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4章
29-2
しおりを挟む「ここからもう一度気を引き締めましょう」
ロビンソンのことだ、裏口からの脱出は疑いには入れず、まずは中をとことん探させる。
あれこれ探させて、最終的に裏口からの脱走を疑うだろう。
それなりに、時間は稼げる。
正門近くで馬車を降り、そこから歩いて向かった。
「ずいふんと早く終わったんだな」
「こいつは売れなかった!イライラしちまって、新しいやつを衝動買いしちまったよ」
「これで、また金が飛ぶ、、」
フードで顔を隠した私とクリスタル様のことを、ガレットが説明した。
仕事に関しては、やはり完璧な男だ。
「まぁそうイライラするな、通っていいぞ」
門番はガレットの肩に手を置き、私たちを通した。
門番から私たちが見えなくなるまでの間、後ろからの視線に緊張感が増す。
「そろそろ走りますか?」
「そうですね」
完全に見えなくなったところから、私たちは1kmほど走った。
クリスタル様はムーランド、ロドリゴが交互に抱きかかえた。
グレーの側近である2人を見て、クリスタル様の緊張が少し解れたように見えた。
そのまま待機させておいた馬車に乗り込み、一気に逃亡をはかった。
~~
馬車を走らせ5分ほどが経つ。
「このまま何もなく進んでくれれば…」
デミアン様がそのようなことを口にしたあとだった。
カッカッカッ、
後ろから聞こえてくる馬の足音。
「思ったより早かったですね」
「待て~!」
かなり距離があるが、馬に乗った騎士が3人。
あの顔、先程私たちを尾行していたもの達だ。
5人が乗った馬車と違い、スピードが早い。
あっという間に追いつかれたが、デミアン様とガレットが対応する。
あっという間に敵を片付けた。
「急ぎましょう…
マリアットに入ってしまえば、やつらは手を出せません」
馬車を降り、騎士たちが乗っていた馬に乗り換える。
クリスタル様はデミアン様と一緒に。
私は護衛としてガレットが一緒に。
ロドリゴはムーランドと一緒に。
「新たな追っ手だ!」
馬車に乗り換えてから、すぐのことだった。
ムーランドがいち早くに気づいた。
5人組の新たな追っ手。見るからに、先ほどの3人よりも手強そうだ。
「右だ、右!
右から来ている、方角をやや左に」
「ちっ、なんてこった左からも来やがった
右斜め前に再度変更だ」
ムーランド、ロドリゴが的確な判断で、敵をまこうとするが、それにも限界が来る。
「このままでは…」
あと少しなのに…
「ガレッティ、ロドリゴ、ムーランド、殺るしかない!何としても2人を守り抜くんだ」
デミアン様が力強い声を上げた。
4人は馬車から降り、剣を抜いた。
リバリフトの騎士も同じように、馬車から降り剣を抜いた。
「行くぞ~!!
おりゃ~!!」
当然、4人は迎え撃つ形をとった。
戦いの始まりとともに、私はクリスタル様の元へと向かう。
5対4、状況は最悪だ、不利にもほどがある。
クリスタル様がここにいる限り、リバリフトの騎士たちが私の元へ来ることはない。
敵はクリスタル様を連れ帰るのが目的、動けないクリスタル様は後回しにできる。
私は、女性だ。やつらの眼中にすら入っていなかった。
隙をつけるかもしれない…
デミアン様が2人を相手に、ガレットのサポートがありつつなんとか耐えている。
あの2人なら、なんとか打破できる。
問題は、近くで戦っているムーランドとロドリゴだ。
2人とも、もう既に数箇所から出血をしている。
殺られるのも、時間の問題だ。
1人さえ助けられれば、あとはデミアン様とガレットがなんとかしてくれるだろう。
バレないようロドリゴを追い込んでいる騎士の死角に入り、気づかれる前に毒矢を放った。
「ウッ」
確実に命中したはずだが、騎士は倒れなかった。
「ウォォォォ~!」
怒号をあげ、矢を自ら抜く。
次の瞬間には、私はお腹に蹴りをもらい、そのまま数メートル飛ばされた。
肋の数本が折れたのか、呼吸が上手くできない。
ムーランドにデミアン様、ガレットが何か言ってるようだけど、耳に入ってこない。
痛みには強い方だと思っていた。
散々打たれてきたから。
けれど、そう、いつも私の見ている世界は広いようで狭い。
つくづく痛感させられる。
情けない自分に腹が立ってくる、馬車の方から心配そうに私を見つめるクリスタル様と目が合った。
そんな目で私を見ないで…
安心して、貴方には再び幸せが待ってる。
苦しいのに体が勝手に動いた。
騎士は両手でムーランドの首を絞めているが、それに夢中で私に気づいていない。
落ちていたムーランドの剣を拾い上げる。
自然と迷いはなかった。
落ち着いた心理状態で、剣を振り下ろす。
ムーランドの命を助けるためといえば、聞こえはいいが、本当は、ただ溜まった鬱憤を晴らすために剣を振った。
デミアン様やガレットのように綺麗に斬り倒すことはできなかったが、それでも致命傷を与えることはできた。
返り血で、目の前に血の世界が広がる。
私はもう幸せには死ねない。
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