突然のことに戸惑ってしまうが、照れている自分の顔を隠すことが出来たのでどこかほっとしていた。
こんなにも表情を変えるアレクシスが可愛いと思ってしまった。
今のようなアレクシスの姿を知っているのは私だけかも知れない。
そんな優越感すら感じてしまう。
自然と笑みが零れ、私はアレクシスの背中に手を回した。
「リリア」
「ん?」
アレクシスは抱きしめながら私の名前を呼んだ。
私は小さく答える。
「キスしたい」
「……うん、……?」
アレクシスの熱が心地よくて、何も考えずに自然に答えてしまったが、暫くしてあれ? っと何かに気付いた。
「額や頬にするのではなくて……」
アレクシスは再び私の体を引き剥がすと、クイッと顎を持ち上げて唇に指先を這わせた。
そして「ここにしたい」と熱っぽい瞳を見せながら言ってきた。
「いい?」
唇を指で撫でられ、それがすごく擽ったく感じる。
それに彼の艶やかな表情に引き込まれてしまいそうになり、声を出すことが出来なくなっていた。
見惚れているとでも言うのだろうか。
アレクシスが何をしようとしているのか頭では分かっている。
鼓動もバクバクと激しく鳴り響き、息をするのも忘れてしまう。
時間がとても遅くなったような感覚に襲われ、彼の動きの一つ一つから目が離せなくなる。
「リリア、ここに触れても良いのなら目を閉じて」
アレクシスはあくまでも私の気持ちを尊重してくれるようだ。
だけど、いっそのこと強引に奪ってくれた方が良かったのかもしれない。
こんな状況で私に答えを求めてくるなんて、逆に追いつめられているようにしか思えない。
きっとアレクシスは分かっているのだろう。
私が否定出来ないことを。
そして知らしめたいのだろう。
私がアレクシスと同じ気持ちでいるのだと、認めさせるために。
(本当にずるい人)
私は戸惑った瞳を揺らしながら、暫くの間じっとアレクシスのことを見つめていた。
だけど彼は動じること無く、私のことを見つめ返していた。
碧い瞳を暫く見つめていると、なぜだか心の中が晴れていくような気がした。
彼を取り巻く環境は全て無視して、私は自分の心に従うべくゆっくりと目を閉じた。
心の中で思うだけでは無く、私はアレクシスの特別になりたい。
それが今の私の素直な気持ちだった。
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