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6話 メイベルとロベルト伯爵
しおりを挟む翌日、メイベルはアンブレルとアルベルタから指示を受け、ロベルト伯爵の行動を監視する役目を負うことになった。領地内で陰謀が進行している中で、伯爵の動向には特に注目が集まっていた。
と、いうものの、次の暗殺のターゲットは、メイベルなのではないかと、まことしやかに囁かれていた。
メイベルは内心の緊張を隠しつつも、伯爵との密会に向かった。
伯爵の私室に通されたメイベルは、部屋の重厚な雰囲気に少しの圧迫感を覚えた。ロベルト伯爵は一見無邪気な笑顔を浮かべながらも、その目にはどこか疑いの色が浮かんでいた。座ったまま書類を整理するふりをしながら、伯爵は不意に質問を投げかけてきた。
「最近、何か変わったことはないかな?特に誰かと頻繁に会ったりしている様子が見受けられるのだが…」
その言葉にメイベルは一瞬動揺したが、すぐに冷静さを取り戻し、柔らかな笑みを浮かべた。「何も特別なことはございません。ただ、少し疲れが溜まっているだけです」
伯爵はその返答にどこか納得しない様子を見せたが、それ以上は追及せず、書類を整理し続けた。しかし、突然その手がもつれ、積まれていた書類の一部が足元に散らばってしまった。「しまった、なんてことだ…!」と声を上げながら、ロベルト伯爵は慌てて椅子から立ち上がり、散乱した書類を拾い集め始めた。
メイベルはその様子を冷静に観察しつつも、内心の焦りを抑え、視線を周囲に巡らせた。その瞬間、床に散らばった書類の中に、他のものとは違う印がついている紙を見つけた。これは重要な手がかりになるかもしれない――そう直感したメイベルは、伯爵が夢中になって他の書類を集めている隙に、そっと一部の書類を手に取った。
「まったく、どうしてこんなところに…!」
と伯爵が小声で呟きながら書類を拾い集める間、メイベルはさりげなくその場から身を引き、表情を整えた。「どうぞ、これで全てのようです」と言いつつ、伯爵に拾った書類を返し、メイベルはその場から退出する許可を得ることに成功した。
廊下を歩きながら、メイベルは手に入れた書類を慎重に内ポケットに押し込んだ。この一枚が、アンブレルたちの計画にとって鍵となる情報であることを願いながら、屋敷を出る足取りは自然と早くなっていた。
屋敷を抜けたメイベルは、アンブレルとアルベルタが待ち合わせている場所に向かった。合流地点に到着すると、すぐに盗み取った書類をアンブレルに手渡した。アンブレルは書類を受け取り、内容を注意深く確認し始めた。
「よくやったわ、メイベル」
アンブレルは微笑みながら、書類に記されている情報をじっくりと読み込んだ。その中には、暗殺計画に関する重要な手がかりが含まれていた。「これで我々は陰謀の核心に一歩近づいたようね」
アルベルタも書類に目を通しながら、「しかし、これはほんの一部に過ぎませんね。まだ多くの謎が残っています」と慎重に言葉を続けた。「さらなる証拠を集めるためには、もっと積極的に動く必要があります」
アンブレルは頷き、考え込んだ。
「そうね。この情報をもとに、次の一手を。そして、ロベルト伯爵の行動についても、より一層の注意が必要だわ。あの人がどこまで信用できるかは分からないけれど、利用できるうちは使わない手はない」
メイベルは二人のやり取りを聞きながら、自らの役割を再確認していた。陰謀の解明が進む中で、自分もこの計画の重要な一員であることを強く感じていた。これまで無力であると感じていたことが多かったが、今回の成功により、少しの自信を取り戻すことができた。
その時、遠くからロベルト伯爵の大声が響いてきた。
「メイベル!待ってくれ!」
振り返ると、伯爵が何か大事そうな紙束を持って駆け寄ってくる姿が見えた。どうやらまた何かしらの失態を犯したらしい。
「これ、重要な書類を渡し忘れていたようで…いや、まったく何とも困ったものだな!」
と苦笑いを浮かべながら、息を切らして立ち止まった。
アンブレルは深いため息をつきながら、「まさか、また忘れ物とはね」と半ば呆れたように言葉を投げたが、メイベルは微笑みながら「ありがとうございます、伯爵」と受け取った。
ひょっとしたら、その紙束にも、さらなる手がかりが含まれている可能性もあるかもしれない。
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