53 / 56
6章
42
しおりを挟むもう1枚の切り札、それは実の妹でありローズの婚約者でもあるミカエラ。
妹だが、愛着がないぶん遠慮なく利用できる。
公爵家の中に入り、淡々と奥へ進む。
大丈夫だと思っていたが、
時間は流れても、ミカエラの部屋の前に立つと1度立ち止まる。
以前の私なら、そのまま引き返す選択を取っていたかもしれない。
だが、そんな私はもう卒業した。
「入るよ」
ノックをして部屋に入るも、ベットに座り、窓の外を見るミカエラは私に気づかない。
随分と悲しい表情だ。
「そんな浮かない顔の貴方を見るのも久しぶりね」
「お姉様!!一体、、何をしているんですか?」
すぐに反応するも、ミカエラの興奮度は上がりきらない。
何かあったのだろう。
「何をって、用あってパドリセンに来たから、ついでに寄っただけ」
「ここは私の家でもあるでしょう?」
「ふざけないで、追い出された分際で」
ミカエラの声に何時になく覇気が感じられない。
「まぁ、そうね。でもミカエラ、貴方もそうやって余裕かいていられないわよ」
少しずつ攻めいく。
「どういう意味よ?」
ミカエラは、わかりやすく話に食いつく。
「ラビラはいずれ立場を失う。私が引きずり下ろすから」
「そうなれば、貴方はどうなると思う?」
怒りに満ちた顔でミカエラは立ち上がろうとするも、立ち上がる勢いを利用して逆に押し潰す。
ミカエラは立ち上がれない。
「痛い思いをしたくなければじっとしてるのね」
前回のトラウマもあるのか、ミカエラは反抗しようとしない。
全力で睨みつければ、体を震わす。
「そういえば、貴方、クリスタル様のことを慕っていたわね」
「クリスタル様…
そうだけどそれが何か?」
「この間会ってきたわ」
「は?! どういうこと、説明して」
ミカエラが声を荒らげた。
ミカエラは幼い頃から、クリスタル様を憧れの存在として慕ってきた。
社交界などで会ったときは、よくミカエラから話しかけていた。
歳は離れているが、次第に2人の仲は深まっていき、グレーとの婚約が決まるまでは、よくクリスタル様の家に遊びに行っていた。
「わかったわ。説明するから、落ち着いて」
そこから、今回クリスタル様の身の回りで起きた事件、そして過去の話をした。
「そんな…
クリスタル様に会いたい」
「今は無理よ。精神状態がまだ安定してないの」
私ですら会えない。会えるのはグレーくらいだ。
「そう…
でも、どうしてローズがそこまで知っているの?」
「復讐の過程で知ったの」
「復讐?何言って…」
鈍すぎる。私の目的が復讐であることは、身内なら誰でもわかると思っていたがそうでもないようだ。‧̫💞💭‧̫💞💭
「誰か知りたくないの?グレー邸襲撃の裏にいる人物、クリスタル様を傷つけ続ける人物」
「知りたい、誰なの?」
この感じだとショックは相当なものになりそうだ。
「私の元婚約者で貴方の旦那様」
~~
「結婚式のとき以来ね」
「そうですね」
「あのときは助かりました、お礼を言います」
「要件は?」
「今までの任務に加え、できる範囲でミカエラのサポートをお願いします」
「ミカエラ様…
そういうことですか、わかりました」
リリーフはすぐに理解したようで、何も聞いてこなかった。
「よろしくお願いします」
「話が済んだのなら、私は行きます」
「ソフィーの話は聞きましたか?」
「必ず仇を取ってください。あの子の仇のためなら何でもします。いつでも仰ってください」
「わかりました」
ソフィーはリリーフの一番弟子だった。
「ソフィーがいたグレー邸を襲った集団の中に、ピアール公爵家の騎士も参加していました」
「…」
私も、リリーフもこれ以上は何も語ることをしなかった。
……
「どうでしたか?」
「予定通りです。相当ショックを受けていました」
ミカエラがこちら側につくのも時間の問題だ。
「それにしても、妹が私にあそこまで必死になるのを見るのは初めてです」
両親と同じで、怪物だと思っていたミカエラにも人間らしい部分があった。
人を知れば知るほどその人の本質がわからなくなる。
「感想はいかかですか?」
「嬉しくも悲しくもない、そこに意味を求め出したらおしまいです」
嬉しさを求めたら、私を苦しめた人たちに近づいていく。
悲しさを求めたら、以前の私に近づいていく。
立場が変われば見えてくる世界も変わってくる。
常に嬉しさと悲しさの中間的な位置に自分の心を置いておきたい。
「アンディークへ戻りましょう」
「戻ったら、酒屋で1杯どうですか?」
ガレットから変な欲は感じられなかった。
ただ、自分の気持ちを理解してくれる人と1杯飲みたい、そんな意図を感じた。
ガレットも辛いのだろう、気持ちはわかる。
私も以前は、ソフィーとよくワインを交わした。
言葉を交わさなくとも、満たされた。
「ごめんなさい。私には行かなければならない場所があるの」
その一言でガレットは理解してくれた。
ガレットは私をアンディーク北東にある未開店の喫茶店まで送り届けてくれた。
トンゼが私のために作ってくれたオーダメーメイドのワインを1本開け、用意しておいた2人分のワイングラスに注ぐ。
「乾杯」
静寂に包まれた店内に、グラスの交わる音が響き渡る。
「それでね、策士はメルシダでした…」
私はソフィーにその日あったことを報告する。
アルコールも入り、寂しさだけが込み上げてくる。
それでも私は行ける日は行って、ワインを開けること、そして一日の報告をすることを辞められない。
ソフィーとの繋がりを感じられる瞬間が必要なのだ。
「もう少し待っててね」
私は1人ではない。
ソフィーが天国から私を見てくれている。
そう考えると、辛くても立ち直ることができた。
落ち込んだ姿なんて、貴方は見たくないはず。
視界が歪みながら、大きくため息を吐き出す。
……
「ローズ、王妃様がお帰りになったら、少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、私も話したいことがあります」
王妃様の到着を正門で待っている間、デミアン様と交わした会話はそれだけだった。
デミアン様は、放火のことを気にしているのだろう。疑心暗鬼になっている様子から気まずさが伝わってきた。
デミアン様は、罪悪感で苦しみ続けている。
「お嬢様、王妃様がいらっしゃいました」
メルシダの手を借りて、王妃様は馬車から降りきた。
「お待ちしておりました、王妃様…」
いつもとは違う、どこか話しかけずらい雰囲気をまとった王妃様。
デミアン様は戸惑いから言葉を詰まらせた。
「ローズよ、2人で庭園を見に行きましょう」
「承知致しました」
庭園は既に跡形もない。
2人だけという点にみなが違和感を感じているようだったが、今の王妃様を前に言葉を発することのできるものは1人としていなかった。
王妃様の馬車に乗り込み、2人で庭園の方へ向かった。
「庭園はもう既に跡形も残っていませんが、」
「今向かっているのは庭園でなく、アイカス神殿です」
「既に四大名家の当主たちには待っておくよう、手紙を送っています」
「当主たちにですか?」
「私の思いを話したところで、素直には信じではもらえないでしょう」
その通りだ。
「王女として過ごした幼き日の私を、命懸けで助けてくれたあのたち…」
「ローズ、貴方の聞きたいことに、私、そして4人が、全て答えることを約束します」
10
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
お隣さん家にいる高2男子が家の中で熱唱してて、ウチまで聞こえてるのはヒミツにしておきます。
汐空綾葉
青春
両親の仕事の都合で引っ越してきた伊里瀬佳奈です。お隣さん家には、同級生の男子が住んでるみたい。仲良くなれてきたけれど、気が向いたら歌い出すみたいでウチまで聞こえてきてるのはヒミツにしておきます。
やり直せるなら、貴方達とは関わらない。
いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。
エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。
俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。
処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。
こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…!
そう思った俺の願いは届いたのだ。
5歳の時の俺に戻ってきた…!
今度は絶対関わらない!
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
愛玩犬は、銀狼に愛される
きりか
BL
《漆黒の魔女》の呪いにより、 僕は、昼に小型犬(愛玩犬?)の姿になり、夜は人に戻れるが、ニコラスは逆に、夜は狼(銀狼)、そして陽のあるうちには人に戻る。
そして僕らが人として会えるのは、朝日の昇るときと、陽が沈む一瞬だけ。
呪いがとけると言われた石、ユリスを求めて旅に出るが…
[本編完結]彼氏がハーレムで困ってます
はな
BL
佐藤雪には恋人がいる。だが、その恋人はどうやら周りに女の子がたくさんいるハーレム状態らしい…どうにか、自分だけを見てくれるように頑張る雪。
果たして恋人とはどうなるのか?
主人公 佐藤雪…高校2年生
攻め1 西山慎二…高校2年生
攻め2 七瀬亮…高校2年生
攻め3 西山健斗…中学2年生
初めて書いた作品です!誤字脱字も沢山あるので教えてくれると助かります!
とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと
未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。
それなのにどうして連絡してくるの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる