恋するキャンバス

犬野花子

文字の大きさ
上 下
29 / 62
峯森誠司

2話 俺は関係ないからな(1)

しおりを挟む
 女ってほんと、わっかんねえ。

 昼休みの衝撃から、ずっと頭の中を占拠しているモノに、何度も何度も繰り返しぶつけてみる。

 羽馬千香子。小学校の頃から存在感のあるヤツだった。
 例えて言うなら、元気丸出し? 暖簾に腕押し? なんていうか出会い頭にぶつかってきた馬みたいな? そんなヤツだった。
 俺と同じで、まったく色恋沙汰に無縁そうな雰囲気のくせに、ものすごく恐ろしいほどドストレートに「好きだ」どーだと言ってくる、機関銃のようなヤツでもあった。

 中学の俺はとにかく絶好調にひねくれてて、女子と交流なんてありえないと息巻いてた、まさにピーク期だったのに、そんな俺と会話できてたのなんてアイツぐらいだった。普通なら一往復ターンで終了。それがアイツだとラリーになる。ある意味才能だと思う。

 ところがどーだ。高校では、まったくもってすべてのことがピタリと止まった。竹井じゃなくても、俺と羽馬が同じ中学出身なんて誰も気付かないだろう。それぐらい関係値がゼロの状態だ。
 あんなに「好きだ」「かわいい」だと散々言ってきておいて、それに俺もだんだん慣れてきてたところでのこの放置プレイ。
 百歩譲って、放置プレイを置いておいたとしてもだ。アイツにイケメン彼氏だとっ!?
 お前、俺のあの勇気と冒険をどーしてくれた! スルーか、その気にさせるだけさせて、スルーかっ!?

「おお? 峯森がめずらしく興奮してるぞ」

 真横にいた竹井の声に我に返った。部活を終え、帰宅準備中だが、ミッションが与えられているのだった。想像しなくても気分が滅入るので、超絶やりたくない。

「やっぱ、俺はいいだろ。お前だけで行ってこい」
「なんでだよ。見ず知らずのオレが聞いて、教えてくれるわけねーだろ? 鈴木の彼女、ちょっとこえーし」

 幸太が「噂かどーかは、美乃里ちゃんに聞けば早くね?」と言ったもんだから、竹井は羽馬の親友である筧美乃里に直接聞くぞと、息巻いてしまったのである。

「筧がこえーのは賛成。だからやめとこう」
「協力するって話だろ?」
「言ってねーしっ」
「……あの、峯森くん」

 お互いの腕を引っ張り合っているところで、声がかかった。赤尾先輩だ。

 チラチラと俺と竹井を見ながら、なにか言いにくそうにしている。

「はい」
「ちょっと、いいかな?」
「え?」

 竹井が引っ張っていた手をパッと大げさにはずして、ニヤニヤしている。

「あ、じゃあ、オレ、あっちで待ってるわ」
「いやいや、おいっ」

 途端に冷や汗が滲む。テニス部のマネージャーが俺だけに用事ということは、部活関係ないということで。ということは、例の件? いやもう断ったし! 断ったよな?

「いや、ちょっと、野暮用あるんで無理っす! 失礼します!」
「あ、ちょっと、峯森くん!?」

 ヘコヘコと変な後退をしている竹井の腕を取って、そのままダッシュで逃げた。するとなぜか競争心がお互い芽生えて、本気のダッシュになっていた。
 逃げた先の昇降口で、ゼイハアと息を整えていると、竹井も苦しそうに息を吐きながら呆れたようにぼやく。

「なんだよー、ほんとお前、もったいないオバケ出るぞっ。何がダメなんだ?」
「しるかっ」

 自分でもわかっちゃいない。ただきっと、中学の時から全然成長できていないだけなんだろう。
 そもそもあの先輩は、いや先輩以外もそうだ。俺の何をどう気に入って、俺をどうしようとしたいんだ。
 ああ、そういや、こんなようなことを、アイツとも言い合ったこと、あったな。そん時は、どう言ったんだっけ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...