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9.父との決別②
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「話というのは弟のラルスとの婚約についてだ」
「式についてのお話ですか?」
卒業を無事に終えて、本来ならば式に向けての準備が本格的に始まる予定だった。
だから父も疑いもせず、そう口に出したのだろう。
アレクシスは深くため息を漏らした。
「残念だけど、結婚式は中止だよ。婚約も今日ラルスが破棄したようだしね」
「は……? あの、言っている意味が分からないのですが」
「卒業パーティーの場で、ラルスはリリア嬢との婚約を破棄したそうだ。私は直接聞いたわけでは無いけど、そうだよね?」
「……は、はい」
突然私に話題を振られて、ドキッと心臓が飛び跳ねる。
私は気まずそうに消えそうな声で呟くと、小さく頷いた。
「既にラルスには他に思っている令嬢がいるそうだ」
「あの子爵家の令嬢か……」
「ご存知でしたか。それならば話は早い。ラルスはその令嬢との婚約を望んでいるようだ」
「こちらは既に結婚に向けて準備を進めていたんだ。これはあんまりだ……、娘だってどんなに傷付いているか」
父は悔しそうな顔で続ける。
王家との繋がりが持てると思っていたのに、直前になって白紙に戻ったのだから納得いかないのも当然だろう。
だけどこんな時に思っていない私の心配を出してくるなんて、本当に最悪だ。
今まで私の心配なんて一度もしたことがないくせに。
どんなに私が傷付いても我慢しろと強要してきたくせに。
こんな時だけ父親ぶるのは腹が立つし、気持ち悪い。
「そうでもなさそうだよ」
「?」
「だって彼女、婚約破棄をされた直後、嬉しそうに笑っていたからね。可愛らしくガッツポーズまで作ってさ」
「……っ!?」
アレクシスはあの時の光景を思い出すように、愉しそうな口調で話していた。
まさかあのことを言われるなんて思ってもなくて、私は驚いてアレクシスの方に視線を向けた。
(なんで、今それを言うの!?)
私は恨めしそうな顔でアレクシスを見ていたが、アレクシスは知らんぷりを続けている。
私がそのことに気を取られていると「リリア……」と怒りに震えている声が前方から聞こえてきて、ハッと我に返った。
父の表情は鬼の形相のように見えて、ゾクッと全身に鳥肌が立った。
「お互いのためにも、婚約は無かったことにした方が良いんじゃないかな。リリア嬢も、そう思うよね?」
「……はい」
「リリア、勝手に話を進めるな。これはお前だけの問題ではないんだぞ!」
「……っ」
完全に父は怒りに支配されており、アレクシスがいるのを忘れたかのように怒鳴り始めた。
「わ、私、あんなに堂々と浮気をするような人と、結婚なんてしたくありませんっ!」
「自分が何を言っているの分かっているのか!」
本当にこの人は、私の気持ちなど何も考えていないのだと悟った。
そう思うと悔しくなり、私も勢いに任せて叫んでいた。
もうどうなってもいい、と投げやりな気持ちもあったのかもしれない。
「お父様は私の心配なんてしたことないですよね。大事なのは、この家のことだけ。そんなに王族との繋がりが欲しいのなら、あの養子に入った子に頼めばいいじゃない! 私にはもう無理」
感情に流されて、私は思っていることを口に出していた。
父は目を丸くして、ただ私のことをじっと見ている。
今までこんなに反論したことはなかったので、驚いているのだろう。
言った私自身もびっくりしている。
(どうしよう、言っちゃった……)
言った直後は戸惑ってしまったが、気持ち良かった。
胸の中に溜まっていた重荷がスッと消えていき、心が軽くなるのを感じる。
「式についてのお話ですか?」
卒業を無事に終えて、本来ならば式に向けての準備が本格的に始まる予定だった。
だから父も疑いもせず、そう口に出したのだろう。
アレクシスは深くため息を漏らした。
「残念だけど、結婚式は中止だよ。婚約も今日ラルスが破棄したようだしね」
「は……? あの、言っている意味が分からないのですが」
「卒業パーティーの場で、ラルスはリリア嬢との婚約を破棄したそうだ。私は直接聞いたわけでは無いけど、そうだよね?」
「……は、はい」
突然私に話題を振られて、ドキッと心臓が飛び跳ねる。
私は気まずそうに消えそうな声で呟くと、小さく頷いた。
「既にラルスには他に思っている令嬢がいるそうだ」
「あの子爵家の令嬢か……」
「ご存知でしたか。それならば話は早い。ラルスはその令嬢との婚約を望んでいるようだ」
「こちらは既に結婚に向けて準備を進めていたんだ。これはあんまりだ……、娘だってどんなに傷付いているか」
父は悔しそうな顔で続ける。
王家との繋がりが持てると思っていたのに、直前になって白紙に戻ったのだから納得いかないのも当然だろう。
だけどこんな時に思っていない私の心配を出してくるなんて、本当に最悪だ。
今まで私の心配なんて一度もしたことがないくせに。
どんなに私が傷付いても我慢しろと強要してきたくせに。
こんな時だけ父親ぶるのは腹が立つし、気持ち悪い。
「そうでもなさそうだよ」
「?」
「だって彼女、婚約破棄をされた直後、嬉しそうに笑っていたからね。可愛らしくガッツポーズまで作ってさ」
「……っ!?」
アレクシスはあの時の光景を思い出すように、愉しそうな口調で話していた。
まさかあのことを言われるなんて思ってもなくて、私は驚いてアレクシスの方に視線を向けた。
(なんで、今それを言うの!?)
私は恨めしそうな顔でアレクシスを見ていたが、アレクシスは知らんぷりを続けている。
私がそのことに気を取られていると「リリア……」と怒りに震えている声が前方から聞こえてきて、ハッと我に返った。
父の表情は鬼の形相のように見えて、ゾクッと全身に鳥肌が立った。
「お互いのためにも、婚約は無かったことにした方が良いんじゃないかな。リリア嬢も、そう思うよね?」
「……はい」
「リリア、勝手に話を進めるな。これはお前だけの問題ではないんだぞ!」
「……っ」
完全に父は怒りに支配されており、アレクシスがいるのを忘れたかのように怒鳴り始めた。
「わ、私、あんなに堂々と浮気をするような人と、結婚なんてしたくありませんっ!」
「自分が何を言っているの分かっているのか!」
本当にこの人は、私の気持ちなど何も考えていないのだと悟った。
そう思うと悔しくなり、私も勢いに任せて叫んでいた。
もうどうなってもいい、と投げやりな気持ちもあったのかもしれない。
「お父様は私の心配なんてしたことないですよね。大事なのは、この家のことだけ。そんなに王族との繋がりが欲しいのなら、あの養子に入った子に頼めばいいじゃない! 私にはもう無理」
感情に流されて、私は思っていることを口に出していた。
父は目を丸くして、ただ私のことをじっと見ている。
今までこんなに反論したことはなかったので、驚いているのだろう。
言った私自身もびっくりしている。
(どうしよう、言っちゃった……)
言った直後は戸惑ってしまったが、気持ち良かった。
胸の中に溜まっていた重荷がスッと消えていき、心が軽くなるのを感じる。
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