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第2章 その瞳が見つめる未来は
20話 意地があんだよ、男の子には!
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地を這うように広がる真っ赤な炎が、灯真たちへ近づくにつれて次第に高さを増していく。灯真はディーナと幸路を無理やり引っ張ると、彼女らの前に出る。激しい恐慌に襲われながらも急いで羽を作っていると、炎は瞬く間に彼らの背丈を超える高波となって襲いかかった。
「灯真さん!」
ディーナが危険を察知して灯真に近寄ろうとするが、目の前にある壁に阻まれ近づくことができない。曲げた左腕を壁のように顔の前に出し苦悶の色を浮かべる灯真の痛みが、ディーナに伝わってくる。羽を超えて伝わる熱が、彼の肌を焼いていた。炎の高さを超える壁を作ったこと、ディーナや幸路の周囲に熱の伝わりを和らげるための壁をもう一枚作ったことで、羽の残数に余裕がなかった。
(少し前なら、こんなことには……)
真っ赤になった左腕の痛みを感じながら、歯を軋ませる灯真。魔法暴走の症状が緩和されていなければ、一度にもっと多くの羽を出すことが出来た。炎は次第に入り口の方へと下がっていく。視界を遮っていた炎が消えると、入り口にはまだあの少年が立っていた。炎は少年の足元まで下がり、そのまま消えていく。
「ちっ、後ろからも」
倉庫の奥から迫りくる男たちの姿を見て、幸路は再び獅子を作り出し応戦する準備をする。この場で戦闘が可能なのは自分だけ。灯真に戦闘能力が皆無だと、幸路は彼の研修で知っていた。
(岩端さんが追いつくまで、それまで耐えられればいい)
男たちの後ろには、聖ともう一体の石の獅子の姿が見える。彼らと合流できれば勝機はある。幸路は新たに作り出した獅子に指令を下す。灯真とディーナを守れと。しかし、彼の想定は無駄に終わる。
「何!?」
男たちは灯真たちに攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、近くのコンテナに乗ると、そこからジャンプして灯真たちの頭上を飛び越えていった。戦うことになると腹を決めていた幸路が、彼らの動きを目で追いながら思わず声を上げる。
「紅野さん、来ます!」
灯真の声と共に背中の方から熱くなっているのを幸路は感じた。少年が手を振り上げて発生させた炎の第2波がやってきたのだ。それは先ほどよりも大きな波であったが、準備の時間があった灯真は羽をさらに増産し羽で3重の壁を用意した。先ほどよりも伝わる熱さは弱い。しかし問題は灯真たちの頭上を飛び越えていった男たちだ。
「あのガキ……奴らの味方じゃねえのか!?」
男たちは、まるでその方向にいくことを約束していたかのように炎の波へ飛び込み、その姿を消した。自分らを襲う炎の波が魔力を含んでいるせいで見えづらいが、灯真の散布探知でも幸路の拡張探知でも、彼らの姿はもう確認できない。
「皆さん、ご無事で?」
聖が合流し、みんなの状況を確認していると炎の波は再び勢いを弱め、入り口の方へと引いていく。その様子を見ていた聖が驚愕し顔色を変える。
「そんな……彼はもう死んでいるはずだ……」
「岩端さん、あの少年の使った魔法をご存知なんですか?」
「少年?」
炎が消え、幸路が少年を指差す。彼の姿を見て、聖の表情が険しくなる。
「いいえ、あの少年のことは存じません。が、あの子が使った魔法は知っています」
「「メフラ・イーヴァウ……」」
灯真とディーナの声が揃う。メフラ・イーヴァウ……亡くなったとされる松平恭司の魔法。灯真とディーナは全く同じものを思い浮かべていた。
「そうです。炎でありながら波の特性を持つ魔法。炎が発生地点に下がりながら消えていくのは、この魔法の特徴です」
「あのガキが、松平さんだっていうんですか!?」
「そんなはずは……」
「魔道具を使った様子はありませんでした。魔術の詠唱もないですし、本人が姿を変えているか似た特性を持つ別の誰かの魔法という可能性も……」
「自分の知る限り、協会に類似した特性を持つ魔法の登録はありません。同じ魔法は2つと存在しない。その原則が間違っていないとすれば……」
「また来ます!」
3度目の攻撃。先ほどよりもさらに勢いが強い。灯真が壁の範囲、特に高さを少しずつ上げているが、それでもあと十数センチでその壁を超えてしまいそうだ。幸路の石の獅子が1体、灯真たちのそばに駆け寄る。
「二人で乗れ。稲葉さんたちと合流するんだ!」
「わかりました」
獅子は2人が乗りやすいように少しだけ体を下げる。おどおどしているディーナの手をとって、灯真は彼女を獅子の背中に乗せると、自分も彼女の前に乗り込む。
「俺に掴まってるんだ。体を羽で固定する」
「わ……わかりました」
2人が乗ったことを確認すると、幸路はもう1体の獅子の背に乗る。そして2体への指示を念じると、獅子たちは方向転換し光秀たちのいる倉庫の奥へと向かった。聖は羽にぶつかり続ける炎の波を一瞥するも、すぐに踵を返して3人の後を追う。
「このぉ!」
その頃、奥では光秀の魔術によって生み出した風が吹き荒れていた。風の渦に吸い込まれないよう必死にコンテナにしがみつく豊と正信だったが、そのコンテナ自体も徐々に地面を滑り始めていた。
「あの野郎、なんであの風の中で立ってられるんだ!?」
正信の疑問、それは風の影響を一番受けているはずの犯人の男が平然とトラックの荷台の上で立っていることだった。
「多分、俺たちと同じだ。男の服をよく見てみろ!」
豊に言われて正信は男が来ている服を凝視する。風に巻き込まれ、倉庫内にあったダンボールなどが外に向かって飛んでいっているのに、彼の服はほとんど風の影響を受けていない。豊は自分たちが灯真の羽で守られているように、彼も何かで自分を守っているのだと推測した。
(障壁まで使うのか……)
魔力を固めて作られた壁が、男の正面に展開され彼を守っている。豊たちの目には映っていないが、光秀のレンズにはそれがはっきりと見えていた。光秀も魔術にそれなりの魔力を消費しているので、薄い障壁ならばすぐに破れる。男の作ったと思われる障壁は、それだけ強固なものであった。
「どうするんだ。光秀!?」
「どうするも何も、今はこれ以外の手はない!」
「マジかよ!?」
「国生たちが来るまで、このままを維持するしかない」
障壁は魔力を固めて作ったものである。しかし、ずっとその形を保持しているわけではない。光秀の作り出した風によって少しずつ固められた魔力は削がれており、男が補強を続けている状態。どちらが先に魔力切れを起こすか……勝負はそこだった。
「やってくれたな……」
蛍司の起こした爆発によって倉庫の壁まで吹き飛ばされた心一が、服の袖が焼け焦げた右腕を押さえながら立ち上がる。爆発の影響か、彼の拳の強さによるものか、痺れて握れない右手がその威力を物語っていた。しかしそれは、蛍司も同じだった。心一の拳の威力を殺しきれず後退させられ、体を後ろにあったコンテナにぶつけた蛍司は右手を何度もグーパーしてダメージを確認する。
「ゲンコツの強さは今も変わらずかよ……」
指を動かすたびにズキズキと痛みが走り、蛍司は厳しい顔をする。だが、それでも止まっているわけにはいかなかった。彼は心一の方ではなく、光秀の方へと向きを変える。コンテナが邪魔で見えないが、風の流れが変わっていることには気付いていた。
「ケイ君!」
「とっちん?」
石の獅子に乗ってやって来た灯真たちを見て、蛍司が普段は細い糸目を大きく見開き不思議がる。敵が大勢向かっていって、今頃乱戦状態かと思っていた。最も、灯真がいるので一発も攻撃を受けていないだろうと不安はまるでなかったが。
「詳しいことは後で。今は稲葉さんと合流を」
「わかった」
灯真たちと一緒になって蛍司も光秀たちの方へと向かう。そしてようやく風の流れの正体を目にする。
「あれって……もしかして……」
「ネザルグエスフィーザク…ヘイオルさんの……?」
「あいつ、魔術使えないんじゃ?」
「確かそう言ってたと思う。でも、それ以外に考えられない」
「だとしたら近づくのはまずいな……っ!? あいつ何を?」
蛍司の目に、自分たちと並行して倉庫の奥へと向かう心一の姿が映った。だらんと下がった右手を押さえながら彼は光秀の生み出した風の渦へ一直線に向かっている。蛍司たちの視線に気付いた心一は、光秀の風の影響をギリギリ受けない位置で足を止めると、無事だった左手で蛍司のことを指差す。
「国生、この決着はいずれつけてやる! 死んだら許さんからな!」
そういうと、心一は自ら風の渦に飛び込み、倉庫の外へと吹き飛ばされた。風に耐えていた犯人の男も障壁を解除し、彼の後を追うように風に乗って外へと飛び出していく。敵がいなくなったことを確認し、光秀が魔術の使用を止めた。
「ヒデミーの風を使って逃げやがったな……」
「探知にも引っかかりませんし、うまく使われてしまいましたね」
聖が拡張探知を広範囲に広げて彼の行方を追うが、もうそれらしき姿は確認できなかった。豊と正信は、犯人がいなくなり風が止まったことを確認すると、少しだけ息遣いの荒くなっている光秀に近寄り彼の体を心配する。
「大丈夫かよ、ミツ?」
「ちょっと……頑張りすぎた……かもしれない」
そう言って膝を折り尻餅をつきそうになる光秀の体を、豊が咄嗟に支える。想像以上の重たさだったのか、豊自身も転倒しそうになったが辛うじて踏ん張った。
「光秀……もう少し痩せた方がいいんじゃないか?」
「……少し、そうしようかと思った、今日」
豊に支えられながら、光秀はゆっくりと地面に腰を下ろす。自分の腹を手でさすりながら、走っていて感じた自分の体力の無さを改めて痛感している。だが、彼が倒れそうになったのは体力の問題だけではない。魔術の使用でかなりの魔力を消費したことも原因の一つであった。魔術を使えたことを嬉しく感じた光秀ではあったが、見えないはずの彼の目に笑っている男の姿が映る。それは先ほどの魔術を教えてくれた男だった。光秀は苦笑いしながら、小さくため息を吐く。
「とりあえず、トラックの荷台を開けましょう。中にいる人たちが心配だ」
光秀たちが無事であることを確認しホッとした幸路が、荷台の扉をロックしているハンドルに手を掛ける。それとほぼ同じタイミングで、灯真の散布探知が自分たちに近づいてくるものを感知する。
倉庫の奥に移動を始めてからも、ずっと動きを見張っていた。自分たちを襲って来た炎の第3波が消え、心一たちが外へ飛び出すまでの間、あの少年に動きはなかった。だから自分たちに近づくそれに気づいたとき、灯真は少年がまるで彼らが逃げ出すのを待っていたかのように感じていた。
「なんか、暑くないか?」
気温の上昇に気付いたのは、正信だけではなかった。それが何を意味するのか、実際に目にして来た幸路と聖の顔色が変わる。何か怪しいと感じ、レンズを上昇させて倉庫内を確認した光秀は言葉を失った。入り口から自分たちのいる方に向かって真っ赤な炎が迫っていたのだ。途中にあるコンテナの間も全て埋め尽くしながら進む炎は、次第にコンテナを超える高さになり、全てを呑み込みながら光秀たちに向かって来た。すでに豊や正信にはそれが、真っ赤な津波に見えた。
「間に合え……」
先ほどまでとは比べ物にならない規模の攻撃に、灯真は展開していた羽を全て使い全員を守れるだけの壁を作り出す。頭に浮かんだのは、協会本部やドルアークロで松平に受けた魔法の攻撃。彼の炎の波に包まれたとき、三重に壁を作ってもかなりの温度になっていた。光秀たちを守っていた羽も、トラックを止めていた羽も全て壁に利用していく。
炎の津波は瞬く間に彼らを包んだ。彼らの周りにはもう炎以外何も見えない。四重に壁を展開したが、かなりの熱が壁の内側に伝わっている。みんなの顔から汗がにじみ出ていた。
「如月……どのくらい持ち堪えられる?」
「わかりません……」
炎の波によって灯真が散布探知のために広げていた魔力は押し出されてしまっている。あの少年の動きも、この炎の波がいつ止まるのかも、予想がまるでつかなかった。
「岩端さん……この状況どうにかできそうな魔道具持ってます?」
「病院から直接来たので残念ながら……紅野さんは?」
「俺も同じく……やばいですね」
普段であれば、聖は法執行機関の基本装備として複数の魔道具を所持している。火災時のために水を操る類の魔道具もその中にはある。調査機関でも緊急時用に支給されているものがあり、幸路は仕事中持ち歩いている。しかしそれらは職場に保管してあった。
(何か手はないか……何か……)
光秀は今ここにいるメンバーで、ここから脱出する方法はないかを考えていた。だが、視界を埋め尽くす炎をどうにかする手段が見つからない。炎を確認したレンズは津波に飲まれ消滅し、光秀の目は元の状態に戻っていた。灯真に出口までトンネルのようなものを作らせる手も考えたが、今展開している壁に穴を開けた瞬間、炎が中に入ってくるのは容易に想像がつく。
額から流れる汗が、濡れて肌に吸いつく服の不快感が、みんなの集中力を奪っていく。灯真も必死に壁の維持に努めるが、一番外側の壁が熱にやられて消滅し壁の内側の気温がさらに上昇していく。
「こうなったら……」
そういって灯真はポケットから1枚のカードを取り出す。何も書かれていないそれは、灯真が作った羽を固めたもの。緊急事態のために常備していたそれを使うか灯真は悩んでいた。
「とっちん、それは使うな。ここは俺がなんとかする」
炎に囲まれてから口を閉ざしていた蛍司が、そっと灯真の肩に手を置く。彼にはわかっていた。そのカードを使うということが、彼の限界が近いことを意味していることを。いつもと変わらぬ笑みを浮かべる蛍司に、灯真は不安そうな表情で返す。
「ケイ君……でも、どうやって……」
「もしあの時に戻れたら……そう考えてたのはとっちんだけじゃないんだ」
蛍司は灯真を後ろに下げると、一人で灯真の作った壁に近づいていく。壁に近づくほど肌に感じる熱さが増し、焼かれるような感覚に見舞われながらも、蛍司は微笑を浮かべる。
「国生、どうするつもりだ?」
「ゲンコツバカに決着をつけるまで死んだら許さんとか言われちゃったのよ」
「お前の爆発じゃどうにも……」
「とっちんやヒデミーができることちゃんとやってるのに、僕だけ動かないのはよくないでしょう」
「何言ってんだよ!? 日之宮たちと戦って相当魔力を消費してるくせにお前——」
「この状況をどうにかする方法が俺にはある。だったら、やるしかないやんか! お前やトーマみたいに、俺にだって燻っとうもんがある! 意地があんだよ、男の子には!」
蛍司は光秀の言葉を遮るように叫ぶと、右足を軸にして左足で地面に円を描き、自分の顔の前で右手をパッと開く。痛みに顔を歪めながら、魔力を掌に集め言葉を紡ぐ。
レヴィルスプリープルァグ タウクエティス ドニーブ
銀の波紋が捕らえ縛る
ゲランノン エムルアクニーマト エムティオウ エルドウ!
怒りを鎮めんと時を封じる
普段は標準語を話す彼が訛ったとき、自分をあだ名ではなく下の名前で呼んだとき、僕から俺に一人称が変わったとき、それは蛍司が本気で怒ったり真剣になったことを意味する。彼の声から感じる必死さが、光秀の昔の記憶を呼び覚ます。彼は昔からそうだったと。
「無茶だ……魔術でどうにかできるものじゃ……」
「彼を信じましょう」
魔術は魔法を模す術。その出力は、どれだけ魔力を込めようとオリジナルには程遠い。これだけの炎を消そうにも、無駄に魔力を消費するだけ。幸路はそう考えて蛍司を止めようと近づくが、そんな彼を聖の腕が遮る。
ウェラオン ティスァラク ティミエゥレルラ ラーズィアウ
我が拳より放たれし力は
ガートラム・アーザヌォート スデリトン セイト
ガートラム・アーザヌとの心の絆
「岩端さん、何を言ってるんですか!?」
「彼の言葉に迷いはない。自分にはそう聞こえました」
「だからって——」
レヴィクシルアンクレフ!
銀紋拡凍
詠唱を終えると、蛍司は痛めた右の拳で地面を強く叩く。強い痛みが彼を襲うが、彼は集中を切らさない。拳から地面へ流れた魔力は、銀色の低く小さな波となって彼の正面に広がり、通り過ぎた場所から次々と地面を白く染めていく。色が変わったのではない。凍りついているのだ。それは灯真の作った壁も凍りつかせ、内側の気温を急激に冷やしていく。地面を這うように進んでいた炎の波も、その形のまま氷の塊へと変化した。
周囲から炎が消え、灯真が羽を退かそうとしても凍りついて動かすことができない。ディーナは灯真に体をくっつけて寒さを凌ごうとする。同じように、光秀たちも体をくっつけあって暖を取っている。しかし、たっぷりと汗を吸収した服が体温の低下を助長していた。
「砕け、リグティオ!」
目の前で起きたことに驚愕しながらも、幸路はグッと堪えてすぐに次の行動に出る。石の獅子を体当たりさせて壁を砕こうとするが、ヒビが入る気配すらない。
「どんだけ硬いんだよ……」
「問題ないですよ」
聖の声が聞こえたかと思うと、一瞬だけ弧を描くように光の線が何本も宙に現れる。そして凍りついていた灯真の壁が、細かく分断されて頭上から降り注いだ。人の頭に落ちて来そうなものは特に細かくされて怪我にはならなかったが、それ以外は大きい塊のまま地面に落ち、盛大な音を立てて砕けていった。
「これは聖さんの……聖さん?」
それをやったのが聖だと幸路が気づくも、彼の姿はそばになかった。どこに行ったのかと拡張探知の膜を広げると、聖はすでに倉庫の入り口の方へ向かって氷の上を走っていた。自分たちを覆っていた炎がなくなり豊が見上げると、そこに見えたのは倉庫の天井ではなく、雲がまばらに浮かぶ青い空だった。雲の隙間から陽の光が差し込み、周囲の氷が輝いて見える。
「いない……逃げたか……?」
入り口まで急いだ聖だったが、少年の姿はどこにもなかった。凍りついた地面を見て、蛍司の使った魔術が倉庫の入り口、炎の発生地点までしっかり届いていたことが確認できる。
外からはサイレンの音が何重にも聞こえ、赤いライトの光が氷塊の奥に微かに見えた。倉庫は跡形もなく燃え、残ったのは明希の載せられたトラックと熱によってドロドロに溶けた鉄骨やコンテナの残骸、そして、蛍司の魔術で作られた氷だけだった。
「灯真さん!」
ディーナが危険を察知して灯真に近寄ろうとするが、目の前にある壁に阻まれ近づくことができない。曲げた左腕を壁のように顔の前に出し苦悶の色を浮かべる灯真の痛みが、ディーナに伝わってくる。羽を超えて伝わる熱が、彼の肌を焼いていた。炎の高さを超える壁を作ったこと、ディーナや幸路の周囲に熱の伝わりを和らげるための壁をもう一枚作ったことで、羽の残数に余裕がなかった。
(少し前なら、こんなことには……)
真っ赤になった左腕の痛みを感じながら、歯を軋ませる灯真。魔法暴走の症状が緩和されていなければ、一度にもっと多くの羽を出すことが出来た。炎は次第に入り口の方へと下がっていく。視界を遮っていた炎が消えると、入り口にはまだあの少年が立っていた。炎は少年の足元まで下がり、そのまま消えていく。
「ちっ、後ろからも」
倉庫の奥から迫りくる男たちの姿を見て、幸路は再び獅子を作り出し応戦する準備をする。この場で戦闘が可能なのは自分だけ。灯真に戦闘能力が皆無だと、幸路は彼の研修で知っていた。
(岩端さんが追いつくまで、それまで耐えられればいい)
男たちの後ろには、聖ともう一体の石の獅子の姿が見える。彼らと合流できれば勝機はある。幸路は新たに作り出した獅子に指令を下す。灯真とディーナを守れと。しかし、彼の想定は無駄に終わる。
「何!?」
男たちは灯真たちに攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、近くのコンテナに乗ると、そこからジャンプして灯真たちの頭上を飛び越えていった。戦うことになると腹を決めていた幸路が、彼らの動きを目で追いながら思わず声を上げる。
「紅野さん、来ます!」
灯真の声と共に背中の方から熱くなっているのを幸路は感じた。少年が手を振り上げて発生させた炎の第2波がやってきたのだ。それは先ほどよりも大きな波であったが、準備の時間があった灯真は羽をさらに増産し羽で3重の壁を用意した。先ほどよりも伝わる熱さは弱い。しかし問題は灯真たちの頭上を飛び越えていった男たちだ。
「あのガキ……奴らの味方じゃねえのか!?」
男たちは、まるでその方向にいくことを約束していたかのように炎の波へ飛び込み、その姿を消した。自分らを襲う炎の波が魔力を含んでいるせいで見えづらいが、灯真の散布探知でも幸路の拡張探知でも、彼らの姿はもう確認できない。
「皆さん、ご無事で?」
聖が合流し、みんなの状況を確認していると炎の波は再び勢いを弱め、入り口の方へと引いていく。その様子を見ていた聖が驚愕し顔色を変える。
「そんな……彼はもう死んでいるはずだ……」
「岩端さん、あの少年の使った魔法をご存知なんですか?」
「少年?」
炎が消え、幸路が少年を指差す。彼の姿を見て、聖の表情が険しくなる。
「いいえ、あの少年のことは存じません。が、あの子が使った魔法は知っています」
「「メフラ・イーヴァウ……」」
灯真とディーナの声が揃う。メフラ・イーヴァウ……亡くなったとされる松平恭司の魔法。灯真とディーナは全く同じものを思い浮かべていた。
「そうです。炎でありながら波の特性を持つ魔法。炎が発生地点に下がりながら消えていくのは、この魔法の特徴です」
「あのガキが、松平さんだっていうんですか!?」
「そんなはずは……」
「魔道具を使った様子はありませんでした。魔術の詠唱もないですし、本人が姿を変えているか似た特性を持つ別の誰かの魔法という可能性も……」
「自分の知る限り、協会に類似した特性を持つ魔法の登録はありません。同じ魔法は2つと存在しない。その原則が間違っていないとすれば……」
「また来ます!」
3度目の攻撃。先ほどよりもさらに勢いが強い。灯真が壁の範囲、特に高さを少しずつ上げているが、それでもあと十数センチでその壁を超えてしまいそうだ。幸路の石の獅子が1体、灯真たちのそばに駆け寄る。
「二人で乗れ。稲葉さんたちと合流するんだ!」
「わかりました」
獅子は2人が乗りやすいように少しだけ体を下げる。おどおどしているディーナの手をとって、灯真は彼女を獅子の背中に乗せると、自分も彼女の前に乗り込む。
「俺に掴まってるんだ。体を羽で固定する」
「わ……わかりました」
2人が乗ったことを確認すると、幸路はもう1体の獅子の背に乗る。そして2体への指示を念じると、獅子たちは方向転換し光秀たちのいる倉庫の奥へと向かった。聖は羽にぶつかり続ける炎の波を一瞥するも、すぐに踵を返して3人の後を追う。
「このぉ!」
その頃、奥では光秀の魔術によって生み出した風が吹き荒れていた。風の渦に吸い込まれないよう必死にコンテナにしがみつく豊と正信だったが、そのコンテナ自体も徐々に地面を滑り始めていた。
「あの野郎、なんであの風の中で立ってられるんだ!?」
正信の疑問、それは風の影響を一番受けているはずの犯人の男が平然とトラックの荷台の上で立っていることだった。
「多分、俺たちと同じだ。男の服をよく見てみろ!」
豊に言われて正信は男が来ている服を凝視する。風に巻き込まれ、倉庫内にあったダンボールなどが外に向かって飛んでいっているのに、彼の服はほとんど風の影響を受けていない。豊は自分たちが灯真の羽で守られているように、彼も何かで自分を守っているのだと推測した。
(障壁まで使うのか……)
魔力を固めて作られた壁が、男の正面に展開され彼を守っている。豊たちの目には映っていないが、光秀のレンズにはそれがはっきりと見えていた。光秀も魔術にそれなりの魔力を消費しているので、薄い障壁ならばすぐに破れる。男の作ったと思われる障壁は、それだけ強固なものであった。
「どうするんだ。光秀!?」
「どうするも何も、今はこれ以外の手はない!」
「マジかよ!?」
「国生たちが来るまで、このままを維持するしかない」
障壁は魔力を固めて作ったものである。しかし、ずっとその形を保持しているわけではない。光秀の作り出した風によって少しずつ固められた魔力は削がれており、男が補強を続けている状態。どちらが先に魔力切れを起こすか……勝負はそこだった。
「やってくれたな……」
蛍司の起こした爆発によって倉庫の壁まで吹き飛ばされた心一が、服の袖が焼け焦げた右腕を押さえながら立ち上がる。爆発の影響か、彼の拳の強さによるものか、痺れて握れない右手がその威力を物語っていた。しかしそれは、蛍司も同じだった。心一の拳の威力を殺しきれず後退させられ、体を後ろにあったコンテナにぶつけた蛍司は右手を何度もグーパーしてダメージを確認する。
「ゲンコツの強さは今も変わらずかよ……」
指を動かすたびにズキズキと痛みが走り、蛍司は厳しい顔をする。だが、それでも止まっているわけにはいかなかった。彼は心一の方ではなく、光秀の方へと向きを変える。コンテナが邪魔で見えないが、風の流れが変わっていることには気付いていた。
「ケイ君!」
「とっちん?」
石の獅子に乗ってやって来た灯真たちを見て、蛍司が普段は細い糸目を大きく見開き不思議がる。敵が大勢向かっていって、今頃乱戦状態かと思っていた。最も、灯真がいるので一発も攻撃を受けていないだろうと不安はまるでなかったが。
「詳しいことは後で。今は稲葉さんと合流を」
「わかった」
灯真たちと一緒になって蛍司も光秀たちの方へと向かう。そしてようやく風の流れの正体を目にする。
「あれって……もしかして……」
「ネザルグエスフィーザク…ヘイオルさんの……?」
「あいつ、魔術使えないんじゃ?」
「確かそう言ってたと思う。でも、それ以外に考えられない」
「だとしたら近づくのはまずいな……っ!? あいつ何を?」
蛍司の目に、自分たちと並行して倉庫の奥へと向かう心一の姿が映った。だらんと下がった右手を押さえながら彼は光秀の生み出した風の渦へ一直線に向かっている。蛍司たちの視線に気付いた心一は、光秀の風の影響をギリギリ受けない位置で足を止めると、無事だった左手で蛍司のことを指差す。
「国生、この決着はいずれつけてやる! 死んだら許さんからな!」
そういうと、心一は自ら風の渦に飛び込み、倉庫の外へと吹き飛ばされた。風に耐えていた犯人の男も障壁を解除し、彼の後を追うように風に乗って外へと飛び出していく。敵がいなくなったことを確認し、光秀が魔術の使用を止めた。
「ヒデミーの風を使って逃げやがったな……」
「探知にも引っかかりませんし、うまく使われてしまいましたね」
聖が拡張探知を広範囲に広げて彼の行方を追うが、もうそれらしき姿は確認できなかった。豊と正信は、犯人がいなくなり風が止まったことを確認すると、少しだけ息遣いの荒くなっている光秀に近寄り彼の体を心配する。
「大丈夫かよ、ミツ?」
「ちょっと……頑張りすぎた……かもしれない」
そう言って膝を折り尻餅をつきそうになる光秀の体を、豊が咄嗟に支える。想像以上の重たさだったのか、豊自身も転倒しそうになったが辛うじて踏ん張った。
「光秀……もう少し痩せた方がいいんじゃないか?」
「……少し、そうしようかと思った、今日」
豊に支えられながら、光秀はゆっくりと地面に腰を下ろす。自分の腹を手でさすりながら、走っていて感じた自分の体力の無さを改めて痛感している。だが、彼が倒れそうになったのは体力の問題だけではない。魔術の使用でかなりの魔力を消費したことも原因の一つであった。魔術を使えたことを嬉しく感じた光秀ではあったが、見えないはずの彼の目に笑っている男の姿が映る。それは先ほどの魔術を教えてくれた男だった。光秀は苦笑いしながら、小さくため息を吐く。
「とりあえず、トラックの荷台を開けましょう。中にいる人たちが心配だ」
光秀たちが無事であることを確認しホッとした幸路が、荷台の扉をロックしているハンドルに手を掛ける。それとほぼ同じタイミングで、灯真の散布探知が自分たちに近づいてくるものを感知する。
倉庫の奥に移動を始めてからも、ずっと動きを見張っていた。自分たちを襲って来た炎の第3波が消え、心一たちが外へ飛び出すまでの間、あの少年に動きはなかった。だから自分たちに近づくそれに気づいたとき、灯真は少年がまるで彼らが逃げ出すのを待っていたかのように感じていた。
「なんか、暑くないか?」
気温の上昇に気付いたのは、正信だけではなかった。それが何を意味するのか、実際に目にして来た幸路と聖の顔色が変わる。何か怪しいと感じ、レンズを上昇させて倉庫内を確認した光秀は言葉を失った。入り口から自分たちのいる方に向かって真っ赤な炎が迫っていたのだ。途中にあるコンテナの間も全て埋め尽くしながら進む炎は、次第にコンテナを超える高さになり、全てを呑み込みながら光秀たちに向かって来た。すでに豊や正信にはそれが、真っ赤な津波に見えた。
「間に合え……」
先ほどまでとは比べ物にならない規模の攻撃に、灯真は展開していた羽を全て使い全員を守れるだけの壁を作り出す。頭に浮かんだのは、協会本部やドルアークロで松平に受けた魔法の攻撃。彼の炎の波に包まれたとき、三重に壁を作ってもかなりの温度になっていた。光秀たちを守っていた羽も、トラックを止めていた羽も全て壁に利用していく。
炎の津波は瞬く間に彼らを包んだ。彼らの周りにはもう炎以外何も見えない。四重に壁を展開したが、かなりの熱が壁の内側に伝わっている。みんなの顔から汗がにじみ出ていた。
「如月……どのくらい持ち堪えられる?」
「わかりません……」
炎の波によって灯真が散布探知のために広げていた魔力は押し出されてしまっている。あの少年の動きも、この炎の波がいつ止まるのかも、予想がまるでつかなかった。
「岩端さん……この状況どうにかできそうな魔道具持ってます?」
「病院から直接来たので残念ながら……紅野さんは?」
「俺も同じく……やばいですね」
普段であれば、聖は法執行機関の基本装備として複数の魔道具を所持している。火災時のために水を操る類の魔道具もその中にはある。調査機関でも緊急時用に支給されているものがあり、幸路は仕事中持ち歩いている。しかしそれらは職場に保管してあった。
(何か手はないか……何か……)
光秀は今ここにいるメンバーで、ここから脱出する方法はないかを考えていた。だが、視界を埋め尽くす炎をどうにかする手段が見つからない。炎を確認したレンズは津波に飲まれ消滅し、光秀の目は元の状態に戻っていた。灯真に出口までトンネルのようなものを作らせる手も考えたが、今展開している壁に穴を開けた瞬間、炎が中に入ってくるのは容易に想像がつく。
額から流れる汗が、濡れて肌に吸いつく服の不快感が、みんなの集中力を奪っていく。灯真も必死に壁の維持に努めるが、一番外側の壁が熱にやられて消滅し壁の内側の気温がさらに上昇していく。
「こうなったら……」
そういって灯真はポケットから1枚のカードを取り出す。何も書かれていないそれは、灯真が作った羽を固めたもの。緊急事態のために常備していたそれを使うか灯真は悩んでいた。
「とっちん、それは使うな。ここは俺がなんとかする」
炎に囲まれてから口を閉ざしていた蛍司が、そっと灯真の肩に手を置く。彼にはわかっていた。そのカードを使うということが、彼の限界が近いことを意味していることを。いつもと変わらぬ笑みを浮かべる蛍司に、灯真は不安そうな表情で返す。
「ケイ君……でも、どうやって……」
「もしあの時に戻れたら……そう考えてたのはとっちんだけじゃないんだ」
蛍司は灯真を後ろに下げると、一人で灯真の作った壁に近づいていく。壁に近づくほど肌に感じる熱さが増し、焼かれるような感覚に見舞われながらも、蛍司は微笑を浮かべる。
「国生、どうするつもりだ?」
「ゲンコツバカに決着をつけるまで死んだら許さんとか言われちゃったのよ」
「お前の爆発じゃどうにも……」
「とっちんやヒデミーができることちゃんとやってるのに、僕だけ動かないのはよくないでしょう」
「何言ってんだよ!? 日之宮たちと戦って相当魔力を消費してるくせにお前——」
「この状況をどうにかする方法が俺にはある。だったら、やるしかないやんか! お前やトーマみたいに、俺にだって燻っとうもんがある! 意地があんだよ、男の子には!」
蛍司は光秀の言葉を遮るように叫ぶと、右足を軸にして左足で地面に円を描き、自分の顔の前で右手をパッと開く。痛みに顔を歪めながら、魔力を掌に集め言葉を紡ぐ。
レヴィルスプリープルァグ タウクエティス ドニーブ
銀の波紋が捕らえ縛る
ゲランノン エムルアクニーマト エムティオウ エルドウ!
怒りを鎮めんと時を封じる
普段は標準語を話す彼が訛ったとき、自分をあだ名ではなく下の名前で呼んだとき、僕から俺に一人称が変わったとき、それは蛍司が本気で怒ったり真剣になったことを意味する。彼の声から感じる必死さが、光秀の昔の記憶を呼び覚ます。彼は昔からそうだったと。
「無茶だ……魔術でどうにかできるものじゃ……」
「彼を信じましょう」
魔術は魔法を模す術。その出力は、どれだけ魔力を込めようとオリジナルには程遠い。これだけの炎を消そうにも、無駄に魔力を消費するだけ。幸路はそう考えて蛍司を止めようと近づくが、そんな彼を聖の腕が遮る。
ウェラオン ティスァラク ティミエゥレルラ ラーズィアウ
我が拳より放たれし力は
ガートラム・アーザヌォート スデリトン セイト
ガートラム・アーザヌとの心の絆
「岩端さん、何を言ってるんですか!?」
「彼の言葉に迷いはない。自分にはそう聞こえました」
「だからって——」
レヴィクシルアンクレフ!
銀紋拡凍
詠唱を終えると、蛍司は痛めた右の拳で地面を強く叩く。強い痛みが彼を襲うが、彼は集中を切らさない。拳から地面へ流れた魔力は、銀色の低く小さな波となって彼の正面に広がり、通り過ぎた場所から次々と地面を白く染めていく。色が変わったのではない。凍りついているのだ。それは灯真の作った壁も凍りつかせ、内側の気温を急激に冷やしていく。地面を這うように進んでいた炎の波も、その形のまま氷の塊へと変化した。
周囲から炎が消え、灯真が羽を退かそうとしても凍りついて動かすことができない。ディーナは灯真に体をくっつけて寒さを凌ごうとする。同じように、光秀たちも体をくっつけあって暖を取っている。しかし、たっぷりと汗を吸収した服が体温の低下を助長していた。
「砕け、リグティオ!」
目の前で起きたことに驚愕しながらも、幸路はグッと堪えてすぐに次の行動に出る。石の獅子を体当たりさせて壁を砕こうとするが、ヒビが入る気配すらない。
「どんだけ硬いんだよ……」
「問題ないですよ」
聖の声が聞こえたかと思うと、一瞬だけ弧を描くように光の線が何本も宙に現れる。そして凍りついていた灯真の壁が、細かく分断されて頭上から降り注いだ。人の頭に落ちて来そうなものは特に細かくされて怪我にはならなかったが、それ以外は大きい塊のまま地面に落ち、盛大な音を立てて砕けていった。
「これは聖さんの……聖さん?」
それをやったのが聖だと幸路が気づくも、彼の姿はそばになかった。どこに行ったのかと拡張探知の膜を広げると、聖はすでに倉庫の入り口の方へ向かって氷の上を走っていた。自分たちを覆っていた炎がなくなり豊が見上げると、そこに見えたのは倉庫の天井ではなく、雲がまばらに浮かぶ青い空だった。雲の隙間から陽の光が差し込み、周囲の氷が輝いて見える。
「いない……逃げたか……?」
入り口まで急いだ聖だったが、少年の姿はどこにもなかった。凍りついた地面を見て、蛍司の使った魔術が倉庫の入り口、炎の発生地点までしっかり届いていたことが確認できる。
外からはサイレンの音が何重にも聞こえ、赤いライトの光が氷塊の奥に微かに見えた。倉庫は跡形もなく燃え、残ったのは明希の載せられたトラックと熱によってドロドロに溶けた鉄骨やコンテナの残骸、そして、蛍司の魔術で作られた氷だけだった。
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