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4章
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しおりを挟む麻薬の話が本当なら、デミアン様と合流後、早急に立ち去らなければならない。
ガレット同様、私の頬からも汗が零れる。
監視の目をかいくぐりながら、デミアン様がいるはずの部屋を目指す。
最短最速で動くガレットの後ろをついて行くのに必死だったが、それでも起こりうるハプニングに対する対応策についても同時並行で想定を怠らない。
作戦通りなら、今頃デミアン様がクリスタル様を救出しているはず。
おかしい…
監禁されたものたちを、もう一度よく見てみると、みなどこかおかしかった。
妙に頬が痩けていたり、微弱に痙攣を起こしていたり、何かを懇願するように私たちを見たり、
みな少しづつ、どこかおかしい…
気づかなかったのは、私もどこかおかしいからか…
監獄と監獄の間にある小さな部屋を通り過ぎかけたときだった。
「ガレッティ、ガレッティここだ」
耳をかすめた聞き覚える声に、2人して足を止めた。
「私です、待っていました」
デミアン様の声。
私たちが来るまで待機しているということは、
クリスタル様を連れ出すことに成功したということ。
「今行きます」
2人で小さな部屋に入ろうとしたときだった。
「そこで何をしている!」
看守の1人が私たちの不審な行動に気づいた。
こんなときに…
「ローズ様、動かないでください」
私は咄嗟に動きを停めた。
看守の足音がどんどん大きくなっていく。
ガレットに言われた通り、2人してギリギリまで静止を続けた。
「すいません、道に迷ってしまって~」
ガレットは明るい声で看守の方を振り返ったが、次の瞬間だった。
ガレットは振り返った瞬間に剣を抜き、看守に声を出す時間すら与えず瞬殺した。
早すぎて、何が起きたか理解するのに数秒を要した。
だが、私はすぐさま動き出した。一分一秒も無駄にできない。
「ロビンソンは?」
「気絶させておきました。時間がないです、行きましょう」
デミアン様は変装を解いていた。
デミアン様に次いで部屋から出てきた、1人の女性。
その女性がクリスタル様だと、私は信じたくなかった。
あまりにやせ細り、生気を感じさせない表情。
私とガレットを見たクリスタル様は、否応に震え出した。
「大丈夫です。私の仲間です」
デミアン様の言葉で、クリスタル様の震えは落ち着いた。
グレーの弟であるデミアン様とクリスタル様は、以前から深い交流がある。
安心させるために、デミアン様は変装を解いたのだろう。
デミアン様に急いで変装を施し、私たちはロドリゴ、ムーランドの元へ向かおうとしたが、
「クリスタル様!」
数歩走っただけで、クリスタル様は倒れてしまった。
デミアン様がすぐさま抱きかかえ、裏口へと向かう。
何年も走っていなかったのだろう、これでは歩くことすらままならない。
階段を降りてくる途中、裏口へと繋がる通路の位置は把握していた。
「そこを右に曲がって!後は突っ切るだけです」
あらかじめ待機していたムーランドが裏口の扉を素早く開ける。
ロドリゴが呼び、待機していた馬車に全員で乗り込む。
「西門の近くまでお願いします」
馬車が走り出す。
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