悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda

文字の大きさ
上 下
6 / 46
第1章 病気が完治するまで

6話 エリザ

しおりを挟む

 再び目を閉じると、夕日の柔らかな光がまぶた越しに感じられ、心の奥底に沈んでいた感情が少しずつ浮かび上がってくる。

「自由に生きたい……ただ、私として……」

 心の中で呟くたびに、その思いは強くなっていく。しかし、その一方で体は彼女を裏切り続ける。
 手を動かすだけでも精一杯で、力を込めることすらままならない。病に縛られ、体が自分の意志に反しているのだと感じるたび、苛立ちと絶望が募っていった。

 そのとき、部屋の扉が再び静かに開いた。

「セリーナ様、失礼いたします。」

 優しくて穏やかな声だった。
 セリーナがゆっくりと目を開けると、そこには侍女のエリザが立っていた。エリザはセリーナが幼い頃から仕えてきた人物で、彼女にとって唯一心を許せる存在だったと、母親からさっき聞かされた。

「エリザ……?」

 セリーナはかすれた声で彼女の名を呼んだ。エリザはその声にすぐに反応し、セリーナのそばに近づいた。

「今日はご気分が優れませんか?」

 エリザは優しく問いかけながら、セリーナの手をそっと取った。その温かい手の感触に、セリーナは少しだけ安堵を感じた。

「……ライオネルが来たの」

 その言葉にエリザの顔が少し硬くなった。だが、すぐに平静を装い、セリーナの手を優しく握りしめたまま頷いた。

「そうですか……ライオネル様は、何かおっしゃいましたか?」

 エリザの問いに一瞬だけ躊躇した。
 ライオネルの冷たい態度と、彼が自分に対して抱いている無関心。それを言葉にするのは、どこか心が痛んだ。

「……彼は、私を治すと言ったわ。でも、ただの義務だって。家の名誉のために、私を救うんだって……」

 その言葉を口にした瞬間、セリーナの心に再び重くのしかかるものがあった。エリザはその言葉を聞きながら、そっとセリーナの手を強く握りしめた。

「セリーナ様、ライオネル様のお気持ちはわかりませんが……彼もまた、重い責任を背負っているのでしょう。それが彼のやり方なのだと思います」

 エリザの言葉は優しかったが、セリーナにはどうしてもそれが納得できなかった。

「……私は、誰かの責任や義務のために存在しているんじゃない。私だって、ただ私として生きたいのに……!」

 セリーナの声は震え、感情が高ぶっていた。
 エリザに向かって叫びたい気持ちを抑えながら、涙をこらえた。

「セリーナ様……」

 エリザはその様子を見て、少し戸惑いながらも、彼女に寄り添うようにそっと背中を撫でた。

「あなたは、確かに貴族の一員として多くの期待を背負っています。でも、それがすべてではありません。セリーナ様には、あなた自身の価値があります。」

 エリザの言葉に、セリーナは少しだけ目を見開いた。
 その言葉は胸に深く響いたが、同時に自分がそう感じられないことが、さらに苦しさを増していた。

「……私は、本当にその価値があるの?」

 自嘲気味に呟いたその言葉に、エリザは少しだけ微笑んだ。

「もちろんです。セリーナ様は、私たちにとってかけがえのない存在です。皆に誤解を招くこともあるのかもしれませんが、あなたは優しく、そして強いお心をお持ちですから」

 その言葉に、セリーナは少し驚いたような表情を浮かべた。自分が「優しい」と言われることに、違和感を感じたからだ。

「私が……優しい?」

 エリザは静かに頷いた。

「はい。セリーナ様はご自身で気づいていないかもしれませんが、あなたは周りの人々に対して思いやりを持って接しています。それは、決して簡単なことではありません」

 その言葉に、セリーナは少しだけ考え込んだ。私は悪役令嬢だったのでは? 自分が思いやりを持っていたなんて。
 だが、エリザの言葉はどこか真実味を帯びていて、セリーナの心に静かに沁み込んでいった。

「……私、変わりたいの。」

 セリーナは小さな声で言った。
 その言葉には決意がこもっていた。彼女は、病に囚われたままの自分から脱却し、新しい自分を見つけたいと強く願っていた。

 エリザはその言葉を聞いて、優しく微笑む。

「きっと、変われます。セリーナ様にはその力があると、私は信じています。」

 言葉を耳にして、ああ、私にも理解者がいたんだ、と思えた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

処理中です...