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羽馬千香子
9話 誤解です!(2)
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基本、美乃里ちゃんが常にくっついていてくれてたので、何も起こらなかったけど、バスケ部の彼女と部活でわかれた途端、上級生たちに囲まれてしまった。
美術室に向かう渡り廊下で待ち伏せされていたので、数少ない部員のなかからチェックしていってたのかもしれない。
さすがに怖い。敵意向き出しで睨まれ囲まれてしまって、こわばった足が動かせない。
渡り廊下の向こうでは、野次馬もできているが、おもしろがっているようだ。
「あんた、美術部の一年?」
ひとりの先輩が、忌々しそうに口火を切った。
「……はい」
「うっわ、マジ」
途端に先輩たちが笑いだした。
そのバカにされたような笑い方に、失せていた血の気が煮えたぎるほど熱くなった。
なぜ、そんなふうに笑われなければならないんだ、と。
「すっごいショックー。ただのガキじゃん」
「なに、金でも積んでんじゃない?」
「こっわー」
耳から飛び込むすべてが、信じられないくらい汚くて、泣きたくないのにジワリと目頭が揺れてしまう。
「ねえねえ、美術部やめてくんない? すんごい迷惑」
「円堂くんの視界に入んな、邪魔」
たまたま部活が一緒なだけなのに。たまたま弁当を並んで食べただけなのに。なんで、こんなに悪意をぶつけられなければならないの。
「……やめません」
怒りで震えている自分の拳だけを見ていた。けど、その視線を上にあげた。
見たことのない顔。しゃべったこともない顔。知らないひとたちを、しっかり睨み返した。
「やめません」
言い返してくるとは思ってなかったのか、先輩たちは目を見開いている。
「むしろ、絶対やめません!」
汗はどっどとあちこちから噴き出ている。あまりの熱さに、煮えたぎる血が噴き出してるような気さえする。こんなに気持ちを抑えられないことがはじめてで、どうすればいいのかわからなかった。
「うわー、本性あらわした!」
「すっげー生意気、なにコイツ!」
先輩たちの怒りも爆発したようだ。ほうぼうから罵られ詰め寄られ、逃げ場がなくなった。
ドンッと肩を押されて、弾みで後退すれば、うしろの先輩からも頭を小突かれた。
耳鳴りがするほど、何も聞こえなくなった。先輩たちの声を遮断するように、何も感じないように、まるで石になったみたいに固まった。
ふいに、先輩たちの動きが止まった。視界の先に、なにか茶色い物体が飛び込んできたのと同時に。
ひとりの先輩にぶつかったそれは、ぼとりと床に落ちる。騒ぐ先輩たちの視線の先を追えば、オレンジ色が飛び込んできた。部活着に着替えている誠司くんが、笑って立っていた。
「あ、すいませーん! キャッチボールして遊んでたもんで。な?」
誠司くんは、すぐうしろに隠れるようにして立つ野球部員に振り返っている。
「はあ? ふざけんな、どこで何投げて遊んでんだよ」
先輩たちの足元には、グローブが落ちていた。誠司くんは「すんませーん」と笑いながら、グローブを拾い上げると、ちらりと私に視線を投げてきた。
「あれ、羽馬、ここにいたのか。お前、部活の先輩が探してたぞ」
「え?」
それだけ言うと、さっさと野球部員の元にかけよって、グローブを押し付けて消えていってしまった。
さっきまで殺気立っていた先輩たちも、“部活の先輩”という単語に反応してか、すぐに散らばっていなくなってしまった。
あっという間の、出来事だった。
美術室に向かう渡り廊下で待ち伏せされていたので、数少ない部員のなかからチェックしていってたのかもしれない。
さすがに怖い。敵意向き出しで睨まれ囲まれてしまって、こわばった足が動かせない。
渡り廊下の向こうでは、野次馬もできているが、おもしろがっているようだ。
「あんた、美術部の一年?」
ひとりの先輩が、忌々しそうに口火を切った。
「……はい」
「うっわ、マジ」
途端に先輩たちが笑いだした。
そのバカにされたような笑い方に、失せていた血の気が煮えたぎるほど熱くなった。
なぜ、そんなふうに笑われなければならないんだ、と。
「すっごいショックー。ただのガキじゃん」
「なに、金でも積んでんじゃない?」
「こっわー」
耳から飛び込むすべてが、信じられないくらい汚くて、泣きたくないのにジワリと目頭が揺れてしまう。
「ねえねえ、美術部やめてくんない? すんごい迷惑」
「円堂くんの視界に入んな、邪魔」
たまたま部活が一緒なだけなのに。たまたま弁当を並んで食べただけなのに。なんで、こんなに悪意をぶつけられなければならないの。
「……やめません」
怒りで震えている自分の拳だけを見ていた。けど、その視線を上にあげた。
見たことのない顔。しゃべったこともない顔。知らないひとたちを、しっかり睨み返した。
「やめません」
言い返してくるとは思ってなかったのか、先輩たちは目を見開いている。
「むしろ、絶対やめません!」
汗はどっどとあちこちから噴き出ている。あまりの熱さに、煮えたぎる血が噴き出してるような気さえする。こんなに気持ちを抑えられないことがはじめてで、どうすればいいのかわからなかった。
「うわー、本性あらわした!」
「すっげー生意気、なにコイツ!」
先輩たちの怒りも爆発したようだ。ほうぼうから罵られ詰め寄られ、逃げ場がなくなった。
ドンッと肩を押されて、弾みで後退すれば、うしろの先輩からも頭を小突かれた。
耳鳴りがするほど、何も聞こえなくなった。先輩たちの声を遮断するように、何も感じないように、まるで石になったみたいに固まった。
ふいに、先輩たちの動きが止まった。視界の先に、なにか茶色い物体が飛び込んできたのと同時に。
ひとりの先輩にぶつかったそれは、ぼとりと床に落ちる。騒ぐ先輩たちの視線の先を追えば、オレンジ色が飛び込んできた。部活着に着替えている誠司くんが、笑って立っていた。
「あ、すいませーん! キャッチボールして遊んでたもんで。な?」
誠司くんは、すぐうしろに隠れるようにして立つ野球部員に振り返っている。
「はあ? ふざけんな、どこで何投げて遊んでんだよ」
先輩たちの足元には、グローブが落ちていた。誠司くんは「すんませーん」と笑いながら、グローブを拾い上げると、ちらりと私に視線を投げてきた。
「あれ、羽馬、ここにいたのか。お前、部活の先輩が探してたぞ」
「え?」
それだけ言うと、さっさと野球部員の元にかけよって、グローブを押し付けて消えていってしまった。
さっきまで殺気立っていた先輩たちも、“部活の先輩”という単語に反応してか、すぐに散らばっていなくなってしまった。
あっという間の、出来事だった。
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