本当の絶望を

夕浪沙那

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6章

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もう1枚の切り札、それは実の妹でありローズの婚約者でもあるミカエラ。

妹だが、愛着がないぶん遠慮なく利用できる。

公爵家の中に入り、淡々と奥へ進む。

大丈夫だと思っていたが、

時間は流れても、ミカエラの部屋の前に立つと1度立ち止まる。

以前の私なら、そのまま引き返す選択を取っていたかもしれない。

だが、そんな私はもう卒業した。

「入るよ」

ノックをして部屋に入るも、ベットに座り、窓の外を見るミカエラは私に気づかない。

随分と悲しい表情だ。

「そんな浮かない顔の貴方を見るのも久しぶりね」

「お姉様!!一体、、何をしているんですか?」

すぐに反応するも、ミカエラの興奮度は上がりきらない。

何かあったのだろう。

「何をって、用あってパドリセンに来たから、ついでに寄っただけ」

「ここは私の家でもあるでしょう?」

「ふざけないで、追い出された分際で」

ミカエラの声に何時になく覇気が感じられない。

「まぁ、そうね。でもミカエラ、貴方もそうやって余裕かいていられないわよ」

少しずつ攻めいく。

「どういう意味よ?」

ミカエラは、わかりやすく話に食いつく。

「ラビラはいずれ立場を失う。私が引きずり下ろすから」

「そうなれば、貴方はどうなると思う?」

怒りに満ちた顔でミカエラは立ち上がろうとするも、立ち上がる勢いを利用して逆に押し潰す。

ミカエラは立ち上がれない。

「痛い思いをしたくなければじっとしてるのね」

前回のトラウマもあるのか、ミカエラは反抗しようとしない。

全力で睨みつければ、体を震わす。

「そういえば、貴方、クリスタル様のことを慕っていたわね」

「クリスタル様…
そうだけどそれが何か?」

「この間会ってきたわ」

「は?! どういうこと、説明して」

ミカエラが声を荒らげた。

ミカエラは幼い頃から、クリスタル様を憧れの存在として慕ってきた。

社交界などで会ったときは、よくミカエラから話しかけていた。

歳は離れているが、次第に2人の仲は深まっていき、グレーとの婚約が決まるまでは、よくクリスタル様の家に遊びに行っていた。

「わかったわ。説明するから、落ち着いて」

そこから、今回クリスタル様の身の回りで起きた事件、そして過去の話をした。

「そんな…
クリスタル様に会いたい」

「今は無理よ。精神状態がまだ安定してないの」

私ですら会えない。会えるのはグレーくらいだ。

「そう…
でも、どうしてローズがそこまで知っているの?」

「復讐の過程で知ったの」

「復讐?何言って…」

鈍すぎる。私の目的が復讐であることは、身内なら誰でもわかると思っていたがそうでもないようだ。‧̫💞💭‧̫💞💭

「誰か知りたくないの?グレー邸襲撃の裏にいる人物、クリスタル様を傷つけ続ける人物」

「知りたい、誰なの?」

この感じだとショックは相当なものになりそうだ。

「私の元婚約者で貴方の旦那様」

~~

「結婚式のとき以来ね」

「そうですね」

「あのときは助かりました、お礼を言います」

「要件は?」

「今までの任務に加え、できる範囲でミカエラのサポートをお願いします」

「ミカエラ様…
そういうことですか、わかりました」

リリーフはすぐに理解したようで、何も聞いてこなかった。

「よろしくお願いします」

「話が済んだのなら、私は行きます」

「ソフィーの話は聞きましたか?」

「必ず仇を取ってください。あの子の仇のためなら何でもします。いつでも仰ってください」

「わかりました」

ソフィーはリリーフの一番弟子だった。

「ソフィーがいたグレー邸を襲った集団の中に、ピアール公爵家の騎士も参加していました」

「…」

私も、リリーフもこれ以上は何も語ることをしなかった。

……

「どうでしたか?」

「予定通りです。相当ショックを受けていました」

ミカエラがこちら側につくのも時間の問題だ。

「それにしても、妹が私にあそこまで必死になるのを見るのは初めてです」

両親と同じで、怪物だと思っていたミカエラにも人間らしい部分があった。

人を知れば知るほどその人の本質がわからなくなる。

「感想はいかかですか?」

「嬉しくも悲しくもない、そこに意味を求め出したらおしまいです」

嬉しさを求めたら、私を苦しめた人たちに近づいていく。

悲しさを求めたら、以前の私に近づいていく。

立場が変われば見えてくる世界も変わってくる。
 
常に嬉しさと悲しさの中間的な位置に自分の心を置いておきたい。

「アンディークへ戻りましょう」

「戻ったら、酒屋で1杯どうですか?」

ガレットから変な欲は感じられなかった。

ただ、自分の気持ちを理解してくれる人と1杯飲みたい、そんな意図を感じた。

ガレットも辛いのだろう、気持ちはわかる。

私も以前は、ソフィーとよくワインを交わした。

言葉を交わさなくとも、満たされた。

「ごめんなさい。私には行かなければならない場所があるの」

その一言でガレットは理解してくれた。


ガレットは私をアンディーク北東にある未開店の喫茶店まで送り届けてくれた。

トンゼが私のために作ってくれたオーダメーメイドのワインを1本開け、用意しておいた2人分のワイングラスに注ぐ。

「乾杯」

静寂に包まれた店内に、グラスの交わる音が響き渡る。

「それでね、策士はメルシダでした…」

私はソフィーにその日あったことを報告する。

アルコールも入り、寂しさだけが込み上げてくる。

それでも私は行ける日は行って、ワインを開けること、そして一日の報告をすることを辞められない。

ソフィーとの繋がりを感じられる瞬間が必要なのだ。

「もう少し待っててね」

私は1人ではない。

ソフィーが天国から私を見てくれている。

そう考えると、辛くても立ち直ることができた。

落ち込んだ姿なんて、貴方は見たくないはず。 

視界が歪みながら、大きくため息を吐き出す。

……

「ローズ、王妃様がお帰りになったら、少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、私も話したいことがあります」

王妃様の到着を正門で待っている間、デミアン様と交わした会話はそれだけだった。

デミアン様は、放火のことを気にしているのだろう。疑心暗鬼になっている様子から気まずさが伝わってきた。

デミアン様は、罪悪感で苦しみ続けている。

「お嬢様、王妃様がいらっしゃいました」

メルシダの手を借りて、王妃様は馬車から降りきた。

「お待ちしておりました、王妃様…」

いつもとは違う、どこか話しかけずらい雰囲気をまとった王妃様。

デミアン様は戸惑いから言葉を詰まらせた。

「ローズよ、2人で庭園を見に行きましょう」

「承知致しました」

庭園は既に跡形もない。

2人だけという点にみなが違和感を感じているようだったが、今の王妃様を前に言葉を発することのできるものは1人としていなかった。

王妃様の馬車に乗り込み、2人で庭園の方へ向かった。

「庭園はもう既に跡形も残っていませんが、」

「今向かっているのは庭園でなく、アイカス神殿です」

「既に四大名家の当主たちには待っておくよう、手紙を送っています」

「当主たちにですか?」

「私の思いを話したところで、素直には信じではもらえないでしょう」

その通りだ。

「王女として過ごした幼き日の私を、命懸けで助けてくれたあのたち…」

「ローズ、貴方の聞きたいことに、私、そして4人が、全て答えることを約束します」
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