帰ってきた悪役令嬢！でも、やっとの思いで戻れたのに…？勘違い王子の愛でマイルド悪役に転生しました

8話 新たな協力者

　夜が更ける頃、アルベルタは深刻な表情でアンブレルのもとを訪れた。「アンブレル様、話がございます」静かながらも重々しい口調だった。アンブレルは察し、アルベルタに席を勧めた。そこには長年の付き合いで築かれた信頼があったが、その信頼に陰りが差し込んでいるように感じられた。

「どうしたの？」アンブレルは不安を隠そうとしたが、声は微かに震えていた。

　アルベルタは視線を下げ、深く息を吸い込んだ後、言葉を紡ぎ始めた。「陰の権力者からの圧力が増しております。このままでは、アンブレル様に危険が及ぶ可能性が高い。自分は、ここで別行動を取るべきだと考えます」

　その言葉を聞いた瞬間、アンブレルの胸に冷たい刃が突き刺さったような感覚が走った。「何を言っているの？アルベルタがいなければ、どうやってこの状況を乗り越えられるっていうの？」感情が昂り、声が大きくなった。

　しかし、アルベルタは冷静だった。「アンブレル様、自分は陰の権力者に目を付けられています。もし共に行動を続ければ、アンブレル様にまで危険が及ぶことは避けられません。それに、自分が別行動を取ることで、別の角度から情報を集めることも可能です」アルベルタの言葉には、自らの犠牲を顧みない覚悟が滲んでいた。

　アンブレルはしばらく言葉を失った。孤独と不安が心を押し潰しそうになる。「それでも、アルベルタと一緒にいたい」と言いたかった。しかし、その思いを飲み込み、深呼吸をしてから口を開いた。「分かった。でも、絶対に無茶はしないで。いつでも戻ってきてほしい」

　アルベルタは微笑み、深く一礼した。「アンブレル様の信頼に応え、必ず役立つ情報を手に入れて参ります。そして、また共に戦える日を楽しみにしております」その言葉には確かな決意が込められていた。

　別れの時、アンブレルの胸には言葉にできない悲しみと不安が渦巻いていた。アルベルタの背中が見えなくなるまで見送り、涙がこぼれそうになるのを必死に堪えた。その孤独は、まるで周囲の全てが敵に回ったかのような感覚だった。しかし、アンブレルは立ち止まることはできないと自分に言い聞かせた。これ以上、領地を危機に晒すわけにはいかない。そして、アルベルタの信頼に応えるためにも、自らの力で陰謀の全貌を暴こうと決意を新たにした。

　一方、ロベルト伯爵もまた、陰謀に巻き込まれている現実に苦しんでいた。嫌々ながらも陰謀に加担することで、自らの立場を守らざるを得ない状況に追い込まれていた。メイベルの毒殺未遂を知り、ロベルトはその責任の一端が自分にあることに深い罪悪感を抱いていた。しかし、陰の権力者に背けば自らの身が危うくなることも理解しており、どちらの道を選ぶべきかで激しく葛藤していた。

　そんな中、アンブレルたちの行動が耳に入り、心が揺れた。陰謀を追う彼らに対して、内心では協力したいという思いが強くなっていたのだ。ロベルト伯爵は、自らが持つ情報を使ってアンブレルに助け舟を出すべきか、それとも権力者に従い続けるべきか、その選択を迫られていた。

　アンブレルが一人で立ち向かわねばならない現実に直面し、心の中で決して折れない強さを求めていた時、カシュパルが再び現れた。「アンブレル、何か自分にできることがあれば力になりたい」と、緊張しながらもその言葉を口にしたカシュパルの姿に、アンブレルは一筋の光を見出した。

　カシュパルの内気な性格は時折アンブレルを困らせることもあったが、その正義感と誠実さに心を打たれた。アルベルタが去った今、誰かの助けを必要としていたアンブレルにとって、カシュパルの存在は心の支えとなりつつあった。

「ありがとう、カシュパル。あなたの助けが必要よ」アンブレルは微笑みながら答えた。カシュパルの顔が赤くなり、少しばかり照れたように目をそらした。しかし、その表情には確かな決意が宿っていた。

　こうして、アンブレルは新たな協力者を得て、陰謀の全貌を暴くための新たな一歩を踏み出すことを決意した。アルベルタとの別れの痛みはまだ胸に残っていたが、その痛みを乗り越え、強く生きることを誓ったのだ。