上 下
19 / 46
第1章 病気が完治するまで

19話 過去との別れ

しおりを挟む

 ライオネルは、心の奥にある強い決意を感じながら、祭壇の前に立っていた。目の前の水晶から放たれる光が、包み込み、神秘的な力を感じさせていた。

 周囲の空気が重くなり、心拍数が上がる。

「この試練を乗り越えなければ、セリーナを救う力を得られない…」

 仲間たちが心配そうに見守る中、ライオネルは水晶に向かって一歩前に出た。
 すると、水晶の光が一層強くなり、目の前に幻想的な景色が広がった。目の前には、再び過去の記憶が映し出され、彼はその中に引き込まれるように感じた。

「また過去か?」

 思い出が鮮やかに映し出される中で、セリーナが病気で倒れた出来事を思い起こした。
 
 そして、次第に記憶は暗い影を帯び始めた。

 その影は、セリーナを守れなかった瞬間だった。
 彼女の悪態が目に余り、少しばかり距離を置いていた時期とも重なる。心の中で葛藤し、彼女の笑顔を見守ることしかできなかった自分を責めていた。

「どうして、もっと強くなれなかったのか…」

 その思いが、再びライオネルの心に重くのしかかる。

 私は、この過去の自分を受け入れなければ、きっとここで命を落とすことになる。

 ライオネルは、そう何となく察していた。

 すると、目の前に現れたのは、心の中の不安や恐れの具現化だった。それは、まさに自身が直面すべき「自分自身」だった。

「お前はただの弱虫だ。セリーナを救えないお前が、何をできる?」

 その声は耳元で響き、心の奥深くに潜む自己嫌悪が呼び起こされる。

「私は、弱虫じゃない!」

 自分の声を大にして叫び、試練の幻影に向かって歩み寄った。心の中の恐れと対峙し、かつての自分に向き合う。

「私はセリーナを救うために、強くなりたいんだ!」

 その言葉が響くと、周りの空気が一変した。
 幻影は揺らぎ、少しずつその姿を消し去っていく。
 自分の心の中にある決意を強く感じ、次第に自分の弱さを受け入れていった。

「私には仲間がいる。セリーナを守るために、みんながいる!」

 その瞬間、ライオネルは仲間たちの顔を思い出した。
 彼らが共に戦い、支え合っている姿が脳裏に浮かび、心の力を与えてくれた。彼は心からの感謝の気持ちを抱き、再び前を向く。

「どんな試練があっても、私は負けない!」

 その叫び声と共に、ライオネルは強い光を放つ水晶に手を伸ばした。光は彼の体を包み込み、彼の心の奥底から湧き上がる力を解放する。

「これが、私の決意だ!」

 その瞬間、周囲の空気が変わり、ライオネルの中に新たな力が宿った。今まで感じたことのないほどの強さを得た気がした。
 目の前には、試練を乗り越えた証としての光が現れ、彼を導くように輝いていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

恋愛戦線からあぶれた公爵令嬢ですので、私は官僚になります~就業内容は無茶振り皇子の我儘に付き合うことでしょうか?~

めもぐあい
恋愛
 公爵令嬢として皆に慕われ、平穏な学生生活を送っていたモニカ。ところが最終学年になってすぐ、親友と思っていた伯爵令嬢に裏切られ、いつの間にか悪役公爵令嬢にされ苛めに遭うようになる。  そのせいで、貴族社会で慣例となっている『女性が学園を卒業するのに合わせて男性が婚約の申し入れをする』からもあぶれてしまった。  家にも迷惑を掛けずに一人で生きていくためトップであり続けた成績を活かし官僚となって働き始めたが、仕事内容は第二皇子の無茶振りに付き合う事。社会人になりたてのモニカは日々奮闘するが――

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

処理中です...