本当の絶望を

夕浪沙那

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3章

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お母様がアンディークに来た日から、およそ1週間ほどの時間が経った。

私はアンディーク内唯一の庭園、シエル庭園にいつものように1人で足を運んだ。

「貴方たちは、私と違ってすくすくと成長していきますね」

1ヶ月ほど前アンディークに来てから、少し時間をおいて庭園の管理を始めた。

行ける日は、必ず庭園に行って植物への水やりをするようにしている。

水やりは昔からの息抜きの1つだった。ここアンディークでもやりたいと、デミアン様にお願いすれば、二つ返事で許可を得ることができた。

私的な企みが全く含まれていないわけではないが、純粋に水やりをしたい気持ちがあった。

生き地獄だったアンディークの日々の中で、
私が生きることのできる時間は水やりの時間くらいだった。

「はぁ…」

私だけの世界で水やりをしていると、ため息とともに自然と心も落ち着く。

水やりを終えた後、復讐の計画を練り直すのも習慣となってきた。

庭園管理の特に好きなところは、植物たちの成長を間近で見ることができることだ。

少しづつでも、止まることなく成長していく。そして、いつの日か大きくなって人を魅力するような花になる。

いちばん大切なことを、花から教わっている気がする。

存在もしない我が子を愛でるように、目の前のスイレン、黒ユリ、四葉のクローバーを愛でた。

愛の対象を人に設定することだけは、私の本能が拒絶する。

今日は、昼だが、夜に見る、月に照らされた花は格別に綺麗だ。

~~

庭園を後にした私は、マジック酒場・ヴァンへと向かった。

「お待ちしていました、ローズ様」

「調査の結果はわかりましたか?」

「はい、裏切り者かは特定できました。おそらく、確実です」

お母様がアンディークに訪問した日。お母様が帰ってから、私はすぐにパウロの元へ向かった。

詳細を伝え、裏切り者が誰か調べてもらっていた。

パウロ、依頼には、短期間で必ず答える優秀な駒。

「ただ、その…」

裏切り者の正体が私の身近にいる人間ということもあり、パウロは言いずらそうだった。

「パウロ様、大丈夫です。覚悟はできています」

「メイドのリリーフで間違いないかと」

「そうですか、リリーフが…」

婚約者、血の繋がった者から裏切られたことはあっても、身近にいる人間からの裏切りは初めてだった。

気持ちの整理はついている。
当然ショックを受けることはないが、やはり人は信用できない…

「リリーフとオドールが何度か密会している様子を発見致しました」

オドール、やはり関わっていたか…

「おそらくオドールは、リリーフから情報を買い取り、さらに高値でピアール家に売ることでお金儲けをしていたのかと…」

「そうですか…」

「大変失礼ながら、このことをサレットにも報告させていただきました」

「サレットは何と?」

「せがれのガレットに、計画を早めさせる、そのようなことを言っておりました」

「そうですか…」

「リリーフはどうするおつもりで?サレットに殺るよう伝えておきますか?」

「いえ、リリーフは侯爵邸に送り返します」

私の傍にいたのだ、帰って来たとなれば当然お母様の目の敵となるだろう。

因果応報。しばらく侯爵家の動向を監視させることが、リリーフへの制裁だ。

こんなことをする私は、怪物か…

だが、悪魔を駆逐できるのは、それを超える怪物だけだ。

私は怪物にでもなる。

「わかりました、細かい手続きは私どもが処理しておきます」

「よろしくお願いします」

オドールが亡くなったことを聞いたのは、その次の日のことだった。
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