帰ってきた悪役令嬢！でも、やっとの思いで戻れたのに…？勘違い王子の愛でマイルド悪役に転生しました

11話 復活にむけて

　カシュパルは、その瞬間に少しだけ勇気を取り戻した。
　失敗を恐れるあまりに何もしないでいるよりも、前に進むことが大切だということを、アンブレルの言葉から学んだ。カシュパルは深く息を吸い込み、再びアンブレルと共に陰謀の核心へ向けて動き出すことを決意する。


　その頃、ロベルト伯爵はさらに深まる陰謀の中で揺れ動いていた。
　もう、にっちもさっちもいかない状態で、頭をかきむしる。
　陰の権力者からの新たな指示は、アンブレルたちの動向を掴み、必要ならば妨害するというものであった。
　ロベルトはその指示を受け取った時、冷たい感触が背筋を走った。アンブレルたちの行動が阻まれることが、この国の未来にどれほどの影響を与えるか、そしてそれが自分の手でなされることになるかもしれないという現実に、ロベルトは耐え難いものを感じていた。

「本当に、このままでいいのか…？」

　ロベルトの心の中でその問いが繰り返される。
　かつては正義を信じ、自分の信念に従って生きていたあの頃の自分を思い出すたびに、現在の自分とのギャップに強い後悔が押し寄せてきた。
　陰謀に加担することで自身の地位を守るという選択をし続けてきたが、それが果たして正しい選択だったのかという疑念が、日に日に大きくなっていた。

　ロベルトは夜の静けさの中、書斎で一人悩んでいた。
　目の前には陰の権力者から受け取った指示書が置かれていたが、その文字は重くのしかかるように感じられた。机に肘をつき、頭を抱えながらロベルトは深く考え込んでいた。

「もし自分がアンブレルたちに協力する道を選べば、どれだけの犠牲を払うことになるのだろう…」

　その思いがロベルトを二つの道の間で引き裂いていた。

　その時、ふとロベルトの中に一つの決意が生まれた。

「もう一度、アンブレルと話をしてみよう」

　アンブレルと直接話し、自分が抱えている葛藤を共有し、その上で何をすべきかを見極めればいい。
　ロベルトは密かに連絡を取り、アンブレルとの接触を図ることとする。



　数日後、アンブレルはロベルト伯爵からの密かな連絡を受け取る。
　その内容は「重要な話がある」とだけ記されたものであった。アンブレルはその文面にただならぬ気配を感じ取りつつも、ロベルト伯爵の本心を確かめるためにその場に向かう。
　会う場所は、夜の静寂に包まれた宮廷の一角で、誰にも見つからないように慎重に選ばれた場所だった。

　ロベルト伯爵はその場所で待っていた。
　薄暗い中で、足音が近づいてくるのを聞き、ロベルトの心は激しく鼓動した。その足音がアンブレルであることを確認すると、ロベルトは深く息をつき、胸の内にある思いをどう伝えるべきかを再び考えた。

「アンブレル、来てくれてありがとう」

　かすかに震える声。その震えは、心の中で揺れ動く迷いと不安を表していた。
　アンブレルはロベルト伯爵をじっと見つめ、何かを待つような視線を送った。

　この人、ついに決心したのかしら？

　その視線には、本心を知りたいという強い願いが込められる。

　ロベルト伯爵はしばらく沈黙した後、意を決して口を開いた。

「実は…陰の権力者たちから、新たな指示が来たんだ。君たちの動きを阻止するようにという指示だ」

　その言葉にアンブレルは表情を変えず、ただ静かに聞いていた。しかし、その胸の内には驚きとともに、ロベルトがこうして自ら真実を告げたことへの希望が芽生え始めていた。

「伯爵は、どうしたいと思っているの？」

　問いかけには、ロベルト伯爵が自分で決断することを促す意図が込められていた。
　その言葉を受けて、ロベルト伯爵は再び葛藤の中に立たされた。しかし、アンブレルのまっすぐな瞳を見つめるうちに、ロベルトの中に一筋の光が差し込むような感覚を感じる。

「正直に言うと、もうこのまま陰謀に加担し続けることには耐えられない。君たちに協力することで、自分自身を取り戻したいと思っている」

　ロベルトの言葉には、長い間抱えてきた苦しみと、その中で見出した小さな希望が込められていた。

　アンブレルはその答えを受け入れ、微かにうなずき、「一緒に戦いましょう、ロベルト伯爵。あなたが正義を選ぶのなら、私たちはきっと力を合わせてこの陰謀を打ち砕くことができるはず」と、確信を持って伝えた。
　その確信は、ロベルト伯爵の胸の中にあった不安を少しずつ和らげていった。ロベルトは思わず目を閉じ、その言葉をかみしめた。これまで迷い続けていた道に、ようやく光が差し込み始めたのだと感じた。

　アンブレルは、今度のロベルト伯爵の安否については、お構いなしだったが。

「ありがとう、アンブレル。君の言葉がなかったら、自分はきっと何も変えられなかった」

　ロベルトは深く頭を下げた。
　アンブレルはその姿に微笑みを浮かべ、「感謝なんて必要ないわ。これからは一緒に、私たちの未来のために戦いましょう」と答えた。
　その瞬間、二人の間に強い絆が暗闇の中で生まれた。

　その後、アンブレルとロベルト伯爵は、陰謀の証拠を掴むための具体的な作戦について話し合った。
　カシュパルの情報収集能力とロベルト伯爵の宮廷内での人脈を活用し、陰の権力者たちの計画を暴くための準備が進められていった。
　一方で、アンブレルもまた、ロベルト伯爵が加わったことでこれまで以上に心強さを感じ、敵の内部からの協力者がいることが、どれほど大きな力になるかを理解した。
　そして、ロベルト伯爵の今後の安否については、どうでもいいと思っていたものの、迷いを乗り越え、正義を選んで共に歩む決意をしてくれたことは、嬉しかった。

　夜の冷たい風が二人の周りを通り抜けていく中、アンブレルはふと空を見上げた。
　そこには雲間から覗く月が静かに輝いており、その光は二人の未来を祝福しているかのように思えた。

「アルベルタ、どうしてる？　こっちは一歩近づいたわよ」

　悪役令嬢の復活に向けて。