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本編

12.ふたりの湯加減

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 秋に入ると仕事が忙しくなって、残業がない日のほうがめずらしくなった。
 おかげで外食や飲み歩きは減ったがフラストレーションが溜まる一方。

 今夜も団地に帰ってきても、すでにリビングの豆電球が申し訳ないように暗く部屋を灯してるだけで。ここのとこ母はすでに仕事に出ているかさっさと就寝してるかだった。

 今日もすでに仕事に出た後のようで、『冷蔵庫に飯』と簡潔なメモがテーブルに置いてあった。
 自分の部屋にも戻らずそのテーブルに荷物を置いて、とっとと服を脱ぎながら浴室に向かう。

 だめだ……疲れたまじで。 なんだこの忙しさは! 受注数はんぱないっ!! 手が足りない! 会社にとってはありがたいが、いち社員にはしんどいばかりだ!

 ジャーとシャワーを出して猛スピードで髪や身体を洗う。
 一刻も早く缶ビール開けたい……。

 ドプンと湯船に使って「は~~」と深く息を吐いて少しばかり気分が浮上した。日本人の湯船文化に感謝だわ。

 呑気に肩にパチャパチャとお湯をかけていると、ガチャッ、と玄関の方から音がした。
「……ん?」

 母が忘れ物でもしたのだろうか……。
 しかし、ひとつウッカリ忘れていたことを思い出してしまった。

 我が家の鍵は、母とわたしと、あとひとつ、お隣の花咲さん……実質、アキちゃんが持っているのだ、小学生の頃に持たせていたまま。そしてそして、帰ってから真っ暗だった為失念していたが、今週は夜勤週間、さらには学生の夏休みはとうに終わっている……。
 たらり、とお湯なのか冷や汗なのかわからないものがこめかみを伝い落ちる。

 トタトタと小さな廊下を歩く足音がしてすぐ、「おじゃましまーす」と能天気なアキちゃんの声。
 でた!! 大魔王!!
 意味もなく目を浴室内に走らせる、わかってる、ここに逃げ場はない!
 しかも電気が煌々とついているのはここだけ!わたしの鞄はリビングに置きっぱなし!

 わたしは湯船に息ができるギリギリラインの鼻下まで沈む。
 いっいるなら最初からこっちにいろおっ! なぜうちの母とご飯食べた後一端自分家に戻った?! あれ? そっちが普通のことかっ?!

 そんなこと追及してると、すぐそこの脱衣場に人影が映った。すりガラスになぜか、どう考えても人が服を脱いでいる動作が……。
 ガララララッ。

 ぎゃーーーー!! 大魔王降臨ーーーー!!

 両手でバチャッと目を覆う。お湯が若干鼻に入って痛いがそれどころではない。
「ナツミお帰りお疲れ様」
 ……風呂場で開口一番に聞く台詞としては違和感しかない。

「疲れてるだろ? 身体洗ってやろうか?」
 むしろそっちの台詞のほうが違和感ない……残念なことに。
「っばかっ」
 わたしはいまだ両手で目を覆って、毒なものを視界に入れないように必死だ。「ていうかもう洗ってるからっ! 出てってよー!」
「なんだ、残念」
 そう言ってジャブジャブと湯船に入ってきたかと思うと浮遊力を使ってわたしの身体をずらしズリンと背後に座りこんだ。
「えええ!!」
 慌てて顔に当てていた手を胸と下半身に当て直すが、ぜんぜん防御になってない。

 片腕でまず両胸は上手く覆えない、その左肘付近から少しはみ出した左胸を最速掴まれ、さらに下を隠しているわたしの右手の指の間に自分の指をグリグリ突っ込み、開通作業が始まってしまった。
「ナツミと風呂入んの、初めてじゃね?」
 これは風呂に入っているというカテゴリーに当てはまってますか?エロ男爵っ!

「もーーやだーーっあんっ!」
 つつつと首筋を舐め上げられてハムッと耳たぶを噛まれる。
 左胸をタユタユと優しく揺らしてる割には右手の指はグリグリドリルのように強くほじってくる。
 ……アキちゃん、そのポテンシャルいらない……。

「ナツミがたまってたら可愛そうだなーと思って」
 レロレロと耳たぶを舌で転がす。
「やあっ」
 どっちがたまってんだ!! 頼むから彼女と発散してくれ!!「った、たまってない! たまってないからっ! やめてっ」
「ほんとにー? 公園であんな中途半端で終わって?」
「たったまってるのはアキちゃんのほうじゃないのっ? あんっ!ちょっ……」
 左胸の先端が攻撃にあい、思わずピクリと反応する。
「……エロい身体」
 ボウッ! と顔が火照る。
「普通! これ普通! きっと!」
 あははっ、とアキちゃんの笑い声がこぼれる。
「きっと、って……自信ないんだ?」

 くにくにくにくにと先端を摘ままれてさらに爪先でカリカリとほじられる。
「あああんっ!! っはあっ!!」
 頬っぺにちゅうっとキスされてからベロンと舐められる。
「手どけて……もっと気持ちよくしてやる」
「いっ……いらないっ! やだっ!」
「……ほんとに、いや?」
 ブンブンと顔を縦に振りまくる。なのに、
「じゃあ、ほんとに嫌かどうか、ちょっと確認してみるわ」
 と、ほじってた右手を突如離したかと思ったらわたしの指先からグインと手をめくり上げた。
「ちょっと!」
 そのまますかさずアキちゃんの手のひらが大事な所を覆う形になった。わたしが反対にその手をめくろうとするがびくともしない。恐ろしいほどの逆転劇だ。

 そのままつつつと中指が下から上へとゆっくり割れ目を沿っていく。
「……ナツミのウソつき……お湯の中でヌルヌルしてんじゃん」
「ううううっ……ひどい……アキちゃんのばかぁ」
「かわいい……ナツミ」
 ちゅうっと再び頬っぺにキスが落ちる。

 つつつ、つつつ、と何度も割れ目を往き来する右手と、摘まんだり捏ねられたり引っかけられたりする左手に、煽られるように小さな波が徐々に大きくなっていくのを感じる。
 はっきりいって、気持ちよすぎてなにもかも手放してしまいそうな状態になっていた。

 覗き込まれた形でアキちゃんの顔が近づき、当たり前のように深いキスをすると、ちゅくちゅくと浴室内に音がやたら響いて聞こえる。
 右手は何度目かの往き来の後Uターンせずそのまま上にいき、敏感な芽をクニクニと撫で回し始めた。
「あっ!! だめっ! イッ……イっちゃう!! それだめっ」
 足先までビインと力が入りはじめて、大きな波を受け入れる準備を身体が始めてしまった。
 キュウッと下の芽と胸の先端を同時につままれ、「きゃあっ!!」
と悲鳴があがると、ビクビクと痙攣が続く。
 気持ちがよすぎる……。もうだめだ、欲しい……。
 悪魔の囁きに自ら脅える。

「……入れよっか?」
 幻聴ではない、大魔王の囁きが耳元を掠める。
「……」
 どした自分! がんばれ! 負けるな!……なんだこの沈黙はっ!

「快感に弱いナツミがほんと心配」
 はああとなぜか熱くて深い溜息をつく中学生。
 なぜだ、いったい何を心配しているんだ毎回。

「ナツミは昔から流されやすいもんな、すぐホイホイ彼氏作って」
 お前に言われたくない……。

「気持ちいいの、大好きだろ?」
 ……。おい、否定しろ自分。

「快楽に耐えれるような身体に訓練しとかないとな」
 ……なんだって?
「え? ちょっ……意味わかんないっ」
 わたしはグリンと残った力を振り絞って後ろを振り向いた。
 頬を上気させ、潤んだ瞳と誘うように少しだけ開かれた柔らかな唇、サラサラの黒髪がお湯か汗で綺麗な顔の輪郭に張り付いていて、ぶっちゃけ見ないほうがよかった。ドンと体温が上昇してしまった。

「俺、だいぶナツミに嘘ついてる。けっこう揚げ足取られてもいいくらい支離滅裂だったと思うけど、さすがナツミまったく大丈夫」
 なんだ、なんか嬉しくないこといっぱい言われた。
「ま、まさか、彼女いるっての……」
「あ、それはまあ、ほんと」
「え? じゃあ他になに?」
「一個教えるとしたら……」
 いやまてまて、そこは全部吐き出すとこじゃないのか?

 悩んでる?! ちょっと! どれを言うか悩むほどあんのっ?
「そうだなあ……じゃあ……あれだ、俺教わらなくてもそれなりに出来る、こういうこと。だから教えてくれって言ったのはウソだな」

 ドガーーン!!
 でました再びピアノによる不協和音の旋律。
 およよ、と湯船の縁につかまり頭をうなだれた。

 いや、薄々、薄々感じてたよ? アレコレ上手すぎるって。あきらかに手慣れてるって。いや、なんだったらわたしの初体験の相手やらなんやらよりかはズバ抜けてう、うまっ……いかん! 考えるなっ!!

 ついーーっと指先から背中をなぞられ「ひゃっ!!」と姿勢を正すと、後ろから再び羽交い締めにされた。
「だから、今度は、俺が訓練してやろうかなって。……どう?」
 どうもくそもあるかーーーー!!
「ま、間に合ってます!! 結構です!! てかもう、のぼせてきてつらいっ!」

 たぶん、のぼせ以外の要因のほうが多い気もしないがっ!
 アキちゃんは手のひらをわたしの頬に添えて振り向かせる。
「ほんとに、見事な茹でタコ具合で」
 なんかもっと良い表現はなかったんかいっ。
 ちゅうううと唇を吸われてジャバジャバーと湯船から立ち上がった。
「ひっ!」
 慌てて顔そらす。
 どうしよう! アキちゃんのアキちゃんが、元気モリモリだった……!
「よし、あがるぞー」
 なぜか意気揚々と風呂場から出された。
 とりあえず、危険を回避したようで、深い溜息をこっそり吐いた。




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