49 / 81
第四十九話 決意
しおりを挟む
「わかった、シスターの件は俺の方で動いてみる」
「本当にありがとう。これが私の住所だから、進展があったら訪ねてきて」
さやかは俺の右の掌を両手でぎゅっと包み、住所の書かれた紙を渡した。
「それじゃあ俺は仲間のところに戻るから」
「ええ、また」
俺とさやかは一本杉をはさんで逆の方向にそれぞれ歩き出した。
「遅かったのであるな。……逢引であるか?」
レイチェルはまだ待っていてくれたようで俺に声をかける。
「逢引っておいおい……。おこちゃまの癖に何故そう言う発想がでてくるんだ」
「――おこちゃまとは失礼な! わたしは十分大人なのである!」
レイチェルは両腕を後ろに伸ばし、顔だけをツンと前に出して頬を膨らませている。
「わ、わるかったって」
「それなら二人で何をしていたのか言うのである」
「あんまり俺を困らせるなって。ウィル・オ・ウィスプ饅頭を二セット買ってやるから勘弁してくれ」
「なに、二セットであるか!? それは楽しみであるな。うむ、シルヴィアたちにも少し分けてやろう」
レイチェルは目をキラキラ輝かせて饅頭を貰った後のことを想像している。
……なんとか誤魔化せたようだ。
その後表彰式を終えたアリサたちと合流して家まで帰り、疲れ切った俺たちはすぐに眠ってしまうのであった。
――――――――――――――――――――
翌日の朝。
「そういえば予選通過で貰えるオーブは誰が使うことにするの?」
ローザが朝食のフレークを食べながらみんなに尋ねる。
「わたしは別にいいわ。シルフで十分だし」
「……わたしも……いい」
「わたくしも遠慮しておきますわ」
「わたしも大丈夫である」
みんながみんな譲り合ってしまい、微妙な空気が流れる。
「ユート君は? いつもなら真っ先に『俺がガチャる!』って手を挙げてきそうなのに」
「……え? ああ、俺も別にいいよ」
ローザは目を細めて俺をじっと見つめたかと思うと、頬に手を伸ばしてつねってきた。
「――痛っ、なにするんだよ急に」
「なんかユート君様子が変よ? やけに今日は口数が少ないし、偽物かもしれないから確かめてみたの」
「偽物ってなんだよ……。俺はれっきとしたユートだよ」
「……なにか悩みがあるならお姉さんに相談してみなさい?」
……俺がさやかの件で悩んでいるのを勘付かれてしまったのか?
「他のみんなもユート君の相談なら喜んで聞くわよね?」
ローザの言葉にアリサ以外のみんなはこくりと頷く。
「わたしは別にあんたが悩んでいようがいまいが関係ないわ。……でもこんなしょぼくれた顔した人間がうちのギルドマスターってのも頼りないわね。召喚の儀でいつもの調子に戻るならさっさとやってくれば?」
アリサは俺の方を見ずに言う。これは励ましてくれているのだろうか? てか俺しょぼくれてるように見えてたのか。
「うん、じゃあオーブはユート君が使うことにしましょう。さ、もう食べ終わっているようだし教会に行くわよ」
ローザが勝手に決めて立ち上がり、俺の手を引っ張る。
「ちょっ、本当にいいのか? みんながいいっていうなら甘えちゃうけど」
「……ユートが元気になるなら……それでいい」
シルヴィアは心配そうに俺を見て言った。レイチェルとエリーも同様に心配そうにこちらを見ている。
「良い仲間をもってよかったねユート君! それじゃ教会までいっちゃお~」
ローザは俺を引きずって玄関の方に歩き出した。
「わかったってローザ、自分で歩くから。……みんなありがとな」
食卓のみんなが俺を笑顔で見送ってくれた。……アリサは笑顔じゃなかったけど。
――――――――――――――――――――
「ユート君? 昨日の予選会が終わってから様子が変だけど、何かあったの?」
教会へ向かう道の途中、再度ローザは俺の心配をしてくれた。
「…………」
俺が返事に困っているのを見て、ローザはふふっと笑う。
「言えないことなのね? それなら無理に言わなくてもいいわ。でも覚えておいてね? わたしはいつだってあなたの味方よ。なんせ異世界放浪者の案内役のローザさんだからね」
ふざけた調子で話してはいるが、ローザの目は真剣で優しい。彼女が本当に俺の事を心配してくれていることが感じられて心が痛い。さやかの為とはいえ、ローザやみんなを裏切るようなことをしてもいいのだろうか……いや、よくない。ギルドのみんなや異端審問機関を裏切るような形じゃなく、もっといい解決方法があるはずだ。
「ローザ。今はまだ言えないんだけど、今度きっと話すから」
「うん、お願いね。……それにしても何か急に男らしい目つきになったわね」
「か、からかわないでくれよ」
「ふふ~ん、照れちゃって可愛い」
ローザと俺はそれからしばらくたわいない会話を続けるうちに、教会へとたどり着いた。
「本当にありがとう。これが私の住所だから、進展があったら訪ねてきて」
さやかは俺の右の掌を両手でぎゅっと包み、住所の書かれた紙を渡した。
「それじゃあ俺は仲間のところに戻るから」
「ええ、また」
俺とさやかは一本杉をはさんで逆の方向にそれぞれ歩き出した。
「遅かったのであるな。……逢引であるか?」
レイチェルはまだ待っていてくれたようで俺に声をかける。
「逢引っておいおい……。おこちゃまの癖に何故そう言う発想がでてくるんだ」
「――おこちゃまとは失礼な! わたしは十分大人なのである!」
レイチェルは両腕を後ろに伸ばし、顔だけをツンと前に出して頬を膨らませている。
「わ、わるかったって」
「それなら二人で何をしていたのか言うのである」
「あんまり俺を困らせるなって。ウィル・オ・ウィスプ饅頭を二セット買ってやるから勘弁してくれ」
「なに、二セットであるか!? それは楽しみであるな。うむ、シルヴィアたちにも少し分けてやろう」
レイチェルは目をキラキラ輝かせて饅頭を貰った後のことを想像している。
……なんとか誤魔化せたようだ。
その後表彰式を終えたアリサたちと合流して家まで帰り、疲れ切った俺たちはすぐに眠ってしまうのであった。
――――――――――――――――――――
翌日の朝。
「そういえば予選通過で貰えるオーブは誰が使うことにするの?」
ローザが朝食のフレークを食べながらみんなに尋ねる。
「わたしは別にいいわ。シルフで十分だし」
「……わたしも……いい」
「わたくしも遠慮しておきますわ」
「わたしも大丈夫である」
みんながみんな譲り合ってしまい、微妙な空気が流れる。
「ユート君は? いつもなら真っ先に『俺がガチャる!』って手を挙げてきそうなのに」
「……え? ああ、俺も別にいいよ」
ローザは目を細めて俺をじっと見つめたかと思うと、頬に手を伸ばしてつねってきた。
「――痛っ、なにするんだよ急に」
「なんかユート君様子が変よ? やけに今日は口数が少ないし、偽物かもしれないから確かめてみたの」
「偽物ってなんだよ……。俺はれっきとしたユートだよ」
「……なにか悩みがあるならお姉さんに相談してみなさい?」
……俺がさやかの件で悩んでいるのを勘付かれてしまったのか?
「他のみんなもユート君の相談なら喜んで聞くわよね?」
ローザの言葉にアリサ以外のみんなはこくりと頷く。
「わたしは別にあんたが悩んでいようがいまいが関係ないわ。……でもこんなしょぼくれた顔した人間がうちのギルドマスターってのも頼りないわね。召喚の儀でいつもの調子に戻るならさっさとやってくれば?」
アリサは俺の方を見ずに言う。これは励ましてくれているのだろうか? てか俺しょぼくれてるように見えてたのか。
「うん、じゃあオーブはユート君が使うことにしましょう。さ、もう食べ終わっているようだし教会に行くわよ」
ローザが勝手に決めて立ち上がり、俺の手を引っ張る。
「ちょっ、本当にいいのか? みんながいいっていうなら甘えちゃうけど」
「……ユートが元気になるなら……それでいい」
シルヴィアは心配そうに俺を見て言った。レイチェルとエリーも同様に心配そうにこちらを見ている。
「良い仲間をもってよかったねユート君! それじゃ教会までいっちゃお~」
ローザは俺を引きずって玄関の方に歩き出した。
「わかったってローザ、自分で歩くから。……みんなありがとな」
食卓のみんなが俺を笑顔で見送ってくれた。……アリサは笑顔じゃなかったけど。
――――――――――――――――――――
「ユート君? 昨日の予選会が終わってから様子が変だけど、何かあったの?」
教会へ向かう道の途中、再度ローザは俺の心配をしてくれた。
「…………」
俺が返事に困っているのを見て、ローザはふふっと笑う。
「言えないことなのね? それなら無理に言わなくてもいいわ。でも覚えておいてね? わたしはいつだってあなたの味方よ。なんせ異世界放浪者の案内役のローザさんだからね」
ふざけた調子で話してはいるが、ローザの目は真剣で優しい。彼女が本当に俺の事を心配してくれていることが感じられて心が痛い。さやかの為とはいえ、ローザやみんなを裏切るようなことをしてもいいのだろうか……いや、よくない。ギルドのみんなや異端審問機関を裏切るような形じゃなく、もっといい解決方法があるはずだ。
「ローザ。今はまだ言えないんだけど、今度きっと話すから」
「うん、お願いね。……それにしても何か急に男らしい目つきになったわね」
「か、からかわないでくれよ」
「ふふ~ん、照れちゃって可愛い」
ローザと俺はそれからしばらくたわいない会話を続けるうちに、教会へとたどり着いた。
0
お気に入りに追加
1,264
あなたにおすすめの小説
天職はドロップ率300%の盗賊、錬金術師を騙る。
朱本来未
ファンタジー
魔術師の大家であるレッドグレイヴ家に生を受けたヒイロは、15歳を迎えて受けた成人の儀で盗賊の天職を授けられた。
天職が王家からの心象が悪い盗賊になってしまったヒイロは、廃嫡されてレッドグレイヴ領からの追放されることとなった。
ヒイロは以前から魔術師以外の天職に可能性を感じていたこともあり、追放処分を抵抗することなく受け入れ、レッドグレイヴ領から出奔するのだった。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる