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5話 密会
しおりを挟む夜の帳が下りた城の廊下を、静かに歩いた。
密会の情報を手に入れたことで、ロベルト伯爵の動きを追うために夜の探索を決意したのだ。アルベルタが後ろに続き、足音を立てないようにしている。
「ここです。アンブレル様。伯爵がこの部屋で何かをしているのを見かけたと聞いています」
アルベルタが小声で言いながら、薄暗い廊下の先を指差した。扉の向こうからはかすかな話し声が聞こえてくる。
アンブレルは慎重に近づき、扉に耳を当てた。中から聞こえるのはロベルト伯爵の低い声と、もう一つのか細い声だ。内容を聞き取ろうとするものの、言葉の一部が途切れ途切れにしか耳に届かない。
「…計画は順調…大丈夫だ、疑う必要は…」
ロベルト伯爵の声はどこか不安げで、自信を失っているようだった。
アルベルタは眉をひそめ、アンブレルに目配せをした。「どうしますか、アンブレル様?」という問いかけに、アンブレルは少し考えた後、扉の隙間からそっと中を覗くことを選んだ。
部屋の中にはロベルト伯爵ともう一人、黒いマントを纏った人物が向き合っていた。その人物はフードを深く被っており、顔はほとんど見えなかったが、何かを手渡している様子が見て取れる。
「…次の指示はこれだ。必ず失敗は許されない」
黒いマントの人物が低い声で言い、ロベルト伯爵に何かを押し付けた。その瞬間、伯爵は手が震え、顔を青ざめた。
「…わ、わかった。だが、万が一の時には…」
ロベルト伯爵はしどろもどろになりながらも、相手の視線に圧倒されている様子が明らかだった。その頼りなさに、アンブレルは思わず溜息をつきそうになったが、アルベルタに目で止められる。
密会は思ったよりも短時間で終わり、黒いマントの人物は静かに部屋を出て行った。アンブレルとアルベルタは影に隠れてやり過ごし、再びロベルト伯爵の様子を窺うことにした。
伯爵は深い息をつき、持たされた紙を広げて何度も読み返していた。その表情には焦りと不安がありありと見て取れた。「…どうしてこんなことに…」小さくつぶやく姿に、アンブレルは少しばかりの同情を感じつつも、その無様さにため息が漏れる。
「アルベルタ、どう思う?」
ささやき声で尋ねた。
アルベルタは一瞬考えた後、「伯爵が持たされた紙の内容を知ることが、今回の鍵になるかと。かなり動揺していましたし、何か重要な情報が書かれている可能性があります」と答えた。
アンブレルは頷き、紙を奪うための計画を練り始めた。
「次に伯爵が動くタイミングを狙うしかないわね。失敗しないためにも、慎重に進めましょう」
うなずいたアルベルタと共に部屋を離れることにした。
その後、伯爵が一人で部屋を出るのを確認し、再び行動を開始する。
部屋に戻ってくるまでのわずかな時間に、手がかりを探す必要がある。二人は部屋の中に入り、素早く目当ての書類を探し始める。
しかし、伯爵の部屋は予想以上に散らかっており、書類が山積みにされていた。その無秩序さに、アンブレルは思わず呆れた表情を浮かべた。
こいつは、バカなのか?
私にはゴミ箱の中身としか見えない。
「これじゃあ、探すのに時間がかかりすぎるわね。まったく、整理整頓の概念がないのかしら」
アルベルタも苦笑しつつ、手早く書類をめくりながら「もしかすると、こうした無秩序が伯爵の防御策なのかもしれません。重要なものを見つけにくくするために…いや、単に無精なのかも」と皮肉を交えた。
防御策?
いや、それはないだろっ、とアンブレルは心の中でツッコミを入れた。
その時、一枚の紙が目に留まる。
王家の紋章がしっかりと押された書類で、そこには謎の暗号らしき文字が並んでいた。「これよ…間違いない、これが鍵だわ」
アルベルタは素早く紙を手に取り、内容を確認した。
「アンブレル様、急ぎましょう。伯爵が戻ってくる前にここを離れないと」
二人は急いで部屋を後にし、無事に隠れ場所に戻ることができた。
アンブレルは紙を広げ、暗号を解読するためにアルベルタと頭を突き合わせた。
「この暗号が解ければ、伯爵が何をしようとしているのかが見えてくる。そうすれば」
アルベルタは真剣な表情で頷き、持ち前の知識を活かして暗号に取り組み始めた。「伯爵の無様さには救われましたが、油断は禁物ですね。敵はまだ見えないところで動いているかもしれません」
アンブレルは決意を新たにし、うなずいた。
一体、裏で何が起こっているの?
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