31 / 53
31.複雑な心
しおりを挟む
「学園に着いたらルカ様にお話があります…」
「話…?だけど…今日じゃなくても構わないぞ?」
「お気遣いありがとうございます…。でも出来るだけ早く伝えておいた方が良いと思うので…」
「分かった。シンリーの話なら何だって聞くよ…」
ルカルドは柔らかい口調で答えた。
***
学園に到着すると私達はいつもの部屋へと向かった。
普段なら向かい合って座るのだが、あんなことがあった後だったせいかルカルドは私の隣に腰掛けた。
きっと私が不安な顔をしていたから、少しでも傍にいて安心させようと思ってくれたのかもしれない。
そしてベンノが温かいお茶とお菓子を用意してくれた。
やっぱりベンノが淹れたお茶を飲むと心がなんとなくほっとする。
「ベンノ、少しシンリーと話があるんだ」
「それでは、私はこれで失礼させて頂きますね。シンリー様、ごゆっくりしていってくださいね」
ルカルドはベンノにそう告げると、ベンノは挨拶をして部屋を出て行った。
私はどう話を切り出そうか迷っていた。
私が中々言葉を出せないでいると、ルカルドは膝の上に置いてある私の手の上に自分の掌を重ねた。
「無理しなくていいよ」
「………」
私は顔を上げて横を向くと、すぐ隣には優しい表情のルカルドがいた。
小さく深呼吸をして心を落ち着かせると、私はゆっくりと話し始めた。
「ルカ様…、私誘拐された時に記憶の一部を思い出したみたいです…」
「記憶って幼い頃の…?」
「はい…。私は6歳の頃に誘拐されました」
「誘拐…?犯人の顔は見たのか…?」
ルカルドは驚いた表情をしていた。
「一応見たんですが、依頼を受けただけの者だと思います。指示したのは別にいるって話していたから…」
「一体、誰が…」
ルカルドは私の話を聞いて考えた様な表情をしていた。
「ルカ様が言ってたことは正しかった。ラヴィニアは病死では無かったから…」
「…っ…!?…ラヴィの事を知っているのか…!?」
ラヴィニアと私が口に出すと、ルカルドの瞳の色が変わった。
その表情を見ると私の心の中は複雑な気持ちになってしまう。
私が実はラヴィニアだったって話したらがっかりするかもしれない。
そう思うと中々言葉が出て来なくなってしまう。
「シンリー、頼む…教えてくれ…。ラヴィが病死じゃないって…どういう事だ?」
「ラヴィニアは……私…だったから…」
私は小さな声で呟いたが、ルカルドにはその言葉は届いた様だった。
「「………」」
ほんの数秒沈黙が続いた。
数秒だけど私にはすごく長い時間に思えてしまった。
「ルカ様…ごめんなさい。私、全然思い出せなくて…」
言葉には出せなかったが「私がルカ様の大事な思い出のラヴィニアでごめんなさい」と心の中で謝った。
その言葉を声に出してしまうと、きっと泣いてしまいそうな気がしたから私は言えなかった。
「……やっぱり君が、ラヴィだったんだな…」
ルカルドはそう呟くと私の事を抱きしめていた。
「ルカ様…!?」
突然抱きしめられて私は一人で動揺していた。
「シンリー…、いや…ラヴィ…俺、ラヴィの為に何も出来なくてごめん…」
「ルカ様はずっと私の事を調べていてくれたんですよね…?ずっと私の事、忘れないでいてくれてありがとうございますっ…」
ルカルドの声はどこか切なくて、辛そうで、それでいて優しい声にも聞こえた。
「当たり前だ、ラヴィは俺に取って恩人みたいな存在だからな。ラヴィに出会っていなかったら、きっと今の俺は無かったと思う。俺にとっては幼い頃も、今も大切な存在には変わりない…」
「………」
私はその言葉を聞くと胸の奥がチクっと痛くなった。
ルカルドは今でもラヴィニアが好きなんだ…。
やっぱり私はルカルドにとってはラヴィニアを重ねて見ているだけの存在だったのだと分かってしまった。
どっちも私だけど、今の私はシンリーであってラヴィニアではない。
ルカルドには私を、シンリーとしての私を見て欲しかった…。
「話…?だけど…今日じゃなくても構わないぞ?」
「お気遣いありがとうございます…。でも出来るだけ早く伝えておいた方が良いと思うので…」
「分かった。シンリーの話なら何だって聞くよ…」
ルカルドは柔らかい口調で答えた。
***
学園に到着すると私達はいつもの部屋へと向かった。
普段なら向かい合って座るのだが、あんなことがあった後だったせいかルカルドは私の隣に腰掛けた。
きっと私が不安な顔をしていたから、少しでも傍にいて安心させようと思ってくれたのかもしれない。
そしてベンノが温かいお茶とお菓子を用意してくれた。
やっぱりベンノが淹れたお茶を飲むと心がなんとなくほっとする。
「ベンノ、少しシンリーと話があるんだ」
「それでは、私はこれで失礼させて頂きますね。シンリー様、ごゆっくりしていってくださいね」
ルカルドはベンノにそう告げると、ベンノは挨拶をして部屋を出て行った。
私はどう話を切り出そうか迷っていた。
私が中々言葉を出せないでいると、ルカルドは膝の上に置いてある私の手の上に自分の掌を重ねた。
「無理しなくていいよ」
「………」
私は顔を上げて横を向くと、すぐ隣には優しい表情のルカルドがいた。
小さく深呼吸をして心を落ち着かせると、私はゆっくりと話し始めた。
「ルカ様…、私誘拐された時に記憶の一部を思い出したみたいです…」
「記憶って幼い頃の…?」
「はい…。私は6歳の頃に誘拐されました」
「誘拐…?犯人の顔は見たのか…?」
ルカルドは驚いた表情をしていた。
「一応見たんですが、依頼を受けただけの者だと思います。指示したのは別にいるって話していたから…」
「一体、誰が…」
ルカルドは私の話を聞いて考えた様な表情をしていた。
「ルカ様が言ってたことは正しかった。ラヴィニアは病死では無かったから…」
「…っ…!?…ラヴィの事を知っているのか…!?」
ラヴィニアと私が口に出すと、ルカルドの瞳の色が変わった。
その表情を見ると私の心の中は複雑な気持ちになってしまう。
私が実はラヴィニアだったって話したらがっかりするかもしれない。
そう思うと中々言葉が出て来なくなってしまう。
「シンリー、頼む…教えてくれ…。ラヴィが病死じゃないって…どういう事だ?」
「ラヴィニアは……私…だったから…」
私は小さな声で呟いたが、ルカルドにはその言葉は届いた様だった。
「「………」」
ほんの数秒沈黙が続いた。
数秒だけど私にはすごく長い時間に思えてしまった。
「ルカ様…ごめんなさい。私、全然思い出せなくて…」
言葉には出せなかったが「私がルカ様の大事な思い出のラヴィニアでごめんなさい」と心の中で謝った。
その言葉を声に出してしまうと、きっと泣いてしまいそうな気がしたから私は言えなかった。
「……やっぱり君が、ラヴィだったんだな…」
ルカルドはそう呟くと私の事を抱きしめていた。
「ルカ様…!?」
突然抱きしめられて私は一人で動揺していた。
「シンリー…、いや…ラヴィ…俺、ラヴィの為に何も出来なくてごめん…」
「ルカ様はずっと私の事を調べていてくれたんですよね…?ずっと私の事、忘れないでいてくれてありがとうございますっ…」
ルカルドの声はどこか切なくて、辛そうで、それでいて優しい声にも聞こえた。
「当たり前だ、ラヴィは俺に取って恩人みたいな存在だからな。ラヴィに出会っていなかったら、きっと今の俺は無かったと思う。俺にとっては幼い頃も、今も大切な存在には変わりない…」
「………」
私はその言葉を聞くと胸の奥がチクっと痛くなった。
ルカルドは今でもラヴィニアが好きなんだ…。
やっぱり私はルカルドにとってはラヴィニアを重ねて見ているだけの存在だったのだと分かってしまった。
どっちも私だけど、今の私はシンリーであってラヴィニアではない。
ルカルドには私を、シンリーとしての私を見て欲しかった…。
20
お気に入りに追加
2,781
あなたにおすすめの小説
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!
ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる