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第四十七話 捨て身の作戦

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 『天使たちのお茶会』チームは依然として空を飛びまわっている。

「黄・白・白・黒か」

 俺は誰に言うともなく呟いた……が、アリサには聞こえてしまったようで、

「なによ、黄・白・白・黒って? 暗号かなにか?」
「いや、お茶会チームのパンツの色だよ」

 ペガサスを使って空を浮かんでいるのにチアガールみたいな恰好してたらそりゃ見えちゃうよね。嬉しいことに、この世界にはアンダースコートというものはないようだ。

「あんたね……騎馬戦が終わったらお仕置きね」
「……あのさ、俺に話しかけるのはまずいだろ?」
「くっ……。先に話したのはあんたの方なのに」

 アリサは唇をかんで悔しがるが、俺のほうを見るのをやめてくれた。

 さて、パンツを見るのはもういいだろう。冷静にこの後の展開を考えよう。
 お茶会チームとアデルチームが潰しあってくれるのが理想の展開だけど、それは多分ないだろう。現在の討伐チーム数をおさらいするとアデルチームが1、お茶会チームが1、俺のチームがゼロだ。
 もし俺がお茶会チームならこう考える「あと一チーム倒せば討伐数が二になって、残ったチームより確実に上になる。そうなれば残りの相手がいくら強かろうが空を飛んで逃げ続けるだけで勝てる。だから次に狙うのは危険なアデルチームではなく、弱そうな『ユートとその下僕たち』にしよう」ってな。

「さてと、次はうちらと一緒で女の子ばかりのあなた達が標的よ!」

 俺の予想通り『天使たちのお茶会』チームはこちら目掛けて飛んできた。ご丁寧にフェイントを何重にもかけてきて、俺たちの後方に飛んで行ったかと思えばすぐ横に飛んできたりして攻撃の的を絞らせないようにしている。でもそんなことは関係ない――そうだろアリサ?

 アリサは右手をぎゅっと握って気合を入れると、シルフを召喚した。

「竜巻の中で飛べる鳥はいると思う? ――いないわよね!」

 アリサがそう問いかけると俺たちの騎馬を取り囲むように砂ぼこりが巻き起こり、それがやがて嵐になった。相変わらず凄い風だ、シルフの全力を見るのは俺も久しぶりでワクワクする。

「――きゃっ!?」

 空を飛んでいたお茶会の面々は嵐に巻き込まれて騎馬を組めるはずもなく、バラバラになってしまう。

「……ようしゃないのであるな」
「しかたないでしょ、あの子たちの機動力に勝つにはこうするしかないの――よ!」

 アリサがもう一度気合を入れると、風の流れが下向きに変化してお茶会の騎手は地面に落とされてしまった。

「決まったーー! アリサのシルフが炸裂ーー!! 『天使たちのお茶会』チーム敗退です!!」

 ローザが拡声器を使ってノリノリで実況している。楽しそうだなおい。

「いたたっ……。なによあれ、反則じゃない」

 お茶会チームの女の子は恨み言を言っている。……同情するよ、ペガサスも十分反則級だったけど今回は相手が悪かったな。

「さあ残ったチームは期待の新ギルド『ユートとその下僕たち』と、古参の有名ギルド『グラノーヴァ』! 果たして勝つのはどっちなのか!?」

 ローザの実況にも熱が入ってきている。この予選の大一番だ、無様な試合は見せないから応援していてくれよ、ローザ!

 決着の時は刻一刻と迫り、俺たちの騎手のアリサと相手チーム『グラノーヴァ』の騎手のアデルが向かい合う形でにらみ合っている。その距離およそ十メートル。

「最後の舞台でこうやって戦えることになって嬉しいよ」

 アデルが切れ長の目を細めて感慨深げに言う。

「わたしはあなたと勝負なんてしたくなかったわよ。あなたいつも何考えてるのかわからなくて不気味だけど、強いってのは認めてあげるわ」

 アリサのこの言葉は本心だろう。俺だってアデルが強いのは認めている。できればまともに戦いたくはない。

「ところでユートは今日いないんだね? ……どうしちゃったんだろう、具合が悪いのかな? 心配だ」

「ふんっ……余裕なのね。今あなたが心配すべきはユートのことじゃないわ――――くらえっ!!」

 アリサは会話中にも関わらずシルフで風を巻き起こした、いいぞっ! まともにやってだめそうなら不意をつけ! 何が何でも優勝を勝ち取るんだ! そして俺にガチャをさせてくれ!

「――ハハッ! 凄い風だ。面白い勝負になりそうだね」

 アデルは無邪気に笑っている――この台風のような風の中でもアデルチームの騎馬は平気なのか!?

「こちらからも攻めさせてもらうよ、もっと僕を楽しませてくれ!」

 アデルチームの騎馬はどしどしと足で地面を掘るようにしてこちらへ走ってくる。風の影響など微塵も感じさせない力強い走りだ。いくら体を鍛えてるにしてもここまで走れるのは異常だ――召喚を使っているに違いない!
 俺はルーペを取り出して召喚を探す――居た! アデルチームの騎馬の横に転がっているように見える岩が召喚だ。しかも三つ転がっている。騎馬の全員がこの召喚を使っているってことか!? 俺は急いでルーペを覗き込んだ。


『Cランク召喚獣 磐土(イワツチ)』 ●〇〇〇〇
古事記より伝わる岩の精。古事記の世界では、
有機物・無機物関係なしに自然物には精霊が宿ると考えられていた。
加護を受けたものは、岩のような頑強な体になり体重が重くなる。
【召喚持続時間:一時間】


 重いものは風の影響を受けにくい、当然の原理だな。俺も痛みを覚悟した方がよさそうだ。

「言い忘れてたけど、僕はまだオーディンを残してあるのさ。切り札があるなら早めに使って楽しませてくれよ!」

 能力の有無をバラすなんて本当に余裕そうだな。戦力差を考えればそうなるのも無理ないか。……しかし、その油断に付け入る隙はあるんだぜ!

(スライムっ!!)

 俺はスライムを召喚して全身をヌルヌルにした状態で横たわる。サルガタナスも併用しているので、見えないヌルヌルのブービートラップの出来上がりだ。諜報役の攻撃は禁止だけど、相手が勝手に突っ込んでくるなら問題ないだろ!

 アデルチームは俺に気付かずにそのまま走ってきて、まんまと罠に引っかかった。

 ――ヌルン。先頭の騎馬が俺を踏みつけると足を滑らせて体勢を崩した。

「なにっ!?」

 うぐっ……、想像以上に踏みつけられたダメージは大きいな。でも俺の役目はここまでだ。――頼んだぞみんな!

「いきますわよ!」

 エリーは相手のコケる瞬間を見逃さずに走る構えを見せた。チームの先頭に立っているエリーが出遅れてしまうとこのチャンスを生かすことはできないが――うまくやってくれている!

「ハイッ! ハイッ! ハイッ!」

 エリー・シルヴィア・レイチェルの三人は息をそろえてアデルチームの騎馬の元へと走ってくる。アデルは体が水平に近いくらいまで倒れこんでいる。

「押し込め―ーーー!!」

 俺が声を振り絞ってチームのみんなに指示を出す。それに応えてくれるかのように、彼女たちは衝突を恐れずにアデルの上に突進してのしかかった。

 ――バッターン!!

 二つの騎馬は共に崩れ去り地面に衝突する。

「――これは凄い! ほとんど同時に二チームの騎手が地面についてしまった! でも一瞬早く落ちたのはアデルです! 予選通過は『ユートとその下僕たち』で決まりよ! やったーー!」

 ローザは司会だということも忘れて俺たちのチームの勝利に喜んでいる。厳しい戦いだったけどなんとか勝てたな。それにしてもこの状況は……。

(く、苦しい……)

 俺は崩れ去った両チームの真下にいるわけなのでほとんど全員分の体重がかかってしまい、息もできずにもがいていた。苦しさからサルガタナスの効果もスライムの効果も解けてしまったほどだ。

 そして俺の顔は何かにふさがれてしまって視界は真っ暗だ。上にのっかっているのは……なんだこれ? 大きいな? 俺はそれをどかそうと、手で思い切り押し出す。

「きゃあっ!? 何?」

 アリサの声だ。俺は下敷きになっていて返事もできないのでそのまま大きな物体を横にずらそうとなでるようにして動かした。

「――ちょっと!? 誰かが私のお尻を撫でまわしてる!!」

 何っ!? これはアリサの尻だったのか! といっても撫でまわしたわけじゃないんですけど!? どかそうとしただけなんですけど!?
 それからみんなが体を起こしてどいてくれたようで、ようやくアリサの尻が俺の顔から離れて息ができるようになった。

「――ぷはっ!! はぁ……、はぁ……。死ぬかと思った」
「あんたそんなにはぁはぁ言って……よっぽどわたしの尻に敷かれるのが楽しかったようね」

 アリサが恐ろしい顔をしながら指をパキパキと鳴らしてげんこつのポーズをとっている。

「ちょっと待ってくれ! ――誤解だ。――て、おい、グーはないだろ! アーッ、やめろー!」

 予選が終わって一仕事終えたはずだったが、アリサの機嫌を取るという仕事がまだしばらくは続きそうだ。……やれやれだぜ。
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